もっと自由に使えるVPS「ConoHa by GMO」を試す

開発者に聞く~自由な構成が可能な新VPSサービス「ConoHa」とは

「ITエンジニアの方に使って欲しくて作った」GMOの新VPSブランド

 GMOインターネット株式会社は7月4日、新ブランドのVPS「ConoHa」を開始した。複数のVPSの間を接続するローカルネットワーク機能を提供し、1台のVPSへのIPアドレス追加機能をオプションで用意。デフォルトでIPv6のアドレスが17個付くなどの特徴を持つ。

「Conoha」サイト

 料金は月額制となるが後払いの料金方式を採用、コントロールパネルから簡単にVPSを追加できるなど、IaaS的な要素を取り入れたVPSになっている。初期費用は無料で、月額利用料はメモリ1GBプランで976円からと手軽に利用できる価格で、申し込みから15日の無料トライアル期間も設けられている。

 ConoHaブランドの狙いと実際について、事業面について同社ホスティング事業部の藤原優一氏と塩原宏明氏に、技術面について同社システム本部 サービス開発部の宮元裕樹氏、郷古直仁氏、河田幸博氏、朴玄泰氏に話を聞いた。(以下本文中敬称略)

従来のブランドイメージを払拭。IaaS的な機能を取りいれたVPSへ

――「お名前.com VPS」サービスがあるところへ、新しい「ConoHa」ブランドのVPSサービスを始めた狙いを教えてください。

ホスティング事業部 塩原宏明氏

塩原:いままで、同じVPSの分野でも「お名前.com」ブランドを展開していました。しかし、2012年に開始した「お名前.com VPS(KVM)」が技術者指向のサービスになるなど、お名前.comブランドのイメージとギャップが生じ、対象ユーザーに訴求しきれていないのではないかと考えました。

 そこで、より技術者指向の強いサービスを新しいブランドで提供するという考えから、「ConoHa」ブランドをスタートしました。想定ターゲットとしては、企業でいうと技術系のスタートアップベンチャー、個人でいうと休日などに自分でウェブサービスを作って立ち上げている方などをイメージしています。

――従来のお名前.com VPS(KVM)などは今後どうなるのでしょうか。

塩原:従来のサービスは今後も継続していきます。ConoHaが出てきたことで、お名前.com VPSの位置付けとしては、どちらかというとお名前.comブランドのユーザー層に向けたサービスになると思います。たとえば、お名前.com VPS(KVM)もConoHaも、クラウド基盤ソフトの「OpenStack」をベースにしていますが、新しい機能やサービスはまずConoHaから導入していく形になります。

藤原:一般にVPSが低価格なのに対し、より拡張性を求めてIaaSを使おうとすると価格にギャップがあり、個人ユーザーには高価なものとなります。今回のConoHaは、その間を埋めるような、よりフレキシブルなVPSを狙っています。

郷古:AWSなどのIaaSサービスは、常時稼動する自社システムをベースとしているため、あの価格で提供できるのだと思います。一からIaaSサービスを作るとなると、もっとコストがかかってしまう。それに対して我々は、いままで使ってきたOpenStackの基盤技術を生かして、よりフレキシブルで扱いやすいVPSを作るというアプローチです。

――ConoHaを試してみて、まずアカウントを作ってログインし、そのあとでVPSを作成する、というフローが、いままでのVPSの考え方から変わっていて驚きました。

ホスティング事業部 藤原優一氏

藤原:従来のVPSでは、「VPSを作る=契約」という考え方ですね。お名前.com VPS(KVM)でも、複数のVPSを1つのアカウントで管理できるのですが、VPSを作るには契約が必要です。ConoHaでは、AWSなどのIaaSのように、まずログインして、後からVPSをいくつも作れる。そういう、利用者から見た利便性を追求しました。従来、申し込み画面とVPS管理のコントロールパネル画面が分かれていたのですが、ConoHaでは1つのコントロールパネルに集約しています。

宮元:VPSを追加するのに、契約を結んだりする必要なく、その場で追加できます。そのあたりが従来のVPSとの違いですね。

郷古:いきなりサービスを使わなくてもとりあえずアカウントを作るだけでもいいですし、FacebookやGoogleのアカウントでもログインできて簡単です。

藤原:月額課金ですが後払い方式になっているのも、自由にVPSを追加できるようにするためです。IaaSは後払いですよね。なお、利用期間のうち、最初の月と最後の月は利用料金は日割りで計算します。

 ConoHaブランドでは今後、VPSだけでなく、ストレージなどのサービスも考えています。そうなると、後払い方式がさらに有効になると思っています。

ConoHaのコントロールパネル。ログイン後にVPSなどを追加する方式となっており、コントロールパネルで各種リソースが一括管理できる

OpenStack最新版の不具合を解決しながら新機能を実装

――ConoHaでは新機能として、ローカルネットワークの機能と、IPアドレスを追加する機能がオプションで用意されています。これらの機能はどのような経緯で追加されたのでしょうか。

システム本部 サービス開発部 郷古直仁氏

藤原:VPSユーザーの要望からです。欲しい機能のアンケートを取り、この2つが非常に多かったことから対応しました。

 たとえば、VPS 1台だけではなく、ウェブサーバーとデータベースサーバーを分けるといった複数台構成にすると、ローカルネットワークの機能が必要になります。

郷古:IPアドレスの追加については、たとえばSSL対応のウェブサーバーを複数立てるときに、それぞれにIPアドレスが必要になるという要望ですね。そのほか、ウェブサーバーとほかのサーバーを同居させるときに、IPアドレスを分けたいという要望や、SIP(IP電話交換機)サーバーを同居させたい、という声もありました。

――IPv6が最初から割り当てられるのも特徴ですが、これも要望ベースでしょうか、それとも提供側の狙いベースでしょうか。

郷古:開発側としては“野望ベース”です。これからはIPv6に対応しなくちゃ、という意気込みですね。IPv6を普及させるには、事業者がまずやってみせないと。これを機会に、お名前.comのDNSサービスもIPv6に対応させてしまおう、というのも狙いで、実際に同時に対応することになりました。

 また、IPv4アドレスは枯渇していて、ストックが限られるので、今回の追加IPアドレスのように有料になってしまいます。IPv6ならストックがあるので、追加料金なし、標準で17個を付けられます。

宮元:弊社であれば、VPSなどのホスティング側と、DNSと、両方がIPv6に対応できる。アクセス回線側の問題はありますが、サーバー側についてはこれですぐIPv6に対応できます。IPV6のアドレスは長いので、DNSなしにIPアドレスを自分で打ちたくはないですからね(笑)。

藤原:ユーザーからもIPV6の要望はけっこうありました。おそらく、IPv6をまず試験的に導入したいというものだと思います。

――ConoHaでは、OpenStackの最新バージョンの「Grizzly」を採用していますが、Grizzlyは新機能に影響があったのでしょうか?

システム本部 サービス開発部 宮元裕樹氏

宮元:お名前.com VPS(KVM)で採用しているバージョン「Diablo」では、ローカルネットワークの作成や管理機能がありませんでした。最近のOpenStackでは仮想ネットワーク機能の「Quantum」というコンポーネントが入っていて、その機能を元にしています。

朴:構成としては、各物理ホストにソフトウェアベースのスイッチ「Open vSwitch」が入っていて、そこに仮想マシンを接続しています。各ホストのOpen vSwitchの間はGREのトンネルが張られていて、相互に接続しています。その上でVLANを設定して通信を分離することで、ローカルネットワークを実現しています。

 ソフトウェアベースで設定しているので、ローカルネットワークをコントロールパネルで申し込むと、その場ですぐ作られます。

宮元:追加IPアドレスも同じようにすぐできますし、VPSも1分ぐらいでできる。そのあたりがお名前.com VPS(KVM)と違うところですね。

――いままでもOpenStackを改造して使っていたというお話ですが、ベースとなるOpenStackのバージョンを変えるのは大変ではなかったでしょうか。

システム本部 サービス開発部 河田幸博氏

河田:私がOpenStackの改造を担当しました。大変でした(笑)。最初はGrizzlyの1つ前のバージョンである「Folsom」をベースに改造していて、GrizzlyのRC版が出てからGrizzlyに移ったのですが、まずネットワークが動かなくなりました。Folsomでは動いていたコードなのですが。仕方がないので、作り直しました。OpenStackの改造した点としては、ノード数が多くなると破綻する可能性のある箇所などを直したことが挙げられます。

朴:こうした問題は、直るまで待っているより、自分たちで直したほうが早いですから。

郷古:HP社など、OpenStackベースで大規模サービスをしているところだと、同じ問題があると思います。おそらく、やはり手を入れているのではないでしょうか。

河田:そのほか、お名前.com VPS(KVM)ではスナップショット機能などを追加しています。また今回は、IPv6に対応するにあたって、OpenStackのIPv6対応がまだまだで、IPv6をオンにすると動かなくなったりするので、そのあたりも手を入れて対応しました。また、コントロールパネルにVNCのクリップボード機能を追加したりしています。

朴:また、VPSを消すとIPアドレスの登録も削除される仕様になっていたので、ConoHaのサービスに合わせてIPアドレスをキープするようにしました。

河田:ゲストOSのCentOSでは、うまく動かない、という問題もありましたね。OpenStackがゲストOSにSSHの鍵を送り込む機能にバグがあって。

宮元:OSといえば、ConoHaではホストOSをCentOSからUbuntuに変更しています。Grizzlyがちゃんと動くのがUbuntuだったので。ただ、OSの管理などの流儀の違いには苦労しました。

郷古:仮想化のための、KVM(仮想化ハイパーバイザー)やQEMU(仮想マシンエミュレーター)、libvirt(仮想マシン管理API)といったソフトのバージョンにも苦しめられました。

宮元:libvirtのデーモンが原因不明の再起動をしたり。これはライブラリのバグだったのですが。

河田:以前のDiabloではlibvirtのXML設定ファイルはテンプレートを利用する方式でしたが、GrizzlyではlibvirtのXML設定ファイルをOpenStackが自分自身で動的に生成する仕様に変わっていたりという問題もあり、修正対応が必要となりました。そのほか、vmの作成先を決定するスケジューリングの機能は、独自に作り込んでいます。

――開発期間はどのぐらいかかりましたか。

システム本部 サービス開発部 朴玄泰氏

郷古:4月にGrizzlyがリリースされて、その少し前から開発を開始しました。

朴:GrizzlyのRCがリリースされてから本格的に。

河田:基本機能については、だいたい実質半月ぐらいですね。あと、新しくなったコントロールパネルは別チームが開発していて、実はリリース近くなって完成しました。課金処理とか、いまも開発中のものもあります(笑) 。

――複数のVPSを立てやすい構成になると、ロードバランサーの要望もあるのではないかと思いますが。

郷古:現在はリリースにこぎつけたばかりなので、今後考えていきます。OpenStackのQuantumにはロードバランサーの機能は入っていますので、対応は考えています。グループ会社にグローバルサインがあるので、SSL機能の入ったロードバランサーなどできると面白いかもしれませんね。

河田:現状では、VPSでロードバランサーのホストを立てることになりますね。

藤原:VPSは自由度が高く、いろいろなサーバーが立てられるので、手軽に利用できるサービスパッケージのようなものは要望が多いですね。

――ConoHaブランドならではの、今後の展開の予定を教えてください。

藤原:技術力のある方を対象にしているので、たとえばコントロールパネル相当の管理をできるAPIなども積極的に提供していこうと思います。また、VPSのイメージをストレージに保存する機能なども考えています。

郷古:ストレージへの保存ができれば、プランの移行もできるようになるとか、イメージを使い回すことも可能になるなど、1つできることが増えるとそれを元にした機能も実現できるようになる、という可能性はありますね。まだOpenStackの機能をフルに使っているわけではないので、1つ1つ機能を実現していく予定です。

 またアイディアとしては、最近ウェブ系の開発者の間では、Vagrant(注:雛形とレシピ設定から仮想マシンを作るツール。開発やテストなどに使われる)のようにPC上で仮想マシンを作るツールが使われているので、それらに対応して仮想マシンを送り込めるようにすると面白いかもしれませんね。VagrantにはOpenStackのプラグインもあるので、現段階では対応できていませんが、OpenStackのAPI出力ができれば可能だと思います。

イメージキャラクター「美雲このは」は新機能より人気?

美雲このは

――同時にイメージキャラクター「美雲このは」も発表されたのは、インパクトがありましたね。サイトにも大きく描かれていますし。

塩原:ConoHaはいままでのお名前.comブランドとは違うブランドイメージ、特に「親しみやすい」イメージにしたかったことから、それにはイメージキャラクターが必要だと考えました。そして新しいブランドをリリースするからにはインパクトを出したかったのでリリース時点からキャラクターを全面に押し出しています。初めてConoHaのサイトに来ていただいた方も「美雲このは」は記憶に残っているのではないでしょうか。

 もともと、弊社ソーシャルゲーム向けインフラサービスの「GMOアプリクラウド」では「美雲あんず」というキャラクターがいるんです。美雲このはは美雲あんずのいとこで、2人ともデータセンターを守る座敷童子という設定です。美雲このはのほうが、自分の知識に自信を持っていて、でも実力が追いついてなくてドジもする、という子ですね。同じイラストレーターさんに描いていただきました。

郷古:座敷童子は福の神なので、縁起がいいというのもあります(笑)。

塩原:ConoHaを発表したときにTwitterの反応を見ていたら、機能よりキャラクターのほうが反響が大きかった(笑)。

――声優さんのキャラクターボイスも設定されるこだわりには驚きました。

塩原:社内でこだわりのある人に意見を聞いたところ、「二次元キャラにはキャラクターボイスが必須」ということだったので。上坂すみれさんはアニメ「ガールズ&パンツァー」などで活躍されていて、ちょっと個性的な方ということで、そのあたりも少しトガったイメージを狙っているConoHaブランドに合っているのではないかと思います。実際に、ConoHaの電話認証で、上坂さんによる美雲このはの声が聞けます。

藤原:もともと、声優さんが電話認証の声を担当するのはお名前.comで始めたのですが、お客様からのブランドイメージがある程度固まっているお名前.comブランドでは、そういった企画も慎重に取り組む必要があります。ConoHaブランドではより自由に新しいマーケティングにチャレンジしていきたいですね。

(次回更新は7/29、コントロールパネルなどサービスの使い勝手をレビューする予定です。)

高橋 正和