山谷剛史のマンスリー・チャイナネット事件簿

インターネット利用者、5億人を突破 ほか~2011年9月


 本連載では、中国のネット関連ニュース(+α)からいくつかピックアップして、中国を取材拠点とする筆者が“中国に行ったことのない方にもわかりやすく”をモットーに、中国のインターネットにまつわる政府が絡む堅いニュースから三面ニュースまで、それに中国インターネットのトレンドなどをレポートしていきます。

インターネット利用者、5億人を突破

2008年から2011年までのインターネット加入回線数の増減。青がダイヤルアップ、ピンクがブロードバンド

 中国国務院新聞弁公室は9月29日、中国のインターネット利用者が5億人を突破したと発表した。インターネット普及率は4割近くとなり、農村部の利用者はインターネット利用者全体の27%にあたる1億3000万人強。その半数以上がSNSやミニブログを利用し、オンラインコミュニケーションを行っているという。

 情報産業省にあたる、工業和信息化部の最新統計によれば、ブロードバンド導入戸数は1億4662万3000戸、ダイアルアップ回線導入戸数は571万8000戸。

 インターネット利用者やソーシャルサイト利用者の増加に対し中国政府としてネット窓口を創設し、積極的に情報をオープンしていることをアピール。他にもオンラインショッピングの普及により、オンラインショッピング業界に直接的には200万人が就業し、同時に1300万人が間接的に携わっていることを紹介した。


ソフトバンクと支付宝の事件で再度中国式投資「VIE」の存続が話題に

万網はドメイン取得の他「信頼できるサイトの証明」も行う

 本連載でも7月のニュースとして紹介した「ソフトバンクら、人気の第三者支払いサービス『支付宝』所有権めぐる交渉に終止符」という事件をきっかけとして、「外資企業による中国IT企業への投資に警戒感が強まった」として支付宝の親会社であるアリババホールディングスに不満を表明する企業も現れた。外資の中国企業への投資「VIE(変動持分事業体)」について再度話題となり、特に海外での上場が多いIT業界では、関連するニュースが多く報道された。

 ここで登場した「VIE(変動持分事業体)」とは、中国では外資企業が直接中国企業に投資できないことから、外資が100%中国資本の中国本土の企業と契約し、中国本土の企業をコントロールするという仕組みだ。ソフトバンクとアリババホールディングスの関係もこうした構造になっている。ここでVIEについて解説するのは誌面の都合から割愛するが、興味のある方は検索すると解説があちこちにあるので調べてみてほしい。

 さて、こうした中で9月1日に中国政府商務部が「外国投資者の国内企業合併買収安全審査制度実施の規定」という規定を施行した。これはVIEを明確に否定するというものではないが、VIE問題に関連するため話題となり、さらにロイターによる「中国の株式監査機関が中国国務院にVIEを取り締まるよう求めた」という報道があったことから、ナスダックをはじめとした海外株式市場に上場しているネット企業の株価が急降下するのではないかと危惧された。今後の中国政府の回答が注目される。

 話題のきっかけをつくったアリババホールディングスは、配下のドメイン登録代行サイト「万網」を分離した上で上場する予定だ。万網とアリババホールディングスの動向も注目されている。

新興オンラインショッピングサービスに壁

中国を代表するクーポンサイトのひとつ「拉手網」

 中国で圧倒的な人気のオンラインショッピングサイト「淘宝網(TAOBAO)」とセットで人気の第三者支払いサービス「支付宝(Alipay)」で、1日の取引金額が初めて30億元(約360億円)を突破した。しかし、オンラインショッピングサイトのすべてに春が来ているわけではなく、むしろ新興サービスは冬の時代が到来している。

 とくに昨年から急増しているクーポンサイトはいよいよ厳冬といってもいい状態なのか、この9月に多くのメディアが、氾濫しすぎているクーポンサイトの現状に危機感を示す記事を掲載した。「クーポンサイトを立ち上げるのに、60元のドメイン料金とレンタルサーバー料金、それに30元のクーポンサイト構築キットのソースコードを購入すれば(一定の資本金がないため不法行為だが)サイトは簡単に作れる」と言われるほどで、クーポンサイトは1日平均10サイト以上が立ち上がっている。利用者は増加しているとはいえ、利用者の伸び以上に多くのサイトが毎日立ち上がるため、市場のパイをより細かく分け合っているわけで、勝ち組となる認知度の高いサイトは10前後しかないという。

 もうひとつ、新しいオンラインショッピングサイトの形態として認知度を高めつつある「買います/譲ります」などの三行広告サービス。代表する「〓集網(〓はそうにょうに干)」「百姓網」「58同城」といったサイトが犯罪や詐欺の温床となっていることがこの9月に何度も話題となった。「仕事を紹介してもらう前に紹介料としてお金を請求され、払ったら逃げられた」「国が指定する保護動物が売られていた」など様々なケースが紹介されている。中国のインターネット業界は「信がない」ことが問題だと自認しており、この三行広告サービスの例のようにサービスの内容によって、少し認知度が高まると同時に犯罪の温床となってしまうことがある。

 雨後のタケノコ状態のグループからの脱却や生き残りを目指すサイトは、いずれも広告に力を入れている。中国に滞在していて、多くの人が新しいネットサービスを利用するきっかけとなるのは、バスの車体広告や地下鉄駅構内の広告、地下鉄やバス車内に設置されたモニターに表示される広告であると感じる。広い国土と10億を超える人口を要する中国で、サービスを浸透させ人気を得るには、広告などのPRにも力を入れる必要があるようだ。


人気上昇中のソーシャル金融サービスにメス

P2P貸款サイトによる解説図

 中国語で「P2P貸款」ないしは「人人貸」と呼ばれるソーシャル金融サービスが問題視されるようになり、ついに公安当局による捜査が入った。ソーシャル金融サービスは、ネット上で借りたい人と貸したい人をマッチング・仲介するサービスで、世界的にはZOPAなどが有名。中国でのP2P貸款業者は、人々の信用をチェックするために、信用の審査にオンラインと対面の2通りの方法を使い分けているのが一般的。

 沿岸部の大都市を中心にじわじわと人気が広がってきたこのサービスだが、中国銀監会は銀行からソーシャル金融サービスに融資する動きを警察と連携して止めようとする「関于人人貸有関風険提示的通知」を発表。発表後、さっそくソーシャル金融サービス提供企業の1つに公安のメスが入った。

 中国におけるソーシャル金融サービスは、立ち上がり当初は銀行から借り入れできない貧しい人々を対象にしていた。しかし、前述したクーポンサイトと同様に、専用システム導入するだけで簡単にビジネスが開始でき初期投資費用も安いため、「既に大小1000以上の業者が乱立している状態」と現状を紹介するメディアもあり、公安の動きにより増加に歯止めがかかるかが注目される。


1社独占しがちな中国ネット業界に警鐘

 中国のネットサービスには不信感がつきまとう点が中国国内でも問題視されていることは前述した。しかし、それとは別に中国のインターネット業界で抱える問題がある。

 中国ネット企業は1社が圧倒的なシェアを確立すると、既存新興を問わず残りの企業のシェアをさまざまな方法で吸い尽くし業界から追い出そうとする悪習慣があると指摘されている。こうした悪しき習慣をまとめた、中国で初めての調査レポート「互聯網壟断調査研究報告」が互聯網研究室から発表された。このレポートをもとに、業界関係者を集めた会議も北京で開催された。

 レポートでは、検索の「百度」、オンラインショッピングの「阿里巴巴」、チャットソフトQQを持つ「騰訊」の3社で中国インターネット市場価値の7割を持っていっていると指摘。公正な自由競争のために圧倒的なシェアを握る企業は、中小のライバルに対して潰しにかかるのではなく、もっとおおらかになるべしと説いているが、強制力のある解決策もまだ呈示されておらず問題提起するにとどまっており、解決の糸口はまだ見つかっていないのが現状だ。

子供向けネットサービスベンダー「淘米網」、子供向けSNSを開発

ネット世代の親に支持される「淘米網」

 子供向けオンラインゲームで成功した「淘米網」が、子供向けに絞ったSNSを開発中だと発表した。淘米網では、運営する「摩尓庄園」や「賽尓号」などのオンラインゲームが、対象となる幼児~児童の層とその親に一定の人気を得て、映画化アニメ化などのメディアミックスでも成功している。

 日本風に表現すれば、淘米網の「社運を背負った」時期製品である子供向けSNSは、「戦闘無し」「育成無し」「レベル上無し」など親が安心の仕様を心がけて開発しているという。


最大手SNSサイト「人人網」、動画共有サイト「56網」を買収

人人網

 ニューヨーク証券取引所に上場する中国最大手のSNSサイト「人人網(旧名:校内網)」は、比較的に著名な動画共有サイト「56網」を8000万ドルで買収すると発表した。

 SNS利用者は今年6月末時点でインターネット利用者全体4億8500万人のうちの47.4%にあたる2億2989万人が利用しており、SNSブーム当初は「サンシャイン牧場」などの農園育成ゲームが牽引したものの、現在は農園育成ゲームは下火となり、twitter似の「微博(ミニブログ)」が他サイトから出て、個々の情報発信メディアとして微博が人気になっている状況だ。いくら人人網が中国を代表するSNSサイトといっても楽観視できない状況であっただろう。

 一方、買収される56網は、かつては中国でも指折りの動画共有サイトであったが、競争の中で「優酷網(YOUKU)」や「土豆網(TUDOU)」などとの競争から脱落した感がある。そんな56網を買収することで、人人網は動画共有機能を兼ねるSNSサービスの新提案を訴えかけ、人気を盛り返すことができるか。


微博(ミニブログ)を介した対企業抗議デモが発生

大衆点評への抗議デモの報道記事

 国営テレビ中央電視台(CCTV)の起業をテーマにした番組で詐欺があったと微博(ミニブログ)で情報が流れ、数百のユーザーがネットで不正を正すようアピールする動きがあった。具体的には、その起業をテーマにした番組で、携帯電話のショートメールによる投票で2000人の株主を募集し資本の15%を選ばれた視聴者が担当したが、未だに株券など株主を証明するものが届かないというもの。中央電視台で同番組を放送したチャンネルの微博公式アカウントは、「3年前に終了した番組で担当者も司会も退職済みで責任は負わない」とコメントした。

 それとは別件で、レストランなどの口コミサイトとして有名なサイト「大衆点評」は、「口コミに関係者が自社評価をあげるコメントや、ライバル会社を蹴落とそうとする誹謗中傷のコメントが多数あり、こうしたコメントは無効とし、コメントしたアカウントはブラックリストに入れる」と発表。これに反対した人々が微博を利用し繋がり、上海の大衆点評本社を取り囲み抗議デモを行った。


オンラインゲーム依存症対策の実名制度開始

 「インターネットゲーム中毒防止実名検証プログラムの実施に関する通知」が10月1日より正式にスタートした。オンラインゲームベンダーは個人情報をチェックした上で、それでも偽の個人情報を提供したユーザーに対し、「オンラインゲーム依存症防止システム」に登録されるという。これに違反したベンダーやインターネットカフェは、発覚次第営業ライセンスを取り消すとしている。

 オンラインゲーム利用者は2011年6月末現在、インターネット利用者全体の64.4%にあたる3億1137万人。政府担当者は「以前は8割がヘビーゲーマーだったが、3割まで減少した」と政策に自信を見せている。

大型連休の国慶節を前に高速列車の切符購入が購入可能に

鉄路客戸服務中心での高速鉄道予約画面

 10月1日から始まった大型連休の国慶節の直前となる9月30日より、中国全土の高速列車の切符がオンラインで購入可能となった。「鉄路客戸服務中心」のサイト< http://www.12306.cn/ >より、オンラインバンキングか銀聯(Union Pay)を利用しての購入が可能だ。



関連情報

2011/10/17 09:49


山谷 剛史
海外専門のITライター。カバー範囲は中国・北欧・インド・東南アジア。さらなるエリア拡大を目指して日々精進中。現在中国滞在中。著書に「新しい中国人」。