山谷剛史のマンスリー・チャイナネット事件簿

11月11日のオンラインショッピング祭り「双十一」で数兆円動く ほか~2015年11月

 本連載では、中国のネット関連ニュース(+α)からいくつかピックアップして、中国を拠点とする筆者が“中国に行ったことのない方にもわかりやすく”をモットーに、中国のインターネットにまつわる政府が絡む堅いニュースから三面ニュースまで、それに中国インターネットのトレンドなどをレポートしていきます。

11月11日のオンラインショッピング祭り「双十一」で数兆円動く

 今年も11月の中国ネット界隈の最大の話題は「双十一」であった。11月に入る前から予告はあり、前日には日本のオンラインショッピングセールよりも大きな盛り上がりがあったように感じた。蓋を開けば、11月11日、双十一の主役である阿里巴巴(Alibaba)系の「天猫(Tmall)」1サイトで、912億1700万元(約1兆7300億円)という売上を記録し、うちモバイルからの注文による売上が全体の68.67%となる626億4200万元(約1兆1900億円)となった。

 この1兆円を超す金額は、天猫だけである。阿里巴巴のC2Cサイト「淘宝網(Taobao)」や、天猫を追う「京東(jd)」や「蘇寧易購」「1号店」「唯品会」「Amazon中国(卓越亜馬遜)」も同日にキャンペーンを実施。2兆円はゆうに動いたと思われる。ただ、すべてが消費されたわけではなく、「届いて7日以内なら理由なしで返品可能」という中国の法律から、気になるものを買ってみて、届いて気に入らなかったら容赦なく返品する、という動きもある。売れた商品ジャンルでは、単価では大型スマートテレビやスマートフォンの単価が高いため、売上高からはそうしたものが売れた印象がある。が、実数では、アパレルを筆頭に、化粧品やカバンや雑貨など女性向けの商品が多かった。服を着て気に入らなかったら返品という動きは少なからずありそうだ。

 インターネットユーザーのほぼすべてがこのイベントを把握しているといっていい状態で、今年も前日から特売品をチェックして、日が変わってからすぐ消費者が購入に走ったこともあり、売上高は日が変わって10億元(約190億円)達成まで1分12秒、100億元達成するのに12分28秒と、昨年よりも早く記録を塗り替えていき、昼の12時前には昨年の総売上高の571億元を超えた。

「双十一」での購入商品数(紅麦による「2015年“双十一”国内消費行為研究報告」より)
「双十一」で使った金額(紅麦による「2015年“双十一”国内消費行為研究報告」より)

 毎年規模が膨らむEC祭りゆえに、運送面がこの時ばかりは追いつかないのが問題視されている。11月11日に各宅配会社が依頼を受けた小包の総量は、1億6000万個という桁外れの数で、普段は数日程度で中国全土に配送されるが、この時ばかりは配送に10日ないしそれ以上要した。通常通りに配送するのは難しいが、それでも配送が特に遅れた宅配会社へは中国メディアの風当たりは厳しい。

 これだけたくさんのモノが売られている日には、度の違いこそあれ、悪徳業者も台頭する。ニセモノや、実はお得ではない、といったものが混ざっていることが想定されている中で(実際に検証した番組では、期間限定最低価格を謳った製品の3割がそうではなかったと検証している)、数多くのサイトから特定のサイトの商品を選ぶ動機付けとしては、価格とほぼ同率で「ユーザーの(写真付き)評価」を見て、買うべき製品か否か判断する。消費者はサクラの存在を意識しながらチェックするので、純粋な評価から価値を見極めるわけだ。

リアル店舗も「双十一」に乗っかる

「双十一」も越境ECは盛り上がらず

 今年の双十一の数字以外のテーマとしては、越境ECが挙げられる。日本側が関心がある、というだけでなく、中国の各ECサイトも力を入れて広告をしていたと感じた。しかしながらその結果は、「去年よりはだいぶ良い」というだけで、目立った売上高ではなかった。

 11月に発表した、PayPalと調査会社のIpsosのレポートによると、中国のオンラインショッピング利用者の35%が越境ECを利用したことがあるとしたが、73%が「今後の利用は商品がお得か否か、価格次第」と答えている。爆買旅行で分かる通り、海外商品のニーズはあるものの、関税や配送料など、正しい手続きを通した販売値段は安くはない。「海外に行く誰かに買ってきてもらったほうが遥かに安いので注文しない」という理由がありそうだ。

中国政府、再びスマートテレビやセットトップボックスの一部アプリ利用を禁止に

 テレビに繋いでネット動画を見るスマートテレビやセットトップボックス(STB)を管轄する「広電総局」は、11月中旬、81のアプリの利用を禁止した。これにより7割のSTBがその影響を受けるという。スマートテレビやSTBで違法だとされるのは、各社PC向け動画サイトの動画を再生するアプリや、テレビの動画を未許可でライブ配信するアプリだったりする。昨年6月にも同様の発表を行い、8月末には許可されたアプリ以外を起動すると、動画アプリに関しては、エラーメッセージが出て利用できなくなった。その禁令は強力だ。

 ただし、アプリ開発元にダメージを与えるだけで、ユーザーの所有するスマートテレビやSTBはただの箱にはならない。ユーザーは新しく登場したNGなアプリを使ったり、ブラウザーアプリから動画サイトで動画を再生したりして、製品を使い続ける。

スマートテレビでの映画。政策次第で突然見られなくなるかもしれない

個人も参加したフードデリバリー、ライセンスなき販売者を許可せず

 O2Oの中でも比較的台頭したのはフードデリバリーだが、代表する「餓了me(eleme)」ほか、フードデリバリープラットフォームを提供する各サイトが、販売許可証がない販売者のアカウントを消すと宣言した。これは、最近になって上海や深センなど各地で監督局が問題視していたのを受けてのこと。実際、リアル店舗のあるレストランや食堂が片手間で、新しいこうしたサイトを利用するというケースのほか、許可証を持っていない個人や団体が小遣い稼ぎで弁当を販売しているということもあった。

 規制がないままサービスを開始し、規制が入った。だが、それまでのスタートダッシュでユーザーを集めたため、今後も既存ユーザーを口コミの発信源として、ユーザーは増えていき認知されていくだろう。

「eleme」専門バイク便。専門宅配員がいない地域もある

「微信(WeChat)」のアクティブユーザーは6億5000万に

 7月から9月までの四半期の決算が各社から発表された。ミニブログの「微博(Weibo)」を今や唯一リリースする「微博(旧:新浪微博)」は、アクティブユーザー数が前年同期比で3割増となる約1億になったと発表。微博のユーザー数減少が止まったことをアピール。

 一方、チャットソフトの「QQ」「微信(WeChat)」などを提供する騰訊(Tencent)によれば、微信のアクティブユーザー数は前年同期比39%増の6億5000万、QQのアクティブユーザーは同5%増の8億6000万、モバイルでのアクティブユーザーは同18%増の6億3900万、ブログの「QQ空間」は同4%増の6億5300万となった。すなわち、スマートフォンでの微信の利用がQQを上回った。電子マネーの「微信支付」との提携により、微信はよりスマートフォンでの利用者を増やし、QQはPCとスマートフォン両方で使われるようになるだろう。

 ちなみに微信は11月6日に、今年4回目となる不具合によるサービス停止があった。安定度でいえば若干不安もあるが、その辺は中国の消費者はあまり気にしていないようだ。

「微信支付」に対応したレストラン

百度、銀行業に参入。オンラインバンクの競争も加熱へ

 11月17日、百度は、中信銀行と合同でネット銀行「百信銀行」を設立したことを発表した。BATと呼ばれる中国のネット大手3社の百度以外では、阿里巴巴はすでに網商銀行を、騰訊は微衆銀行を立ち上げているため、これで3社とも銀行業に参入したことになる。

 また、11月26日には、百度とドイツの保険会社Allianz Group(中国語で安聯集団)が提携し、百安保険というネット保険会社を設立。やはり阿里巴巴と騰訊はインターネット保険業に参入済みであることから、BAT3社がインターネット保険業で競争することとなる。

 3社がともに金融業・保険業に参入したことで、中国政府が推進する「互聯網+(インターネットプラス)」化が進む。各社はビッグデータを活用し、ユーザーのさまざまなネット上の行動が、与信に繋がることだろう。

ネット詐欺が巧妙に

 セキュリティ会社の「奇虎360」は、インターネット詐欺についてまとめた「現代網絡詐騙産業鍵分析報告」を発表。これによれば、中国でネット詐欺市場は1152億元(約2兆1880億円)だという。また、今年の1月から9月までで詐欺と思わしき電話は43億7000万回あり、これを日割りにすると、1日平均1601万回あることとなり、1人が100人にかけているとしても、16万人がコールする仕事に就いていることが予想できる。

 さらに中国の最近のネット詐欺は分業化が進んでいて、1人のコールがいれば、全体で10人何かしらの作業に携わっていると分析されていることから、160万人はオンライン詐欺を職にしているのではないかと予想している。しかも最近のネット詐欺グループは、中国全土世界全土に散らばり、ネットで繋がるグループなので互いの顔すら知らず、犯罪グループのメンバーとは異なるSIMカードなど通信手段で連絡を取り、被害額は意図的に高額にならないようにしているため、警察は「捕まえるのは難しくなっている」と頭を悩ませる。

山谷 剛史

海外専門のITライター。カバー範囲は中国・北欧・インド・東南アジア。さらなるエリア拡大を目指して日々精進中。現在中国滞在中。著書に「日本人が知らない中国ネットトレンド2014」「新しい中国人 ネットで団結する若者たち」などがある。