特集

EUと日本におけるプラットフォーム規制・デジタル主権の議論に見える、米国とは異なる視点

【特集 SNS事業者・SNS規制論の現在地】第2回

特集 SNS事業者・SNS規制論の現在地

第1回:米国プラットフォーム事業者に無制限の免責を与えた「通信品位法230条」の功罪と、現在の論点
第2回:EUと日本におけるプラットフォーム規制・デジタル主権の議論に見える、米国とは異なる視点
第3回:こどものSNS規制、先駆けて「禁止」した豪州と、議論を進める各国の動向(近日公開)

 SNSの規制はまずEUで始まり、日本でも議論が活発化している。SNSは表現の自由、知る権利という民主主義の根幹を広めるものとして期待されていたが、近年では社会の分断を煽り、さまざまな犯罪の温床ともなっており、メンタルヘルスやこどもの成長にも悪影響を与えているとして、一定の規律が必要という論調が主流になっている。

 なお、本稿ではEUと日本、および前回取り上げた米国との考え方や動向の比較に主眼を置き、英国やEU加盟国個々の動向は割愛する。これらの国に関しては、第3回でこどもの保護に関する動向について取り上げる。

複数の法律が施行され、さらに整備が進むEU

 EUではプラットフォーム事業者に広範囲の責任を負わせることを目的として、すでに多数のデジタル規制法が成立している。その基盤はEU基本権憲章に基づく「人権の保護」にあり、SNSに関する主な法律は以下である。

GDPR(General Data Protection Regulation:一般データ保護規則)

2018年5月施行。SNSの最大の収益源である広告に利用するための個人データの収集を、プライバシー保護の観点から規制している。

DSA(Digital Service Act:デジタルサービス法)

2024年4月施行。一定以上の機能と規模のプラットフォームに対して、違法コンテンツの削除や有害情報の拡散防止、透明性向上を義務付けている。

DFA(Digital Fairness Act:デジタル公正法)

2026年中の法案提出が見込まれており、消費者を不当な商習慣から保護することを目的としている。ダークパターン(ユーザーを騙したり操作したりして意図しない行動をさせるユーザー・インターフェイス)やAIによる不当な勧誘、ステルスマーケティング(欺瞞的なインフルエンサー・マーケティング)を規制するもので、特にこどもの保護については詳細かつ厳格な規律が設けられる予定となっている。これらは、偽・誤情報、有害情報などを助長するものでもあり、SNSの責任を強化するものとなっている。
その他、こどもの保護については各国で独自に規制する方向が顕著になっている。

デジタル主権を守り、海外巨大プラットフォームの影響を抑制するDSA

 以上のうち、第1回で解説した米国通信品位法230条との対比で特に注目すべきなのが、DSAだ。SNSだけでなくインターネット上のサービスに対して、幅広く利用者の保護を義務付けるものとなっている。

 この規制の背後には、デジタル主権(Digital Sovereignty:自国のデータや技術を、自国で主体的に管理する、という考え方、および、そのための仕組み)に基づいて、米国や中国の巨大プラットフォームによるEU支配を抑制しようとする政治的意図が含まれており、サービス内容や規模を分類して規制の強度を変えている。結果としてSNSについては、責任を無制限に免責する米国通信品位法230条により急速に巨大化した米国のMeta(Facebook、Instagram)、Google(YouTube)、X(旧Twitter)、政府の後押しを受けて急拡大した中国のByteDance(TikTok)がGate Keeperとして指定され、厳しい規制を課されることとなった。

目的

オンライン上の違法コンテンツ(ヘイトスピーチ、偽情報など)への対応、ユーザーの安全性・基本権の保護、デジタル市場の健全化。

主な義務

コンテンツ管理:違法投稿の迅速な削除手続きと報告メカニズムの設置。
透明性:ターゲティング広告の仕組みやコンテンツ推奨アルゴリズムの開示。
リスク管理:特に利用者数が4,500万人を超える「超大規模プラットフォーム」へのリスク分析と軽減措置の義務付け。
利用者保護:未成年者への保護強化、ダークパターンの禁止。

情報プラットフォーム対処法を中心に運用される日本

 日本でもさまざまな規制が成立、あるいは検討されているが、統一的な法制度とはなっていない。個人情報保護委員会による個人情報の保護、消費者庁による消費者の保護、総務省による通信における利用者の保護、こども家庭庁によるこどもの保護、公正取引委員会による独占禁止法の観点など、SNS規制の視点は所管ごとに異なる。

 日本では従来から表現の自由が重視される傾向が強く、SNSの規制については慎重であった。そのため、看過できない問題が生じた場合にのみ、所管官庁ごとに対策が議論されてきたという経緯がある。しかし近年は、SNSから生じる問題が広範囲の領域に影響を及ぼす事象が増えており、省庁間の連携が必要になっている。そこで、SNSが通信事業であることから、その規制については総務省を中心にしつつ、各省庁がオブザーバとなって議論が進められている。ただし、こどもの保護については、家庭や教育といった側面も大きいため、こども家庭庁が司令塔となって総務省やその他の省庁と連携する方法となっている。

 SNSに対する規制は2002年5月に施行された総務省のプロバイダー責任制限法が最初のものと言ってよいだろう。ただし、この法律は誹謗中傷などで権利侵害があった際のプロバイダー(SNS等のコンテンツプロバイダー、通信事業者などのアクセスプロバイダー)等の責任について制限するもので、規制というよりは事業者を守る傾向が強い。その点では米国の通信品位法230条に近く、違反した場合の罰則もなく努力義務という体裁であった。発信者情報開示請求のルールを定めてもいたが、請求手続きが複雑で時間がかかるなど、請求者の負担も大きかったため、2022年に手続きの迅速化をはかった改正が施行されている。

 SNS上の問題が多様化し、特にさまざまな法律から違法とされているものが蔓延するようになってきたことから、プロバイダー責任制限法が抜本的に見直され、情報流通プラットフォーム対処法(特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律。略称は「情プラ法」)として、2025年4月に施行されることとなった。

情報流通プラットフォーム対処法

 米国の通信品位法230条と比較されることも多いが、情報流通プラットフォーム対処法は、インターネット上の投稿による名誉毀損、プライバシー侵害、著作権侵害などの被害者救済について、プロバイダー(SNS等のコンテンツプロバイダー、通信事業者などのアクセスプロバイダー)の責任を大幅に強化するものであり、SNSの無制限の免責を認めている米国通信品位法230条とは大きく異なる方向へと舵を切ったものとなった。

対応の迅速化

削除申出を受け付ける窓口の整備と公表。削除の申出を受けた場合、原則として一定期間内(例:7日以内)に判断し、その結果を通知すること。

運用の透明化

削除基準を策定し、公表すること。削除を実施した際の運用状況(件数など)を定期的に公表すること。

違反した場合のペナルティ

総務大臣からの改善命令が出され、この命令に従わない場合、最高で1億円以下の罰金が科される。

 この法律は、基本的に違法とされる限定的な情報が対象になっており、災害時のデマやフェイクニュースなどの偽・誤情報、オンラインカジノや闇バイトへ誘導する情報が含まれていない。そのため、これらの違法化についての議論も進められており、近く法制化されることが予想されている。

総務省の政策紹介資料より、情報流通プラットフォーム対処法の概要

個人情報保護法の3年ごと見直し

 SNSだけに限るものではないが、現在、国会にて議論されている改正個人情報保護法においても、SNS規制につながるものが2つある。1つ目は、16歳未満の個人情報を取り扱う場合には法定代理人(多くは保護者)の同意や通知を必要とするものである。こどもがSNSを利用する際に個人情報を取得するのであれば、保護者の関与が求められる。

 2つ目は、連絡可能個人関連情報の新設である。SNSは原則無料で利用できるが、その場合の収益は広告が大半を占める。広告配信を行うためには広告IDやcookie、メールアドレスなどが利用される。これらは特定の個人を識別できる個人情報ではないものの、連絡可能な個人関連情報として、不適正な利用や不正な取得が禁止されようとしている。これにより、違法・有害な広告の配信は不適切な利用であることが法的に定められることになる。これまで、利益優先で広告規制が甘かったSNSに対して、自浄作用を求めるものとなるだろう。

第347回個人情報保護委員会 個人情報保護法 いわゆる3年ごと見直しの制度改正方針(案)概要資料より。「不適正利用等防止」にある「個人情報ではないが、特定の個人に対する働きかけが可能となる情報」が、連絡可能個人関連情報にあたる

米国・EU・日本のSNS規制の相違点

 SNS規制が必要であることについては、各国・地域で概ね一致しているものの、その目的や内容にはかなり違いがある。主な相違点として、次の2点が挙げられる。

規制の出発点の違い

 米国では、ひとつにはプラットフォームにバイアス(特に政治的な)がかかっていることで偏向的なコンテンツが提示されており、このことが表現の自由、知る権利を棄損しているという理由。ふたつめには不適切なレコメンド(特にAIによる)などのアルゴリズム、無限スクロールや動画自動再生などのネット依存を誘発するデザイン設計といった製造物に対する責任を求めるという理由。このふたつが規制議論の出発点となっている。

 EUでは、デジタル主権に基づく米国・中国の依存からの脱却という政治的意図を背景にして、EUの基本権憲章の人権の保護を前面に押し出すことが出発点となっている。

 日本は、表現の自由、知る権利を重視しつつ、現実に起きている違法な事態から被害者を救済するという現実的な対策が出発点である。

コンテンツモデレーションの考え方の違い

 米国ではコンテンツモデレーションは、善意のコンテンツ管理であれば免責されるとしている。そこには中立性かつ公正性が求められるが、この点について、バイアスがかからないように検閲するなという方向性と、フェイクやヘイトスピーチは中立性や公正性を棄損するものであるから削除せよという方向性に分かれている。

 EUでは、人権の保護の観点から、不利益や差別を与えるコンテンツは認められるべきではないとして、コンテンツモデレーションを広範な領域で推進する方向にある。また、プラットフォームに対して不利益や差別を与えるものについてのリスク・マネジメントを行い公表することで透明性のある中立性や公正性を担保させようとしている。

 日本においても被害者救済の先にあるのは権利利益の保護であることから、違法だけではなく有害な情報に対する規制を検討しており、この点ではコンテンツモデレーションも必要と考えられている。ただし、表現の自由や検閲はこれを禁止するとした憲法の主旨に反しないように、どう整理すべきかは課題となっている。

今後の動向

 これまでSNSの規制は各国、地域が独自に進めてきたが、国際的な摩擦も浮上してきている。トランプ政権は、EUのデジタルサービス法は検閲を行うものであるとして猛反発しており、策定に関与した人物の米国への入国を禁止した。また、日本に対してもSNSだけに限るものでは無いが、プラットフォーム規制については自由な競争環境を損なう懸念があるとして、米国企業に不利にならないことを求めている。

 これらの背景には、米国の自国の産業を後押しするアメリカファースト、EUの自国の産業を守るためのデジタル主権といった、グローバルにおける保護主義的傾向の強まりがあると考えられる。日本は、当初は米国の考えに近く、規制を極力行わない方向であったが、被害が大きくなるに従ってEUの動向に影響される傾向が強まっている。

 現時点では、両者からの圧力もあり、どちらかの方向に偏るという状態にはないが、その一方で独自の制度になることも考えにくい。また、米国では規制の在り方について意見が大きくわかれており、EUにおいても行き過ぎた規制ではないかとの揺り戻しの議論も出ている。当面はコンテンツモデレーションの課題である、表現の自由という民主主義の原点についての議論は続けつつ、共通点である被害をいかに小さくするかに焦点を絞った、アルゴリズムやデザイン設計についての規制が強化される方向にあると見てよいだろう。

寺田 眞治

一般財団法人日本情報経済社会推進協会 客員研究員。メディア、メーカーの広告及び事業企画を経て、インターネットのコンテンツ、メディア、マーケティング分野での起業、経営戦略、海外事業、M&Aに従事しつつ業界団体の役員も歴任。総務省、経済産業省、消費者庁などでの通信政策、国際競争、個人情報保護、消費者保護などに関する有識者会議の委員を務める。