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偽・誤情報対策は“予防接種”(プレバンキング)が重要に~あらかじめ手口を知ることで、拡散行動は減少する
総務省、偽・誤情報等への対策技術開発実証事業の成果発信イベント開催
2026年3月17日 06:30
総務省は3月16日、「令和7年度 インターネット上の偽・誤情報等への対策技術の開発・実証事業 成果発信イベント」を実施した。
同省では一般のユーザー向けに偽・誤情報対策を含めたICTリテラシーを啓発する「DIGITAL POSITIVE ACTION」のような取り組みも行っているが、本イベントは技術的に偽・誤情報などを対策することを目指したもので、「インターネット上の偽・誤情報等への対策技術の開発・実証事業(令和7年度)」に技術開発主体として採択されていた14の事業者・団体が、展示とショートプレゼンを行った。
偽・誤情報対策の取り組みは「予防接種」となる事前予防へ
はじめに、東京科学大学の笹原和俊教授が基調講演を行い、「デバンキング」(Debunking)と「プレバンキング」(Prebunking)というキーワードを紹介した。
悪意のあるなしに関わらず、SNSなどでユーザーは偽・誤情報を拡散してしまう。ここでいう偽・誤情報には、分かりやすい悪意が込められたデマの類や、単なる間違った情報のほか、AIにより生成された、真偽を検証することが難しいディープフェイクも含まれる。
そうした偽情報の対策として、デバンキングは事後(拡散してから)の対策にあたる。拡散している情報の真偽を調べて報告する「ファクトチェック」が代表的だ。これに対してプレバンキングは、ユーザーが偽・誤情報に接触する前の対策、例えば典型的な偽情報拡散の手口を教えることなどが相当する。
笹原教授は、デバンキングを手術や治療などの対症療法に、プレバンキングを予防接種に例えた。そして、これまでの偽・誤情報対策はデバンキングが主だったが、これからはデバンキングとプレバンキングの両方を行うことが重要だとした。
プレバンキングの効果として、ケンブリッジ大学のサンダー・ヴァン・ダー・リンデン教授が行った実証の例が紹介された。感情操作を行う情報に対し、SNSで19秒の対策動画を見ることで、見抜く能力が約21%向上し、その効果が5カ月後も持続したという。さらに、詳しく学ぶためのリンクのクリック率も約3倍に増加した。
デバンキングは取り組みのスケーラビリティが低くて手間がかかり、ディープフェイクによる偽・誤情報の量産が進む中で技術的・コスト的な限界を迎えているという。
また、タイミングと頻度によっては、反発(バックファイア)を起こして逆効果となるリスクがある。実証として、動画1つを視聴し、1回デバンキングとして警告を行った場合には共有が減る効果が認められたが、4つの動画で4回連続で警告した場合には、共有が増加したという。拡散した情報がフェイクであると指摘されたが、意固地になって撤回を拒否してしまう、というSNS上のユーザー行動を見たことがある人は少なくないだろう。
対して、プレバンキングはスケーラビリティが高い。ふたたび、偽・誤情報対策を感染症予防などの公衆衛生の取り組みに見立て、笹原教授は、デバンキングだけでなくプレバンキングも取り入れた、多層的な対策のイメージを示した。
AIによる検証ツールの効果を示す例として、笹原教授は別の実証実験を紹介した。本物の動画とディープフェイクによる偽の動画がタイムラインに流れる実証用のSNSで、被験者であるユーザーは動画を視聴し、共有できる。このとき、AIによる検証ツールが提供されることで偽動画の共有は減少し、本物の動画の共有は増加したという。
この結果について、笹原教授は、「AIツールの導入は『本物』に翼を授ける」とした。動画などのコンテンツを検証して「この動画は本物」だという根拠を得られることで、ユーザーは自信を持って共有できるようになる。以上のような検証を踏まえ、偽・誤情報対策におけるプレバンキングへのシフトと、AIツールのような技術的解決と、市民自らが偽情報を見抜く知識を付け、心理的レジリエンスをはぐくむ社会的対策が必要であると提言した。
Xのコミュニティノート活用から「実際に偽情報を作る」教材まで、多様な展示
会場では、各事業者・団体が開発した技術のパネル展示やデモンストレーションを行い、来場した企業や自治体関係者と、情報交換などを行っていた。ここでは、そうした技術の中からいくつかを紹介したい。
Xのコミュニティノートから検証情報を集計、AIによる分析も可能に
コード・フォー・ジャパン
一般社団法人コード・フォー・ジャパンの取り組みは「SNSにおける偽情報・真偽不明情報の市民参加型可視化・分析技術」。Xのコミュニティノートを活用し、ダッシュボード上でコミュニティノートの時系列的な変化やナラティブ(言及内容など)を可視化する偽情報・真偽不明情報の検証ツール「BirdExplorer」を、2026年に一般のユーザーにも利用可能なかたちで提供することを目指している。
また、イベント直前には、生成AIツール「Claude」によってこの情報を分析可能にするツールが実装され、会場でデモンストレーションが行われていた。
スマホで撮影した写真に情報を付与し、ファクトチェックを効率的に
NTTドコモビジネス
NTTドコモビジネス株式会社の取り組みは「情報の真正性を可視化するC2PA技術を活用した偽・誤情報対策の開発検証」。スマートフォンで撮影する写真や動画に、C2PA技術(Coalition for Content Provenance and Authenticity:デジタルコンテンツの来歴情報や加工履歴情報を証明する技術)を用いた情報を埋め込んだ署名を付与し、位置情報や撮影時刻の情報の事前チェック結果も付与し、これらにより、ファクトチェック時に信頼性を確認できるようにする。
ファクトチェック事業者と行った実証実験では、目標としていた検知率85%以上を達成するとともに、ファクトチェックに要する時間を15%以上削減できたという。同技術を用いた真偽判定支援ツールをクラウドサービスとして提供するとともに、スマートフォンのカメラへの標準搭載を目指している。
「フェイク情報を作ってみる」教材によって偽・誤情報の手口を学ぶ
Classroom Adventure
株式会社Classroom Adventureの取り組みは「偽・誤情報サンドボックスを活用した実践的ゲーム型プレバンキング技術の開発・実証」。同社は学校や企業向けの教材を開発しており、それは、一言でいえば「フェイク情報を実際に作ってみる」ものだ。カメラで撮影した映像を特定の意図を持って加工する、グラフの一部だけを切り取るなど、実際に恣意的な情報の加工を行うことで、偽・誤情報を作成する者の心理や、偽・誤情報が生まれる構造を学ぶことができる。
また、同社の教材は「モジュール型」であることも特徴で、学校や企業の教えたい内容に合わせて自在に組み替え、最適化できる。どうしても硬い内容になり、興味が持続しなくなりがちなテーマに対し、楽しみながら気づきを得られる教材として開発したといい、導入パッケージを整備して、学校や企業・自治体での利用を促進することを目指している。
電話音声フェイクの検知技術とSNSの誤情報防止技術
NABLAS・NTT東日本
NABLAS株式会社およびNTT東日本株式会社の取り組みは「電話音声フェイク検知および自治体向け偽・誤情報総合対策の開発・実証」。テーマは2つ、技術としては3つが展示されていた。
1つ目のテーマは「生成AI時代の電話音声フェイクを見破る検知技術」。ディープフェイクにより生成された詐欺電話を見破る技術は複数あるが、テスト環境では高い検知率を出せても、環境音などが混ざる実環境では大幅に検知率が落ちてしまうものが多いという。同社の技術は実環境でも高い検知率を維持でき、テキスト情報ベースで情報の信頼性のチェックも行う。同技術は固定電話だけでなく、幅広い通信事業者やウェブ会議プラットフォーマーにおける活用が期待されるという。
2つ目のテーマは、「Web・SNS上のフェイクに惑わされない情報発信技術」。SNSで流通するテキスト・画像などのフェイクを見破る、マルチモーダル対応の「総合的フェイク検知技術」と、発信側向けの「真正性証明(電子透かし)」の2つの技術からなり、官公庁や企業が正しい情報を見極め、市民が信頼性の高い情報を判断できる仕組みを提供することを目指している。
