ニュース

TikTokがクリエイター向け「偽・誤情報対策ワークショップ」実施、被害者にも、加害者にもならないためにリテラシー向上を図る

 TikTok Japanは、ICTリテラシー向上と安心安全かつ信頼できるデジタル空間づくりへの貢献を目的として『みんなで守ろう「ネットコミュニティ」プロジェクト』を始動し、そのキックオフイベントとして、TikTokで活躍するクリエイター向けに、インターネットで出回る偽・誤情報について利用者およびクリエイター視点から理解を深めていく「偽・誤情報対策ワークショップ」を2月5日に開催した。

 TikTokは、総務省が主導する官民連携プロジェクト「DIGITAL POSITIVE ACTION」に参画している。同プロジェクトは、通信事業者やIT関連企業・団体と連携し、インターネットやSNSにおける利用者のリテラシー向上を目的に、啓発活動や広報活動などを行っている。今回の『みんなで守ろう「ネットコミュニティ」プロジェクト』は、その一環として立ち上がった。

 ワークショップには12組のクリエイターが参加し、前半では、専門家3氏の講義を受けた。

ネット上の不確かな情報が、リアルな会話で「断定」に化ける!?

国際大学グローバル・コミュニケーションセンター(GLOCOM)准教授の山口真一氏

 まずは、国際大学グローバル・コミュニケーションセンター(GLOCOM)の山口真一氏(准教授)が、「偽・誤情報に関する基本概念」をテーマに偽・誤情報の社会的影響について解説した。

 講義のなかで、新型コロナウイルス関連の偽・誤情報が出回り、世界保健機関(WHO)が「Infodemic」(不確かな情報と確かな情報が混在して急激に拡散されること)として警告したなどを例に挙げた。コロナ禍で出回っていた「5Gはコロナウイルスを拡散させやすい」などといった偽・誤情報は目を引きやすく、簡単に吸い寄せられやすい。

 また、山口氏らが実施した調査の結果、SNSで偽・誤情報を目にしたユーザーの48.1%はそれを家族や友人とのリアルな(以降、インターネットを介さず対面で、という意味で「リアル」を使う)会話で共有した経験があることを挙げ、偽・誤情報が拡散しやすい要因のひとつであると指摘した。

 SNSで見聞きした情報を「○○らしいよ」と話題に挙げると、リアルな会話では、話している間に断定調になって「○○らしい」がいつのまにか「○○だ」になったりしやすい。その内容が再びSNSで共有され、また誰かがリアルの世界で共有し……というサイクルで偽・誤情報が広まっていく。

 情報を発信する側のクリエイターに対しては、「自分も騙される」ということを普段から意識し、その上で、情報を発信するときは、専門家や政府機関など、信頼性の高い情報源かどうかを確認しながら判断していき、もし判断がつきにくい場合は、情報源の信頼度に応じてランクづけすることを山口氏はアドバイスした。

インターネットによる被害に対処するための法整備も

総務省情報流通行政局 情報流通振興課企画官の吉田弘毅氏

 次に、総務省の吉田弘毅氏(情報流通行政局 情報流通振興課企画官の吉田氏)が、偽・偽情報に対する政府や行政機関における取り組みを紹介した。

 近年では、生成AIによってつくられた画像や映像が混乱を招いていることを踏まえ、AI生成物を検知する「真偽判定支援技術」、発信者の真正性などを担保する「情報に係る真正性、信頼性保証技術」といった、偽・誤情報検出技術の支援が行われている。

 また、クリエイターに限らず個人のネット利用においても、自分のコンテンツが盗まれることがあったり、自身に関する偽・誤情報が出回ってしまう機会が増えると想定されるだろう。こうした被害を少しでも防ぐため、著作権法のほか、2025年春に施行される「情報流通プラットフォーム対処法」など、ネットにおける被害者救済に向けた法整備が進められている。

 情報流通プラットフォーム対処法は、誹謗中傷などインターネット上の違法・有害情報に対処するため、大規模プラットフォーム事業者に対して、利用者からの削除要請などへの「対応の迅速化」や、削除基準などの公表といった「運用状況の透明化」を義務付けるもの。

 なお、もし被害に遭ってしまい、対処方法が分からなかった場合は「違法・有害情報相談センター」に問い合わせすることで、インターネット上のトラブルについて適切に対応するためのアドバイスや関連する情報を提供してくれるとした。

 吉田氏は、こうした制度や機関の存在を踏まえ、「総務省においても、クリエイターのみなさんがどんどん活躍できる環境を作っていきたい。今回紹介した制度もあることを、この機会に知ってもらえたら」と講義を締めくくった。

SNSにおいて「『見られるが正義』ではない」

日本ファクトチェックセンター編集長の古田大輔氏

 最後に、日本ファクトチェックセンターの古田大輔氏(編集長)が、情報精査の方法や手順について解説。

 インターネットに出回る情報に対して、「見聞きした情報が事実とは限らない」「画像や動画や音声があっても事実とは限らない」「家族や知人がニュースに詳しいとは限らない」「信頼性が高そうな情報を複数比べる」の4つの姿勢を重要視するように呼びかけた。

 そして、事実確認や信頼性が高そうな情報を見つけ出すための「4つの技術」として、次の検索テクニックを紹介し、見聞きした情報が正しいものかどうかを判断するようにアドバイスした。

  • 高度な検索:検索オプションを使った絞り込み
  • 画像の検索:「Googleレンズ」などを用いる
  • 動画の検索:「Googleレンズ」では動画も検索できる
  • オープンデータツールの使用:国が公開しているデータを見る

 昨今では私人逮捕系YouTuber自身が逮捕されたことも踏まえ、情報を発信する側の注意点としては、視聴数やいいねの数など、数字を取りやすいコンテンツを発信したいことを理解しながらも、「『見られるが正義』ではない。偽・誤情報の被害者にも加害者にもならないでほしい」と、古田氏は語った。

TikTok内で信頼できる情報源へのアクセスを提供する取り組みを実施

TikTok Japan 公共政策本部の金子陽子氏

 3氏の講義に続いて、TikTok Japanの金子陽子氏(公共政策本部)が、TikTokにおける選挙に関連した偽・誤情報対策の取り組みについて紹介した。選挙に関連した動画(ハッシュタグにより判定)では信頼できる情報源にリンクするバナーを表示し、視聴するユーザーが正確な情報にアクセスできるようにしている。同様に、選挙に関するキーワードの検索結果でも、信頼できる情報源にリンクするバナーを表示している。

グループワークで偽・誤情報を判断

 後半はワークショップとなり、クリエイターによるグループワークが実施された。とある情報が参加者に配布され、この情報が正確なものか否かを、グループ別に判定していくワークでは、グループ内で協力しながら、座学で得た知識をもとに、実際にインターネットを用いて情報を集め、判断していった。

 グループワーク終了後、司会を努めた古田氏は「今回は『調べてください』と言われたからこそ、きちんとできていた。発信するときだけでも、手間はかかるが10分ほどでもできる。これからも、情報を発信する前にでもきちんと調べてほしい」と講評した。