読めば身に付くネットリテラシー

“契約リテラシー”を子どものうちから養う――スマホからボタン1つで契約成立してしまう時代の学習ゲーム

中高生に“契約の落とし穴”を体験してもらうことで“契約リテラシー”を学べる学習ゲームを、GMOグローバルサイン・ホールディングス株式会社が開発しています

 2022年4月に成年年齢が18歳へ引き下げられ、18歳以上は保護者の同意なく契約を結べるようになりました。一方で、18歳になると未成年者取消権を使えなくなったため、未成年であることを理由に契約を取り消すことはできません。スマートフォンからボタン1つで契約が成立してしまう時代に、副業・情報商材などのもうけ話や、サブスクの落とし穴、さらには闇バイトの募集なども含め、契約に関連するトラブルに遭わないために、自分の身を守る“契約リテラシー”を中高生のうちに身に付けておかなければならないのです。

 今回は、こうした課題に向き合う教材として、GMOグローバルサイン・ホールディングス株式会社が開発している契約リテラシーの学習ゲーム「GMOグローバルサイン・HD こどものでんしけいやくβ版」の取り組みを紹介します。電子契約サービス「GMOサイン」を10年以上にわたって提供してきた同社が、契約の基本的な流れや、文書に潜むリスクを、子どもが自身で模擬体験できるよう設計しました。クイズ形式で「あやしい契約」を見破っていく構成です。

契約リテラシーをゲームで学ぶ発想は、スマホ普及に伴う不安から生まれた

 「こどものでんしけいやく」開発のきっかけは、企画を主導したGMOサイン事業部の永井遥菜氏の個人的な体験でした。

 「大学時代の友人が子どもを産み、スマホの普及率をとても気にしていました。子どもが大きくなれば1人1台スマホを持つけれど、誰とつながり、何が起きているかは親には見えない。ボタン1つで契約が結べてしまうものがあると怖いよね、と話したのがきっかけです。」(永井氏)

 この不安に対して、電子契約という“約束事”を扱う企業として何か形にできないかと考え、永井氏は社内のアイデアコンテストに企画を応募。最優秀賞を獲得しました。そこからは部署を横断したプロジェクトとして動き出し、子どもがいるメンバーが実際に試すなどブラッシュアップを重ね、β版のリリースへとつながりました。

「こどものでんしけいやく」ゲーム画面の例です。闇バイトの契約内容について問われています

 最初のお披露目の場は、2025年8月に山口県下関市で開かれた中高生向けの職業体験イベントでした。同社の下関支店が毎年出展しているイベントに「こどものでんしけいやく」を展示したのです。体験した中高生は373人。満足度は99.4%と高い一方、気になる結果も出ました。「契約を体験したことがない」と回答した子どもは約96%。そして、3問構成のゲームで全問正解は64.9%、つまり約35%(3人に1人)が文書の確認漏れなどで判断を誤ったのです。

2025年8月に山口県下関市で開かれたイベントの様子です

 永井氏にとって、こうした数字以上に印象に残ったのは、子どもたちの取り組む姿だったといいます。

 「契約書がずらりと並ぶ画面を読み、怪しいかを見極めるのは、子どもにどう受け取られるか不安でしたが、想像以上に前のめりで、かじりつくように体験してくれました。一度間違えると『やり直したい』と姿勢が一変し、隅々まで読み込み始める姿が印象的でした。」(永井氏)

 このイベントでは、教員20人を対象とした意識調査もあわせて行われました。85%の教員が「契約や個人情報の取扱い」を教える機会は足りないと感じており、全員が体験型学習や、保護者を巻き込んだ学びの場の必要性に賛同しています。

 教員の関心が高かったのは、オンライン課金や友人間のお金の貸し借りといった、少額から始まる金銭トラブルでした。子どもだけでなく、教える側にも教材と時間の不足という課題があることが浮かびます。

高校生の正答率は89.8%、教員が感じた手応え

 同社が毎年受け入れている高校生の企業訪問でも「こどものでんしけいやく」を体験してもらいました。2025年8月、文部科学省の「DXハイスクール」に指定されている静岡県立浜北西高等学校の生徒約40人が同社を訪れ、グループワーク形式でゲームに挑みました。制限時間15分で全18問。「この一文が怪しい」「この表現はどういう意味?」とグループで相談しながら、時間ぎりぎりまで取り組んだ結果、全体の正答率は89.8%に達しました。

 参加した生徒からは「SNSのDMで闇バイトの勧誘が届いたことがある。手口や怪しいポイントを理解できてよかった」という声が上がりました。引率した教員は、契約を扱うのは家庭科や公民で少し触れる程度だと述べ、文章を読み飛ばす傾向のある生徒に「読み解く力」をつける必要性を痛感したと語っています。18歳成年を控えた高校生にとって、契約リテラシーの大切さを再確認する機会となりました。

静岡県立浜北西高等学校の企業訪問の様子です

「ユーチューバー育成契約」や「闇バイトの契約」も例題に

 「こどものでんしけいやく」は、「ネット配信で人気者」や「スポーツで世界進出」など、それぞれが興味のある人生を選び、それぞれに用意された契約を見極めていく形式です。自分で選ぶというワンステップが、興味を引くフックになっています。

 「ネット配信で人気者」の人生には、スカウトマンが持ちかける「ユーチューバー育成契約」が登場します。一見すると収益は本人のものとされていますが、小さな文字に「毎月1万3000円の参考書を購入することが必須」「拒否すれば損害賠償」と書かれています。ゲーム内で検索すると、その参考書は本来980円。「買わないと罰金」という脅しでお金を取る手口です。

 「スポーツで世界進出」の人生には、あこがれのプロチームからの「入団契約書」が出てきます。月1万円の報酬は試合に出なければ支払われず、写真や動画はチームのポスターやグッズに自由に使われる。契約を解除しても顔写真を使われ続けて困っている、というヒントも示されます。お金の面だけでなく、肖像権という大切な権利が密かに奪われるような問題のある契約なのです。

 「一番力を入れたのが、闇バイトの契約です。住宅地で写真を撮るだけで高額な報酬がもらえる、踏み込むほどお金が増えていく――実際にそうしたDMが届く子どもも多く、絶対に入れたかった部分でした。」(永井氏)

興味のある人生を選び、ゲームを開始します
契約内容を読み、「安全」か「あやしい」か回答します

子どものときから「契約には落とし穴がある」と知っておくことが必要

 子どものときから電子契約に触れ、契約には落とし穴があると知っておくことは、とても意義のあることだと感じます。怪しい一文に気付き、立ち止まって大人に相談するという習慣は、被害を未然に防ぐ力になることは間違いありません。

 現在、同社は大学との産学連携で「こどものでんしけいやく」の正式版を開発中です。正式公開時には、対象年齢を小学5・6年生へ引き下げる方針も示されました。

 「スマホを持つ年齢もネットのリスクも、低年齢化が進んでいます。正式版ではより対象年齢を下げ、社会生活や人とのコミュニケーションを学ぶ小学校高学年に届けたいと考えています。これから契約に触れ、社会の中心に立っていく子どもたちが、後悔する選択をできるだけ減らせるように。健全な社会のためのコンテンツづくりを続けていきます。」(永井氏)

 正式版の公開は2026年中を目指しているとのこと。β版はイベントやワークショップで提供されることもあるため、関心のある学校や団体は、同社に問い合わせてみてはいかがでしょうか。

高齢者のデジタルリテラシー向上を支援するNPO法人です。媒体への寄稿をはじめ高齢者向けの施設や団体への情報提供、講演などを行っています。もし活動に興味を持っていただけたり、協力していただけそうな方は、「dlisjapan@gmail.com」までご連絡いただければ、最新情報をお送りするようにします。