山谷剛史のマンスリー・チャイナネット事件簿

中国の微博で瞬間ツイート数が「バルス」越え ほか~2012年1月


  本連載では、中国のネット関連ニュース(+α)からいくつかピックアップして、中国を取材拠点とする筆者が“中国に行ったことのない方にもわかりやすく”をモットーに、中国のインターネットにまつわる政府が絡む堅いニュースから三面ニュースまで、それに中国インターネットのトレンドなどをレポートしていきます。

中国の微博で瞬間ツイート数が「バルス」越え

 1月23日、中華圏では春節を迎え、最も人気のサービス「新浪微博」では、新年を越えた瞬間の1秒に新年を祝うツイートが3万2312件つぶやかれた。ちなみに1分間では日本時間の2011年12月9日夜にアニメ映画「天空の城ラピュタ」がテレビ放映された際には、主人公の2人が滅びの呪文「バルス」を唱えた瞬間に2万5088件のツイートが投稿され、世界新記録をうちたてたが、twitterのツイートではないものの「新年快楽」つぶやきは「バルス」を越えた。

 下記CNNICの調査レポートにおいても、対前年4倍増と利用者急増が目立つ中国のミニブログ(微博)サービス。「新年快楽」の瞬間つぶやき数は昨年比3倍という結果になったが、来年はどこまで伸びるか。

 一方で、昨年から引き続き、人民網などの政府系メディアが「140字という短い字数で情緒を込めて情報を伝播しようとするのは難しい。情緒のうねりがどれだけ抑えられるかが重要だ」という記事を書いたり、各省が「政務微博(政府公式アカウントによるツイートでのPR)」レポートを出したり、微博実名性を強く推進する会議が行われるなど、当局が微博の影響力を注視していることを伺わせるニュースが報道されている。

バルス越えを記録したあけおめツイートを報じるニュース


インターネット利用者、5億1300万人に

 中国ネットワークインフォメーションセンター(CNNIC)は、2011年末時点のインターネット利用状況をまとめた「第29次中国互換網発展状況統計報告」を発表した。2011年末におけるインターネットユーザー数は5億1300万人で、総人口に対するインターネット利用率は38.3%。このうちブロードバンド利用者は3億9200万人、携帯電話の利用者は3億5600万人となった。

 また、中国政府工業和信息化部の独自の調査結果によれば、昨年11月末の段階で、ブロードバンド回線が導入されている家庭は1億5500万戸となった。11カ月間に、2880万戸増加したことになる。なお、CNNICの調査結果に関しては、詳しくはニュース記事(http://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/20120117_505058.html)にまとめたので、そちらを参照してほしい。


「春節対策としてはひ弱すぎる」列車切符予約システムが大不評

 一斉に帰省したり旅行に出たりする春節の民族大移動だが、今年は、春節の時期に1億3619万人の乗客を運んだ。

 今回の春節では、2011年後半から試験的に開始された全国鉄道オンライン実名予約システムが稼働することで、「これで並ばずにネットで切符を予約し帰省できる」とアピールされていた。ところが、あまりに使えないシステムであるために、利用者どころか政府系ニュースサイトからも大不評となる散々な結果となった。

 不評の理由はいくつもある。帰省の主役となる出稼ぎ労働者はパソコンを使いこなせず、長蛇の列に並ばざるを得ないため、ネット予約ができる人が先に予約してしまうことが多々発生すること。ネット予約にしても、多くのアクセスに耐えられないひ弱すぎるシステムのため、ほとんどアクセスできる状態ではないこと。さらに、発売開始時間を1日数回に分けたものの、その発売開始時間にアクセスが集中したことも追い打ちをかけた。ある中国メディアの独自調査によれば、ネットを利用して切符を買おうとした人のうち4割しか手に入らなかったという。

 予約できないシステムが話題となったことから、鉄道切符予約代行サイトや、ショップを装ったフィッシングサイトまでが続々登場した。

Alexaで鉄道部のサイトを見ると、春節のラッシュでアクセス数が急増している春節の民族大移動はニュースサイトで特集が組まれるほど大きな話題だ中国の不完全な鉄道予約システムに褒めるニュースもあるが、辛口なニュースも多かった


オンラインショッピングの利用に拍車もサイトは悲鳴

 2011年は、日本円にして約9兆3000億円(7735億元)の取引があった中国オンラインショッピング市場。約9兆3000億円のうち「淘宝網(TAOBAO)」を筆頭としたC2C(個人対個人)サイトと、1月より淘宝商城から改名された「天猫(Tmall)」を筆頭としたB2C(企業対個人)サイトの比は、およそ3:1となった。調査会社のiResearchの発表によれば、少なくともこの先数年はオンラインショッピング規模は登り調子だとし、B2Cの占める割合が高くなっていくようだ。

 C2CおよびB2Cサイトの中でも、特に人気の「淘宝網」と「天猫」で最もよく使われる支払いサービス「支付宝(Alipay)」について、「淘宝網」「天猫」「支付宝」と同じアリババグループの調査機関「阿里研究中心(AliResearch)」が昨年度(2011年)の利用実績について発表した。

 それによると支付宝のアカウント数は6億5000万で、一日の平均交易数は3369万回。主に上海北京広東省などの沿岸の都市で利用されているが、内陸でも四川省の成都や成都に隣接する重慶での利用が多いという。「80後」と呼ばれる1980年代生まれの若者が主に利用し、前述のオンラインショッピングが活発なところでは年1万元(約12万円)をオンラインショッピングで消費するというが、彼らより年上の「70後」と呼ばれる1970年代生まれや「60後」と呼ばれる1960年代生まれは、利用者数こそ多くないが、平均すると年15000元(約18万円)を費やしているという。

 月の収入が3万円前後の人々が多い都市部でも、1万円程度費やす消費者は多く、消費は旺盛だ。一方でニュースをウォッチしていると、淘宝網や天猫以外は5本の指に入るサイトですら運営が大変で、いくつものオンラインショッピングサイトが淘汰されていきそうだというニュースをしばしば見るようになった。オンラインショッピング市場そのものは拡大しているが、一方でサイトの淘汰が進み、中小サイトは運営が思うようにいかず悲鳴をあげているようだ。

 なお、アリババの本拠地があり、オンラインショッピングが比較的盛んな浙江省では、改正版「浙江省禁毒条例」を1月1日より施行した。省内の郵便局や各宅配会社に対し「不法分子対策」として、配送元・配送先・配送物の詳細などの配送情況について1年間記録することが新たに義務づけられた。今後、中国全土でも、同様に配送に関する記録義務づけなど厳格化が広まるかもしれない。

B2Cサイト最大手のTmall。漢字名は天猫と変わった中国オンラインショッピング市場規模のこれまでとこれから(出典:iResearch)


かつての上場ブームから一転、株価下落の話題ばかりに

 かつては中国のニュースサイトでは中国企業の海外でのIPOに押せ押せムードだったが、1月は「米国に上場した中国株の8割が下がった」「上場廃止となった」など2011の話題をまとめた中国株関連ニュースが目についた。これらのニュースでは、「中国企業の決算が信用されていない」ことを原因のひとつとして挙げていることが多く、こうしたことは米国だけでなく中国でも周知のこととなりつつあるようだ。

 とはいえ、下がる企業だけでないのも事実だ。IT企業では検索の「百度(Baidu)」、ポータルサイトの「網易(NetEase)」、3大電信キャリアのひとつ「中国聯通(China Unicom)」は株価がそれぞれ上昇している。

 中国の利用者は割り切りが早く、上記CNNICの中国最新インターネット統計によれば、オンライントレード利用者は7千万人から4千万人へと4割以上の減少を見せた。


中国初のポイント交換サイトが登場

 中国初の複数のポイントをひとつにまとめて交換するポイント交換サイト「兌兌〓(〓は口へんに拉)http://www.duiduila.com/」が登場した。中国の消費者は平均4種類のポイントを貯めているとのことで、兌兌〓のポイントに一元化することで早く商品交換にたどり着くことができる。

 日本のポイントシステムを利用している人にとっては、中国のポイントシステムはまだまだ魅力が足らないが、「兌兌〓」の参入をきっかけに、中国のポイント界隈も面白くなっていき、ネットサービスが人気となるキーとなっていくかもしれない。

ポイントサイト「兌兌〓」


百度、リアルな博物館と提携したデジタル博物館を開設

 百度は、リアルな博物館と提携したデジタル博物館「百度百科数字博物館(http://baike.baidu.com/museum)」を開設した。中国国家博物館など著名な博物館6館と提携。提携する博物館の所蔵する青銅器や陶器や山水画などが見られ、クリックすると百科事典サービス「百度百科」の単語解説ページへとジャンプする。

百度百科数字博物館。各展示品をクリックすると百度百科の該当ページが表示される


古株のIT系メディア突然の廃刊。IT系ニュースサイトが苦境に?

 IT製品の価格相場情報に強いIT系雑誌「電脳商報」が突然廃刊となり、サイトも閉鎖された。同誌の発刊はPCやネットが普及する前の1998年。中国のIT系メディアの中では古参の部類で、同誌サイトの登録会員数は32万人、PVは18万/日。別の雑誌にリニューアルする、投資していたIDG(International Data Group)が撤退した、など諸説が飛び交っている。IDGは他に複数の中国IT系メディアに投資しているため、「他の著名IT系メディアも突然廃刊になるのでは」と心配する利用者もいるようだ。

 IT系ニュースは、ネットリテラシーある人々ばかりが利用した2000年代前半には、最も読まれたジャンルのニュースであった。今のご時世、中国のIT系メディアもなにかと大変なようだ。

突然閉鎖されたIT系メディアのサイト



関連情報

2012/2/13 08:00


山谷 剛史
海外専門のITライター。カバー範囲は中国・北欧・インド・東南アジア。さらなるエリア拡大を目指して日々精進中。現在中国滞在中。著書に「新しい中国人」。