第201回:Airgoの第3世代True MIMOで最大速度126Mbpsを実現
コレガの無線LANルータ「CG-WLBARGMH-P」
コレガから、Airgoの第3世代True MIMOを搭載した無線LANルータ「CG-WLBARGMH」が発売された。最大の特徴は126MbpsというこれまでのMIMO製品を上回る速度を実現している点だ。実際にどれほどの速度で通信できるのかを試した。
●過渡期を迎えた無線LAN製品
MIMO搭載の無線LANルータ「CG-WLBARGMH」 |
ようやくまとまりそうに見えたIEEE 802.11nのドラフト1.0が5月に否決されたかと思えば、ドラフト準拠のIEEE 802.11n製品が市場に登場するなど、もはや消費者にとってはわけのわからない状況になりつつある無線LAN市場。IEEE 802.11nのベースとなるMIMOを搭載した無線LAN製品でも、今回取り上げる最大126Mbpsを謳った製品が登場し、まさに過渡期らしい混乱した状況を呈してきた。
実際の利用シーンを考えると、住宅事情などによって電波が届きにくいため、無線LANの使用が困難だったり、無線LANの導入に躊躇しているユーザーがいるというのも事実だ。このようなユーザーを救うために、少しでも高速で、長距離での安定した通信を実現する無線LAN製品が必要なのは理解できる。
今回取り上げるコレガの「CG-WLBARGMH-P」(無線LANルータ「CG-WLBARGMH」と無線LANカード「CG-WLCB126GM」のセットモデル)もそんな新製品の1つだ。同社では従来からMIMO技術を採用した無線LANルータを発売してきたが、今回のCG-WLBARGMH-Pはその後継となっており、Airgoの第3世代True MIMOチップの採用によって、最大126Mbpsという転送速度を謳っている。
無線LANルータ「CG-WLBARGMH」 | CG-WLBARGMH背面 |
無線LANカード「CG-WLCB126GM」 |
従来のMIMO製品が54Mbps×2ストリーム(2系統の多重)によって最大108Mbpsを公称していたのに対し、第3世代True MIMOでは符号化率の効率化によって1ストリームあたりの速度を向上させることでトータル126Mbpsを謳う点が特徴だ。また、同社のMIMO製品はこれまで、送信系・受信系ともに2本のアンテナを利用していたが、今回の新製品では受信系が1系統増やされ、3系統での受信となっている。
利用する電波は2.4GHz帯で、従来のIEEE 802.11b/gとの互換性も確保されているが、126Mbpsでの通信が可能なのは付属(もしくは別売り)の無線LANクライアント「WLCB126GM」を利用した場合のみ。なお、将来的にIEEE 802.11nの規格が承認された段階で、この製品とIEEE 802.11nとの互換性がきちんと確保できるかどうかは現在のところ未定だ。あくまでも、現状はMIMOを採用した独自技術によって高速な通信速度を実現した製品であることをくれぐれも念頭に置いておいてほしい。
CG-WLBARGMHの設定画面。オーソドックスなデザインで、とりたてて使いやすいというわけではないが、必要最低限の機能を備えており、設定には困らない |
●公称スループットの70Mbpsを実現できるか
それでは、実際に、その実力を検証してみよう。CG-WLBARGMHの最大速度は前述したように126Mbpsだが、もちろんこれは理論上の速度(変調速度)であり、実際の速度はこれを下回り、メーカーの公称では最大70Mbpsとなっている。IEEE 802.11gの理論上の速度が54Mbpsで実効で20~30Mbps前後ということを考えると、ほぼ2倍の速度での通信が可能で、有線LANに迫る速度が期待できる。
実際の環境でこの速度にどこまで近づけるか、筆者宅で実際にテストを行なった。筆者宅は木造の3階建て住宅だが、この1Fにアクセスポイント(CG-WLBARGMH)を設置し、1F、2F、3Fの各フロアでクライアントからFTPによる速度テストを実施してみたのが以下のグラフだ。
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表1:MIMOとIEEE802.11gの比較 |
表1のグラフ |
グラフを見ると、1F(約2メートル程度離れた位置)で50.41Mbpsとなっている。公称の実効速度が70Mbpsということを考えると、若干低い値だが、従来のIEEE 802.11gと比較すると、そのアドバンテージは明らかだ。1Fでの比較でも2倍以上の速度で通信できているが、長距離での伝送に強く、2Fで実効40Mbps以上、3Fというかなりシビアな通信環境でも1FのIEEE 802.11gとほぼ同等の20Mbps以上の実効速度を実現している。IEEE 802.11gの近距離通信と同じ環境を3Fでも実現できているのは、やはりMIMOの恩恵と言えるだろう。離れた場所で無線LANを使いたいという環境では、あくまでも現時点ではCG-WLBARGMHを選ぶメリットは確かにある。
近距離では公称70Mbpsを下回る速度となったが、これはおそらく環境やテスト方法が違うためだろう。メーカー側のテスト方法はホームページで公開されているとおり、「lperf」というフリーソフトウェアを利用しているが、今回の筆者宅におけるテストではFTPを利用している。また、筆者宅の周辺ではIEEE 802.11gのアクセスポイントが多数存在する。今回のテストではできるだけ干渉の影響を受けにくいチャネルを選んでいるが、完全に干渉を避けられているわけではないので、このあたりが影響していると考えられる。
また、CG-WLBARGHMにはデータを圧縮して高速な転送を実現するモードが搭載されているが、筆者のテストでは、この機能を無効(標準設定)にして計測している。圧縮モードを有効にすると、以下のグラフのように圧縮の効果が現われやすいテキストデータの転送で70Mbpsを超える速度を実現できるので、このあたりのモードや転送するデータの違いも理由の1つだろう。
モード | ファイル形式 | 1F | 2F | 3F |
圧縮ON | ZIPファイル | 47.70Mbps | 37.39Mbps | 19.85Mbps |
TXTファイル | 75.47Mbps | 61.43Mbps | 58.06Mbps | |
圧縮OFF | ZIPファイル | 50.41Mbps | 40.25Mbps | 21.27Mbps |
TXTファイル | 50.31Mbps | 39.16Mbps | 20.56Mbps | |
※サーバーにはAMD Sempron 2800+、RAM512MB、HDD160GB、FedoraCore3(ProFTPd)を使用 ※クライアントにはPentiumM 1.73GHz、RAM1GB、HDD100GB、Windows XP SP2を使用 ※クライアントのコマンドプロンプトからFTPコマンドを使用し、20MBのZIPファイルを転送 ※数値はGETの値で単位はMbps。3回計測した平均を掲載している |
表2のグラフ |
●長距離伝送で速度を確保したい場合向け
筆者宅の測定結果は50Mbps程度だったが、それでもIEEE 802.11gなどに比べるとはるかに高速で、長距離でも安定して高い速度が実現できた。なお、先ほどのグラフには掲載していないが、TEPCOひかりを利用してインターネット上の速度測定サイトで速度を計測したみたところ、実効で上下とも40Mbps近い速度を計測できた。有線LANに匹敵する速度というのもあながち大げさではない。
現状ではIEEE 802.11gで満足な速度を実現できていない場合、または住宅環境の問題で導入前に無線LANの利用が可能かどうかの判断が難しい場合に、お薦めできる製品だろう。もちろん、高い実効速度を活かして、映像の無線伝送などに利用することも十分に可能だ。
筆者宅の2Fで実効40Mbps以上を実現できたことを考えると、2系統はさすがに難しいと思われるが、地上デジタル放送の映像(17Mbps)などであれば、遅延なく伝送して再生できるだろう(地上デジタル放送を無線で伝送するというソリューションが非常に限られる現状では、実用的とは言えないが……)。
一方で、IEEE 802.11nの標準化が完了しておらず、今後登場するであろう11n準拠の製品との互換性などを考えると、手を出すことをためらわれる面もあるだろう。11nの正式規格に準拠した製品ではないことを念頭に置きつつ、実際に無線LANの速度が遅かったり、電波が届きにくいという状況で困っているユーザーは、購入を検討してみるのもいいだろう。
関連情報
2006/6/27 11:09
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