第466回:12台のRAID6+10GbEで600MB/sオーバー 超弩級のハイエンドNAS QNAP「TS-EC1279U-RP」


 QNAPから、非常に高い性能を備えたハイエンドNAS「TS-EC1279U-RP」が登場した。中小企業向けのラックマウントタイプとなる同製品に、オプションの10GbEカードを装着して、その実力を検証してみた。

企業ネットワークの中心に

 仮想環境のストレージとして、さらには社内に存在する膨大なデータの保管先として、主に中小企業でのニーズが高いラックマウントタイプのNAS。そんなジャンルの新製品として今回登場したのが、QNAPから発売された「TS-EC1279U-RP」だ。

QNAPの「TS-EC1279U-RP」。QNAP製品でもトップクラスの性能を持つ

 QNAP社は、高性能かつ多機能なNASを提供するメーカーとして有名で、そのラインアップもホーム/SOHO向けのシングルドライブの製品から、中規模クラスの企業向けのラックマウントの製品までと幅広いが、今回登場した「TS-EC1279U-RP」は、そんな中でもトップクラスに位置する製品となっている。

 サイズは19インチラック向けの1ラックサイズとなっており、前面に縦3×横4、12個のHDDベイがすき間なく並んでいるのが印象的。電源ボタンおよびLANやeSATAのステータスを知らせるLEDインジケータは本体右側に配置されており、誤操作を防ぐための開閉式のカバーによって覆われている。

 HDDベイのおかげでシンプルになった前面に対して、背面には豊富なインターフェイスが用意される。交換可能な2つの電源ユニット(600W)に加え、LANポートはオンボードの1000BASE-T×2に加え、同社製となるN82575-G2が拡張スロット(PCI Express x8)に装着されており、合計で4ポートが利用可能となっている。

 このほか、外付けHDDなどの接続には、4ポートのUSB2.0に加え、2ポートのUSB3.0、2ポートのeSATAが利用可能となっており、非常に柔軟かつ高い拡張性を備えている。

背面にはLANポート×4、USBポート×6(うち3.0×2)、eSATA×2を搭載

 内部スペックも充実しており、CPUはQuad CoreのIntel Xeon E3-1225(3.1GHz)に4GBのDDR3 ECCメモリ(最大8GBまで拡張可能)を搭載している。これまで企業向けのハイエンドNASにはCore 2シリーズが搭載されるケースが多かったが、ついにNASもSandyBridge世代に突入したことになる。

 同社製のNASでは、これ以外にもCore i3-2120(3.3GHz)を搭載したTS-1279U-RP(12ベイラックマントモデル)やTS-1079Pro(10ベイデスクトップタイプ)がラインアップするなど、今回の新製品では軒並みSandyBridge世代のCPUが採用されている。

 企業が扱うデータが飛躍的に増加しているうえ、仮想環境の普及が進む現在の状況を考えると、ストレージには信頼性だけでなく、高いパフォーマンスも不可欠となる。そう考えると、今回のTS-EC1279U-RPは、まさに企業ネットワークの中心に位置するに相応しいスペックの製品と言えそうだ。


パフォーマンスを活かすための10GbEカード

 このように、非常に高い性能を誇るTS-EC1279U-RPだが、今回、その性能を活かすためにさらにオプションを追加することにした。

 前述したように本製品には拡張用のPCI Expressスロットが2本用意されており、そのうちの1つに1000BASE-T×2ポートのNICが装着されているが、これに加えて10GbEのオプションカードも各種提供されている。今回は、この中から、cat6aのEthernetケーブルを利用可能なIntel X520-T2を装着してみることにした。

 ファイルサーバーとして利用するのであれば、標準で4ポートある1000BASE-Tで冗長性を保ちながらでも十分に実用的なパフォーマンスが期待できるが、やはり仮想環境などで利用するとなると、より高速なインターフェイスが必要になる。これまで10GbEのカードは高価で手が出しにくかったが、今回利用したIntel X520-T2は6万円前後で入手可能だ。パフォーマンスを追求するのであれば、この投資は惜しまない方がいいだろう。

 なお、装着はカンタンで、背面のネジを2本取り外してカバーを開け、PCI Expressスロットに装着するだけでいい。これならある程度PCの知識があるだけで十分に対応できるだろう。

カバーを開けるとPCI Expressスロットが姿を現す


オプションの10GbEカード(Intel X520-T2)標準の1000BASE-Tカードの隣に10GbEカードを装着


ハイエンド機でもカンタンなシリーズ共通のファームウェア

 このように、ハイエンドのラックマウントタイプとは言え手軽さも備えているTS-EC1279U-RPだが、ソフトウェア面も非常に良く出来ている。

 まず感心するのは、ホーム/SOHO向けのNASとほとんど共通となる設定画面だ。同社製のNASは、ホーム/SOHO向け製品でも4ベイ程度のHDDが搭載可能でLANポートも2ポート搭載されていることが多いが、基本的に、この規模が大きくなっただけで、設定方法や設定画面などは大きく変わることがない。このため、家庭用のNASなどを使ったことがある人であれば、カンタンにセットアップができてしまう。

企業向けのハイエンドモデルだが、ホーム/SOHOモデルと共通のわかりやすい設定画面を搭載ボリューム管理から構成したいRAIDを選択するだけで手軽に設定可能

 本製品ほどのスペックとなると、中小企業向けとは言え、かなり規模が大きく、専任の管理者も存在する企業が想定されるが、それでもさほどスキルレベルが要求されないというのは目に見えない魅力と言えそうだ。

 たとえば、RAIDの構成などは非常に簡単だ。今回、さすがに12台すべて同じHDDを揃えることができなかったため、500GB×3(Seagate)、1TB×1(Western Digital)、1.5TB×3(Western Digital)、2TB×5(Samsung)という構成で試してみたのだが、HDDを装着後、電源をオンにし、ビープ音による起動完了音を確認して、PCからブラウザでアクセス。するとセットアップウィザードが起動するので、そこでRAIDのレベルを選択するだけで、カンタンに初期設定を済ませることができた。

 もちろん、より詳細な構成も可能だが、RAIDの構成を変更する場合でも設定ページからRAID0やRAID6用の構成をクリックしてHDDを選ぶだけと手軽なうえ、LANポートを複数たばねて冗長性やパフォーマンス向上を確保するためのポートトランキングの設定も、メニューから構成したいLANポートを選ぶだけで可能だった。

 このクラスのNASになると、コマンドを駆使して、わからない用語と格闘しながら設定しなければならないというイメージがあるかもしれないが、コンシューマー向け製品とほとんど変わらぬ使いやすさが実現されている点に感心したところだ。

iSCSIの設定もウィザードで手軽に構成可能複数のNIC利用したポートトランキングの設定も簡単。高度な機能を手軽に使える


SSD並のシーケンシャル性能

 気になるパフォーマンスだが、これは、もう圧倒的としか言いようがない。

 Intel Core i7 860(2.8GHz)、ASUS P7P55D(Intel P55)、DDR3 SDRAM 4GB×2、SAMSUNG HD321KJ(Serial ATA 3.5、7,200rpm、320GB)、Windows Server 2008 R2 SP1のPCに、同じIntel X520-T2を装着し、cat7の1mのケーブルでTS-EC1279U-RPと直結して速度を計測したのが以下の画像だ(CrystalDiskMark3.0.1b使用)。

RAID6、iSCSI、JumboFrame 9000設定で計測

 前述したように、今回のテストはメーカーも容量もバラバラのHDDを利用するという、あまりパフォーマンステストに適していない環境であったが、シーケンシャルリードで600MB/sオーバーを実現することができた。

 より高速なHDDを使用し、RAID0などで計測すれば、さらに高いパフォーマンスも期待できそうだが、RAID6で、この値を実現できている点をむしろ評価したい。高性能なCPUを搭載しているメリットがこういった点で活きていると言えそうだ。

 なお、CIFSでの結果やポートトランキングを設定した際の値については、以下の画面の通りだ。CIFSではリードが半分程度にまで低下するものの、それでも300MB/s近くの速度を実現できている。一方、ポートトランキングを設定した場合、CIFSではあまり差が出ないが、iSCSIの場合では若干の速度低下が見られた。処理に若干のパフォーマンスを取られているようだが、それでも500MB/s後半なので、十分な性能と言えるだろう。

RAID6、CIFS、JumboFrame 9000設定で計測RAID6、iSCSI、JumboFrame 9000設定、ポートトランキング(IEEE802.3ad)で計測RAID6、CIFS、JumboFrame 9000設定、ポートランキング(IEEE802.3ad)で計測


仮想環境がより快適に

 以上、QNAPのTS-EC1279U-RPを10GbE環境で実際に試してみたが、さすがにトップレベルの製品の実力を見せつけられた印象だ。

 実際、iSCSIで接続した領域を利用してWindows Server 2008R2で仮想環境を構築しても、ストレージのボトルネックは一切感じない快適な環境を構築することができた。サーバー側にも高いパフォーマンスの製品を用意すれば、複数のサーバーを統合したり、高いパフォーマンスが要求される環境を構築しても、不満を覚えることはないだろう。

 もちろん、QNAPの製品ならではの多機能さも備えており、FTPサーバー、Webサーバー、MySQL、RAIUSサーバー、外出先からのアクセスが可能なMyCloudNASなどの機能も利用できるうえ、QPKGプラグインでさまざまな機能を追加することもできる。さらに企業向けのNASとしてうれしいことにAntiVirus機能までも搭載している。

さまざまなアプリケーションを搭載AntiVirus機能も利用できる

 これなら、ファイルサーバーやウェブサーバー、仮想環境などをTS-EC1279U-RP1台だけでまかなうことも可能だ。ある程度の規模がある企業の場合、小さなNASを複数台利用するよりは、この製品で環境を統合してしまった方が、パフォーマンスやコストなどのトータル面で結果的に有利になると言えそうだ。


関連情報



2011/11/22 00:00


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。