清水理史の「イニシャルB」
433/867/1300Mbpsと3モデルが揃った新世代Aterm
どんな用途でどの機種を選べばいいのかを比較する
(2013/8/13 06:00)
「AtermWG1800HP」、「AtermWG1400HP」、「AtermWF800HP」と、Draft 11ac対応製品として3モデルがラインナップするNECアクセステクニカのAtermシリーズ。速度を取るか、コストパフォーマンスを重視するか、それとも価格とサイズを重要視するか、モデル選びの基準について考えてみよう。
Aterm3兄弟のベストバイは?
もちろん、ベストはハイエンドのAtermWG1800HPだが、コストと実用性を考えるとAtermWG1400HPのバランスが良い。スマホやタブレット中心の使い方ならAtermWF800HPも良い選択だ。
Draft 11ac対応の製品として、速度や機能の異なるモデルを3製品展開することで、他社との差異化を図るNECアクセステクニカのAtermシリーズ。そのラインナップの特徴を整理するとすれば、こんなところになるだろうか。
中でもオススメと言えるのはAtermWG1400HP。ミドルレンジということで、あまり目立たないが、PCで867Mbpsやスマートフォンやタブレットは433Mbpsという端末側の対応速度の上限を考えると、機能的なバランスに優れており、価格も1万円強と買いやすい。強いてベストバイを挙げるとすれば、このモデルがやはり妥当だろう。
もちろん、スマートフォンやタブレット用と割り切ればAtermWF800HPも魅力的な製品だ。また、個人的に普段利用しているのはハイエンドのAtermWG1800HPなのだが、AtermWG1400HPは価格でAtermWF800HPと大差ない(実売で2000円前後の差)にもかかわらず、実用シーンでの速度でAtermWG1800HPに迫る実力は、大きな魅力だ。
具体的な機能やパフォーマンスを比較しながら、その理由をさらに詳しく説明することにしよう。
スペックを比較
まずは、基本的なスペックを比較してみよう。以下は、AtermWG1800HP、AtermWG1400HP、AtermWF800HPの3製品の基本機能を比較した表だ。
AtermWG1800HP | AtermWG1400HP | AtermWF800HP | ||
実売価格 | 単体 | 14400円前後 | 11600円前後 | 9120円前後 |
コンバーターセット | 26200円前後 | 21700円前後 | - | |
対応無線規格と速度 | Draft11ac | 1300Mbps | 867Mbps | 433Mbps |
IEEE802.11na | 450Mbps | 300Mbps | 150Mbps | |
IEEE802.11ng | 450Mbps | 450Mbps | 300Mbps | |
アンテナ | 5GHz | 送信3×受信3 | 送信2×受信2 | 送信1×受信1 |
2.4GHz | 送信3×受信3 | 送信3×受信3 | 送信2×受信2 | |
有線LAN | WAN | 1000BASE-T×1 | 1000BASE-T×1 | 100BASE-TX×1 |
LAN | 1000BASE-T×4 | 1000BASE-T×4 | 100BASE-TX×3 | |
USBポート | USB2.0 | 1 | 1 | - |
サイズ | 外形寸法(幅×奥行き×高さ) | 33×111×170mm | 33×111×170mm | 33×97×146mm |
質量 | 0.4kg | 0.4kg | 0.2kg | |
消費電力 | 17W | 17W | 6W |
- 実売価格はヨドバシ.comにて2013年8月8日現在の価格を確認
ポイントとなるのは、やはり速度だろう。現状、Draft 11acでは、3ストリームMIMOと80MHz幅の利用によって、最大1300Mbpsの通信が可能となっている。このフルスペックを実現しているのがハイエンドモデルのAtermWG1800HPとなっている。
一方、ミドルレンジのAtermWG1400HPは、Draft 11acの速度は867MbpsとAtermWG1800HPの2/3ほどとなる。これは、アンテナの数に関係している。AtermWG1800HPでは、Draft 11acで利用する5GHz帯のアンテナが送受信ともに3本で、MIMOを3ストリームで利用することが可能だが、AtermWG1400HPは5GHz帯のアンテナが送受信ともに2本となる。
MIMOは、同一空間中を同一周波数の電波を利用して多重化する技術だが、この同時通信数(ストリーム数)が2本となることで、最大速度が867Mbpsとなっているわけだ。 同様の理由で、5GHz帯のアンテナが送受信ともに1本しか搭載されないAtermWF800HPでは最大速度が433Mbpsまでとなっている。
もちろん、フルスペックの1300Mbpsで通信できるAtermWG1800HPの方がAtermWG1400HPよりも性能は上だ。しかし、前述したように、現在NECのLaVieシリーズやAppleのMacBook AirなどのPCに内蔵されるDraft 11ac対応の無線LANは2ストリームMIMOの867Mbpsまでとなっており、Draftスマートフォン(GALAXY S4など)は1ストリームの433Mbpsまでの対応となっている。
このため、AtermWG1800HPの1300Mbpsで通信するには、同じAtermWG1800HPを2台組み合わせる必要があり、利用シーンが限られてしまう。1階と2階などのフロア間を高速なDraft 11acで接続したいという場合はAtermWG1800HPが断然有利だが、一般的な無線LANアクセスポイントとして実際に利用する場合はAtermWG1400HPで十分というわけだ。
なお、スマートフォン中心の場合はAtermWF800HPが実用的だが、5GHz帯のアンテナが1本のみとなるため、IEEE802.11n/aの最大速度が150Mbpsまでとなる点に注意が必要だ。AtermWG1400HPも、IEEE802.11n/aの最大速度は300Mbps(2ストリーム/40MHz幅利用)となるが、AtermWF800HPよりは高速なので、IEEE802.11n/a対応のPCも高速に接続したという場合は、こちらを選んだ方がいいだろう。
また、AtermWF800HPは、有線LANの速度も100Mbpsに制限される。200Mbps以上のWAN回線を利用する場合や、有線LANで接続したPC間の転送やNASなどで高速な転送をしたい場合も、AtermWG1400HP以上を選択肢として検討すべきだろう。
機能的な差をチェックする
続いて、機能面を比較していこう。以下は、3モデルの機能を比較した表だ。すべての機能ではなく、あくまでも違いがある機能のみをピックアップしており、すべての機種に搭載されている機能は省いている点に注意して欲しい。
AtermWG1800HP | AtermWG1400HP | AtermWF800HP | ||
無線LAN | マルチSSID | ○ | ○ | △(SSID内分離不可) |
ゲストSSID | ○ | ○ | - | |
Wi-Fi中継機能 | ○(高速中継対応) | - | - | |
TVモード | ○ | ○ | - | |
ルーター機能 | IPv6ルーター | ○ | ○ | - |
WAN側疑似MAC | ○ | ○ | - | |
WoL | ○ | ○ | - | |
DDNS | ○ | ○ | - | |
ホームIPロケーション | ○ | ○ | - | |
悪質サイトブロック | ○ | ○ | - | |
設定機能 | 無線設定 | らくらく無線スタート/WPS | らくらく無線スタート/WPS | らくらく無線スタート/WPS |
ネット設定 | らくらくネットスタート | らくらくネットスタート | らくらくネットスタートLite | |
QRコード設定 | らくらくQRスタート2 | らくらくQRスタート2 | らくらくQRスタート2 | |
QRコード生成 | ○ | ○ | - | |
省電力機能 | オートECO | ○ | ○ | - |
省電力型イーサ | ○ | ○ | - |
- 3機種で違いがある点のみをピックアップ。掲載されていない機能は3機種ともに搭載
まず気づくのは、AtermWG1400HPの充実度だろう。上位モデルのAtermWG1800HPとの機能的な違いは「Wi-Fi高速中継機能」の1点のみで、他の機能はすべて共通となっている。
このWi-Fi高速中継機能とは、文字通り、無線の通信を中継する機能だ。AtermWG1800HPを2台利用し、片方を子機(コンバーターモード)として設定した際、通常は子機に有線LANで接続したPCの通信を可能にするが、高速中継機能を利用すると子機に無線LANで接続した端末の通信を子機が中継し、親機との間で通信できるようにすることができる。
もう少しわかりやすく説明すると、「[親機]---無線---[子機]---無線---[端末]」という通信を可能にするのだが、このとき「[親機]---無線---[子機]」の無線は5GHz帯の1300Mbpsで接続し、「[子機]---無線---[端末]」は2.4GHz帯の450Mbpsで接続することができる。5GHz帯と2.4GHz帯の両方を使い分けて中継できるのが特徴だ。
このため、電波の届きにくい広い環境などで通信を中継した場合はAtermWG1800HPを選ぶ必要があるが、そうでない場合はAtermWG1400HPでも十分ということになる。
一方、AtermWF800HPに関しては、上記の表で掲載した機能のほとんどを搭載しないが、前掲の機能は、どちらかというと付加的な機能となっており、搭載されないからといってそれが直ちにデメリットにつながるというわけではない。むしろ、ほとんどの機能は、一般的な家庭での利用では、なくてもさほど困らない。
単純にPCやスマートフォン、タブレットをつないでインターネット接続ができればいいのであれば、むしろ設定がシンプルなAtermWF800HPを選ぶのも1つの選択肢だ。
パフォーマンスを検証
最後に、パフォーマンスを比較してみよう。以下のグラフは、木造3階建ての筆者宅の1階にAterm3モデルをそれぞれ配置した状態で、同一部屋内となる1階と、3階の2つのポイントでiPerfによる速度を計測した結果だ。
クライアントには、最大1300Mbpsでの通信が可能となるコンバーターモードのAtermWG1800HP、最大867Mbpsでの通信が可能なMacBook Air 11 2013、最大433Mbpsでの通信が可能なGALAXY S4の3台を利用した。
親機 | 子機 | 使用周波数帯・速度 | 1F | 3F |
AtermWG1800HP | AtermWG1800HP | 5GHz(1300Mbps) | 532 | 244 |
MacBook Air 11 | 5GHz(867Mbps) | 496 | 238 | |
GALAXY S4 | 5GHz(433Mbps) | 237 | 79 | |
AtermWG1400HP | AtermWG1800HP | 5GHz(1300Mbps) | 453 | 250 |
MacBook Air 11 | 5GHz(867Mbps) | 488 | 234 | |
GALAXY S4 | 5GHz(433Mbps) | 234 | 77.4 | |
AtermWF800HP | AtermWG1800HP | 5GHz(1300Mbps) | 93.6 | 92.7 |
MacBook Air 11 | 5GHz(867Mbps) | 94.7 | 71.6 | |
GALAXY S4 | 5GHz(433Mbps) | 95.4 | 44 |
- サーバー:Synology DS1512+
- サーバー側:iperf -s -w256k、クライアント側:iperf -c [IP] -w256k -t10 -i1 -P3
AtermWF800HPは、LAN側が100Mbpsに制限されてしまうため、最大速度こそ高くないが、3階でもMacBook Airで70Mbps以上、GALAXY S3で40Mbps以上の速度で通信できており、長距離でも実用的な速度を実現できている。スマートフォンやタブレットの利用であれば、これで十分だ。
これに対して、AtermWG1800HPとAtermWG1400HPの結果は、さすがDraft 11acという印象だ。特にAtermWG1800HPを2台組み合わせた際の速度は実効で500Mbpsを超えており、さすがDraft 11acと感心させられる。環境や測定方法によっては、さらに高い速度で通信することも可能だろう。
AtermWG1400HPは、数値的には、これに比べると若干低くなるものの、ほとんど差のない結果をマークしており、離れた場所となる3階での結果は、どのクライアントの場合もAtermWG1800HPとほとんど変わらない結果となっている。
近距離で400Mbps台後半、3階でも200Mbps以上の通信ができるので、ウェブやメール、ファイルのダウンロードなどはもちろんのこと、ストリーミングサービスの利用などでも、困ることはまずないだろう。実際の利用シーンを考えると、この点でもAtermWG1400HPの素性の良さが光る。
1万円強で無線LAN環境を快適に
以上、Draft 11acに対応したAtermシリーズ3製品を、スペックやパフォーマンスの面から比較してみたが、冒頭で触れた通り、ミドルレンジのAtermWG1400HPのバランスの良さに感心されられる結果となった。
より高い速度やWi-Fi高速中継機能を使いたい場合はAtermWG1800HPの購入を検討すべきだが、通常の利用であれば、AtermWG1400HPがベストバイと言って良さそうだ。価格的にも実売で1万円強とリーズナブルなため、現状の無線LAN環境からの買い換えも無理なくできる。
現状、まだ54Mbpsクラスの製品や2.4GHz帯しか使えない無線LANルーターを使っているユーザーも少なくないと思われるが、Draft 11acは、これら世代の古い無線LANとは、まさに別世界と言って良い速度と通信範囲を実現する製品となっている。そろそろ本気でリプレイスを検討すべきタイミングと言えるだろう。