第44回:5,000円でも機能は十分? 低価格ルータ3機種を比較
5,000円前後で購入できる低価格ルータが市場をにぎわせている。ついにルータも激しい価格競争に突入したのかという印象だ。その実力は、一体どれほどのものなのだろうか? 主要な3製品を実際にテストしてみた。
●ついに登場した5,000円ルータ
ルータ製品の低価格化が著しく進んでいる。これまで2万円前後が相場だった価格が、高性能な製品でも1万円台半ばから後半、低価格な製品にいたっては5,000円以下というものまで登場してきている。
このような背景には、もちろんチップなどルータを構成する製品の低価格化なども考えられるが、他社との差別化という意味合いが大きい。現状、ルータ製品は、有線、無線、ハイエンド向けからエントリー向けまで、それこそ数え切れないほどの製品が存在する。このような数ある製品の中から、実際にユーザーに手にとってもらうようにするには、製品に機能的な特徴よりも価格的な特徴を与える方がインパクトは強い。特にルータの場合は、搭載されている機能がユーザーにわかりにくいということもあり、このような方向でマーケティングを進める方が実際の売り上げにもつながりやすいのだろう。
そこで今回は実売で5,000円前後で購入できるルータ3機種を用意して、その実力を試してみた。用意したのは、メルコのBLR3-TX4L、コレガのBAR mini、アイ・オー・データ機器のNP-BBREだ。メルコとコレガの製品は大手家電量販店で4,980円、アイ・オー・データ機器の製品は同じく大手家電量販店で5,880円で購入することができた。このほかにも5,000円前後の製品はいくつか存在するが、今回はなるべく5,000円以下の製品をとりあげようという意図から、この3製品に絞り込んだ。
メルコのBLR3-TX4L。実売4,980円と5,000円以下の価格でありながら、機能面、速度面で充実した製品となっている |
アイ・オー・データ機器のNP-BBRE。実売5,880円と5,000円をオーバーするが、機能を考えれば納得の製品 |
コレガのBAR mini。とにかく小型で置き場所を選ばない。内蔵ハブが2ポートに限られるが、一般家庭なら十分 |
●機能的には必要十分
低価格ルータということで、機能的にはあまり期待していなかったのだが、実際に使ってみると一般的な使い方ならほぼ問題のないレベルの機能を搭載していることがわかった。ルータである以上、NAPT、DHCPサーバー機能を搭載しているのは当然と言えるが、今回、テストした3製品は、これ以外にUPnPに対応しているうえ(コレガの製品はファームウェアのアップデートが必要)、ポートフォワーディングなどの機能もしっかりと搭載されていた。ちなみに、今回テストした3製品の主な機能比較は以下の表の通りだ。
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このレンジの製品を購入するユーザー層がルータに求める条件は、1)複数台のPCでインターネットに接続できること、2)最低限のセキュリティが確保できること、3)Windows Messengerなどネットワークアプリケーションに対応していることの3点だろう。もしかしたら、3番目の条件は購入前には考慮されていないかもしれないが、少なくともそれ以上の機能は望まない傾向にある(というか、思いつかない可能性が高い)。そういった意味では、5,000円前後のルータでも、これらの条件はしっかりと満たされていることになる。
では、どのような点に、低価格ルータの弱点があるのだろうか? 機能面から見ると、いわゆるハイエンドルータに搭載されているような付加価値的な機能が弱い傾向にある。たとえば、フィルタリングだが、IN/OUTの両方のフィルタリングを設定できるのが理想だが、今回の製品の中でこれが可能だったのはアイ・オー・データ機器の製品のみで、他の製品はOUT側のフィルタリングしか設定できないようになっていた。おそらく、NAPTによって最低限のセキュリティは確保できているうえ、フィルタリングの機能を複雑なものにすることでユーザーが設定に混乱するのを避けたいというのが、そのねらいだろう。
また、VPNパススルーに関してはメルコのBLR3-TX4Lのみが、高度なセキュリティを実現するSPI(ステートフルパケットインスペクション)に関してはアイ・オー・データ機器のNP-BBREのみが対応するなど、ハイエンドルータに搭載されているような高度な機能は、その一部のみが搭載されるようになっている。
とは言え、VPNパススルーなどは、必要かどうかがユーザーの使い方によって分かれる機能となるため、搭載していなくても何ら問題はない。そう考えると、ごく一般的な使い方であれば、5,000円前後のルータでも機能的には十分に満足できるレベルにあると言うことはできる。
なお、今回、テストした限りでは、UPnP対応をうたっているコレガのBAR miniでWindows Messengerのビデオチャットが利用できなかった。同社のホームページの記載によると最新のファームウェア(1.01.84)で対応となっているので、おそらくファームウェアに何らかの不具合があるものと予想される。今後の修正を期待したいところだ。
●ADSLであれば速度的には必要十分
低価格ルータで、もうひとつ気になるのは、やはりスループットだろう。個人的には、速度だけを強調するのはあまり気が進まないのだが、速度を目安に製品を購入するユーザーも少なくないので、一応、計測してみた。結果は以下の表の通りだ。
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※PCにはPentium4 3.06GHz、1GBメモリ搭載機を使用。RBB TODAY速度測定サイトにて計測 ※ACCAのADSLのリンク速度は下り8032kbps/上り1024kbps ※Bフレッツはニューファミリータイプを使用。フレッツスクウェア内の速度テストではBA8000PRO使用時で69Mbps程度のスループット |
結果から言えば、どの機種でも必要十分な速度が実現できていると言える。特にADSL環境では、ほぼ回線の速度を損なわずに通信が可能だろう。今回テストしたADSL回線はリンクアップ速度で8Mbpsほどを実現しているアッカ・ネットワークスの12Mbpsタイプだが、インターネット上の速度測定サイト(RBB TODAY)で計測したところ、3製品とも6Mbps後半のスループットで通信することができた。PPPoEやインターネット側の混雑状況、速度測定サイト側の負荷などを考慮すれば、回線速度をほぼ使い切っていると言える。
むしろ、今回のテストで意外だったのは、ADSL事業者から提供されるルータ機能内蔵モデムの健闘だ。さすがに12Mbps ADSL用に設計されているだけあって、市販のルータと遜色ない速度を実現できている。アッカ・ネットワークスで提供されるADSLモデムは、富士通製のFLASHWAVE 2040 M1という製品だが、この製品はUPnPをはじめ、ポートフォワーディング、DMZに対応している(フィルタリングには未対応で標準でWAN側はクローズ)。つまり、機能的には、今回、テストした低価格ルータと同等の機能ということになる。そう考えると、このような環境でわざわざADSLモデムの設定をブリッジに変更して、別途ルータを導入しようとは考えにくい。
ただし、これがFTTHとなると話は別だ。もちろん、FTTHだからと言って必ずしも60Mbpsや70Mbpsといったスループットが必要だとは思わないが(使い道がない)、さすがに10Mbps前後のスループットでは実用上問題がある。たとえば、現在、NTTのフレッツ・スクウェアではWindows Media 9用に6Mbpsの映像コンテンツが用意されているが、今回、テストした3機種では映像が途中でコマ送りのようになってしまい、とても見られたものではなかった。
もちろん、メーカー側もFTTHでの利用まで考慮していないのは明らかだが、もう少しスループットが高ければ(15~20Mbps)、6Mbpsのコンテンツが再生できるという実用上のメリットが生まれ、FTTHユーザーの利用も視野に入れた製品展開ができるはずだ。価格が高くて高速なルータがあるのは当たり前、そこそこ速くて、しかも低価格な製品があってもいいのではないだろうか。不要な機能、不必要な速度を削り、実用に困らない製品を目指す。これこそが、リーズナブルな価格レンジのルータに求められるものではないだろうか。
●「低価格=エントリーユーザー向け」という固定観念は排除すべき
また、今回、3製品を使ってみて感じたのは、エントリーユーザー向けの親切さが足りない点だ。どの製品も低価格で、エントリーユーザーに最適のような評価を受けているが、個人的にははじめてブロードバンド環境を導入したようなユーザーが手軽に使えるような製品とは思えない。
もちろん、アイ・オー・データ機器のNP-BBREであればウィザード形式で手軽に初期設定ができたり、マニュアルが比較的わかりやすいという特徴を備えている。また、メルコのBLR3-TX4LやコレガのBAR miniであれば設定画面のヘルプが充実しているなど、初心者向けの工夫は、ある程度なされている。しかし、逆に言うと、アイ・オー・データ機器の製品はヘルプが存在しないし、メルコの製品はユーザーズマニュアルがCD-ROMになっているために閲覧が面倒という欠点がある。また、コレガの製品もマニュアルがわかりにくい。
NP-BBREでは、ウィザード形式での初期設定が可能であったり、バーチャルサーバー(ポートフォワード)でサンプルから設定値をコピーできるなどの工夫がなされている。ヘルプが用意されれば完璧 |
設定画面にヘルプが用意されているメルコ(上画面)、コレガ(下画面)の両製品。コレガはマニュアルの充実が望まれるところ |
メーカー的にエントリーユーザーに低価格製品を勧めたいという意志があるのであれば、もっと初心者を意識して、これでもかというほどマニュアルなり、ヘルプなりを作り込むべきだ。そうでなければ、とてもエントリーユーザー向けとは言えない。今の製品形態では、すでにブロードバンド環境を利用しており、必要な機能や不必要な機能を自分で選択できる人、そしてマニュアルなど見なくても設定ができる人でないと、個人的にはおすすめできない。
当然、マニュアルなり、ヘルプなりを充実されれば、コストは上がるだろう。しかし、それでもいいのではないだろうか? 価格競争に発展するのは、いずれ自分の首を絞める結果にもなりかねず、メーカーとして決して得策とは思えない。であれば、多少、コストを上乗せしてでも、ここに注力する価値はある。
特に、ADSL市場では現在の方向性のままではルータの活躍の場は少なくなってしまう可能性がある。現状、ADSL事業者で提供されるモデムにはルータ機能が搭載されることが珍しくない。アッカ・ネットワークス、イー・アクセスは標準でルータ機能内蔵のモデムが提供されるうえ、NTTのフレッツ・シリーズでは標準で提供されるモデムのほかに、ルータ機能内蔵のモデムを購入することが、Yahoo!BBでは選択するプランによって無線LANルータを利用することが可能となっている。つまり、いくら価格を安くしたとしても場合によってはルータ自体が必要のないケースも少なくないというわけだ。
このように、今後、モデムへのルータ機能搭載が進むと、単体のルータがこの市場で生き残っていくためには、もはや価格では勝負にならなくなってくる。ハイエンドルータが目指しているような付加価値や速度といった機能面で差を付けるか、使いやすさという面でアドバンテージを示すしかないだろう。
●あえて選ぶならメルコのBLR3-TX4Lか
このように、5,000円前後のルータ3製品を実際に利用してみたが、現段階では、やはり価格なりという評価を与えざるを得ない。それでも、あえて選ぶとすれば、個人的にはメルコのBLR3-TX4Lだろうか。必要な機能をきちんと備えているうえ、速度も問題なく、なにより設定画面にヘルプが用意されている点が高く評価できる。アイ・オー・データのNP-BBREもSPIが搭載されるなど、機能的には文句ないのだが、ヘルプ関連をもう少しブラッシュアップしたい印象だ。コレガもマニュアルがもう少しわかりやすいといい。このあたりは、メーカーにさらなる改善を望みたいところだ。
関連情報
2003/2/18 11:15
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