第82回:周波数の狙い撃ちでAMノイズをカット
ソニーのADSLフィルタ「TL-NDF20M」で品質向上はなるか!?
ソニーから、目新しい機能を備えたADSLノイズフィルタ「TL-NDF20M」が発売された。本体に装着されたダイヤルで、AMラジオの周波数を選択。特定のノイズだけを低減させることができるという製品だ。さっそく、その効果を実際の環境でテストしてみた。
●目的はあくまでも安定性の向上
ADSLフィルタ「TL-NDF20M」 |
線路長、周辺環境、宅内配線などなど、ご存じの通り、ADSLの速度や安定性は環境によって大きく左右される。しかし、頭では理解していても、実際の速度を見ると、もう少し速くならないものかとついつい思ってしまう。たまにインターネット上の速度測定サイトなどにアクセスして、「10人待ち」などと表示されるのを見ると、速度に対して敏感なユーザーがいかに多いかをつくづく感じさせられる。
今回、取り上げるソニーの「TL-NDF20M」は、そんな敏感なユーザーの注目に値する製品だ。いわゆるノイズフィルタ(スプリッタもラインナップする)なのだが、本体のダイヤルで軽減したいノイズの周波数を選択できるのが最大の特徴。ADSLに大きな影響を与えると言われているAMラジオからの干渉を狙い撃ちで撃退することができる。
もちろん、この製品自体は、速度の向上を目的としたものではなく、あくまでも安定性を向上させるための機器だ。しかし、数年前に8Mbps ADSLが登場した当初、ノイズフィルタの装着によって速度が向上した例なども多く報告されており、速度に対しても効果があるのではないか? と期待してしまうのも心情だ。
最近では、回線が頻繁に切断されるといったADSLの不安定さが解消されつつあるだけに、ノイズフィルタのような手軽な対策で速度を改善でれば、それはそれで興味深い存在になる。果たして、「TL-NDF20M」は速度向上に一役買うのだろうか?
●設定次第で毒にも薬にも
早速、筆者宅のADSLで試してみたのだが、結論は後で述べるとして、1つわかったのは、設定が極めて難しいということだ。
もちろん、接続自体は難しくない。今回、取り上げた製品はフィルタタイプなので、スプリッタのMODEMコネクタとADSLモデムの間にモジュラーケーブルで接続するだけ。たったこれだけで利用できる。それこそ、接続だけなら、ものの数分というレベルだろう。
しかし、問題はダイヤルの設定だ。干渉源となっているAM波を選べるのは良いが、一体どの周波数に設定すればいいのかが皆目見当もつかない。
本体に用意された周波数設定ダイヤル。これによって、干渉を受けている周波数のみをカットできる |
まあ、悩んでいても仕方がないので、手当たり次第設定を変更してみることにした。なお、今回のテストにはイー・アクセスの40Mサービス(ADSLプラスQ)を利用した。TL-NDF20M自体は、24/26Mサービスにまでしか対応していないが、筆者宅は40Mサービスと言ってもダブルスペクトラムまででしか接続できないので、条件的には問題ないと思われる。
結果は、以下の表の通り。筆者宅の場合、通常の状態で12,640kbpsでリンクアップするが、TL-NDF20Mを装着しても、速度そのものに関してはほぼ同等か低下する結果となった。
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主なAMラジオ局の周波数に加え、比較的、高い周波数をいくつか選んで速度を計測してみた。表示はすべてリンクアップ速度 |
これだけではわかりにくいので、試しにビットマップを表示してみた。まず、結果的に最も速度が遅くなった954kHz付近(東京ではTBSラジオ)に設定したビットマップが以下のグラフだ。
標準(フィルタなし)の状態とNL-TD20Mを954kHz付近に設定した時のビットマップを重ねて表示。FEXT、NEXTともに黒い部分が標準のビットマップで、薄いグリーンの部分が装着後のビットマップ |
グラフを見ると、見事に設定した周波数付近(ビン番号で221近辺)のビットが削られていることがわかる。フィルタなしの状態でも、同一の周波数帯に多少、ビンのへこみが見られるが、フィルタを装着すると、設定した周波数周辺のビットも巻き込むようなイメージで、扇型にビットが削られている。
この部分に干渉を受けていれば、ノイズのカットによって安定性は確かに向上させることができるだろう。しかし、AMラジオの干渉を受けていない環境で利用すると、FEXT、NEXTとも、設定周波数周辺のビットを多く削られてしまうおかげで、1Mbps近くの速度が失われてしまった。
続いて、唯一、速度が向上した場合のビットマップを紹介しよう。筆者宅の環境では、TL-NDF20M側の周波数を1500kHz付近に設定したときに最も高い速度(12,704kbps)を計測できた。と言っても、標準の状態が12,640kbpsだったので、わずか64kbpsの向上にすぎないが……。
標準(フィルタなし)の状態とNL-TD20Mを1,500kHz付近に設定した時のビットマップを重ねて表示。こちらも同じく、黒い部分が標準のビットマップで、薄いグリーンの部分が装着後のビットマップ |
このビットマップで特徴的なのは、設定した周波数付近(グラフのビン番号で381付近)で、ビンへのビット搭載量が増えている点だ。FEXTのビットマップを見ると、この部分で従来2ビットだったビット数が、最大4bitにまで増加している。また、FEXT、NEXTともに、高い周波数付近で1bit程度ずつの上積みも見ることができる。
ただし、ビットマップをよく見ると、FEXTでは上積みされていた1500kHz以上のビンが、NEXTでは減ってしまっており、FEXTの低い周波数帯でもところどころビットの現象が見られる。このケースでは、増えたビットがあれば減ったビットもあるため、結果的にごく僅かな速度向上しかしていないことになる。
つまり、TL-ND20Mの効果は、ひとえに設定次第ということになる。設定によっては、確かに干渉源のノイズをカットし、安定性を向上させることができるが、不用意に設定すると逆に低下することになりかねない。このあたりは、利用する上で十分に注意すべき点であろう。
なお、本製品は最大3個まで数珠繋ぎにすることが可能となっており、複数のAMラジオ局から干渉を受けている場合は、接続したそれぞれの機器を適切に設定することにより、複数の周波数帯のノイズをカットすることもできるようになっている。これは、他のノイズフィルタ製品にはない大きな特徴と言って良いだろう。
●回線状況を見極めることが大切
このように、TL-ND20Mは、その設定次第でその効果が大きく変化する製品と言える。この製品を効果的に利用するには、どの周波数から干渉を受けているかを見極め、その周波数を適切に設定することが要求される。
とは言え、これは事実上、かなり難しい。もちろん、マニュアルには設定の目安として「放送送信所からの距離が近く、送信出力が大きい場合に影響を受けやすくなる」と記載されているので、これを参考に設定することもできる。また、今回のようにビットマップを見れば、それを判断することもできるだろう。しかし、普通は放送送信所の位置を知ることは難しいだろうし、ましてやビットマップなど見て判断することもしないだろう。Yahoo!BBのように、利用する事業者によっては、ビットマップすら表示できないことさえもある。
それを考えると、この製品を購入するかどうかは、極めて判断が難しいところだ。狙いとしては、非常に面白い製品だと思うのだが、決して誰もが手軽に使えるようなものではない。ましてや安定性を向上させることを目的とした機器であるため、速度が向上するとも限らない。購入する場合は、このあたりに十分注意する必要がありそうだ。
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2003/12/9 11:00
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