第265回:ダウンロードした映画やアニメを直接DVDに保存
KDDIが挑むコンテンツの新しい流通形態「DVD Burning」
9月27日から、KDDIによるコンテンツ配信サービス「DVD Burning」が開始された。インターネット経由で配信した映画やアニメなどのコンテンツを、ユーザー宅のDVDドライブを使ってDVD-RWに直接書き込むというサービスだ。その使用感をレポートしよう。
●「ひかり de DVD」を再び
DVDレコーダに直接配信する「ひかり de DVD」はDVD Burningの前身サービス |
あれから約3年。もっと早く、市場に登場していれば……。
「DVD Burning」のニュースを聞いたとき、すでに押し入れの奧へと追いやってしまった「RD-X4TP」を眺めながら、率直にそう感じた。
パワードコム、東芝、東京電力によって、ネット経由で配信したコンテンツをDVDレコーダ(DVD-RAM)に書き込む「ひかり de DVD」のトライアルサービスが開始されたのは、2004年12月のこと。当時は画期的なサービスとして注目されたが、サービス自体の問題というよりも企業や事業レベルでのさまざまな都合があったのか、結局正式サービスとして日の目をみることはなかった。
その後継とも言えるサービスが、今回、KDDIの手によって開始された「DVD Burning」となるわけだが、当時の「ひかり de DVD」が順調に展開されていたとしたら、もしかすると現在一般的なSTBを利用したストリーミング形式の映像配信サービスと互角の勝負が展開されていたのかもしれないと、改めて感慨にふけってしまった。
KDDIがサービスを開始したDVD Burning。ダウンロードしたコンテンツをユーザー宅のDVDドライブでDVD-RWに書き込むというサービスだ |
●配信されたDVDイメージを自宅でDVDに記録
というわけで、今回、KDDIによって開始された「DVD Burning」は、当時を知っている身としてはどこか懐かしさを感じさせるサービスではあるのだが、商用サービスとしては非常に画期的だ。
DVD Burningを簡単に説明すると、映画やアニメなど市販されているDVDの映像をイメージデータとしてインターネット経由で配信。専用のライティングソフトを利用して受信したデータを、ユーザーのPCに搭載されたDVDドライブでDVD-RWに書き込むというサービスだ。
市販のDVDパッケージを店頭もしくはインターネット経由で購入するサービスを「物理的なコンテンツの流通」、4th MEDIAやアクトビラビデオといった映像配信サービスを「映像を見る権利の取引」だとすると、DVD Burningはちょうどその中間的なサービスと言えるだろう。流通経路としてインターネットを利用し、そこで取引されるのはデジタルデータのみとなるが、ユーザーは購入したコンテンツをDVDとして所有できるというわけだ。
実際の利用方法を紹介しよう。まず、DVD Burningを利用するには、いくつかの条件がある。光ファイバやCATV、ADSLなど実効6Mbps以上の回線があること、続いてPCにCRPM対応の書き込み可能なDVDドライブ(DVD-RW対応)が搭載されていること、最後にPCに搭載されているOSがWindows XP SP2以上であることだ。ポイントはOSだ。Windows XP SP2以上となっているが、以上というのはService Packのバージョンを示しているようで、Windows Vistaでは利用できない。
環境が用意できれば、続いてサービスへの登録を行なう。この際、PCでの書き込みが正常にできるかどうかを確認するため、まずはお試し会員として登録し、書き込みのテストを行なうことが推奨される。書き込みができることを確認できたら、クレジットカード情報を登録して、はじめて本会員として登録される。
ユーザー登録すると、まずはお試し会員として登録される。その後、同作確認をして問題がなければ、決済のためのクレジットカード番号を登録して本会員となる |
実際にコンテンツを購入する場合は、まずDVD Burningのサイトから購入したい映像を選ぶ。詳細情報などを見て購入することを決定したら、「購入」ボタンを押して手続きを行なう。と言っても、登録したクレジットカードで自動的に決済されるので、ユーザーIDとパスワードを入力するだけと決済は簡単だ。価格はコンテンツによってさまざまで、980円のタイトルもあれば、1,980円、2,980円前後のコンテンツもある。
購入手続きが完了すると、いよいよDVDへの書き込みとなる。ブラウザに表示された「焼き込み開始」というボタンをクリックすると、PCにインストールした専用の書き込みソフト「KDDI DVD Burner 1.0」が起動する。ドライブにCPRM対応のDVD-RWメディアをセットして書き込みを開始すれば、インターネット上からデータを少しずつ受信しながら直接DVDへと書き込まれていくことになる。
DVD-Burningの利用手順。まずは購入したいコンテンツを選ぶ | ユーザーIDとパスワードを入力して決済 |
決済完了後、画面のボタンを押して書き込み開始 | 専用ソフトが自動起動するので書き込み開始 |
書き込み完了。これで映画が納められたDVDが完成する |
●書き込みは1回のみ、完了までの時間は30分程度
LinuxなどのOSの配布などでは、isoファイルをダウンロードして後から書き込む方式となるが、DVD Burningでは映像データはファイルとして保存されない。専用ソフトで受信しつつ、それを直接DVDに書き込むことになる。
実際に試してみた限りでは、タスクマネージャのネットワークの項目で、ダウンロード中の帯域が1~2%ほど(1000BASE-T)だったので、10Mbps前後の帯域が確保できていれば問題なく書き込みができるだろう。
書き込み中の様子。ネットワーク占有率はあまり高くない |
なお、DVD Burningでは基本的に1回の購入で1回しか書き込みができないようになっているが、転送エラーや書き込みエラーによる中断など、書き込みが完了する前であれば、再書き込みが可能となっている。
書き込み完了までにかかる時間は選択した映像にもよるが、映画などの場合で30分程度かかると考えると良いだろう。「ひかり de DVD」の時代には、DVD-RAMへの記録だったこともあり、記録しながらおっかけ再生することもできたのだが、今回のサービスでは書き込みが完了するまでひたすら待つ必要がある。これは若干面倒に感じた。
ちなみに、対応メディアはCPRM対応のDVD-RWのみとなっているが、筆者がテストした限りではDVD-RAMへの書き込みも可能だった。もちろん、正式対応ではないため自己責任での利用となり、ソフトウェアとドライブとの相性などの関係もあると考えられるが、このあたりはユーザー次第で柔軟な利用ができそうだ。
●再生環境は限られる
書き込みが完了すれば、DVDを再生することができるが、再生にはCPRM、VRモードに対応した環境が必要になる点に注意したい。
比較的新しいDVDレコーダーなどであれば、ほとんどの場合再生することができるが、たとえばPSXやPS2、PS3などでは再生できない。また、PCでの再生の場合も、Windows Media Playerなどでの再生は不可能で、WinDVDやNeroなど、CPRMに対応したソフトウェアを利用する必要がある。メーカー製のPCでDVD再生ソフトが標準搭載されている場合は再生できる可能性が高いが、そうでない場合は市販のDVD再生ソフトを新たに購入しておく必要があるだろう。
再生環境はCPRM対応が必須。市販のDVDレコーダーなどであれば問題ないが、ゲーム機などは未対応。また、PCでの再生にもCPRM対応ソフトが必要 |
なお、市販のDVDと異なる点としては、VRモードでの書き込みとなるほか、メニュー画面がない点、2層DVDに対応していないため作品によっては映像が圧縮されている点、DTSデジタルサラウンド音声に対応していない点などが存在する。
サービスのイメージとしては、市販のDVDのデータを受信して書き込むと考えるとわかりやすいが、実際にユーザーが手にする書き込み後のDVDは市販のものとまったく同じではない点に注意する必要があるだろう。
●“所有する”メリットを打ち出せるか
以上、KDDIのDVD Burningを実際に利用してみたが、面白いサービスではあるものの、いくつか気になる点もあった。
まず、サービスが開始されたばかりであるためコンテンツが少ない。ただし、これは今後、増えていくことが想定されるので、あまり心配はないだろう。
機能的な面で気になるのは、やはり「書き込む」という動作だ。1度しか書き込めないというのは著作権の問題から致し方ないところではあるが、書き込み完了までに時間がかかるのはあまり好ましくない。個人的には、かつての「ひかり de DVD」のように、RAM対応にして、追っかけ再生できるようになってほしい。将来的に市販のDVDレコーダへの対応も予定されているとのことなので、この対応を期待したいところだ。
最後に、やはりもっとも重要なのはコンテンツを“所有する”というDVD Burningならではのメリットをどこまで活かせるかだろう。映画やアニメなどの映像を見たいだけなら、ストリーミング形式のサービスでも十分だ。もしくは、レンタルDVDでもかまわない。それをわざわざ高い金額(1,980円前後)を支払ってまでDVDで欲しいというのだから、所有することに対するアドバンテージがそこに存在しなければならない。
市販のDVDであれば、パッケージや特典映像などが、所有することのアドバンテージとなり得るが、本サービスの場合、このようなアドパンテージはなく、単に「繰り返し見られる」というメリットしか存在しない。確かに価格は安いのだが、わざわざDVDが欲しいと考えるユーザーが価格をメリットと感じるかどうかは判断が難しいところだ。おそらく、この点が、今後サービスが普及するかどうかのポイントになるのではないだろうか。
関連情報
2007/10/16 11:02
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