第264回:オンラインアルバムとシームレスに連携
ニコンの無線LAN搭載コンパクトデジタルカメラ「COOLPIX S51c」



 ニコンからIEEE 802.11b/g準拠の無線LANを内蔵したデジタルカメラ「COOLPIX S51c」が発売された。以前に本コラムで紹介したS50cの後継にあたる製品だが、本体やオンラインサービスの使い勝手が大幅に改善されている。実際の使用感をレポートしよう。





一歩一歩、着実に進化

COOLPIX S51c

 「見た目はほとんど変わらないけど、ずいぶん使いやすくなったなぁ」。新しく発売されたニコンの無線LAN搭載デジタルカメラ「COOLPIX S51c」を実際に使って素直にそう感じた。

 見た目のデザインは従来のCOOLPIX S50cとほとんど同じで、ハードウェア的にも画素数が約720万画素から約810万画素に向上している程度で大きな違いはない。しかしながら、詳細は後述するが、操作性や付随サービスなどの使い勝手が確実に向上しており、以前のモデルにあった使いたい機能になかなかたどり着けないような一種の「もどかしさ」が感じられなくなった。

 今回の新製品は、言わば従来モデルからのマイナーチェンジといったところだが、その内容は一歩一歩着実に進化しているという印象だ。





オンラインサービス連携をブラッシュアップ

ソニーの無線LANデジカメ「DSC-G1」

 デジタルカメラの世界で無線LAN搭載機は、まだあまり一般的な存在ではなく、そのコンセプトも製品によってまちまちだ。

 たとえば、ソニーの「DSC-G1」はDLNAというホームネットワークのために無線LANを利用し、少々古いモデルだがキヤノンの「IXY DIGITAL WIRELESS」では、PCから無線LAN経由でカメラのシャッターを切ることができた。そして、今回のニコンのCOOLPIX S51cは、メールでの転送やオンラインサービスの利用のために無線LANを利用する。

 個人的には全部搭載してしまえば良いのに……、と思わなくもないのだが、現状は遠隔撮影、ホームネットワーク、オンラインサービスと、「無線LAN+デジタルカメラ」という技術に対するユーザーのニーズがどこにあるのかを、各メーカーが探っているような状況だ。

 このような状況の中、どうやらニコンとしては、無線LANの軸足をオンラインサービスに置くことを決めたようだ。今回登場したCOOLPIX S51cは、冒頭でも少し触れたように従来モデルのブラッシュアップが中心となっている製品だが、その改善の中心は無線LAN機能とオンラインサービスに集中している。





充電で即アップロード

 具体的にどこが改善されたのかというと、まず無線LAN経由での写真送信機能だ。本製品には、「ピクチャーバンク」と「ピクチャーメール」という2つの機能が搭載されており、前者を利用すると撮影した写真を同社のオンラインアルバムサービス「my Picturetown」にアップロードすることができ、後者では撮影した写真をほかの人にメールで送信することができるようになっている。基本的な機能はb>以前のコラムで紹介しているので、そちらも参照してほしい。



 従来製品では、これらの機能を利用するために、いくつものメニュー画面を移動しながらボタンを何度も押さなければならなかったのだが、新モデルのS51cではこの手間が大幅に改善されている。

 その1つがピクチャーメールに搭載された送信予約機能だ。無線LANに接続できない場所でもあらかじめメールで送信したい写真を選んで予約しておくことができ、あとから接続可能になったときにまとめて送信できるようになった。

 通常、外出先で撮影した写真を友人などに送ろうと思っても、なかなか面倒だったり、忘れてしまうことも多い。しかし、送信予約を使えば撮影したその場で送りたい人に予約しておき、後で家に帰って充電するだけでまとめて送ることができる。無線LAN接続が可能でないと送れないためにタイムラグはあるものの、感覚としては携帯電話で写真を撮影して友人に送るというイメージに近い。

 もちろん、これらの機能は家庭の無線LANだけでなく、外出先にある公衆無線LAN(NTTコミュニケーションズの「HOTSPOT」、ソフトバンクテレコムの「BBモバイルポイント」)でも可能となっている。こういった場所を利用すれば撮影してすぐに送信という使い方も可能だ。


ソフトバンクテレコムのBBモバイルポイントの設定は標準で登録済み。現在、1年間、無料で利用できるキャンペーンも実施されている

 また、これは前モデルのS50cから搭載されていた機能だが、ピクチャーバンクによる写真のアップロードも非常に便利な機能だ。カメラをACアダプタに接続するだけで、撮影した写真が自動的にアップロードできる。もちろん、事前に接続するアクセスポイントの設定やmy Picturetownの利用登録は必要だが、一度、設定してしまうと後は自動だ。


本体にACアダプタを接続すると、撮影済みの写真を自動的にmy Picturetownへアップロード。撮影後の取り込み作業が不要となった

 この機能を使えば、外出先などで撮影した写真も、家に帰ってきて充電するだけでオンラインアルバムにアップロードできる。PCを起動してわざわざ取り込むという作業から解放されるというのがこんなにも楽なのかと、改めて感心させられた。





オンラインアルバムの機能を強化

 本体の機能強化に伴って、オンラインサービスも刷新された。従来の「COOLPIX CONNECT」が「my Picturetown」へとリニューアルされ、いくつかの新機能が利用可能となった。

 たとえば、アップロードした写真の情報に「Blogリンク」と呼ばれる項目が追加されており、このリンクを利用することで自分のブログなどでアップロートした写真を利用することができる。容量制限があるブログサービスなどを利用している場合は、写真だけでもmy Picturetownを利用するといった使い方ができるだろう。


登録した写真をブログやSNSなどに貼り付けることが手軽にできるようになった。URLは写真の情報画面から参照できる

 また、携帯電話からの利用も可能となっており、NTTドコモのFOMA端末からライブラリに登録された写真を見ることができるようになった。もちろん、ピクチャーメールなどでの利用も可能で、COOLPIX S51cから携帯電話のメールアドレスにピクチャーメールを送信すれば、携帯電話の画面からその写真を閲覧できる。

 なお、現状、正式にサポートされている携帯電話は前述したとおりNTTドコモのみだが、個人的に所有しているauの端末でも問題なくログインして、アルバムを参照できた。あくあまでもサポート外となるが、試してみる価値はあるだろう。


携帯電話からのアクセスにも対応。携帯電話からアルバムの写真を参照できる。au端末でも問題なく利用できた

 このほか、取り込んだ写真をマウスでドラッグすることでフォルダに分類できるなどの操作性も改善されているが、個人的に面白いと感じたのはスライドショーの機能だ。オンラインアルバムのフォルダを選んで、スライドショーボタンをクリックすると、ブラウザの画面内でBGMとともにスライドショーが再生される。BGMはジャンルのみの選択でき、ユーザーが曲を選択することはできないが、ブラウザのみで写真を楽しむことができるようになっている。


ブラウザの画面でスライドショーを利用できる。設定できる切り替え効果やBGMは少ないが、単に一覧で眺めているより写真を楽しめる

 本サービスは、COOLPIXユーザーではなくても利用可能となっており、無料で2GBまで利用できるフリーアカウントに加え、月額350円で20GBまで利用できるゴールドアカウントも用意されている。純粋に写真の保存用として利用しても使い勝手の良いサービスだ。





無線LAN対応というよりもオンラインサービス対応のデジカメ

 以上、ニコンのCOOLPIX S51cを試してみたが、従来モデルから大幅な変更はないものの、かゆいところに手が届く改善がなされており、非常に使いやすくなった。

 従来モデルは、無線LANというハードウェアの延長線上にオンラインサービスが位置づけられているイメージであったが、今回の製品では無線LANはあくまでも裏方という印象で、オンラインサービスを利用するための手段としてしか存在していない。これにより、オンラインサービスを活用して、純粋に写真を楽しめるようになった。

 こういった改善は、開発者が本当に製品を使い込んでいたり、メーカーとしてユーザーの意見を真摯に取り入れていないとできない改善だ。それがきちんと行なわれている点は高く評価したい。

 しかしながら、前述したように、無線LAN搭載デジタルカメラの方向性は、オンラインサービスだけでなく、ホームネットワークの分野にも拡大しつつある。この分野に対して、ニコンがどのようにアプローチしていくのかに注目したいところだ。


関連情報

2007/10/9 11:14


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。