第241回:公衆無線LANや2GBのオンラインアルバムが利用可能
ニコンの無線LAN搭載デジタルカメラ「COOLPIX S50c」



 ニコンから、IEEE 802.11b/g準拠の無線LANを搭載したデジタルカメラ「COOLPIX S50c」が登場した。最大の特徴は、内蔵された無線LANを利用して、公衆無線LANなどからも手軽にオンラインに写真をアップロードできる点だ。専用のオンラインサービスとともにその使い勝手を検証した。





無線LANでオンラインサービスを活用する

COOLPIX S50c

 今回登場したニコンのCOOLPIX S50cを実際に使ってみて、なるほど、デジタルカメラの写真は必ずしもローカルに保存する必要はないのかもしれないと感じた。

 ニコンのCOOLPIX S50cは、有効画素数720万画素の1/2.5型原色CCD、35mm換算焦点距離38-114mm相当、F3.3~4.2の光学3倍ズームニッコールレンズを搭載したコンパクトタイプのデジタルカメラだ。サイズが手軽で扱いやすく、顔認識AFの搭載でちょっとしたスナップ写真を撮影するのに適している製品だが、最大の特徴は何と言ってもIEEE 802.11b/g準拠の無線LANを内蔵している点だ。

 無線LANを搭載した製品としては、すでに「COOLPIX S7c」が発売されており、さらにその前の「COOLPIX P1」も本コラムで取り上げたことがあったが、今回のCOOLPIX S50cは無線LANの用途が少々異なる。

 従来の無線LAN搭載機は、無線LANをPCや周辺機器とのインターフェイスとして利用するための機能であり(プロトコルにもPTP-IPを利用していた)、たとえば撮影した写真をPCに転送する、ワイヤレスアダプタを接続したプリンタからダイレクトプリントするという使い方がなされていた。つまり、主に家庭内での利用が想定されていたわけだ。

 これに対して、COOLPIX S50cでは、無線LANをインターネットへの通信環境として利用する方向性へと変化している。従来の機種で可能だったPCとの接続機能は省略され、無線LAN経由でインターネット上のオンラインアルバムサービスへの接続が可能となっており、撮影した写真をデジタルカメラから直接オンラインアルバムに保存することができるようになっている。

 従来の無線LAN搭載機「COOLPIX S7c」ではニコンのオンラインアルバムが利用可能だったが、S50cでは新しいオンラインアルバムサービス「COOLPIX CONNECT」が同時に提供され、ハードウェアとインターネット上のサービスが密接に連携しているのが特徴となっている。このCOOLPIX CONNECTは最大2GBのディスク容量を無料で利用できるという強力なサービスで、写真と静止画の保存に加えて、メールでの通知、他のCOOLPIX CONNECTユーザーとのアルバム共有機能などの機能も用意されている。


本体前面本体上部。シャッターや電源、手ブレ補正ボタンなどを搭載

左側面にストラップホール本体右側面にはWi-Fiランプ

背面本体底部




家庭内での無線LAN設定は手動も外出先では設定不要

 それでは、主に無線LAN、およびオンラインサービスの使い勝手を中心にレビューしていくことにしよう。

 まずは無線LANへの接続だが、これはオーソドックスな手動設定だ。設定画面からワイヤレス設定を選ぶと、周辺のSSIDが自動検索されリストアップされる。その中から接続したいアクセスポイントを選び、暗号化方式、およびキーを入力するという方法になる(SSIDの手動設定も可能)。

 COOLPIX S50cではロータリーマルチセレクターと呼ばれる回転式の操作ボタンが搭載されているため、このボタンをクルクルと回転させることで手軽に文字を選択、入力することが可能だが、それでも入力には時間がかかってしまう。アクセスポイントによっては自動生成された非常に長い暗号キーとなるケースもあるため、環境によっては設定に苦労する可能性もある。将来的には、WiFiアライアンスが策定したWPSなどへの対応を期待したい。なお、付属のユーティリティ「COOLPIX CONNECT Utility」を使えばPCから無線LAN設定を行なうことも可能なので、そちらを使うのもいいだろう。


無線LANの設定は手動設定となるため、SSIDや暗号キーが長い場合は設定にやや苦労する。ただし、BBモバイルポイントの設定はあらかじめ登録済みのため、設定や申し込み不要で利用できる

付属のユーティリティ「COOLPIX CONNECT Utility」無線LAN設定もユーティリティから行なえる

 ただし、面倒な接続設定が必要になるのは主に家庭内で利用する場合だ。COOLPIX S50cはソフトバンクテレコムの「BBモバイルポイント」、NTTコミュニケーションズ(NTT Com)の「HOTSPOT」にも対応しており、外出先での利用も可能となっている。特にBBモバイルポイントは、無料使用キャンペーンによって初回利用から最大1年間利用可能になっており、接続設定も出荷時に登録されている(申し込みも不要ですぐに使える)。このため、外出先で利用する場合は面倒な設定は不要で、単に電波の届く範囲で接続先を選択するだけと非常に手軽だ。

 次世代のモバイル通信インフラが次々と登場しつつある現在、公衆無線LANの存在感が次第に薄れつつあるが、このように機器側に設定をプリセットし、しかも申し込み不要で手軽に使えるようにしておけば、もっと認知度や利用者数が向上しそうだ。同様の手法がデジタルカメラだけでなく、ゲーム機や携帯電話などにも展開されるようになれば公衆無線LANの存在が改めて見直されることにもなりそうだ。





ローカルと変わらない操作感でオンラインに写真を保存

 無線LANの設定が完了すれば、実際にオンラインサービスの「COOLPIX CONNECT」が利用可能だが、初回は登録作業が必要となる。S50cの設定画面からニックネームとメールアドレスを登録。メールアドレス宛に確認のメールが送られるので、PCを利用してメールの内容に従って登録作業を行なう。登録時にカメラに固有のコネクトキーを入力する必要があり、これがどこに記載されているのかがわかりにくかったものの(設定画面から確認できる)、登録作業自体は手軽に可能だ。

 ここまでの作業が完了すれば、実際にCOOLPIX CONNECTを利用できる。画像のアップロード方法は2種類用意されており、「ピクチャーバンク」と呼ばれる方法では、ユーザーが自分で指定した写真、もしくは日付指定した写真を無線LAN経由でオンラインアルバムに保管できる。PCに写真を取り込む代わりにオンラインに保管すると考えるとわかりやすいだろう。


写真のアップロード方法は2種類を用意。ピクチャーバンクでは選択した写真がオンラインアルバムに保存される

もう1つの「ピクチャーメール」と呼ばれる方法は、友人などに写真を送りたいときに利用する機能だ。画像を送りたい相手のメールアドレスを指定(あらかじめS50cにアドレス帳として登録できる)して画像をアップロードすると、相手に画像のサムネイルと指定した写真のみを参照可能なCOOLPIX CONNECTのURLが届く。これにより相手がブラウザを利用して写真を見たり、ダウンロードすることが可能だ。最大30人にまでメールを送信することができるため、無線LAN環境さえあればパーティ会場などで撮影した写真をその場でアップロードし、手軽に見てもらうことなどもできるだろう。
ピクチャーメールはオンラインアルバムにアップロードした写真の参照先を指定したメールアドレスに連絡する。友人などに写真を渡したいときに便利だ

 もちろん、COOLPIX CONNECTにはPCからも写真をアップロードできるが、新しく撮影した写真に関してはS50cから直接アップロードした方がはるかに手軽だ。これまでのオンラインアルバムは、容量の少なさや一旦PCに保存してからアップロードする手間という課題があったが、S50cに関してはむしろPCに写真を取り込む方が、USBでの接続やカードの取り出しなどを考えると面倒に感じてしまうほどだ。


COOLPIX CONNECTに保存された写真は日付などで自動的に整理されるほか、アルバムとして管理可能

ピクチャーメールではアップロードした写真の一部がメールのサムネイルとして表示される。サイトにアクセスすれば、写真を詳細に見たり、ダウンロードできる

 ローカルと変わらないどころか、むしろそれよりも手軽な方法で写真をオンラインに保存できるなら、積極的にオンラインに写真を保存した方が便利だろう。冒頭でも触れたが、この手軽さを味わってしまうと、写真はもはやローカルに保存する必要はないのではないかとさえ感じてしまう。

 このほか、現状はベータサービスであるため実際に試せなかったが、COOLPIX CONNECTユーザー同士でアルバムを共有することなども可能となっている。単純な画像の保管、公開といった機能だけでなく、今後はコミュニケーションの場としての発展も期待できそうだ。





便利さをいかに理解してもらえるかがカギ

 以上、無線LANを搭載し、オンラインアルバムとの強力な連携が可能なCOOLPIX S50cを実際に試してみたが、非常に使い勝手が良く、無線LANをうまく活用しているという印象を受けた。店頭予想価格も40,000円前後と、無線LAN搭載製品としては決して高くなく、なかなか良い価格設定となっている。

 特に、COOLPIX CONNECTやBBモバイルポイントを意識せずに使えるようになっている点は高く評価したいところだ。こういった使い方ができれば、これまでオンラインアルバムのようなサービスを使わなかった人でも、自然にオンラインアルバムが使えるようになり、COOLPIX CONNECTを単なるオンラインアルバムとしてだけでなく、ブログやSNS的なサービスへと発展させることも可能だろう。

 ただし、惜しむべきはこの便利さがおそらく実際に体験してみないとわからない点だ。無線LAN、オンラインアルバムというキーワードは、デジタルカメラを購入したいと考えて店頭に来た顧客、特に初心者層には敬遠されてしまう可能性もある。個人的には、これまでオンラインアルバムとは無縁だった人にこそ使って欲しい製品だと感じたので、このあたりのギャップをどう埋めるか、どのようにその便利さや利用スタイルを提案できるかがカギになりそうだ。


関連情報

2007/4/17 11:32


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。