天国へのプロトコル

第36回

ついに始まった「マイナ救急」、より安心して使えるのはスマホのマイナンバーカード? 物理カード?

2025年10月スタートの「マイナ救急」

 マイナンバーカード(マイナカード)でやれることは年々増えていますが、そのなかのひとつに2025年10月から全国で本格始動している「マイナ救急」という取り組みがあります。

 マイナ救急とは、救急搬送時に患者の同意の下で、氏名や病歴、かかりつけの病院、普段服用している薬などの情報をマイナンバーカードから読み取るというもの。原則として患者の同意の下、救急車にある専用端末にマイナンバーカードを差し込んで必要な情報を閲覧します。なお、2026年3月時点ではプラスチックカード(物理カード)型のマイナンバーカードのみをサポートします。また、事前に健康保険証としての利用登録を済ませている必要があります。

 救急車のお世話になるような緊急時は、自らの口で説明できなかったり、代理で情報を伝える家族がいなかったりするケースも珍しくありません。そうした事態でも、マイナンバーカードがあれば正確な情報が救急隊員に伝えられるというわけです。

 この取り組みが上手く機能すれば、マイナンバーカードは緊急時の自らを救う代弁者となりそうです。しかし、マイナ救急を利用するには物理カードを常時携帯していなくてはなりません。

 そうなると、マイナンバーカード機能をセットしたスマホとの兼ね合いはどうすればよいのでしょうか? ちょっと悩ましい問題です。今回は、救急車のお世話になることも想定したマイナンバーカードの“安全な”持ち方について考えてみたいと思います。

総務省消防庁の「マイナ救急」解説ページ

利用率2割に迫る自治体も

 検討するなら実用に足る機能であることが前提になります。まずはマイナ救急の普及具合を見てみましょう。

 共同通信の記事によると、2025年12月の1週間の全国調査期間中、本格始動後に救急搬送時にマイナ救急の閲覧を要する機会に実行できた割合は17.4%だったとのこと。マイナ保険証を携帯している人の割合がまだ少ないことが数値を押し下げているようです。スタート直後のこの値を高いと見るか低いとみるかは判断が分かれるところでしょう。

 ただ、本格始動に先だって行われた実証実験と比べて利用率が上昇していることは確かです。実証実験は、まず2022年の暮れに6消防本部で約2ヶ月間行い、2024年度にもほぼ同期間を67消防本部で実施しています。搬送件数のうちのマイナ救急利用率は、それぞれ2022年度が2.65%、2024年度が7.15%でした。

マイナ救急の実証実験結果。総務省消防庁「令和6年度 救急業務のあり方に関する検討会 報告書(案)」より

 いずれも1割を切っていますが、実施できなかった理由の上位を占めるのは、救急搬送時にマイナンバーカード(物理カード)を持っていなかったり、マイナ保険証の登録を済ませていなかったりといった患者側の事情に起因するものでした。最初期には端末側の不具合も挙げられていましたが、第1回から実証実験に参加している滋賀県の彦根市消防本部によると、少なくとも読み取りエラーの問題は解消されているようです。

 また、類似の取り組みとして以前から独自に「救急医療情報キット」を住民に配布していた、和歌山県の田辺市消防本部の情報も参考になりそうです。緊急時に必要な情報をあらかじめ記載したシートを、冷蔵庫に入れて保管しておくというもので、全国的にみても画期的な取り組みでしたが、2020年に僚誌「シニアガイド」で取材した際は、現場で活用するケースはほぼゼロに近いとのことでした。

 それに対して、同本部における2025年10月~12月の救急搬送件数は1406件あり、そのうちマイナ救急を実施したのは277件でした。比率でいえば19.7%で、前述の全国調査よりやや高い値です。「救急医療情報キット」の取り組みに比べたら、まずまずの滑り出しといえそうです。

 同本部は「マイナ救急は国が進める事業で全国的に展開されているサービスであるため、(救急医療情報キットに比べて)認知度もマイナ救急の方が高く、当消防本部としてはマイナ保険証を常時携帯していただくための広報を進めているところであります」といいます。

 総じてみれば、マイナ保険証を所持していれば、マイナ救急が役に立つ環境は相応に整えられているといえるでしょう。そして、マイナ保険証の利用率は大幅に伸びています。厚生労働省の統計によると、マイナ保険証の利用率は2024年10月時点では16.44%に留まっていました。そこから1年で5割弱まで伸ばし、2025年12月には63.24%に達しています。

 しかし、利用率が伸びていても、皆が常に持ち歩いているわけではないことから、前述のように、マイナ救急が活用されている割合としては17.4%に留まり、まだ十分には活用されているとは言い難い状況です。今後世の中に浸透して利用率と共に常時携帯する人の割合も増えていけば、利用割合もさらに上昇し、現場でのノウハウも蓄積されて、より使い勝手が良くなっていくのではないかと思われます。

マイナ保険証の利用率と利用件数。厚生労働省保険局「マイナ保険証の円滑な利用について」より。

スマホのマイナンバーカードもマイナ救急に対応する予定だが…

 そして、マイナ救急で読み取る媒体の選択肢も今後増えるようです。総務省消防庁によると、2026年4月にはスマホのマイナンバーカードもマイナ救急に対応するとのこと。マイナ保険証機能はiPhoneでもAndroidでも組み込めます。物理カードを常に持ち歩くことに抵抗を感じるなら、普段から使っているスマホによって代替する手段も選べるようになるわけです。

マイナ保険証登録を済ませたiPhoneやAndroidなら代替可能に

 ただし、スマホのマイナンバーカードがマイナ救急に使えるのは、スマホにログインできる状態が必須となります。スマホにロックがかかった状態では物理カードの代替はできません。

 緊急時にマイナ救急を利用するには、患者自らが解除操作を行える状態であるか、(日頃のセキュリティの問題は別にして)パスワードを知る人が傍にいる必要があるわけです。マイナ保険証を登録し、スマホをマイナンバーカード化して携帯していたとしても、一人でいるときに意識不明の状態に陥ったら、マイナンバーカードを持っていないのと同じになってしまうわけです。

 また、医療機関のスマホ対応リーダーの普及スピードを鑑みると、スマホのマイナ救急にすべての救急車両が対応するまでに一定の時間がかかる可能性も考えておいたほうがいいでしょう。

 スマホのマイナ救急の動きについてデジタル庁は、「利用しようとするサービスのアプリやシステム等が対応する必要がありますので、実物のマイナンバーカードでできることがすべて同様にできるものではありませんが、利用シーンの拡大に向けて、カードを利用する行政機関・自治体・民間事業者に対し、働きかけや支援等を行っているところです」といいます。

緊急時の情報開示と漏洩回避は二律背反

 以上を踏まえて考えてみましょう。物理のマイナンバーカードとスマホのマイナンバーカードの兼ね合いはどうするのが正解なのでしょうか?

 緊急時の命綱を強化するなら、マイナ保険証登録を済ませたうえで物理カードを常時所持するのが最善だと思います。しかし、裏面に刻印された個人番号が漏洩するリスクはどうしても上がってしまいます。

 そこを考慮したうえで、できるかぎり緊急時の命綱を太くしておくなら、マイナ保険証登録を済ませたうえでスマホのマイナンバーカードを携帯し、物理カードは予備としてカバンにしまっておく(あるいは持ち歩きを控える)スタンスがベターだといえます。

 緊急時の情報開示と漏洩回避は二律背反の関係にあります。自分がコントロールできない状態に陥ったときにどちらを優先するかという個々人の価値観の話になるので、周囲が優先順位を決めるわけにはいきません。

 しかし、自分のなかで折り合いが付けられれば、悩まずに備えていけるはずです。万が一のときに後悔しないためには、マイナンバーカード関連の機能をどう利用するのか/しないのかといったところを含めて、定期的に考えて自ら選択する姿勢が重要になってくるのではないでしょうか。

今回のまとめ
  • 2025年10月にマイナ救急がスタート。使うなら、マイナ保険証登録とマイナンバーカードの所持が必須。
  • 2026年4月からはスマホのマイナンバーカードでもマイナ救急が利用できるようになる。
  • 物理カードとスマホのマイナンバーカードは、緊急時の情報開示と漏洩回避で相容れない。

故人がこの世に置いていった資産や思い出を残された側が引き継ぐ、あるいはきちんと片付けるためには適切な手続き(=プロトコル)が必要です。デジタル遺品のプロトコルはまだまだ整備途上。だからこそ、残す側も残される側も現状と対策を掴んでおく必要があります。何をどうすればいいのか。デジタル遺品について長年取材を続けている筆者が最新の事実をお届けします。

古田雄介

1977年生まれのフリー記者。建設業界と葬祭業界を経て、2002年から現職。インターネットと人の死の向き合い方を考えるライフワークを続けている。 近著に『それ、死後もお宝ですか?(集英社インターナショナル)』、『第2版 デジタル遺品の探しかた・しまいかた、残しかた+隠しかた(日本加除出版/伊勢田篤史氏との共著)』など。「スマホのスペアキー」の発案者。Xは@yskfuruta