天国へのプロトコル
第31回
芋づる式に故人の全口座把握も――この世から去った後のマイナンバーカードの効能
2025年6月26日 06:30
iPhoneに組み込まれるだけじゃないマイナンバーカード
2025年6月24日、マイナンバーカードの機能をiPhoneに組み込む「iPhoneのマイナンバーカード」の提供が始まりました。
2023年5月にAndroidの一部端末でカード内の電子証明書機能のみを実装できるようになりましたが(参考:第12回「マイナンバーカード機能を付けたスマホを手放すときは要注意! デジタル庁に詳しく聞いてきた」)、今回は券面機能まで組み込めます。これにより従来の物理カード型マイナンバーカードがなくても、iPhone単独でマイナポータルにログインしたり、コンビニで住民票や印鑑証明書などを申請したりできるようになります。さらに7月には行政や民間の窓口で本人情報確認ができる「マイナンバーカード対面確認アプリ」もiOSとAndroidの両方で提供する計画もあり、ますます使い道が広がりそうです。
そんなマイナンバーカードですが、本人の死後に遺族の遺品整理に役立てられそうな機能も増えています。複数の預貯金口座をマイナンバーで紐付けられる「預貯金口座付番制度」や、マイナポータルでの作業を委ねる「代理人」機能などはすでにスタートしていますし、マイナンバーカードで本人確認を行う民間のデジタル終活サービスも現れました。
これらの機能拡張は私たちの暮らしに何をもたらすのでしょうか? 本人にしろ遺族の立場にしろ、利用できる余地とその裏にあるリスクを知っておくに越したことはありません。2025年6月現在でできることを探ってみました。
これらの機能は個人情報の持ち主の暮らしを便利する選択肢になりますが、一方で私たちは遺族の立場にもなりえます。死後のマイナンバーの活用とリスクを考えるとき、どちらの立場でも何ができて何が起きるのかを知っておくに越したことはありません。今回はマイナンバーの生死に関する機能について本人と遺族の両面の立場で切り込んでみたいと思います。
死後に預貯金口座を「芋づる式」に把握できる
まず注目したいのは2025年4月に始まった預貯金口座付番制度です。
この制度は様々な金融機関に開設した預貯金口座に持ち主のマイナンバーを付番するというもの。任意で利用できる制度で、本人がマイナポータルや口座のある金融機関で申請すると最長10営業日ほどで手続きが完了します。
口座の持ち主が亡くなった場合、遺族がどこかひとつの金融機関の窓口で手続き(相続時照会)をすると、同じマイナンバーで紐付いた他の金融機関にある口座の情報もまとめて得られるようになります。
この制度を本人が生前に申請しておけば、遺族は遺品整理の際に預貯金口座の全容を把握しやすくなり、見落としが避けられそうです。家族皆でこの制度を申請して、家族全体で有事に備えるといったことも可能でしょう。
ただし、マイナンバーの付番はすべての金融機関が対応しているわけではありません。申請するなら、デジタル庁が公開している「一部手続きの対象外となる金融機関」一覧は必見です。また、この制度はあくまで日本円を預ける金融機関が対象となるため、有価証券やFXなどの金融派生商品、暗号資産などのみを預けている口座はそもそも対象外となります。
一度申請すると原則として取り消すことはできないので、芋づる化を避けたいなら申請を避けるのが吉です。なお、申請時の登録フォームで付番対象の金融機関のタイプが選べます。ここのチェックのつけ方によっては、「銀行の口座はすべてマイナンバーと連携させるけど、信用組合の口座は対象外にしたい」といったカスタムも可能です。
ちなみに、公金を振り込む口座を登録する「公金受取口制度」とは連携のない制度なので、こちらが登録済みでも影響はありません。
マイナポータルの情報を把握できる
故人のマイナンバー関連の後片付けに関わりそうなのが、2021年1月に始まった「マイナポータルの代理人」です。自分の代わりにマイナポータルを閲覧したり申請操作したりする人を指定する制度で、家族や親族などの血縁に限らず指定可能で、税理士などの士業も登録できます。
マイナポータルに本人がログインして、申請画面の指示に従って代理人の認証を行えば設定できます。逆に、代理人になる人のマイナポータルにログインして委託する相手が認証する流れも選べます。
死亡届が提出された時点でその人のマイナンバーカードは自動で失効となりますが、生命保険の請求や相続手続きなどで故人のマイナンバーが必要となるケースがありますし、マイナポータルやiPhone等に残された個人情報や利用履歴は消えません。そこで代理人がログインして、何かしら重要な情報を確認するといったことができそうです。
ただし、カードの持ち主が亡くなった後の対応について、デジタル庁は速やかな代理関係の解除を求めています。あくまで本人が生きていることを前提とした機能である点に留意し、状況によって判断するのがよさそうです。
外部サービスによる死後メッセージの発信も
マイナンバーカードは民間サービスの本人認証ツールとしての使い道も増えています。たとえば2024年12月スタートの無料デジタル終活アプリ「SouSou」(https://sousou-official.com/)では、利用者の本人認証にマイナンバーカードが使えます。
マイナンバーの情報は収集せず、マイナンバーカードの電子証明書機能によって本人認証する仕組みです。本人の生死は、公的個人認証の現況確認サービス(myJPKI)を介して確認。マイナンバーカードの「失効」が確認できれば、利用者が死亡したと判断し、あらかじめ用意されているメッセージが指定した相手に送られます。
先述のとおり、マイナンバーカードは死亡届が提出されると自動で失効となるので、確度の高い生死判定が遺族の手を介さずに行えるわけです(マイナンバーカードによる本人認証なしでも、遺族等による公的書類の提出によって死亡判定は可能)。
生前はエンディングノートを記入したり、亡くなった知人の追悼ページを訪ねたりといった使い方をしつつ、特定の相手に向けて死後に届けるメッセージを作ったりしておけます。今後は生命保険や互助会情報といった他社の情報とも連携する予定もあるとのこと。
遺族としての現状把握のハードルは日々上昇・・・
好むと好まざるとに関わらず、マイナンバーカードやマイナポータルに含まれる個人情報は着実に増えています。重要な情報だけに取り扱いも慎重にならざるを得ません。そこで困るのは、遺品整理や財産調査を担う遺族等です。
よく知らないまま遺族として故人のマイナンバー関連に立ち向かう難易度は、どんどん高まっているのは間違いありません。一方で、関連機能を上手く使えばマイナンバーを味方に付けることもできそうです。
iPhoneをマイナンバーカード化しようと検討する際に、ぜひ周辺の機能にも目を向けてみてください。
今回のまとめ |
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故人がこの世に置いていった資産や思い出を残された側が引き継ぐ、あるいはきちんと片付けるためには適切な手続き(=プロトコル)が必要です。デジタル遺品のプロトコルはまだまだ整備途上。だからこそ、残す側も残される側も現状と対策を掴んでおく必要があります。何をどうすればいいのか。デジタル遺品について長年取材を続けている筆者が最新の事実をお届けします。