天国へのプロトコル

第12回

マイナンバーカード機能を付けたスマホを手放すときは要注意! デジタル庁に詳しく聞いてきた

事例:「マイナンバーと紐付けたこのスマホ、自分が死んだらどうなる?」

 2023年5月11日から、Androidの対応機種にマイナンバーカードの一部機能を組み込めるようになりました。対応機種のリストはマイナポータルのQ&Aページにあります。

 スマホに組み込めるのは、マイナンバーカードのICチップに格納されている電子証明書の機能になります。マイナポータルで子育て支援や確定申告の申請などをする際にマイナンバーカード不要で認証が済むようになるほか、今後は、銀行の口座開設や携帯電話の契約などの民間サービスの身分証明にも利用できるようになる予定です。

対応機種でマイナポータルにアクセスすると、スマホ用電子証明書の申請ができる

 早速導入した人も少なくないでしょう。そのうちの1人である知人のXさんから、先日こんな疑問を投げかけられました。

「マイナンバーと紐付けたこのスマホだけど、俺が死んだらどうなる? 今までと同じ感じで処分して大丈夫か?」

 「スマホ用電子証明書」を設定したスマホを残したまま亡くなった場合、遺族などはどのように処理すべきなのでしょうか。公式の見解が知りたく、デジタル庁に問い合わせてみることにしました。

回答:スマホのロックが解除できない場合は「まだ回答が作られていません」

 そもそも生きている当事者でも、証明書を設定したスマホを新機種に乗り換えることは今後発生するでしょう。この場合の対応はデジタル庁が発信している「スマホ用電子証明書の失効手続・一時利用停止のお願い」に詳しく書いてあります。

「スマホ用電子証明書の失効手続・一時利用停止のお願い」にある失効手続きの方法

 マイナポータルアプリから「スマホ用電子証明書の失効」を選んで、証明書の効力を消失させた上で下取りや廃棄に進むのが正道といえます。

 しかし、亡くなった人はこの処理ができません。マイナンバー制度の担当部署に尋ねると、故人のケースはまだFAQ(よくある質問)としての定型がないそうで、数日おいた上で正式な回答を得ました。

 曰く、「マイナポータルのアプリをアンインストールした上で、スマホの初期化をお願いします」とのことです。その後は通常のスマホと同じように処分して差し支えないそうです。

 スマホを初期化する前にわざわざマイナポータルをアンインストールするのは、スマホ用電子証明書がスマホのストレージではなく、専用チップ(FeliCa-SEチップ)に格納される構造になっているためと思われます。おサイフケータイ機能付き端末を下取りに出す場合、スマホとは別にFeliCaチップも初期化する必要があるのと同じことでしょう。

 しかし、遺族などが故人のスマホのロックを解除できないと、スマホの初期化はできても、アプリ単位でのアンインストールはできません。この場合の対応策については「まだ回答が作られていません」(デジタル庁)とのことでした。

 モバイル社会研究所の調査によると、スマホや携帯電話に画面ロックをかけている割合は61.4%になります(モバイル社会白書2022年版)。遺族などが故人のパスワードを把握していない限りは、6割のケースで正式な処分方法がとれないというわけです。こうなると、手探りで解決策を見つけるしかありません。

現状:ロックされた端末の電子証明書を確実に消す方法はまだない

 まず頼りにしたいのはマイナンバー総合フリーダイヤル(0120-95-0178)です。スマホ用電子証明書を設定したスマホを紛失したりした場合は、こちらに電話して住民票に記載されている本人の住所や氏名などを伝えると機能が一時利用停止されます。この措置は本人だけでなく、家族であっても受け付けてもらえます。

デジタル庁「スマホ用電子証明書の失効手続・一時利用停止のお願い」にある一時利用停止の方法

 ただし、これは一時的な措置なので、故人のスマホのFeliCa-SEチップにあるデータは残ったままです。

 これを遠隔で消去(無効化)するには、別の端末から失効手続きする必要があります。しかし、故人がスマホ用電子証明書用に設定したパスワードが必要な上、もとの端末がログイン状態になっていないと処理が完了しません。ロックされたスマホに対しては使えない手段といえます。

マイナポータルからは「別のスマホのスマホ用電子証明書の失効」手続きも行えるが、もとの端末がロックされたままでは完遂できない

 そのほかで浮かぶのは、キャリアショップでFeliCa-SEチップの初期化をお願いすることです。全機種ではないものの、同じチップを使うおサイフケータイの初期化に対応してくれるショップもあるので、可能性はゼロではなさそうです。しかしサポート外の行為になるので推奨はできません。

 以上を踏まえると、故人のスマホのロックが解除できないのなら、遺族などの手元に置いておくのがもっとも現実的で穏便な方法といえそうです。少なくとも、証明書を設定したままのスマホを売りに出すことは避けるべきでしょう。ヤフオク!でも「中古のスマートフォンを出品する際、事前に「スマホ用電子証明書」の失効手続きが必要となります」と注意喚起のお知らせを発信しています。

 そして、最善は上記のリスクを承知した上で日頃から備えておくことだと思います。とくにネックになるのはパスワードが不明なスマホです。自分の備えでは連載の第3回でお伝えした「スマホのスペアキー」が役に立つので、気になった人はぜひ試してみてください。

今回のまとめ
  • 故人のスマホを手放すなら、マイナポータルをアンインストールした上で端末を初期化する。
  • スマホが開けない場合は手探りとなる。現状では手元に置いておくのが無難。
  • そうしたリスクを避けるために、元気なうちに「スマホのスペアキー」を作っておきたい。

故人がこの世に置いていった資産や思い出を残された側が引き継ぐ、あるいはきちんと片付けるためには適切な手続き(=プロトコル)が必要です。デジタル遺品のプロトコルはまだまだ整備途上。だからこそ、残す側も残される側も現状と対策を掴んでおく必要があります。何をどうすればいいのか。デジタル遺品について10年以上取材を続けている筆者が、実例をベースに解説します。バックナンバーはこちらから

古田雄介

1977年生まれのフリー記者。建設業界と葬祭業界を経て、2002年から現職。インターネットと人の死の向き合い方を考えるライフワークを続けている。 著書に『スマホの中身も「遺品」です』(中公新書ラクレ)、『デジタル遺品の探しかた・しまいかた、残しかた+隠しかた』(日本加除出版/伊勢田篤史氏との共著)、『ネットで故人の声を聴け』(光文社新書)など。 Twitterは@yskfuruta