天国へのプロトコル
第11回
LINEのトーク履歴は電話番号の解約後も残せる? 運営に聞いて試してみた
2023年4月28日 06:50
事例:「亡くなった友人とのトーク履歴を残したい」
デジタル遺品絡みで相談を受けるアプリで、もっとも多いのはLINEです。ざっと思い出すだけでも次のような相談を受けました。
Aさん「亡くなった親のLINEが半年後に別人のものに変わっていました。元に戻せますか?」
Bさん「亡くなった友人とのトークをずっと残しておきたいのですが、良い方法はありますか?」
Cさん「自分が死んでもLINEを残しておく方法はありますか?」
LINEのアカウントは、基本的に電話番号に紐付いています。その電話番号は、持ち主の死後に解約されることが多いのではないでしょうか。解約された電話番号は、数カ月から数年の期間を経たうえで、まったく別の新規契約に割り振られます。
つまり、故人が使っていた電話番号は、早ければ解約手続きから数カ月後には他人のものになるわけです。そのときLINEアカウントや故人とのトーク履歴はどうなるのでしょうか。LINEの提供・運営元であるLINE株式会社に尋ねたうえで、検証してみました。
現状:電話番号の新しい取得者がLINEを始めると、古いアカウントは消えうる
LINEに紐付いていた電話番号が解約されて、その電話番号を取得した誰かがLINEを始めると、ほかに何も連携していない場合は「故人のアカウントが消去されてしまいます」(LINE)といいます。
その後、新たに契約して同じ電話番号を取得した人がLINEアプリをインストールしてセットアップを始めるときは、「LINEへようこそ」画面から新規登録に進むことになります。このとき、電話番号の以前の持ち主がLINEアカウントを持っていた場合は「おかえりなさい、○○○○(アカウントの表示名)!」と表示され、「あなたのアカウントですか?」と尋ねられます。
ここで「いいえ、違います」を選ぶと、以前のアカウントが消去されて新規のアカウントが用意されます。仮に「はい、私のアカウントです」を選んでも、パスワードを知らなければ先に進めません。
アカウントが消去されたあとも、過去にやり取りしたトーク自体が消えることはありませんが、トークルームを見ると以前の持ち主のアカウントは「unknown」となり、アイコンもNo imageとなります。
それを踏まえると、「半年後に別人のものに変わっていました」というAさんの親御さんのアカウントは消えてしまい、「unknown」という状態が“別人”に見えた可能性が考えられます。
あるいは、Aさんが「友だち自動追加」機能をオンにしていたために、故人が使っていた電話番号を取得した誰かのアカウントを、自動で新規に結びつけてしまったかもしれません。
そして残念ながら、親御さんのアカウントは消失してしまっているので、Aさんの「元に戻せますか?」という願いを実現するのは難しそうです。ただ、トークでのやり取りが外部からの操作で消えることはないので、トークルームのバックアップをとって保持することはできます。また、別人のアカウントの自動登録を防ぐなら、自身の端末から故人の電話番号登録を消去するか、「友だち自動追加」をオフにするのが有効です。
Bさんの「亡くなった友人とのトークをずっと残しておきたい」という相談もAさんと近い内容です。ただ、亡くなった方のアカウントがまだ存在しているのであれば、打てる手は増えます。
もっとも単純な方法としては、故人とのやり取りをスクリーンショットして画像として残しておく手があります。その人本来のネームとアイコンで、また、自分自身もその当時のプロフィールのまま保存できるので、思い出を留めておくのに有効でしょう。
加えて、LINEでは機種変更時のデータ引き継ぎに用いるトークのバックアップ機能のほか、トークルームごとにやり取りをテキストファイルで送信する機能も備えています。会話の内容で検索できるかたちで残したい場合に重宝します。この方法はAさんの状態でも役立ちます。
対策:生前からFacebookやAppleのIDと連携しておく
一方で、Cさんの相談は自分自身の死後への備えです。「自分が死んでもLINEを残しておく方法はありますか?」とのことですが、電話番号の解約とLINEアカウントの消滅の連動を食い止める方法はあります。
LINEアカウントは電話番号以外に、メールアドレスやApple ID、Facebookアカウントと連携できます。いずれかと連携している場合、ほかのユーザーが故人の電話番号を使って新しいLINEアカウントを作る場合でも故人のアカウントは削除されませんでした。
筆者のアカウントで試したところ、元の電話番号で実験用アカウントを作った後も、確かに電話番号登録がない状態でアカウントが保持されていました。当然、トークルームでもunknownになりません。
つまるところ、LINEアカウントは電話番号やApple IDなどの連携がすべて途切れたら消去される、と捉えるのがよさそうです。
ただし、電話番号による突然の消去を逃れたとしても、故人はアカウントの権利者になり得ないというのが一般的な見解となります。それゆえに、死後にアカウントを第三者が保持することはLINEの規約上は認められていないと判断できます。LINE関連のすべてのサービスの利用権は、「一身専属」といって利用者本人に帰属し、譲渡や相続は認められていないのです(LINE利用規約 4.6.)。
Cさんの望みも、残念ながら規約の外になってしまうので叶えることができません。ただし、トークのバックアップを取っておくなど、残された側がCさんとのやり取りを残す余地を増やしておく策はあります。
故人のアカウントに関する問い合わせは運営元にも一定数届いているそうです。
「携帯電話番号の再利用による故人アカウントの消失について、『大切な思い出を保存するための配慮ができていない』と認識しており、当社内にて議論は行われております」(LINE)
総務省の調査によると、現在LINEは全年代で92.5%の人が利用しています(令和3年度 情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査より)。もはや使っていて当たり前のツールであり、亡くなった後も人生の痕跡が残るのが当たり前のツールといえます。その痕跡はかけがえのない思い出になったり、重要な証拠となったりすることもあるでしょう。それを頭の片隅において備えておくことも大切だと思います。
今回のまとめ |
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故人がこの世に置いていった資産や思い出を残された側が引き継ぐ、あるいはきちんと片付けるためには適切な手続き(=プロトコル)が必要です。デジタル遺品のプロトコルはまだまだ整備途上。だからこそ、残す側も残される側も現状と対策を掴んでおく必要があります。何をどうすればいいのか。デジタル遺品について10年以上取材を続けている筆者が、実例をベースに解説します。バックナンバーはこちらから。