天国へのプロトコル

第9回

抹消してしまった故人のSNSやブログ、URLを再利用されないようにしたい!

事例:「私が死んだら削除して」と頼まれたSNSとブログ

 「消したSNSやブログのURLを再利用させない方法はないものでしょうか」と尋ねられたことがあります。

 発言の主は神奈川県で暮らすKさん。2年前に病気で亡くなった妻のIさんから「私が死んだらSNSとブログを削除して」と頼まれ、共通の友人から懇願されたFacebookだけは残し、放置気味だったブログとTwitterを削除したといいます。

 それからしばらくして、Kさんは自分のスマホにIさんのブログのブックマークが残っていることに気づき、登録を外す前にブログにアクセスしたそうです。やはりページはブランクのままでした。しかし、ついでにアクセスしてみたIさんのTwitterは、まったく別人のものに変わっていました。

 実際、抹消したSNSやブログのURLが再利用されるというケースはしばしば見られます。一方で、一度削除した文字列は削除した本人であっても二度と使えないというケースもあります。再利用されることもあるしされないこともあるのです。

 そこにはどんな法則があるのでしょうか。

故人がこの世に置いていった資産や思い出を残された側が引き継ぐ、あるいはきちんと片付けるためには適切な手続き(=プロトコル)が必要です。デジタル遺品のプロトコルはまだまだ整備途上。だからこそ、残す側も残される側も現状と対策を掴んでおく必要があります。何をどうすればいいのか。デジタル遺品について10年以上取材を続けている筆者が、実例をベースに解説します。

基本:まず確認すべきは提供元のルール

 法則を知るために、まずはインターネット上のURLの成り立ちを大まかに確認しましょう。

 URLはインターネット上の住所のようなもので、インターネットに存在するすべてのページ(ファイル)に割り振られています。SNSやブログであればユーザーのトップページはもちろん、それぞれの投稿やアップした写真にも固有のURLがあります。

 無料で利用できるサービスの場合、基本的にそれらのページはすべて提供元の域内に存在しています。TwitterならTwitterが決めたルールに沿って、投稿ごとに「https://twitter.com/yskfuruta/status/xxxxxxx・・・」のようなURLが割り振られます。「https://」のすぐ右から住所が始まり、「Twitter国ユーザー県個別ページ市xxxxxx番地・・・」のように続くわけです。

 そして、ユーザーが退会したりユーザー名を変えたりした際に、かつての住所が再利用されるか否かは、一国一城の主たる提供元のスタンスによって変わります。空き番地が生じたら新たなユーザーに解放する方針もあれば、なりすましなどを防ぐために再登録を禁じる方針もあります。

 Iさんのケースでは、Twitterが再利用できるルールだったから再利用されました。ブログのほうは再利用不可のルールに守られている可能性と、たまたま再利用するユーザーがいないために空き番地のままになっているだけの可能性が考えられます。あるいは独自ドメインを契約してオリジナルのURLを作っていた可能性もありますが、このケースについては後述します。

 SNSやブログに関していえば、多くの場合は提供元が用意したURLを使うことになります。そこで主要なサービスのURLに関するスタンスを調べてみました。

 サービスによって、ユーザー名やIDがURLに固定化される場合もあれば、自由にカスタムできる場合もあります。また、URLの配置も「サブドメイン型」と「サブディレクトリー型」があります。それぞれで再利用性に差が生じることもあるので、個々に見ていきましょう。

サービスに連なるURLには複数のタイプがある
SNSのユーザーURLとドロップキャッチの可能性
サービス名ユーザーURLのタイプユーザーURLの文字列ドロップキャッチの可能性
Facebook 個人ページサブディレクトリー型ユーザーネーム審査が通れば可能
Instagramサブディレクトリー型ユーザーID30日~90日後に再利用可能
TikTokサブディレクトリー型ユーザー名現在未使用なら再利用可能
Twitterサブディレクトリー型ユーザー名(スクリーンネーム)30日後に再利用可能
YouTube チャンネルURLサブディレクトリー型自動割り振りなし(ユーザーによる設定NG)
YouTube ハンドルURLサブディレクトリー型任意指定(ハンドル名)変更から14日後に再利用可能
YouTube カスタムURLサブディレクトリー型任意指定なし(新規設定NG)
YouTube 以前のユーザー名のURLサブディレクトリー型ユーザー名なし(新規設定NG)
ブログサービスのユーザーURLとドロップキャッチの可能性
サービス名ユーザーURLのタイプユーザーURLの文字列ドロップキャッチの可能性
アメーバブログサブディレクトリー型ユーザーIDなし(再利用NG)
livedoorブログ(旧)サブディレクトリー型ユーザーIDなし(再利用NG)
livedoorブログ(新)サブドメイン型ユーザーIDなし(再利用NG)
LINE BLOGサブディレクトリー型任意指定なし(再利用NG)
FC2ブログサブドメイン型ブログID、任意指定ブログIDは再利用NG、任意指定は不明(回答なし)
はてなブログサブドメイン型ユーザー名、任意指定なし(再利用NG)
楽天ブログサブディレクトリー型任意指定現在未使用なら再利用可能
Seesaaブログサブドメイン型任意指定なし(再利用NG)
エキサイトブログサブドメイン型任意指定6ヶ月後に再利用可能
noteサブディレクトリー型ユーザーID現在未使用なら再利用可能

現状:SNSは再利用の可能性が高め、ブログは低め

 表にあるとおり、提供元によってスタンスはバラバラですが、SNSは比較的再利用の可能性が大きいようです。ただし、それぞれに条件を設けています。

 たとえばTwitterのユーザーURLは、ユーザーIDではなく、ユーザーが自ら設定する「スクリーンネーム」が使われます。@マークの左に続く文字列ですね。このスクリーンネームは抹消や変更から30日間で誰でも再利用できる仕組みになっています。Iさんが使っていたTwitterのURLも抹消から1カ月以上経ってから再利用されたのでしょう。

 TikTokでは「ユーザー名」がURLに使われ、Twitterのような再利用までの冷却期間 はありません。現在使われていないユーザー名なら誰でも使用可能で、ユーザー名に基づいたURLを手にすることができます。ただし、URLの元となるユーザー名の変更は30日に1回だけと決められているため、ひとつのアカウントが数日で何度もURLを変更するといったことはできません。

 実名主義のFacebookでは、URLに名前とは別に設定する「ユーザーネーム」という文字列が使われます。ユーザーネームは、現在未使用であればかつて使われていた文字列も使用可能です。一方で同社が運営するInstagramは長らくユーザーIDの再利用は不可でしたが、利用規約の改正によってスタンスが変わりました。2023年1月現在はアカウントを削除してから30~90日過ぎたユーザーIDが誰でも使用できるようになっています。

 ブログサービスは再利用不可としているケースが多いようです。それでも、現在未使用な文字列なら利用できる楽天ブログや、6カ月の冷却期間を過ぎると再利用できるようになるエキサイトブログなども例もあります。

 では、独自ドメイン(提供元から離れて独立したURL)を使っていた場合はどうなるのでしょうか。先に触れたとおり、ブログやホームページサービスは、ユーザーが独自にドメインを取得してオリジナルのURLを使うことを認めているものもあります。

 また、個人でサーバーを契約し、独自にブログやウェブサイトを運営している人もいます。筆者のウェブサイトは「https://www.ysk-furuta.com/」というURLですが、これも独自ドメインです。

 独自ドメインの場合、サービスやサーバーの契約と、ドメインを維持するための契約が、別々に行われます。もしもIさんが残したブログが独自ドメインを使ったものだったとしたら、サービスまたはサーバーを解約してブログは閉鎖しても、ドメインの契約のみ更新することで、再利用されないようにすることもできました。ドメインを解約してしまうと、一定期間を経たうえで元のドメインはフリーとなります。

 フリーとなったドメインは、元のサイトが人気であるほどすぐに誰かのものになる可能性が高くなります。元のサイトが培ってきた人気や信用などが新規サイトを立ち上げる際のアドバンテージになりうるからです。実際に、倒産した大会社や終了した人気プロジェクトで使われたドメインなどは、再登録が可能になった瞬間に第三者に取得される(ドロップキャッチされる)ことも珍しくありません。現契約者との契約が切れたら取得できるように予約(バックオーダー)できるサービスもあります。いずれにしろ、独自ドメインの契約を手放してしまうと元のURLの再利用が防ぐ手立てはなくなってしまいます。

対策:再利用の余地があるならしばらく維持

 以上を踏まえ、Kさんの立場で対策を考えてみます。

 IさんからSNSやブログについて頼まれたときに、まずは各サービスのURLやユーザー名の再利用に関するスタンスを確認してみるのが良いでしょう。ヘルプコーナーの検索枠に「再登録」や「削除したID」などと入力すると関連する情報が得られることがよくあります。これで再利用不可だと確認できれば安心ですが、前述のInstagramのように先々に利用規約の改定によってルールが変わる可能性があることは覚えておいたほうがよいでしょう。

 そして、再利用の可能性が潰せない場合は、URLをしばらく維持するのが得策です。

 故人の訃報が伝わりきらないうちに別人のページに変わってしまったら、混乱したりショックを受けたりする人もいるでしょう。また、なりすましや悪戯目的などで、手放したURLを狙う人間がいることも事実です。

 そうした状況を回避するためにも、故人の遺志を尊重して公開範囲を限定するなどして、ほとぼりが冷めるまでは手元に残しておくほうが安全かもしれません。ただし、アカウントやページが引き継げないサービスもあるので、長期的に維持したいのであれば提供元の相続性も確認する必要があります。

 現実の土地と違って、インターネット上のURLを永遠に占有することはできません。常に使用権を与えられて使用している意識で向き合うと、合理的な手が見えてくるように思います。

今回のまとめ
  • SNSやブログのURLは再利用される可能性があることを念頭に置く。
  • 再利用の有無はサービスのルール次第。途中でルールや変わることもある。
  • 再利用性が不明なら、混乱や悪意を招かないためにもひとまず維持するのが得策。
古田雄介

1977年生まれのフリー記者。建設業界と葬祭業界を経て、2002年から現職。インターネットと人の死の向き合い方を考えるライフワークを続けている。 著書に『スマホの中身も「遺品」です』(中公新書ラクレ)、『デジタル遺品の探しかた・しまいかた、残しかた+隠しかた』(日本加除出版/伊勢田篤史氏との共著)、『ネットで故人の声を聴け』(光文社新書)など。 Twitterは@yskfuruta