天国へのプロトコル

第5回

謎の月額料金の引き落とし、どう止めたらいいの? 〜故人のサブスクにまつわるトラブル解決方法

事例――ナゾの月額550円でクレジットカードが退会できない

 「亡くなった家族のクレジットカードが退会できなくて大変な思いをした」。Tさんがそう話してくれたのは半年前のことです。

 一人暮らししていた故人の持ち物や財産を整理するなかで、Tさんはお金の流れを止めようとさまざまな手続きをしていましたが、そのクレジットカード会社の窓口のスタッフからは「債権が残っているうちは退会処理を進めることができない」と言われたそうです。

 履歴をたどり、その債権は毎月25日前後に支払われている550円の定額支払いのことを指すと分かりました。しかし、窓口のスタッフはプライバシー保護の観点から会社名を伝えられないといいます。

 仕方がないのでTさんは残されたPCのメール履歴を徹底的に調べ、その550円が、あるサブスクリプション(サブスク)サービスの月額支払いであることを突き止め、遺族としてそのサービスに問い合わせたことで契約を解除。そして、ようやくクレジットカードの退会ができたそうです。Tさんは「たった550円のために全ての遺品整理が2~3日止まってしまいました」とため息交じりに振り返っていました。

 実はこのような事例は珍しくありません。クレジットカードが退会できた後も月額支払いが数カ月続いたり、請求書が郵送で届いたりといったケースもあり、故人のサブスク契約の処理に頭を悩ませている遺族は少なくないのが現状です。

 お得で便利なサブスクサービスが増えていますし、数十の契約をしている人も珍しくはないでしょう。万が一のとき、それらの契約を止める効率的な術はないものでしょうか。遺族の立場で最善策を探りました。

故人がこの世に置いていった資産や思い出を残された側が引き継ぐ、あるいはきちんと片付けるためには、適切な手続き(=プロトコル)が必要です。デジタル遺品のプロトコルは整備途上の部分が少なくありません。だからこそ、残す側も残される側も現状を掴んでおくのが得策です。この連載「天国へのプロトコル」では、デジタル遺品について10年以上取材を続けて、相談に乗っている筆者が、実例をベースに解説していきます(毎月1回更新予定)。

前提――お金の流れを止めるには「契約」「支払い」のルートを知ることが大切

 大前提として、ユーザーが亡くなってもサブスク契約が自動的に解除されることはありません。サービスの提供元が契約者の生死を検知する仕組みはないので、契約を止めたければ遺族などの近しい人が解約に動くしかないのです。生前から家族のサブスク契約の全容を知っているというケースは多くないでしょう。つまり大抵の場合は、故人がどんなサブスクを利用しているのかよくわからない状態から片付けていかなければならないわけです。これは簡単なことではありません。

 そうなると、支払い先となっているクレジットカードや銀行口座を止めて一網打尽を狙いたくなります。しかし、この方法は前述の事例のような状況を招き、これだけで完全な解決を図るのは難しいのです。少し面倒ではあるものの、まずはサブスク契約の構造を理解して、支払いを止めるための重要なポイントを掴みましょう。

オンライン系サブスクの契約先

 上の図にあるように、とりわけオンラインで提供されるサブスクは、利用するための道筋が複数用意されていることが多くあります。ここで押さえておきたいのは、契約手続きの方法と、支払い方法に、それぞれいくつかの選択肢があることです。契約の流れと支払いの流れ。この2本の流れを区別して見ることが大切です。

 契約手続きの方法では、サブスクサービスのウェブサイトなどで提供元と直接契約する以外に、アプリストア(App StoreやGoogle Play Storeなど)での購入とインストールを通して契約する方法、通信キャリアのオプションとして契約する方法などが選べます。

 支払いの方法は、契約手続きの過程で決定します。クレジットカードでの自動引き落とし、銀行口座振り替え、コンビニ決算などが選べます。いずれにしても、ユーザーがサブスクサービスへ直接お金を渡す方法はありませんから、支払いは、別のサービスを介して行うことになります。

支払いの流れは契約の流れとは異なる

 クレジットカードの退会や銀行口座の凍結は、この「別のサービス」を止める行為に他なりません。サービスの契約先からすれば、何らかのトラブルで支払いが滞ったのと区別がつかないため、翌月に再び請求したり請求書を送付したりして契約の維持に努めることになります。

 なかにはマイクロソフトのように、自動引き落とし等がストップしたら契約解除となる規約のサブスクサービスもありますが、あくまでそれは少数派。大半は契約の解除(あるいは無料プランへの変更)でお金の流れを止めるのが正道となります。

 つまり、遺族が故人のサブスクを止めるなら、まずは支払い手段よりも契約先に働きかけるほうが、確実な結果を期待できるわけです。

故人のサブスクを止めるなら、まずは「契約」の道筋に注目したい

実情1――アプリストアや通信キャリアの合算はまとめて処理できる

 契約先とのやりとりのうちアプリストアが窓口になっている場合は、その窓口で支払いが止められます。App StoreならApple IDのアカウントページにある「サブスクリプション」の一覧ページで、Google Play Storeなら同アプリの「お支払いと定額契約」一覧ページから、登録しているサービスをまとめてオフにできます。

iPhoneなら「設定」-「アカウント」-「サブスクリプション」、Androidなら「Google Play」-「設定」-「お支払いと定額購入」で確認できる

 故人のスマホが開ける状況ならとても簡単ですが、アクセスできない場合はApple IDとパスワード、あるいはGoogleアカウントとパスワードを入手して、他の端末から操作することもできます。

 また、通信キャリアの通信通話料金との合算払いで契約している場合は、その通信通話契約を解除(もしくは承継)すると、自動でまとめてサブスクサービスの課金契約が解除されます。確実に個々の処理が必要になるのは、サブスクサービスの提供元と直接契約した場合のみといえるでしょう。

 まとめて解除できる窓口ではまとめて処理して、個別の手続きが必要な窓口だけ一つ一つ対応していく。そうやって契約側でやれることをやって、そのうえで念のために支払いの流れを止める。すなわち、クレジットカードの退会や口座の凍結などの処理を行えば、作業が滞りなく進みそうです。

契約した相手ごとに対応が異なる

 ただし、遺族が契約しているサブスクサービスとその契約方法をほぼ全て突き止められた状態でないと、この段階には進めません。実際にはスマホが開けずに契約しているサブスクサービスの全容が掴めなかったり、漠然とした支払いの有無すら判別できなかったりすることもあります。

 そうしたモヤがかかった部分は、Tさんのケースのように過去のメールを探したり、支払いの記録からサービスを特定したりしながら、手探りで進めていくしかありません。その作業にはやはりサブスクサービスの提供元の協力が欠かせません。

 そこで、オンラインで提供している主要なサブスクサービスに取材して、契約者没後の対応について調べてみました。

実情2――IDとパスワードを把握できれば有利なのは確か

 8月初旬から下旬にかけて、下表にある50サービスを対象に調べました。サポートページに没後の対応方法が明記されているサービス以外は、各社の広報窓口(あるいは代表窓口)にIDとパスワードが判明している場合とそうでない場合の推奨する対応方法を尋ねています。

サブスクサービスに関する没後の対応調査の結果
サービス料金の例ID、パスワードが分かる(ログインできる)場合の解約方法ID、パスワードが不明な(ログインできない)場合の解約方法
仕事用など
Adobe Creative Cloud6480円/月(コンプリートプラン)ログインして処理/App Storeで解約サポートに相談/App Storeで解約
Microsoft 3651850円/月(Microsoft 365 Family)ログインして処理銀行口座やクレジットカードを停止
Google Workspace680円/月(Business Starter)不明(返答なし) ヘルプセンターに申請
Eight480円/月(Eightプレミアム)アプリストアで解約アプリストアで解約
ATOK Passport330円/月(ATOK PassPortベーシック)サポートに相談サポートに相談
@niftyメール275円/月(@nifty基本料金)サポートに必要書類を郵送(2親等までの法定相続人)サポートに必要書類を郵送(2親等までの法定相続人)
DeepL翻訳1200円/月(Starter)不明(返答なし)不明(返答なし)
Chatwork600円/月(Business)不明(返答なし)不明(返答なし)
Slack1050円/月(プロ)不明(返答なし)不明(返答なし)
NativeCamp1980円/月(ファミリープラン)不明(返答なし)不明(返答なし)
クラウドストレージ、データ保存
Google One250円/月(ベーシック)不明(返答なし) ヘルプセンターに申請
OneDrive2244円/年(Standalone 100GB)ログインして処理銀行口座やクレジットカードを停止
Box1320円/月(Personal Pro)不明(回答拒否)不明(回答拒否)
Evernote680円/月(PERSONAL)ログインして処理/アプリストアで解約サポートに相談/アプリストアで解約
iCloud+130円/月(50GBストレージ付き)不明(返答なし) 専用ページで申請
Dropbox1500円/月(Plus)ログインして処理/アプリストアで解約サポートに相談
セキュリティ
ウイルスバスタークラウド(あんしん自動更新)5280円/年(1年版)ログインして処理サポートに相談
マカフィー トータルプロテクション6500円/年(1年版)ログインして処理サポートに相談
ノートン 3603780円/年(スタンダード1年版)ログインして処理サポートに相談
ESETインターネットセキュリティ4950円/年ログインして処理サポートに相談
コンテンツ配信
Netflix990円/月ログインして処理/アプリストアで解約/通信キャリアやプロバイダーの決済で解約サポートに相談
Amazonプライムビデオ(Amazonプライム)500円/月ログインして処理/通信キャリア決済で解約サポートに相談
Hulu1026円/月ログインして処理/アプリストアで解約/通信キャリアやプロバイダーの決済で解約不明(返答なし)
U-NEXT2189円/月ログインして処理/App Storeで解約サポートに相談
Disney+990円/月〜不明(返答なし)不明(返答なし)
dTV550円/月ドコモショップで手続きドコモショップで手続き
DAZN3000円/月(月間プラン)不明(返答なし)不明(返答なし)
ABEMAプレミアム960円/月ログインして処理サポートに相談
YouTube Premium1180円/月不明(返答なし) ヘルプセンターに申請
music.jp550円/月(500円コース)ログインして処理/通信キャリア決済で解約サポートに相談/通信キャリア決済で解約
DMM見放題chライト550円/月不明(返答なし)不明(返答なし)
radikoプレミアム385円/月ログインして処理サポートに相談
Spotify Premium980円/月(Standard)不明(返答なし)不明(返答なし)
Apple Music480円/月(Voice)不明(返答なし) 専用ページで申請
AWA980円/月(STANDARD一般月間プラン)ログインして処理/アプリストアで解約/通信キャリアやプロバイダーの決済で解約サポートに相談/アプリストアで解約/通信キャリアやプロバイダーの決済で解約
TOWER RECORDS MUSIC powered by レコチョク980円/月(スタンダードプラン)不明(返答なし)不明(返答なし)
Rakuten Music980円/月(スタンダードプラン)サポートに相談サポートに相談
ブック放題550円/月不明(返答なし)クレジットカードの支払い停止やソフトバンク回線解約で自動退会
Rakuten MAGAZINE418円/月(月間プラン)サポートに相談サポートに相談
dマガジン440円/月ドコモショップで手続きドコモショップで手続き
auスマートパスプレミアム548円/月auショップで手続きauショップで手続き
朝日新聞デジタル980円/月(ベーシックコース)ログインして処理サポートに相談
読売新聞オンライン本紙購読料+0円本紙を解約(契約している新聞販売店に連絡)本紙を解約(契約している新聞販売店に連絡)
毎日新聞デジタル1078円/月(一カ月自動更新)ログインして処理サポートに相談
日経電子版4277円/月サポートに相談サポートに相談
NewsPicksプレミアム1700円/月(月額プラン)不明(返答なし)不明(返答なし)
合算支払い
d払い(電話料金合算払い)ドコモショップで回線手続きドコモショップで回線手続き
auかんたん決済auショップで回線手続きauショップで回線手続き
ソフトバンクまとめて支払いソフトバンクショップで回線手続きソフトバンクショップで回線手続き
ワイモバイルまとめて支払いワイモバイルショップなどで回線手続きワイモバイルショップなどで回線手続き

※表中のサービスは一般的に認知度が高いと考えられる名称を掲載したうえで、認知度の高いサービスは無料で広く利用され、別途有料サービスを展開している場合は、有料サービスの名称を掲載しています(YouTubeに対するYouTube Premiumなど)/料金の例は、最も低料金のプラン、月額と年額の契約がある場合は月額契約を優先して掲載しています。ただし、複数種のプランで機能を選択できるAdobe Creative Cloudではフル機能の「コンプリートプラン」を掲載するなどの例外もあります/複数の料金プランが存在する場合は、原則としてプラン名を付記しています

 契約者本人が解約する方法については調査した全てのサービスが何かしらの案内を用意していましたが、遺族に対するヘルプページを作っているところは少数派でした。解除方法について期日までに返信がなかったケースも10件を越えており、没後の解約についてはまだ曖昧な部分が残るサービスが少なくない印象です。

 それでも全体の傾向から見えてくるものはあります。次の2つの特徴が読み取れました。

1.代理ログインを認めるサービスが多い

 IDとパスワードが分かっている場合、遺族等がログインして退会や解約手続きする方法を認めるサービスが多くありました。本人の代理として処理できるなら、サブスクサービスの提供元に問い合わせて契約者の死亡や故人との関係性を証明する段取りを経ずに済むので効率的です。

 ただし、NTTドコモやau、楽天のように、遺族であっても契約者の代理行為は認めないスタンスもあります。提供元のスタンスが分からない場合は、IDとパスワードの把握状況にかかわらず、サポートに相談するのが無難でしょう。

故人のアカウントに関するNetflixのヘルプページ。遺族がアカウントにアクセスできるならログインして解約する方法を認めている

2.アプリストア等での契約には関与しないスタンスが主流

 アプリストアや通信キャリアの合算方式での契約の場合、サービスの提供元に問い合わせても契約先での対応を求められるのが一般的です。たとえば、「App Storeの操作はよく分からないから、提供元にお願いしてアカウントを抹消してもらおう」と考えて相談したとしても、App Storeでの処理を案内されることが大半です。

 ただし、有料プランの解約とサービス自体のアカウントの抹消は別扱いという立て付けのサービスの場合、契約先で有料プランを解約したうえで、アカウントの抹消は提供元の指示した方法で行うといった2段階の処理が求められることもあります。

huluの解約に関するヘルプページ。契約した窓口ごとに解約方法が異なることが分かる

対策――1に解約、2に支払い元の停止、3に備え

 以上を踏まえて、遺族としての効率的な対策を改めて考えてみました。全ての情報が揃うような理想的な状況は希なので、やはり多層的な対応が現実的だと思われます。

1.現状を把握したうえで、できるかぎり契約元を絶つ

 スマホやPCに残った痕跡やお金の流れなどから利用しているサブスクサービスをリストアップして、それぞれの契約に沿った方法で解約していきましょう。なお、クラウドストレージサービスやチャットサービスなどは、そのなかにオリジナルの重要なデータが残されている可能性があります。それらをバックアップしたり削除して問題ないと判断したりしたうえで解約等の処理を進めるのが無難です。

2.クレジットカードの退会や銀行口座の凍結を進める

 お金の流れを絶つのは次善策と捉え、ひと通りサブスク契約を解約した後のほうが良いでしょう。アプリストアにアクセスできなかったり、年額払いなどで存在に気づいていなかったりするサービスがあっても、この過程で対応できる期待が持てます。

3.1年強は様子を見る

 冒頭で触れたとおり、クレジットカードの退会後も数カ月~1年ほどはサブスクの請求が届くことがあります。また、支払いが滞った時点で請求書の送付などの手段に切り替わるケースも散見されます。

 年額支払いの解約漏れを考えて1年とちょっとの期間は、そうしたケースもあり得ることを念頭に置いて過ごすのが良いでしょう。いまのところ、5年や10年も延々と請求が続いたという事例には出合ったことがありません。

 この3段階の対応が、不測の事態を避けるもっとも効率的な方法だと思われます。ただ、これよりもはるかに効率的な方法があります。それはサブスクサービスを利用している本人が元気なうちから、契約先やお金の流れをきちんと管理しておくことです。サブスク用の口座やカードをあらかじめ決めておき、それだけでサブスク関係のお金の流れを把握しやすくしておくことも有効でしょう。そうした普段の整理整頓は万が一のときに周囲の人たちの救いにもなるのです。

今回のまとめ
  • サブスクの支払いはクレジットカードの退会や銀行口座の凍結では解決できないことも多い。
  • 契約を解消する窓口は、サービスの提供元やアプリストア、通信キャリアなどに別れる。
  • 「1に解約、2に支払い元の停止、3に備え」で対策を。
古田雄介

1977年生まれのフリー記者。建設業界と葬祭業界を経て、2002年から現職。インターネットと人の死の向き合い方を考えるライフワークを続けている。 著書に『スマホの中身も「遺品」です』(中公新書ラクレ)、『デジタル遺品の探しかた・しまいかた、残しかた+隠しかた』(日本加除出版/伊勢田篤史氏との共著)、『ネットで故人の声を聴け』(光文社新書)など。 Twitterは@yskfuruta