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LINEアカウントが誤操作で消えてトーク履歴も消失! 思わぬ原因と意外にも「対処法なし」の現実

 日本で最も広い層に使われているだろうメッセージアプリのLINE。筆者も10年以上使い続けているが、先日、思わぬトラブルによってLINEアカウントが「削除」されてしまった。

 筆者のLINEアカウントの電話番号が、家族のミスで別のアカウントに紐づけられてしまい、その結果、同じ電話番号だった筆者のアカウントが消えてしまった。同様のことは、いわゆる「サブ垢」を作ろうとして、メインのアカウントと同じ電話番号を登録した場合にも起こるという。同じ電話番号の古いアカウント(旧アカウント)が「削除」されてしまうのだ。

 LINEでは、このような際に旧アカウントを復元する方法がなく、アカウントを作り直すしかないそうだ。友達のリストやトーク履歴も取り戻せない。トーク履歴をバックアップする設定にしていても、通常の方法ではそのバックアップを取り出せないという。

 一歩間違えば誰にでも起こりそうだが、驚くほど救いのない事態に気づいた筆者は、今回、LINEへの取材を試みた。その結果、一応の対応策(ただしリスクがある)を知ることができ、筆者のアカウントも復元できた。今回は、その一部始終を紹介する。

トラブルと判断ミスが重なってのアカウント消失

 筆者のアカウントが消えた経緯は、次のようなものだ。

 2021年11月、筆者は自宅のリビングテーブルにスマートフォンを置いて入浴した。そして、入浴から戻ってスマートフォンを取り上げると、「LINEにログインがありました」(正確な文面は覚えていない)との通知が表示されていた。何だろうと思って通知をタップするとLINEアプリが立ち上がり、初期画面が現れた。

 スマートフォンにそれ以外の異状はない。入浴中のわずかな間に何があったのか? その間リビングにいた息子に「私のスマホ触った?」と尋ねると、息子のLINEで思わぬトラブルが起き、私のスマートフォンを巻き込んだ不適切な対処がされていたことが分かった。

 息子のスマートフォンで、突然LINEアプリが初期画面になった。原因は不明だ。息子の塾は連絡事項をLINEで送ってくるため、これでは重要な連絡があっても受け取れなくなってしまう。慌てた息子は、急いでログイン状態を復元しようとした。

 再度LINEアプリにログインするには、電話番号を入力してSMSで認証コードを受け取る必要があった。しかし、このとき息子のスマートフォンは、SIMカードを抜いた状態で、SMSを受け取れなかった。彼は受験生で、最低限の連絡にしか使わない「スマホデトックス」をしていたためだ。

 ここで、スマートフォンにSIMカードをセットして自分の電話番号を入力し、SMSを受け取るのが正解だっただろう。しかし、すぐそばに筆者のスマートフォンがあると気づいた息子は、自分のLINEの画面で筆者の電話番号を入力し、筆者のスマートフォンで認証コードを受け取ろうとした。

 LINE以外の息子が使うアプリでは、筆者の電話番号でアカウントの認証をしたこともある。息子はそのような感覚で、筆者の電話番号を入力したようだ。また、業務上の重要なやりとりをスマートフォンで行うことはなく、筆者のスマートフォンはロック状態でもSMSのメッセージのプレビューを確認できる設定のままにしていた。

 しかし、LINEではアカウントと電話番号が紐づいているため、ここで筆者の電話番号を入力してはいけなかった。その後操作を続けたことで、息子のスマートフォン上では、本来の息子の電話番号から筆者の電話番号に引き継いでLINEアカウントの情報が更新されてしまったようだ。一方で、筆者のスマートフォンでは、電話番号との紐づけを失ったLINEアカウントが「削除」されてしまったようで、LINEアプリが初期画面に戻ったというわけだ。

 不具合が起きたとき、あわてて適当にいじると取り返しのつかない事態になることもあり得るのだから、まずは対処方法を調べるべきだ。それに、数十分間ほどLINEを使えなかったからといって困る状況ではないのだし、筆者が入浴から戻るまで待っていればよかった。そのように筆者は叱り、息子は責任を感じてぼろぼろと泣いた。しかし、肝心のアカウントは戻らない。

 LINEのヘルプを調べても、このような場合の対処方法は分からなかった。「仕方ない」でアカウントを作り直せば済む場合も少なくはないと思うが、筆者には、アカウントを復元させたい事情があった。

 筆者のLINEアカウントの友だちリストには数百人が登録されていて、ほかの連絡手段を知らない人も少なくない。LINEアカウントで登録している外部サービスもいくつかある。

 最も困るのは、トーク履歴が失われることだ。筆者はとあるトラブルに巻き込まれ、関連するLINEのトーク履歴を保存しておくようにと弁護士に指示されていた。重要な部分はスクリーンショットで保存していたが、アカウントが失われることで、バックアップしていたトーク履歴まで取り出せないのは困る。これだけでも何とかしたい。

問い合わせた結果「対処方法がない」ことが明らかに

 LINEのカスタマーサポートに経緯を説明し、アカウントを復元できないか、もし復元できないとしたら、バックアップしているトーク履歴だけでも取り出す方法はないか、と問い合わせをした。

 カスタマーサポートからは翌日返事があった。アカウントは復元できないし、トークや友だちなどのデータも取り出せない、と、完全なゼロ回答だった。

カスタマーサポートからの回答

 だが、疑問は残る。トーク履歴のバックアップは自分のGoogleドライブに保存される(Androidの場合)のだから、何かしら取り出す方法があってもいいのではないだろうか。

 筆者はこのことをSNSに投稿し、どなたか対処方法を知りませんか? と呼び掛けてみた。すると、思った以上に多くの人に関心を持ってもらうことができ、さまざまな助言や、似たような体験談を送っていただいた。

 友人が紹介してくれたLINE関係者の方からは、バグや誤操作により(冒頭で述べた「サブ垢」のようなケースなど)同様の問題は起こりうることを教えていただいた。また、エンジニアの友人からは、「無料アプリだから、多くを求めても仕方ないよ」と言われた。

 それはそうかもしれないが、メッセージアプリは自分で選べないことも少なくない。業務関係では取引先ごとにSlack、Facbookメッセンジャー、Google Chat、中国のWeChatなど、さまざまなアプリが指定され、使い分けている。

 そして、子どもの保護者会などでは、LINEのシェアが圧倒的だ。LINEのアカウント管理やユーザーデータの保全に不安があるとしても、大勢の保護者に対して「ほかのアプリに乗り換えませんか」というのは、現実的ではない。

 実質的には巨大メッセージングインフラとして定着しているLINEにおいて、こんな簡単にアカウントが消失し、トーク履歴も取り戻せないような事態でいいのだろうか? 筆者以外にも同様のトラブルは起きているようだが、もっと深刻な事態になった事例もあるのではないか?

 裁判において、メッセージアプリの履歴は重要な証拠になる。それが簡単に消えて、勝てるはずの裁判に勝てなくなってしまうようでは、ユーザーとしては気が気でない。そこまでの事態でなくても、記録や思い出が消えてしまうのは困る。

 なぜ、このようなアカウントの消失が起きるのか、本当に対処法はないのか、同種のトラブルに対し、LINEはどのような対応を取り得るのか。こうしたことは、筆者の友人たちもはっきりとは分からないようだが、誰にでも起こり得る問題だと思う。そこで、LINEに取材を申し込むことにした。

アカウントとデータが復元できない理由を取材した

 LINEの広報に対し、次の3つの質問をした。

  • 筆者の息子が遭遇したようなアプリの初期画面が突然表示されるケースはよく起こるのか? また、その原因は分かっているのか?
  • 筆者が体験したようなトラブル発生時に、「削除」されたアカウントの復元は本当にできないのか? 同様の要望に対し、どう対応しているのか?
  • アカウント喪失時、バックアップしていたトーク履歴を取り出す方法はないのか?

 これに対しての回答は、次のようなものだった。

LINEアプリの初期画面が表示されるケースについて

【回答】

去年の12月3日以降、Android版「LINE」11.12.1にて一部コードに問題があり、予期せず「LINE」のログアウト画面が表示される不具合が発生しておりました。なお、本不具合はAndroid版「LINE」12.1.0にて修正しておりますが、同様の事象が起きた場合には、お手数ですが[閉じる]をタップして再ログインしていただくようお願いいたします。

「削除」されたLINEアカウントの復元について

【回答】

ご自身でアカウントを削除した場合や、電話番号以外の本人認証手段がない場合はアカウントの復元はできません。
しかし、電話番号の紛失などでアカウントが削除された場合において、メールアドレスとパスワードを登録していただいていれば、アカウントを復元することが可能です。さらにFacebookやApple IDとアカウント連携していただいていれば、アカウントが削除されることを防ぐことができます。

バックアップしたトーク履歴のバックアップの取り出しについて

【回答】

トーク履歴は通信の秘密(適用法令と当社の考え方(LINE))にあたるため、実際にバックアップを実行したアカウント以外でトーク履歴を復元することはできません。
万が一にも、他者のアカウントでトーク履歴が復元されてしまうリスクを防ぐため、実際にバックアップを実行したアカウント以外では復元できない仕様となっています。

 1つ目の初期画面が表示される問題については、筆者の息子のトラブルが起きたのは11月なので、回答にある「12月3日のバグ」以前であり、おそらく別の原因だろうと思われる。すると、把握されているバグ以外の原因でも、同様のトラブルは起こっているのではないかと推測できる。

 2つ目のアカウントについては、その後電話による取材をして詳細な説明を伺い、意外なことが分かった。LINEの広報担当者によると、上記の回答文の「電話番号の紛失などでアカウントが削除された場合」とは、「第三者に電話番号を使用されてしまった場合など、何らかの理由でアカウントに紐付いている電話番号が使用できず、登録が解除された状態」を指すのだという。

 つまり、筆者が遭遇したようなケースにおいて、アカウントは厳密には「削除」されているのではなく、「利用不可能な状態」になっているのだそうだ。

 この場合、初期画面から「メールアドレスでログイン」を選べばアカウントを復元できる(メールアドレスとパスワードを登録していた場合)。ただし、友だちやグループが消えたり、トーク履歴が復元できなかったりの不具合が起こる可能性があり、推奨はしていないという。そのため、カスタマーサポートに問い合わせても、このような方法は案内されないようだ。

 実は、SNSでも似たような助言はもらっていた。しかし、対処方法がないというサポートからの回答と矛盾するため、試してはいなかった。

 3つ目のトーク履歴については、アカウントが復元できなければ、トーク履歴も取り出せないことになる。ただし、捜査機関からの令状などがあり、LINEが必要と認めた場合ならば、LINEのサーバーに残されたトーク履歴を取り出し、捜査機関に提供することは可能だそうだ(参考:捜査機関への対応)。

 とはいえ、よほどの大事件に関係するのでもないと、この方法は難しいと考えられる。

イチかバチかの復元を試す

 さて、筆者はアカウントにメールアドレスとパスワードを登録していたから、「メールアドレスでログイン」することによって、アカウントを復元できる。トーク履歴などは復元できない可能性があるというが、アカウントもトーク履歴も失われてしまった現状よりも悪くなることはない。試してみる価値はある。

 LINEをインストールし直し、メールアドレスとパスワードでログインすると、本当にアカウントが復活した! 友達リストとトーク履歴も、運よく復元できた。ついでに、あきらめていたLINE Payの残高(248円)も戻ってきた。ただし、グループだけは、履歴は見られるのに利用できなくなっていた。

メールアドレスでのログインすることで、アカウントが復活
トーク履歴も復元された
グループは履歴を閲覧できるものの、使用できなくなっていた

 復元できたのはよかったが、筆者と同様にLINEアカウントが「削除」されてしまったら、メールアドレスでのログインを試してください、とは言いがたい。取材時に「不具合が起こる可能性がある」と聞いており、筆者のトーク履歴などが復元されたのは、たまたま運がよかっただけなのだろう。本件について友人に紹介され、話を伺ったLINE関係者からも、復元されないケースもあると聞いている。

アカウント「削除」の対策は、FacebookやApple IDと連携すること

 筆者のようにLINEアカウントが「削除」されたときの確実な対処方法を紹介することはできないが、筆者のようになる前に取っておける対策は分かった。それは、メールアドレスとパスワードを設定するのに加えて、FacebookアカウントやApple IDと連携しておくことだ。

 これにより、筆者が経験したように「削除」されてしまうことはなくなるという。現在、筆者もこの設定を行って使っている。

 これで、今回の問題は一応の解決をみたが、それにしても納得の行かない点は残る。これだけ広く利用されているLINEのアカウントが、意外にもあっさりと「削除」されてしまうことがあり、その復元手段が公式には用意されていないというのは、あまりにも不親切ではないだろうか。

 先述したように、特に業務以外のコミュニケーションはLINEの利用を避けられないのが現状だ。そして、突然LINEアカウントが「削除」された経験を持つのは筆者だけではないし、そうした際に、愛着あるアカウントを使い続けたい、トーク履歴が消えてしまったら困る、と思うのも、筆者だけではないだろう。

 筆者はLINEと中国のWeChatをほぼ同じ時期から使っているが、WeChatは、子どもや老人などITリテラシーの低いユーザーが起こしやすいトラブルへの対処を早い時期から行い、安心して使えるようになっている印象だ。LINEも、そのような面に手厚く対応してもらえないものかと願う。

 現時点では、「事故でアカウントが消えても救済されにくい」ことを前提として、可能な限りの対策を取りつつ使い続けるしかない。メールアドレスとパスワードの登録、FacebookアカウントまたはApple IDとの連携を行ったうえで、大事なトーク履歴はスクリーンショットを撮ることも続けている。