天国へのプロトコル
第26回
誰にとっても無縁ではない「デジタル終活」―最短1分でOK、今年のうちにポイントを押さえておこう
2024年12月20日 06:00
国民生活センターの啓発資料
2024年11月20日に国民生活センターが「今から考えておきたい『デジタル終活』」という啓発資料をリリースしました。
「故人が利用していたネット銀行の手続きをしたくてもスマホが開けず、ネット銀行の契約先が分からない」
「コード決済サービス事業者の相続手続きが1カ月以上たっても終わらない」
「故人が契約したサブスクの請求を止めたいが、IDとパスワードが分からない」
スマートフォンが普及し、オンラインに多くの財産や契約が残るようになった昨今、このような相談を受けるケースが目立つようになってきたとのこと。今回のリリースはそうした事態を防ぐための対策を端的にまとめた内容になります。
僭越ながら筆者も同センターに寄稿などのかたちで情報提供をしており、今回のリリースにも盛り込んでもらえた様子です。そこで今回は本連載の過去回を参照にしながら、リリースに沿ったデジタル終活法を2つお伝えします。
デジタル遺品の問題は、デジタル機器やインターネットのサービスを利用していれば無関係ではいられません。「まだまだ終活を考える歳でもない」という方も、できる範囲でぜひ大掃除の折に実践してください。
1分で済ませるデジタル終活――スマホのスペアキーを作る
もっとも簡単で、かつ優先すべきデジタル終活は、「スマホのスペアキー」を作ることです。
「スマホのスペアキー」は筆者が提案しているもので、名刺くらいの大きさで光沢のある厚紙に油性ペンなどで自分のスマホの型番とパスワードを書き込み、パスワード部分に修正テープを2~3回重ねるだけで作れます。
これを預金通帳や生命保険の証書など、重要な書類と一緒に保管すれば完了です。やるべきことが明白なので、厚紙とペン、修正テープさえあれば1分もかからずにできるでしょう。
緊急時、家族はそれらの重要書類と一緒に発見でき、コインなどで修正テープを削ることでパスワードを把握できます。逆に普段は修正テープで隠されているため、プライバシーを守ることもできます。もし修正テープが削られたとしても痕跡が残るので、パスワードを変更することで簡単に対応できるのも利点です。
国民生活センターが対策1「スマホのパスワードを書いた紙を保管しておく」で挙げているのはこの方法です。スマホはデジタル資産や重要データの要になっているので、これさえやっておけば最低限のデジタル終活は整ったといっても過言ではないでしょう。
「死後でもスマホは開けられたくない!」という人も少なくないと思います。その気持ち、分かります。しかし、もはやスマホはプライベートを最優先で守るべき道具ではなくなっています。財産や債務、人間関係や個人情報などが集積する道具になっていて、遺品になったときにそっとしておくことを期待するのは難しくなっています。
家族が亡くなったとき、その家族の財布に触れずにいる人はあまりいないのではないでしょうか。好むと好まざるとに関わらず、スマホは財布以上に重要なモノが集まるキーツールになっています。日頃からそのことを前提に使うほうが現実的だと思うのです。そこを汲んで備えてみてください。
数時間かけて大掃除するデジタル終活――サブスク契約を棚卸しする
もう少し時間と労力を避けるなら、お勧めしたいのがサブスクリプション契約の整理です。国民生活センターの対策2「契約中のサービスのID・パスワードを整理しておく」に対応しますが、せっかくやるならもう一歩踏み込んだ整理をお勧めします。
サブスクリプション契約をもれなく把握するなら、契約した環境ごとにリストアップしていくのが効率的です。
たとえば、iPhoneやiPadでストアから購入して有料プランを申し込んだアプリなら、Appleアカウントの「サブスクリプション」項目に一覧表示されます。Androidなら「Playストア」のメニュー項目にある「お支払いと定期購入」をチェックするのがよいでしょう。
同様に、スマホを契約した際にコンテンツパックなどでひとまとめに契約したのなら通信キャリアのアカウントページ、テレビやPCを購入した際にサインしたなら購入した家電量販店のアカウントページに契約に関する情報が記載されているはずです。自宅のインターネット回線やケーブルテレビ契約のオプションサービスもチェックする必要があるでしょう。ほかに独立して契約したケースもあるかもしれません。
それらのリストアップを済ませた上で、クレジットカードや預金口座の支払いの履歴を1年分辿れば、年額契約も含めて漏れなく把握できるはずです。途中で不要な契約が見つかれば解除してしまいましょう。そこは終活というより、通常の大掃除の延長といえそうです。
リストアップの際に重要なのは、ID・パスワードと一緒に契約窓口もメモしておくことです。契約窓口が分からないと解約できないケースが多々あるのです。
国民生活センターのリリースに「故人が契約したサブスクの請求を止めたいが、IDとパスワードが分からない」という事例がありましたが、IDとパスワードを把握した上で運営元に問い合わせても、「契約した先で解約手続きを進めてください」と言われてたらい回しされる事例もよくあります。
引き落とし先のクレジットカードなどを止めてしまえば万事解決なのですが、サブスク契約の支払い=債権が残っている状況では退会できない場合がありますし、退会できても請求書が登録住所に郵送されることも珍しくありません。一網打尽で簡単に処理できないゆえに、今回のリリースでも注意事項に挙げられているわけです。
対策1が最低限、対策2までできたら万々歳
以上のように、デジタル終活は第一にスマホのパスワードが遺族に伝わること、第二に全てのサブスク契約が解除できる情報をまとめておくことが重要です。
対策3「エンディングノートを活用する」と対策4「自分が亡くなったあとスマホのアカウントにアクセスできる人を指名しておく」は、この2点を補強する手段と言えるでしょう。優先順位は下がるものの、やっておくに越したことはないでしょう。
加えて、サブスク契約以外にも、デジタルの持ち物を大掃除するといったことも有効です。万が一の際に家族が探す動線を想定した上で、託すべきものは分かりやすいところに配置して、そっとしておいてほしいものは動線が重ならない奥まった場所に整理しておけば、自分にも家族にも利があるはずです。
とはいえ、完璧を追い求めると相当な時間と気力が必要になります。このあたりは大掃除とまったく同じではないでしょうか。やはり最低限を設定して合格ラインを下げて臨むのが良いと思います。最低限は対策1。対策2までできたら万々歳くらいに捉えておくのがお勧めです。
今回のまとめ |
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故人がこの世に置いていった資産や思い出を残された側が引き継ぐ、あるいはきちんと片付けるためには適切な手続き(=プロトコル)が必要です。デジタル遺品のプロトコルはまだまだ整備途上。だからこそ、残す側も残される側も現状と対策を掴んでおく必要があります。何をどうすればいいのか。デジタル遺品について長年取材を続けている筆者が最新の事実をお届けします。バックナンバーはこちら。