第374回:DLNA 1.5で可能になった「3BOX」環境を試す
テレビやHDDレコーダー、ゲーム機など、今や当たり前のようにDLNAが搭載されるようになった。著作権保護技術「DTCP-IP」によるデジタル放送番組のLAN配信も可能になってきたが、3つのDLNA機器が連携してコンテンツを再生できる「3BOX」による配信形態もようやく実用的になってきた。今回はその使い勝手を検証してみよう。
●3BOXによる配信形態
アイ・オー・データ機器の「AVeL Link Player AV-LS700」。Windows 7対応と表記されている通り、DMRとしての利用が可能。標準価格は1万6485円 |
DLNA 1.5で追加され、Windows 7でも「Windows Media Player 12」の機能として搭載されるようになった「DMR(Digital Media Renderer)」や「DMC(Digital Media Controler)」。これらの機能に対応したハードウェアやソフトウェアがようやく市場に登場してきた。
実際に製品を紹介する前に、DMRやDMCを利用した「3BOX」の配信形態についておさらいしておこう。現状、DLNA対応機器の配信モデルは、サーバーとクライアントという2つの機器が連携する「2BOX」のパターンとなっている。具体的には写真やビデオ、音楽などのメディアを管理・配信する「メディアサーバー(DMS)」、そしてそれを再生する「プレーヤー(DMP)」という2つの機器による構成だ。
これに対して、DLNA 1.5で追加された3BOXによる形態はDMC、つまりコントローラーが介在する形態となる。具体的には、以下のようなイメージだ。コンテンツを管理・配信するDMSの存在は変わらないが、コンテンツをブラウズしたり、再生操作をするのに従来のプレーヤーではなくDMCを利用する。そしてDMCで再生操作したコンテンツが、ネットワーク上にあるもう1つの機器である「DMR(レンダラー)」に表示されるという形態だ。
もちろん、DMCで自分自身に保存されているコンテンツをDMRで再生すれば、2BOXのプッシュ配信も可能だ。「Windows Media Player 12」で、PCに保存した写真などを他のPCのプレーヤーに対して再生する「リモート再生」は、この形態だ(WMP12でも3BOX利用は可能)。
●アイ・オー「AV-LS700」とデジオン「DiXiM Digital TV Plus」
このようにDLNA 1.5で、さまざまな機器を組み合わせた配信が可能になったわけだが、これまでDMCやDMRに対応した製品はあまりなかった。液晶テレビではソニー「BRAVIA」の一部製品がDMRとして利用可能だが、家庭用テレビやHDDレコーダーなどではDMSやDMPとしてしか使えない製品のケースが多い。また、DLNA 1.5に対応していても、Windows 7のようにDTCP-IPをサポートしていないと、デジタル放送などの著作権保護されたコンテンツを配信ができない場合もあった。
こうした中、新たに登場したのがアイ・オー・データ機器のネットワークメディアプレーヤー「AVeL Link Player AV-LS700」と、デジオンのPC用ネットワークプレーヤーソフト「DiXiM Digital TV Plus」だ。
本体背面 | 付属のリモコン。DMRとして使う場合、DMC側で再生をコントロールできるので特に必要ないが、電源のオンやその他の操作で利用する |
「AV-LS700」の画面。アイコン構成のシンプルな画面。DMRとして使う設定は特に必要ない | 従来の「DiXiM Digital TV」にDMC/DMRの機能などを追加したデジオンの「DiXiM Digital TV Plus」。価格は5980円 |
いずれの製品もDLNA 1.5およびDTCP-IPに対応しており、「AV-LS700」はDMRとして、「DiXiM Digital TV Plus」はDMR/DMCとしての利用が可能になっている。先ほどと同じ図に製品を当てはめると以下のようなイメージだ。
つまり、DMSに「DiXiM Media Server 3(OEM版でのみ提供)」、DMCに「DiXiM Digital TV Plus」、DMRに「AV-LS700(もしくは「DiXiM Digital TV Plus」やBRAVIA)」という組み合わせによって、サーバー、コントローラー、レンダラーの3BOX環境を、DTCP-IP配信を含めて実現可能になるわけだ。
なお、アイ・オー・データ機器の「AVC-LS700」は、DLNA関連の機能に加えて、AVCHDビデオカメラで撮影した映像の再生(USB/メモリカード経由)やUSB接続型HDDへの保存に対応しているほか、ベータ版の機能として動画共有サービスの再生機能も搭載されている(現状はYoutubeのみ)。PCとの連携以外にも活用できるので、1台あると便利な機器と言えそうだ。
Youtubeの閲覧が可能なプレーヤー機能も搭載。最近投稿された動画や人気のある動画をリストから気軽に再生可能 |
●早送りやミュートも制御可能。レスポンスは遅め
それでは実際の使用感を紹介していこう。まずは設定だが、これは特に難しい部分は必要ない。今回はサーバーに、ピクセラのPC用デジタルチューナーボード「PIX-DT096-PE0」に付属する「DiXiM Media Server 3」を利用したが、サーバー側のセキュリティ設定でDMR、DMC両方の接続許可しておく程度だ。
DMRとして利用した「AV-LS700」に関しては、特に設定することなくDMRとして動作するように構成されている。また、「DiXiM Media TV Plus」も同様に設定の必要なく、DMCとして動作するようになっている。なお、「DiXiM Digital TV Plus」をDMRとして利用する場合は、設定画面でレンダラー機能を有効にする必要がある。
実際の使用感も悪くない印象だ。DMCの「DiXiM Digital TV Plus」でDMSのコンテンツを参照後、再生したいコンテンツを選んで右クリックから「出力先を変更して再生」を選択する。
すると、ネットワーク上で利用可能なDMRが表示されるので、ここから再生したい機器(この場合は「AVeL」)を選択する。その後、DMCの操作ボタンを利用し、映像を再生すれば、DMRのAV-LS700経由でテレビに映像が表示されるというわけだ。
「DiXiM Digital TV Plus」をDMRとして利用する場合は設定画面でレンダラー機能を有効にしておく | 「DiXiM Digital TV Plus」をDMCとして利用。ネットワーク上のサーバーのコンテンツをブラウズし、再生したいコンテンツを右クリックし、出力先を指定して再生 |
ネットワーク上のDMRが表示されるので、出力先を選択。保護されたデジタル放送の場合、DTCP-IPに対応したDMRのみが選択可能となる | DMRに接続すると「DiXiM Digital TV Plus」はコントローラーとして動作する。画面上の再生ボタンなどを操作すると、DMR上で映像の再生や早送りなどが行える |
DMCとなる「DiXiM Digital TV Plus」の画面には、再生位置を表示するバー、早送りや巻き戻しなどのボタン、音量調整のボタンなども用意されており、ここから「AV-LS700」の再生をコントロールすることができる。
実際に試してみたところ、DMC側でボタンを押してから、数秒後に「AV-LS700」側で早送りやミュートといったの操作が反映されるなど、実際の操作から反映までにタイムラグが発生する印象だが、手元からほとんどのコントロールができるのは手軽だ。
ちなみに、DMSにはDTCP-IP対応のHDDレコーダーなども利用可能だ。試しに、パナソニックのBlu-rayレコーダ「DIGA DMR-BW830」に保存したコンテンツを、DMCの「DiXiM Digital TV Plus」を介して「AV-LS700」で再生してみたが、H.264とMPEG-2 TSの両フォーマットの映像も問題なく再生できた。なお、このケースでは、「DMR-BW830」側でDMC/DMRのMACアドレスの接続を許可する必要あった。
また、DMCとしてWindwos 7が標準搭載する「Windwos Media Player 12」を利用することも可能だ。DTCP-IPに対応していないため、保護されたコンテンツは再生できないが、写真や音楽などをリモート再生を使って、「AV-LS700」側で再生することも問題なくできた。
なお、「DiXiM Digital TV Plus」には、電源オフ状態のDMR機器をDMCから起動する機能が搭載されているのだが、今回使用した範囲では「AV-LS700」に対して同機能を利用することができなかった。このため、事前に「AV-LS700」の電源を入れておいてから再生する必要があるだろう。
「Windows Media Player 12」のリモート再生機能を利用してAV-LS700に映像を再生。保護されたコンテンツは再生できないが、AVCHDのビデオカメラの映像などは問題なく再生できる |
●3BOXのニーズはどこにあるか?
以上、アイ・オー・データ機器のネットワークメディアプレーヤー「AVeL Link Player AV-LS700」と、デジオンのPC用メディアプレーヤーソフト「DiXiM Digital Media TV Plus」を利用したDLNA 1.5の3BOX配信環境を試してみたが、DMCからの電源オンなど利用できない機能があったものの、環境の構築や再生に関しては何の問題もなく実現することができた。これで3BOXの環境も実用的な環境がようやく整いそうだ。
ただし、問題は「3BOX」としての使い方にどこまでニーズがあるのかという点だろう。サーバー上に保存されているコンテンツを単純に再生するだけであれば、従来の2BOXでも構わないため、3BOXならではのメリットが見えてこないとユーザーに受け入れられることは難しい。
もちろん、DMCを操作する人だけがコンテンツをブラウズし、再生するコンテンツを選べるため、サーバー上のコンテンツをプライベートなものだと考えればそれなりにメリットはあるだろう。しかし、それなら2BOXのプッシュでもかまわない。むしろ、携帯電話などで撮影した写真をテレビに表示するなどという使い方なら、2BOXによるプッシュの方が都合が良さそうだ。
個人的にはDMCの機能がもっと充実しないと3BOXのメリットは見えてこないと考える。つまり、クラウドや携帯電話なども含めた複数のDMSと、テレビやフォトフレーム、PCなど複数のDMRやDMPを多対多で結び、その再生をDMCが細かくコントロールできる環境だ。
現状、それぞれの機器で個別にしている操作がすべてDMCに統合され、時間を指定してフォトフレームに写真やニュースを表示したり、リビングのテレビで映画の再生を指示しつつ、キッチンのスピーカーから音楽を流し、さらに離れた場所に住む両親宅のテレビにネット上にアップロードしたビデオの再生指示をする、といったことまでできれば面白そうだ。
そうなれば、これまで個別の機器が実装していた機能が単純化され、機器ごとのインターフェイスの違いになやまされず、そして何より家からリモコンが劇的に減る。そこまで進化すれば、きっとどのようなユーザーにも受け入れやすいものになるだろう。
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2010/1/12 06:00
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