第473回:マルチパーパスな7インチタブレット
シャープ「GALAPAGOS EB-A71GJ-B」


 シャープの「GALAPAGOS EB-A71GJ-B」は、WiMAXを搭載した7インチのAndroidタブレットだ。WiMAXを利用したテザリングが可能となっているのが特長で、モバイルルーター代わりとしても利用可能となっている。本格的なタブレット時代の到来を前に、今、購入すべきかどうかを検討してみよう。

1台をいろいろな用途に使いたい人向け

 メインのフィーチャーフォンと組み合わせてサブ端末として使いつつ、WiMAXのテザリングに利用したり、電子書籍ビューワーとして小説やマンガを楽しむ―――そんな使い方を考えているのであれば、シャープの「GALAPAGOS EB-A71GJ-B」は、比較的満足度の高い製品と言ってよさそうだ。

シャープのWiMAX搭載7インチタブレット「GALAPAGOS EB-A71GJ-B」

 スマートフォンやモバイルルーターなど、その道のスペシャリストと言える製品には一歩及ばない点はあるものの、どの用途に使っても、その実力は及第点をクリアしており、外出先や家庭内など、さまざまな場所で活用できる製品となっている。

 家電量販店などで5万9800円前後、UQの年間UQ Flatパスーポートと組み合わせで4万4800円、もしくは本体価格を4800円に抑える代わりに登録月から2年間の月々の支払が5550円になるという、この価格をどう考えるかは難しいところだが、前述した使用目的がニーズにマッチしていれば、複数の機器を1台でまとめて使える存在として、高くない買い物と言えそうだ。

 それでは、実際に製品を見ながら、具体的にどのような用途に適しているのかを見ていくことにしよう。

持ち運びは楽だが「持つ」とちょっと重い

 まずは、サイズについてだが、この製品の場合、持ち運ぶサイズと、持って使うときのサイズを分けて考えた方がいいだろう。

 まず、持ち運ぶサイズであるが、これは優秀だ。幅195×高さ122×奥行き11.9mm(横方向時)、質量396gのボディは鞄に入れておいてもまったく気にならない重さとなるため、どこにでも持ち歩くことができる。

 一回り大きな10インチクラスのタブレットに比べると、明らかに軽いため、外出時のメールチェックやテザリング用のモバイルルーター代わりとして、常に持ち歩くのに苦労することはないだろう。

正面背面側面

 しかしながら、持って使うとなると、若干、話は変わってくる。1024×600の7インチ液晶は、スマートフォンに比べて画面が大きく、文字の視認性が高いため、ウェブの閲覧や電子書籍の読書は非常に快適だが、その分、片手で持ったときに、わずかながら指に重さがかかり、それが長時間続くと、それなりに疲れてくる。

 電車での通勤時など、1時間程度であれば、気になるほどの負担ではないものの、長時間使ったり、寝ながら使うとなると、もう少し軽くするか、本体の重量バランスや形状を工夫して、片手でホールドしやすくしてほしいところだ。

 具体的には、片手でホールドしたときに、親指の付け根あたりに当たる本体の角を丸く削り取り、小指を引っかけても苦にならないように、本体下部を斜めに削って欲しかった。要するに、2010年に発売されたメディアタブレット「GALAPAGOS EB-W51GJ」の形状が理想なのだが、せっかくの工夫がここで活かされていないのは残念でならない。

 このため、モバイルルーター代わりとして基本的に鞄に入れて使うのであれば苦労しないが、スマートフォンや電子書籍ビューワ代わりとして日常的に使うのには、若干、重さが気になる印象だ。


マンガ読みに最適な7インチ

 では、電子書籍ビューワとして使うのに無理があるのかというと、決してそんなことはない。

 まず、この7インチという液晶のサイズが良い。解像度こそ1024×600とスペック的には物足りない印象があるが、実際に使ってみると、小説やマンガを非常に読みやすい。特にマンガ、それもセリフや説明文字が多いマンガはかなり読みやすい。スマートフォンの場合、マンガの1ページを表示すると、セリフの文字が小さ過ぎて拡大しないと読みにくいのだが、本製品では楽に読める。

電子書籍を楽しむのに、7インチタブは優秀なサイズ。画面を掲載できないのが残念だが、セリフや説明が多めのマンガを読むのにちょうどいい

 電子書籍用のアプリも、シャープならではのGALAPAGOS Appsが標準搭載されており、手軽に利用できるようになっている。同ストアでは、講談社や集英社(現状はお試し配信)など、コミックジャンルのコンテンツが充実してきており、電子書籍を始めたいという人にとっては魅力的な存在と言えるだろう。

 なので、個人的にはますます持ちにくさが気になってしまうのだが、静止画表示時で7.5時間駆動するバッテリーで長時間使えることも含め、とにかく電子書籍を楽しみたいという人には、選択肢として検討すべき端末の1つと言えそうだ。


モバイルルーターとしての実力

 このように、電子書籍ビューワとしては一定の評価ができる「GALAPAGOS EB-A71GJ-B」だが、それならば無線LANのみを搭載した低価格のタブレットでも良かったということになる。本製品の特長は、WiMAXを搭載していることであるため、やはりモバイルルーターとしての実力も気になるところだろう。

 まず注目したいのが、ホーム画面に貼り付けられた無線ネットワーク切り替え用のウィジェットだ。左から「WiMAX」、「テザリング」、「Wi-Fi」というアイコンが並んでおり、それぞれの機能を簡単にオン/オフすることができる。

ウィジェットによって通信環境を簡単に切り替え可能

 これにより、テザリングを有効にしたい場合でも、「設定」からネットワークの設定をたどるといった面倒な操作をしなくて済むことになる。このウィジェットの存在は、設定になれていない初心者にも便利だが、頻繁にテザリングをオン/オフするユーザーにとってもありがたいところだ。

 気になるバッテリー動作時間だが、本コラムでいつも利用しているテスト方法(PCから一定時間おきにPingとHTTP GETを繰り返す)で計測したところ、8時43分から15時31分まで合計6時間43分の動作が可能だった。

 ただし、前回本コラムで取り上げたネットワークコンサルティングの「Mobile Cube」もそうだが、これまでの測定方法の場合、データ転送量が少なすぎるようで、若干、バッテリー動作時間が長めに計測される傾向が見られるようになってきた。このため、今回から、HTTP GETでダウンロードするデータにJPEG画像を追加したり、より多くのサイトから多くのデータをダウンロードするようにするなど、若干、テスト方法を変更してみた。

 この新しい方法でテストしたところ、17時9分から計測を開始し、23時9分まで、ちょうど6時間の利用が可能だった。従来のテスト方法に比べて1割ほど負荷が高くなったことになるので、これまで本コラムで掲載した結果と比較する場合は、従来の値を1割りほど割り引いて考えて欲しい。

 なお、今回のテストでは、測定開始から終了まで、画面を消灯した状態で計測したうえ、WiMAXの通信状況も安定した状況で計測している。このため、普段の利用時など、画面の点灯消灯を繰り返したり、通信時にWiMAXの基地局の検索などが行なわれる状況では、さらに駆動時間が短くなる可能性も考慮すべきだ。

 また、同様に、普段の利用時にGPSやBluetoothなどを利用した場合も、同様にバッテリー駆動時間が短くなる場合がある。あくまで限られたテスト環境での結果であり、実働時間を保証するものではないことをお断りしておく。


上り高速化の効果はエリア次第

 WiMAXの通信速度に関しては、筆者宅での計測では、「GALAPAGOS EB-A71GJ-B」単体での通信速度は下り6Mbps前後、上り4Mbps前後(Speedtest使用)、PC経由での通信速度は下り5Mbps前後、上り7Mbps前後となった(Radishにて測定)。

 あくまでも筆者宅での一例に過ぎないが、他のモバイル通信環境に比べて上りの速度が速いのがWiMAXならでの特長といった印象だ。

単体WiMAX接続時のspeedtestの結果テザリング時のWiMAXの結果

 なお、本製品は2012年1月に、上りの変調方式で64QAMを使用可能にするファームウェアのバージョンアップが行なわれた。筆者宅の場合、バージョンアップ前でも上りは4Mbps以上で通信できていたため、このファームの恩恵は受けられなかったが、環境によっては上りの高速化も期待できることだろう。

 ちなみに、WiMAXの場合、通信制限が特に設けられていないのも特長の1つであるが、今回、自宅にバッファローのWZR-HP-AG300Hを利用したPPTPサーバーを用意してVPN接続も試してみたが、これもテザリング経由で問題なく接続することが可能だった。製品によってはパススルーできない場合もあるが、本製品であれば問題なくPPTP接続も可能だ。


スマートフォンやモバイルルーターがあると使用頻度が下がる

 以上、シャープのWiMAX搭載Andoridタブレット「GALAPAGOS EB-A71GJ-B」を実際に使ってみたが、若干の不満はあるものの、電子書籍を楽しんだり、テザリングでPCをインターネットに接続するなどの用途に適した製品と言える。

 ただし、スマートフォンやモバイルルーターをすでに所有している場合は、使用頻度がなかなか上がらないかもしれない。メールのチェックや地図の参照なら、常に手元にあるスマートフォンの方が便利なうえ、地図の位置表示などの精度も高い。

 テザリングも便利なものの、モバイルルーターの方が長時間の利用が可能なうえ、外出先でも充電できるという強みがある。「GALAPAGOS EB-A71GJ-B」は、充電に専用のACアダプタが必用で、USB充電できないため外出先でバッテリー切れになると困る場合がある。

 そもそも、このACアダプタは本体側のコネクタが抜けやすく、しっかり差し込んでおかないと充電できない場合もある。

充電用のコネクタが抜けやすいうえ、USBでは充電できないのが残念

 よって、現状は、スマートフォンもモバイルルーターも持っていない人向けの製品という印象だ。さまざまなガジェットをこれ1台に集約するという考え方もできなくはないが、現状は、まだ別々に使った方が利便性が高い印象がある。

 もちろん、同様のことは本製品に限らず、今後、数多く登場するであろう5~7インチクラスのタブレットに共通して言える。そういった意味では、今後、このクラスのタブレットには、単にスマートフォンやモバイルルーターの代替えになるだけでなく、さらなる付加価値の提案が必用になってくるのではないかと思える。




関連情報

2012/1/17 06:00


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。