第474回:スマホ向けだが多機能でいじり甲斐あり ネットワークHDD「ShareMax」
日立マクセルから昨年末に発売された「ShareMax(M-2IHD500PS-JP.BK)」は、2.5インチの500GB HDDを搭載した小型のNASだ。スマートフォン向けのストレージとして発売されているが、RAIDに対応するなど、意外に多機能な製品だ。その実力を検証してみた。
●予想外の面白さ
「とりあえず買っておくか」と、昨年末に購入後、開封されることなく、筆者宅でひっそりと眠っていた日立マクセルの「ShareMax」。
さほど高機能ではないだろうと、勝手に思い込み、レビューを先延ばしにしてきたのだが、その判断をちょっと後悔している。実際に使ってみたところ、予想と違って、意外な実力を持っている製品だったからだ。
「ShareMax」は、2.5インチのHDDを搭載したスマートフォン向けのネットワークHDDだ。
あえて「NAS」という言葉を使わず、スマートフォン向けに用途が絞り込まれているのが特長で、基本的に自宅のLANに接続した同製品に外部からアクセスして写真や動画などのデータを参照・保存できる製品として紹介されている。
日立マクセルのスマートフォン向けNAS「ShareMax」 |
しかしながら実際には、SAMBAやAFP、NFS、FTP、メディアサーバー、iTunesサーバーなどのサービスにもしっかりと対応しているだけでなく、USBやeSATAのHDDを増設して任意のフォルダにマウントしたり、ソフトウェアRAID(0/1)を構成できるなど、NASとして十分な機能を備えている。
同社の製品情報サイトの情報があまりにもあっさりしているため、PC系のユーザーの目に触れにくかったと思われるが、これまでのNASメーカーの製品とも肩を並べうる実力の持ち主と言っても過言ではいだろう。
●動作していることを完全に忘れる高い静音性
それでは、実際に製品を見ていこう。ShareMaxは幅123×奥行123×高さ33mm、重量650gのコンパクトな設計の製品だ。
ヘアライン処理されたブラックのアルミで構成されたボディは、写真で見る以上に高級感と高い剛性感があり、非常に好印象だ。天板のmaxellロゴと前面の青色LED以外、余計な飾りのないシンプルなデザインも好ましく、リビングなどに置いておいても違和感のない印象となっている。
各種インターフェイスは背面に集中しており、電源ボタンとACアダプタ端子、1000BASE-T対応のLANポート、リセットスイッチに加え、USB2.0×2、eSATA×1が搭載されている。詳しくは後述するが、これによりHDDの増設が可能になっており、標準の500GB以上のデータも保存可能だ。
正面 | 背面 |
ファンレス設計で、アルミボディ全体と天板のすき間などから放熱する | USB接続のHDDを増設可能。複数台でRAIDも構成できる |
このほか、外見で特徴的なのは、天板の部分で、よく見ると、少し浮き上がっていることに気づく。本製品はファンレスの設計となっており、内部のHDDなどで発生した熱をアルミのボディ全体、およびこのすき間から放熱する設計になっているわけだ(内部に通気口が空けられたスチールの内蓋がありホコリは入らないように工夫されている)。
このおかげで、動作中は本体全体がほんのり暖かくなるが、静音性は抜群に高くなっている。電源をオンの状態で稼働させても、本体からほとんど音は聞こえてこない。ベンチマークテストなどで、HDDに頻繁にアクセスすればアクセス音は聞こえるが、採用されているHDD(HGST Travelstar 5K750-500)そのもの静音性が高いため、まったくと言って良いほど動作音が気にならない。
他の家電製品などの音がまったくない状況で、耳を近づければ音が聞こえるという程度で、まさに動作していることを忘れてしまうほど静かだ。もちろん、振動対策も万全で、底面には少し大きめのゴム足が付けられており、嫌な振動音も伝わってこない。
最近のNASは、全体的に静音性が高い製品が多くなってきているが、その中でも1、2を争う静かな製品といって良いのではないだろうか。
●スマートフォンからの利用は簡単
使い方も非常に簡単だ。製品の主な目的であるスマートフォンからの利用であれば、本体にLANケーブルとACアダプタを接続するだけでいい。これで自動的に起動が開始し、UPnPによってルーターの設定なども自動的に完了する。
製品によっては、UPnPによるルーター設定に失敗する場合もあるが、筆者宅で試した限りでは、問題なく自動設定することができた(フレッツ光ネクスト/PR-300SE)。基本的に、設定画面に一切アクセスすることなく、設置が完了するのは高く評価したいところだ。
一方、実際にスマートフォンからアクセスするにはアプリを利用する。「MyiSharing」というアプリをインストール後、本体底面に記載されている「MAC ID(MACアドレス)」をサーバー名として指定し、標準で登録済みのadminアカウントを使ってログインすれば、ShareMaxに接続できる。
MACアドレスがサーバー名になっている点は若干分かりづらいが、とにかく本体側の設定をしなくて済むのはありがたいところだ。
MyiSharingというアプリを使って自宅にアクセス。サーバー名はMACアドレスとなる | UPnPの設定に問題なければ、機器を接続後、アプリからアクセスすることですぐにNASを使える | スマートフォンのデータは、あらかじめアプリで指定したフォルダに保存されるようになっている |
接続後は、「マイサーバー」からShareMax上のデータをダウンロードしたり、再生できるほか、スマートフォンのカメラで撮影した写真や動画をアップロードすることが可能となる。動画などは、撮影後、アップロードするのに若干時間がかかるが、MyiSharingのメニューから撮影すれば、自動的にアップロードされるので手間なく使える印象だ。
個人的には、音楽をバックグラウンドで再生できるようにしてほしかったが、残念ながらこれはできなかった。また、撮影済みの写真をアップロードする場合の操作も改善の余地がありそうだ。現状は、MyiSharingからギャラリーにアクセスして、アップロードしたい写真を選ぶことで、MyiSharingのアップロードタスクに登録されるというイメージだが、タスクに登録する写真は1枚ずつしか選べない。
ギャラリーの写真をすべて自動的に同期するとなると、プライバシーの問題もあるので、選択式であることに異論はないが、せめて複数枚同時に選択できるようにしてほしかったところだ。
こういった部分は、クラウド系のサービスと同等か、それ以上の使いやすさが求められるところだが、まだその域まで至っていない印象だ。わざわざローカルに機器を設置するメリットが、容量とコストだけではさみしいので、このあたりはもう一工夫ほしかったところだ。
写真のアップロードは一枚ずつ指定する必要がある(Android版、iOS版共に)。タスクに登録しておけば、順次アップロードされるが、複数枚の写真を選ぶにはアプリ間の行き来が何度も必要 |
ちなみに、設定の流れやアプリを見て、何か気づいた人もいるかもしれないが、実は、このアプリは、以前、本コラムで紹介したアイ・オー・データ機器のRockDiskで採用されているのと非常に似ている(いずれも台湾inXtron製のアプリ)。ただし、まったく同じというわけではなく、インターフェイスが若干違っているうえ、本製品のアプリでは、Android版でも音楽や動画のストリーム再生が可能となっている(数秒のキャッシュ後すぐに再生可能)。
当初はバージョンの違いかと思ったが、inXtronのサイトを見ると、どうやらハードウェアによって対応するアプリに違いがあるようなので、ShareMaxの方がアプリ的にもハードウェア的にも、若干多機能な上位モデルになっていると考えてよさそうだ。
●PCからの共有方法は若干クセあり
このように、スマートフォンから手軽に使えるShareMaxだが、PCからも通常のNASと同様に利用することができる。
ShareMaxには、Linux系のOSが搭載されており、標準でSAMBAが有効になっている。このため、PCからネットワークを参照することで、簡単に共有フォルダーにアクセスすることが可能だ。このほか、前述したように、UPnP-AVのメディアサーバーやiTunesサーバーとしても動作しているので、メディアの共有も手軽にできる。
SAMBAが起動しているためPCからのファイル共有も可能だが、共有フォルダは限られる | 仮想デスクトップ的にも使える設定画面。通常のNASとしての機能も備える |
ただし、ファイル共有は、設定に若干クセがあり、ユーザーアカウントは作成できるものの(RockDiskのような16ユーザー制限はなし)、グループを作成することはできない。また、共有フォルダーも基本的には、ユーザーごとのHOMEフォルダ、device(外付けHDD)、downloads(ダウンロードデータ保存先)、public(共有用)の4つで固定となっており、アクセス権もpublicは制限なし、downloadsはadmin専用と標準設定から変更できない。
つまり、基本的に、自分のデータをhomeフォルダ配下の「Documents」や「Music」フォルダに保存し、LAN内で共有したいデータはpublicに保存するという使い方になる。もしも、特定のユーザーのみとデータを共有したい場合は、homeフォルダ配下に作成したフォルダで「共有」の設定を実行し、特定のユーザーにアクセス権を与えておく必要がある。
WebUIから見た共有フォルダの構造(SAMBA経由でも同じ構造)。「ホーム」が個人ごとのホームディレクトリで、基本的にユーザーはここを利用する。「パブリック」がユーザー間で共有できるフォルダ。「デバイス」はUSB接続の機器をマウントした際に利用できる |
ただし、おそらくこれは、これまでのPCやNASの作法で考えるから違和感があるのだろう。前述したように、本製品はスマートフォンでの利用を中心に考えている。このようなスマートフォンのデータの保存先として考えた場合、自分のデータの保存先はhomeフォルダのように他のユーザーから隔離された領域の方がむしろ好ましい。このため、家族で共有するフォルダーは、必要ないか、publicのみで十分というわけだ。
この考え方は、既存のNASでも、今後は参考にした方がよさそうだ。スマートフォンのようなパーソナルな機器のデータを扱う場合、データを共有することを前提にしてしまうと、思わぬデータが他のユーザーに見られてしまう可能性がある。よって、データはパーソナルなものという前提に立ち、あくまでもストレージの領域をシェアするという考え方の方が、受け入れられやすそうだ。
●USB HDD×2でRAID1を構成可能
続いて、ShareMaxならではの特長とも言えるRAIDについて紹介しよう。本製品には、USB2.0×2とeSATA×1の外部ポートが用意されているが、これらのディスクを組み合わせてRAID0/1を構成することが可能となっている。
実際にUSB接続の2.5インチ500GBのHDDと1TBの3.5インチHDDでミラーを構成してみたが、簡単に設定することができた。デスクトップを思わせるグラフィカルな設定画面からディスクの管理を起動すると、接続したHDDが表示されるので、「RAID」タブに接続されたディスクをドラッグし、RAIDのレベルの設定する。
後はディスクをフォーマットし、マウントポイントを指定すれば完了だ。これで、「device」フォルダの配下に、指定したフォルダー名でマウントされる。
今回は、異なる容量のディスクを利用した場合、容量の小さい方に併せてミラーが構成され、500GBの領域として利用できるようになったが、1台を取り外しても、もう1台に複製されたデータにシームレスにアクセスすることができた。
小型のNASの場合、データの信頼性をどう保つかが重要になってくるが、本製品の場合、「iBackup」と呼ばれるバックアップ機能に加えて、このRAIDによってデータを保護することも可能というわけだ。
USB接続のHDDを利用してRAID1を構成可能。1台が故障してもデータにはシームレスにアクセス可能 |
なお、HDDに関しては、USB、eSATAの増設に加えて、内蔵HDDの交換も可能だ。ケースを空け、内蔵HDDを市販の2.5インチHDDに交換するだけでいい。実際、2.5インチ1TBのHDDを装着してみたが、問題なく動作させることができた。
ただし、HDDの固定ネジにはがずとサポートが受けられなくなる旨のシールが貼られており、これをはがすことになるので、当然、サポートが受けられなくなる。外付けでの増設で十分だと思われるが、どうしても交換したいという場合は自己責任となる点に注意したい。
ケースを空けたところ。基盤の上に2.5インチHDDが配置される | このシールをはがすとサポートが無効になる。自己責任となるが、HDDの換装も可能 |
●好みが分かれる製品
以上、日立マクセルの「ShareMax」を実際に試してみたが、スマートフォン用として手軽に使えるだけでなく、PC向けのNASとしても使えるため、なかなか面白い存在の製品と言える。特に、外付けHDDながらRAIDを利用できるのはユニークで、データの信頼性を確保したいというニーズにも対応できる点は評価したいところだ。
ただし、製品としては好き嫌いが分かれる製品と言える。前述したように、PC向けとしても使えるものの、アクセス権などの設定が独特となる。一般的なNASとして使うとなると、古いNASの世界観になれている筆者などは若干戸惑う。
機能的には、ここで紹介したLAN内でのファイル共有以外に、メールを利用した外部の人とのファイル共有(ファイル転送)機能なども使えるようになっているうえ、パフォーマンスも決して速くはないが、実用上、十分な速度は備えている。
なので、ちょっと違うNASの世界を楽しんでみたいという人にはオススメの製品と言えるが、NASとして実用するのであれば、この違いに注意する必要がある。実際に購入する場合は、この点を考慮する必要があるだろう。
メールでのファイル送信も可能。GUIで操作できる | ベンチマークの結果。速度は十分なレベル |
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2012/1/24 06:00
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