第475回:ファイル共有機能が追加された
5.1GBの無料オンラインストレージ「ソラ箱」


 日本ラッドが提供するオンラインストレージサービス「ソラ箱」に昨年末からファイル共有機能が追加された。国産サービスとして2010年に開始以降、着実に進化してきたサービスだ。どれくらい使いやすくなったのかを実際に試してみた。

有料版と同じサービスを利用可能

 「ソラ箱」は、日本ラッドが「SaaSes(サースィズ)」ブランドで提供している無料のオンラインストレージサービスだ。

 サービスの開始は2010年と、オンラインストレージサービスとしては後発となるが、国内設置の廃熱型データセンターや自社開発のIaaSなどの独自技術を採用するなど、純国産の独自クラウドストレージとして注目されてきたサービスとなる。

日本ラッドが提供するオンラインストレージサービス「ソラ箱」

 「廃熱型データセンター」というのは、基本的に空調機を利用せず、外気のみでサーバーを除熱するしくみのデータセンターのことだ。サーバールームを吸気室と排気室に分け、その中間にラックを設置することで、外からファンで吸気室に取り入れた外気でサーバーを除熱、熱を持った空気を吸気室と隔離された排気室経由で外へと排気する方式となる。

 しくみとしては単純だが、同社が2009年10月に公表した情報によると、夏でも外気のみで空調を利用した既存のデータセンターよりもサーバーCPU温度を低くすることができるうえ、その際の消費電力効率(PUE=データセンター全体の消費電力/IT機器の消費電力)で1.07という低い値を実現しており、高効率なデータセンターとなっている。

 データセンターの効率が良いということは、コストも押さえることができるわけで、これが「ソラ箱」の無料提供につながっていることになる。後発で、しかも無料のオンラインストレージと言うと、利用に若干躊躇するかもしれないが、このようなコストのしくみを理解すれば、若干の不安も和らぐことだろう。


申し込みは簡単

 それでは、実際にサービスについて見ていこう。まずは、申し込みだが、これは個人だけでなく、法人も利用可能となっている。通常のオンラインサービスの場合、個人は無料、法人は有料という分け方で収益を得ているケースも少なくないが、本サービスでは法人でも無料で利用することが可能だ。ユーザID数が1つに限られるが、小規模オフィスなどであれば、ファイル転送用の共有アカウントとして利用することができるだろう。

 申し込みは、まず、同社のWebサイトから必要事項(住所や氏名、メールアドレスなど)を入力して、アカウントを取得する。このアカウントは、ソラ箱専用のものではなく、同社の他のサービスを契約するときにも利用する共通のものだ。このため、登録後、MYページにサインインし、「サービス選択」から「ソラ箱」を選択して、カートに入れ、購入する(0円)という流れになる。

申し込み画面。住所、氏名、メールアドレス、電話番号を登録することで即座に利用可能

 申し込み後、サービスは即座に利用可能だ。「ソラ箱」のウェブユーザーインターフェイス(以下Web UI)から、登録したメールアドレスとパスワードでログインすれば、サービスを利用できる。

 UIはシンプルで、メイン画面では、全容量(5.1GB)と使用量のグラフ、ファイル検索用のテキストボックスに加え、「Upload File」、「Download Files」、「Delete Files」、「New Folder」というファイル操作要のボタン、そして「Document」と「Picture」という2つの標準フォルダが表示される。

 操作も軽快で、フォルダの切り替えやボタンをクリックしたときの画面遷移なども速いが、できる操作は限られており、ファイルのアップロードは1ファイルずつダイアログボックスから指定する方式で複数ファイルのアップロードはサポートされない。ドラッグによるアップロードにも対応しているが、Internet Explorerには非対応で、Chromeなどを利用することでドラッグによるアップロードが可能だ。

ソラ箱のWebUI。シンプルな構成だドラッグによるアップロードにも対応する(Internet Explorerは非対応)

 アップロード可能なファイルの容量制限は100MBで、これを超えるファイルはアップロードできない。また、フォルダー内のファイル数も制限されており、100以上のファイルとフォルダが存在する場合、そのフォルダへのアップロードは不可能となる。

 一方、ダウンロードは、フォルダや複数ファイルをzipで圧縮してダウンロードすることはできるが、アップロード済みのファイルの内容を表示することはできない。また、前述したファイル検索機能も、ファイル名やディレクトリ名での検索となっており、テキストファイルなどに含まれるキーワードを指定した検索にも対応しない。

 速度は、89.5MBのファイルでテスト(フレッツ光ネクスト使用)してみたところ、アップロードが53秒(13Mbps)、ダウンロードが約10秒(71Mbps)となった。同じファイルをSkyDriveではアップロードで9分16秒、ダウンロードで2分28秒、OCNマイポケットではアップロードが2分1秒、23秒かかったので、パフォーマンスとしてはかなり速い印象だ。

 ただし、ソラ箱の場合、ファイルを指定してアップロードボタンを押しても、画面が一切変わらず、進捗のバーやアップロード中であることを示すアイコンなども表示されない。このため、前述したような数十MBクラスのファイルをアップロードすると、1分近く、画面が固定されたままになる。

 はじめはアップロードボタンをクリックし損ねたのかと思って、何度もクリックしてしまったほどなので、進捗を表示しないまでも、「アップロード中」などに表示を切り替えて欲しいところだ。

アップロード中もこの画面のまま。進捗表示するか、「アップロード中」と切り替えて欲しい


アプリケーションを利用可能

 このように、WebUIに関しては、若干気になる部分はあるが、これらの点もアプリケーションを利用することで改善できる。

 ソラ箱にはWindows用のアプリケーションが提供されており、このアプリを常駐させることで、アプリケーション上でファイルを操作したり、PC上のフォルダ(C:\Users\mshimizu\Documents\sorabako\PC名)と同期させることができる。

 アプリケーションを利用した場合も、上限100MBという制限は変わらないが、ドラッグで複数ファイルをコピーして同期させることができるようになるため、使い勝手はかなり向上する。アップロード速度が高いことから、ローカルにコピーしたファイルが即座にオンラインにも反映されるため、通常はこの方法で利用するのがお勧めだ。

Windows用の同期アプリケーション。指定したフォルダを監視し、常にオンラインと同期する

 また、スマートフォン用(iOS/Android)のアプリも提供されており、スマートフォンからソラ箱上のファイルを操作することも可能だ。どちらも、ファイルのダウンロード、アップロード、再生などが可能だが、iOS版とAndroid版では若干の操作の違いがある。

 iOS版はアプリからファイルをタップすることで画像や動画などをその場ですぐに再生できるが、Android版はファイルをロングタッチしてから再生を選ぶ必用がある。また、再生に関してもブラウザ経由となるため、再生できるファイルが限られる。

 一方、Android版はギャラリーなどの他のアプリから「共有」で「ソラ箱」を呼び出すことが可能となっているため、他のアプリからファイルを転送するのが簡単にできる。一方、iOS版は他のアプリとの連携はできない。たとえば、写真をアップロードしたい場合であれば、ソラ箱を起動して、ソラ箱内メニューから写真を撮影したり、カメラロールからアップロードしたい写真を選択するという方法になる。

 どちらも一長一短だが、使い勝手としては悪くない印象だ。アップロードもスピーディで操作も快適だ。

 ただし、いかんせん容量が5GBしかないので、バックアップ先として利用するには限界がある。あくまでも、家でも、外出先でも使いたいデータの預け先という印象だ。

iOS版のアプリアップロードはアプリ内から撮影、写真を選択するアップロードする際の写真の品質を設定可能


メールでステータスを確認可能

 最後に、昨年末に追加されたファイル共有機能について見ていこう。この機能の追加により、単なるストレージとしてだけでなく、ファイル転送用にもソラ箱を使えるようになった。

 機能的には、同社が有料で提供している「クラウドポスト」のソラ箱版となるサービスとなっているのだが、もともとビジネス向けのサービスとして提供されてきただけあって、細かな配慮がなされている。

 使い方は一般的なサービスと同じで、WebUIから、送りたいファイルを指定してアップロードし、送信先のメールアドレス、パスワード、ダウンロード回数などを指定すると、相手にダウンロード用のURLが送られるようになっている(メールが届くまでに若干時間がかかる場合もある)。

クラウドポストのストレージとしてソラ箱を使う。パスワードやダウンロード回数を設定可能

 特長的なのは、メールでの確認や受信状況を細かくチェックできる点だ。パスワードを指定した場合、ダウンロード用のURLとは別のメールでパスワードが送信される。URLのメールとパスワードのメールの両方がないとダウンロードできないため、メールが転送された場合などの意図しないダウンロードをある程度抑止できる。

 また、相手がファイルをダウンロードするためにメールに記載されたURLにアクセスすると、その情報もメールで送信者に返信される。もちろん、同様の情報はWebUIからも確認できるようになっており、相手がファイルを受け取ったかどうかが確実に分かるようになっている。

送信の履歴を管理可能。受け渡し状況をきちんと記録できる相手が受信したことをメールで確認することもできる

 最近では、メールのやり取りやファイル転送サービスでのやり取り記録に残すルールが徹底されている企業が多いが、こういった用途にも十分に対応できるというわけだ。無料のサービスで、ここまで配慮されているのは大きなメリットと言えるだろう。

 ただ、残念なのは、これらの機能がWebUIのクラウドポストの画面からしか使えないことだ。前述したWindows用のクライアント、Android、iOS用のアプリからは、ファイルの転送を指定することはできないうえ、「ソラ箱」のファイル一覧からアップロード済みのファイルを指定することもできない。

 もともと別のサービスとして提供されているものを組み合わせたものなので、仕方がないとも言えるが、せっかく複数のクライアント環境を用意しているのだから、そのすべてで、すべてのサービスが使えるようにしてほしかったところだ。


SOHO、小規模オフィスでの利用に適している

 以上、日本ラッドの「ソラ箱」を実際に試してみたが、パフォーマンスやファイル転送サービスの使い勝手は良好で、無料のサービスとしては十分な実力と言えそうだ。

 特にファイル転送の状況を監査的にトラッキングできるのは便利で、小規模オフィスなどでのファイル転送環境としておすすめできるサービスと言える。

 ただ、個人的にはもう少しWebUIを使いやすくして欲しいうえ、アプリケーション側のファイル転送に対応していないのが残念だ。これらの点が改善されれば、より使いやすいサービスとなりそうだ。

 後はサービスとしての安定性がどこまで確保できるかが鍵だろう。タイミングが悪かったのかもしれないが、筆者がテストしている最中に、クラウドポストのサービスにだけアクセスできなくなったり、送ったメールからのファイルのリンクをクリックすると長い待ち時間が発生することがあった(ソラ箱は問題なく稼働)。

 ファイル転送サービスの場合、相手にデータが送れなくなることは致命的となるため、ぜひ障害発生率の少ない、安定したサービスを実現して欲しいところだ。




関連情報

2012/1/31 06:00


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。