第476回:小型化&スマホ対応を強化した「Pogoplug Mobile」の実力を検証
~無料で使える5GBのクラウドストレージも
クラウドエンジンズの「Pogoplug」に、小型化された最新モデル「Pogoplug Mobile」が追加された。「Mobile」の名の通り、スマートフォン対応が強化されたことに加え、新たに同社がホスティングするストレージサービス「Pogoplug Cloud」を利用できるのが特長だ。実機でその実力を検証してみた。
●デバイスからサービスへ
自宅、会社や事務所、そしてクラウド上と、それぞれの場所にある別々のデータをさまざまな端末から意識することなく利用できるストレージサービス。新しく登場した「Pogoplug Mobile」を簡単に説明するとすれば、そんなイメージの「サービス」だ。
クラウドエンジンズが開発し、国内ではソフトバンクBBから発売される「Pogoplug Mobile」 |
最初に、ぶっちゃけて言ってしまえば、Android版クライアントのサインインに時間がかかったり、Windows用クライアントからドライブとしてマップされた他のPCのフォルダを参照するのに時間がかかることがあったり、同様の操作で新規フォルダを作成するとリネームできないことがあったり(タイムスタンプがおかしい)、自動アップロードを有効にすると即座に既存の写真をガンガンアップロードしにいくなど、「もうちょっと改善できるんじゃない?」と思えるところは、まだまだある。
しかし、今回のモデルでは、自宅に設置して外出先からアクセスできるストレージという同製品ならではの特長に加えて、クラウドサービスとの連携が図られており、単純な「デバイス」ではなく、ハードウェアにソフトウェアとサービスを組み合わせた複合的な製品となっている。詳しくは後述するが、5GBの無料のオンラインストレージ(購入者には1年間20GBが無償)が提供され、これを自宅に設置したPogoplugと一緒にシームレスに運用できるのが特長だ。
同社CEO ダニエル・プッターマン氏には以前から何度かインタビューの機会を得ているが、同氏は当初から「Pogoplugはサービスで、我々はソフトウェアエンジニア」ということを頻繁に強調していた。
確かにこれまでは、ハードウェアだけを見て「単なるNAS」と認識されても仕方がない面もあったが、今回の製品では、このサービス面がきっちり補完されたことになる。これでようやくPogoplugがデバイスからサービスへと姿を変え、「クラウド」という言葉を迷いなく使えるようになったと言えそうだ。
●進化のポイントその1:速くなった? 「パフォーマンス」
では、具体的にどのような進化を遂げたのかをチェックしていこう。今回のPogoplug Mobileの特長は、3つの側面で考えることができる。まずは、純粋なハードウェアとしての進化だ。デザインが一新された今回の新ハードは、従来製品に比べて40%の小型化と80%の高速化が実現されている。
従来のかたつむりのようなユニークなデザインと印象的だったマゼンダのロゴは姿を消し、上にフィギュアでも乗せたら様になりそうな台座のような小さな筐体になり、ロゴもブルーに変更された。
従来のPogoplug(右)との比較。デザインがかなりシンプルになり、小型化も実現。ロゴカラーも変更された |
正面 | 側面 | 背面 |
インターフェイスはUSB×1と従来モデルの4ポートから減ったが、側面にSDカードスロットが搭載され、ここにメモリカードを装着して利用することが可能になった。Pogoplugのメリットは大容量化が容易な点があるが、SDメモリカードで手軽に運用したいというニーズにも対応したといったところだ。
なお、ロゴのカラーについては、プッターマン氏曰く「気分を変えたかった」とのことだが、小型化はユーザーとしても大いに歓迎できるポイントだ。今回の筐体であれば、訪問者に「コレ何?」と必ず尋ねられるような存在感がないため、どこにでも設置できるし、物理的に小さいのでどこかのすき間に押し込んで置いておくことができる。
いわゆる「ギーク」な人たちなら前のデザインの方が好みかもしれないが、今回のデザインの方が圧倒的に普通のユーザーが買いやすい。
パフォーマンスについては、正直なところ、さほど実感できるものとは言えない印象だ。同社によると、前述した80%というのは、LANで利用した際のスループットということなので、実際にPogoplugをLANに設置してパフォーマンスを計測してみたところ、以下のような結果になった。
旧PogoplugとPogoplug MobileのLANスループット(MB/s) |
確かにアップロード(PCからPogoplugへの書き込み)は16.6MB/sから23.8MB/sへと向上しているため約40%ほどの向上が見られたが、なぜかダウンロード(PogoplugからPCへの書き込み)は61.6MB/sから23.3MB/sへと1/3になってしまっている。いずれも2.5インチのSSD(Crucial RealSSD C300 64GB)を接続し、PC側にはRAM Diskを利用しているうえ、異なるPCやハブなどでも検証しても同じ結果だったので、判断に困る結果だ。
ただ、ファイルのアップロード中の進行状況を見ていると、確かにPogoplug Mobileの方が“つっかからない”(スムーズにデータが送られている)印象はある。本製品の場合、自宅では主にアップロード、ダウンロードは外出先からという使い方になるため、そう考えると、このアップロード速度の向上は意味のあるものと言えそうだ。
なお、外出先からアクセスした際のパフォーマンスは以下の通りだ。1GbpsのauひかりにPogoplug Mobileを接続し、200Mbpsのフレッツ光ネクスト経由でPCからファイルのアップロードとダウンロードをした結果だ。
Pogoplug MobileとPogoplug CloudのWANスループット(MB/s) |
詳しいサービス内容については後述するが、オンラインサービスのPogoplug Cloudの速度も計測したが、回線次第では自宅に設置したハードウェアというのは、やはりパフォーマンスに優れる。Pogoplug Cloudもアップロード920KB/s(約7Mbps)、ダウンロード1.6MB/s(約13Mbps)とオンラインストレージとしては優秀な成績だが(参考:SkyDrive UP160KB/s、DW600KB/s前後。OCNマイポケットUP600KB/s、DW3.8MB/s前後)、自宅に設置したPogoplug Mobileであればアップロード3.3MB/s(約26Mbps)、ダウンロード4.4MB/s(約35Mbps)にもなる。
もともと、Pogoplugは容量制限なく(HDDの物理的な容量はもちろんある)ファイルを共有・転送できるうえ、自分はLANでファイルをコピーできるので、相手に大容量ファイルを転送する際の時間が短縮できることが魅力だが、これくらいのパフォーマンスがあれば、外部側のストレスも気にせずに済むため、数GBクラスのファイルのやり取りも楽にできるだろう。
●進化のポイントその2:機能強化された「スマートフォン対応」
2つ目の注目ポイントは、スマートフォン対応の強化だ。「mobile」という名と、「Softbank SELECTION」のラインナップとしてソフトバンクBBが販売することからもわかる通り、今回の製品はスマートフォン向けという位置づけが明確に打ち出されている。
とは言え、これは新機能というよりは、改良点と言った方が正確だろう。これまでも、スマートフォン向けのアプリが提供されてきたが、この機能が拡充されている。
具体的には、「自動アップロード」機能が挙げられる。自動アップロードは、スマートフォンで撮影した写真を自動的に自宅のPogoplugや前述したPogoplug Cloudにアップロードする機能だ。
AndroidやiPhoneに、無料のPogoplugアプリをインストール後、自動アップロードを有効にすると、ギャラリーやカメラロールなどが監視され、新しいファイルが保存されたことを検知すると、自動的にPogoplugへとアップロードできる。
前述したように、インストール直後に有効にすると、ギャラリーに保存されている写真を片っ端からすべてアップロードしはじめるので、ちょっと慌てるが、慣れてしまえば、これはこれでとても楽だ。写真を撮れば自動的にPogoplugに保存されるので、わざわざコピーしたり、バックアップを取る必用がないうえ、不要な写真を本体から削除してしまえばスマートフォンのストレージを節約できるというわけだ。
もちろん、自動アップロードは、Wi-Fiのみか、3G+Wi-Fiかを選べるようになっているため、3Gでオフにしておくことも可能だ。なお、バックグラウンドでのアップロードがどうなるのかを試してみたところ、Andoridは可能だが(スリープ時に通信が切断されればもちろんNG)、iOSはバックグラウンドでのアップロードはしないようであった。iPhoneで試してみたところ、Pogoplug起動後に、カメラに切り替えて撮影し、その後ホーム画面のまま放置していてもアップロードはされず、もう一度、Pogolugアプリを起動したときに一気にアップロードされた。
ユーザー視点で言えば常にアップロードされた方が意識しなくて済むが、そうなると通信事業者はたまったものではないだろう。もはやアプリやサービスはユーザーニーズや利便性だけを追求していく時代ではなさそうだ。
このように、自動アップロードの機能が強化されたスマートフォン向けのPogoplugアプリだが、若干の違いはあるものの、同様の機能はiCloudやGoogle+、auのPhoto air(Eye-Fi)などでも実現されているので、目新しい機能ではないとも言える。もちろん、Pogoplugは初期投資のみという費用、容量の自由度の高さ、そして何より保存先が自宅であるというメリットがあるが、こういった他サービスとの競争の中、ユーザーに積極的に選んでもらうサービスになるには、今後、認知度と、さらなる利便性の向上が鍵になりそうだ。
●進化のポイントその3「Pogoplug Cloud」で気分は仮想ストレージ
3つ目のポイントは、クラウドサービスの「Pogoplug Cloud」の提供だ。個人的には、これまでにも、Pogoplugのエンジンをホスティングサーバーなどで動かせれば面白いだろうと思っていたのだが、それが本家サービスとして登場したことになる。
提供されるサービスは、5GB(無料)、30GB(月額300円)、50GB(月額500円)、100GB(月額900円)となっており、Pogoplugのユーザーアカウントを作成することで無料の5GBが利用可能となり、これとは別に、今回、Pogoplug Mobileを購入したユーザーには20GBのプランが1年間無料で提供される。
セットアップ時にサインアップすることでPogoplug Cloudを利用可能。標準は5GBが無料で使えるが、Pogoplug Mobile購入者は1年間20GBが無料で利用できる | Pogoplug Cloudにブラウザからアクセスしたところ。左側の一覧のように複数の機器がある場合でも同一UIから操作可能。上部の「音楽」などをクリックすると、場所を問わず、すべての機器の音楽ファイルなどを参照できる |
パフォーマンスについては前述した通りで、少なくとも現状は快適に使えるようになっている。価格敵には、iCloudは55GBで年8500円、Dropboxは50GBで月9.99ドルであるのに対して、Pogoplugは50GBで月500円と、後発だけあって(それぞれサービスの違いはあるものの)競合サービスよりもややリーズナブルな価格に設定されている。
このサービスが導入された当初、個人的には、「ついにハードウェアのみのビジネスに限界が来たか……」と思ったのだが(今でもまだ少し思っている)、同社としてはいくつかの意図があるようだ。プッターマン氏によると、当初からクラウドとの連携を想定していたうえ、無料のサービスを用意することで、最終的には容量が数TBまで増やせるPogoplug Mobileなどのハードウェア製品へ誘導する入り口として考えているようだ。
であれば、たとえば30GBを無償提供してしまうような思い切ったことをして、他社サービス利用者からの移行を狙ってもよさそうな気もするのだが、今回のクラウドサービス提供によって、プッターマン氏がはじめから考えていた「デバイス」、「ソフトウェア」、「サービス」をシームレスに連携させる世界が実現されたといわけだ。
ソフトウェアも最新版にアップデートされた。新たにブラウズ機能が搭載されたが、あまり使いやすいとは言えないので、個人的にはミドルウェア的にサーバーとの接続とドライブの割り当てのみを管理する裏方でいてくれた方がありがたい |
しかしながら、何度も「シームレス」という言葉を使って恐縮だが、Pogoplugの真の面白さは、この「シームレス」感にこそある。
たとえば、事務所にPogoplugを設置してファイルを共有しつつ、自宅で使うPCにクライアントソフトをインストールしてローカルHDDを共有し、さらにPogoplug Cloudでオンラインのストレージを利用する。
このように利用することで、異なる場所、異なるプラットフォームにあるデータをあたかも1つのストレージのように扱うことができるのだ。もはや「仮想ストレージ」と言い換えてしまっても良い。
最近では、オレガのVVAULTなど、異なる容量のHDD、ネットワーク上のNASなどを1つのボリュームとして扱える仮想ストレージの技術が身近に使えるようになってきたが、Pogoplugは、この世界観をWAN経由で実現できる。
WebUIや前述したPC用アプリケーションから、「ギャラリー」などカテゴリで分類されたフォルダを開くと、そこには事務所のPogoplugのHDD、自宅のPCのHDD、オンラインのPogoplug Cloudのデータのすべてが混在して表示される。これはよく考えるとスゴイ。
また、Pogoplugにマウントされたドライブ経由で、WANで離れた場所にあるPCやPogoplug Cloud上のフォルダとローカルのフォルダを開き、Ctrl+C/Ctrl+Vでやドラッグでファイルをコピーしていると、「ん、このフォルダはどこにあるんだけっけ?」とWAN経由でコピーしていることを忘れてしまうほどだ。
Pogoplugは、NASとして考えたり、オンラインストレージとして考えても、競合が多い製品だ。しかし、この仮想ストレージ的な使い方は、少なくともコンシューマー向け製品でできるのはPogoplugのみだ。本来、分散された場所と機器にあるストレージをここまでシームレスに扱えるというのは、画期的と言える。
このため、個人的には、もっといろいろなシチュエーションを想定して売った方が興味を持つ人が増えるのではないかと思える。たとえば、全国に他店舗展開するような飲食店などで利用すれば、各店舗のデータをシームレスに扱えるうえ、必用に応じて相互にデータを多重化できる分散ストレージを手軽に構築できる。
もちろん、法人向けで使うとなれば、機器を集中管理するしくみや認証のしくみ、権限によるアクセス制御、ファイルアクセスの履歴保存などの監査的な機能も必要不可欠と言える。このあたりは、Pogoplug.Bizに期待していたところだったのだが、残念ながらラインナップから外れてしまった。
プッターマン氏によると、法人向けの製品も検討しているとのことなので、ぜひ革命的な製品を投入してくれることを期待したいところだ。
Pogoplug Mobileに保存した動画ファイルは、自動的にスマートフォン向けにトランスコード可能。Pogoplug Cloudに関しては、現状、この機能は搭載されていないが、将来的に対応予定とのことだ |
なお、Pogoplug Mobile(旧Pogoplugも同様)では、ストレージに保存した動画を自動的にスマートフォン向けにトランスコードし、ストリーム配信できる機能が搭載されているが、この機能は、Pogoplug Cloudでは現在利用できない。プッターマン氏によると、クラウド版でも近々にトランスコードの機能を搭載する予定(別途オプション料金がかかる可能性もある)だという。トランスコードを自動でしてくれるオンラインストレージとなれば、これはこれで期待したいところだ。
●サービスとしてのストレージを堪能できる
以上、新しく登場したPogoplug Mobileを紹介したが、最新のハードウェアとサービスを組み合わせた非常に面白い存在と言える。ファイル転送、ストリーミングなどの従来の機能も使いやすく進化し、まさに次世代機と言える存在になっている。
特に、複数台のPogoplugとPogoplug Cloudを組み合わせたときの独特の世界観は、今後の発展の可能性を非常に感じさせるものと言え、クラウドとオンプレミスという区別された環境をメッシュ状に繋ぐ新しいストレージ環境を感じさせる。
なので、購入を検討している場合は、必ずしもハードでなくてもかまわないので、複数の組み合わせで利用してみて欲しい。正直、冒頭で紹介したような細かな不満を持つことはあるはずだが、サービスとしてのストレージの世界観を堪能できるはずだ。
そういう意味では、いっそのことスマートフォン対応も、単なるビューワやアップローダという形態ではなく、ストレージの世界の一員にしてしまった方が面白かったかもしれない。スマートフォンのメモリ容量が大きくなれば、将来的にPogoplugアプリで、そういった世界も実現できそうだ。
関連情報
2012/2/7 06:00
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