第468回:Pogoplugの技術を搭載した新型NAS バッファロー「LinkStation Cloud Edition」


 バッファローからNASの新製品「LinkStation Cloud Edition CS-X1.0」が発売された。従来のNASに、外出先のPCやスマートフォンからのアクセスを可能にするPogoplugの技術を搭載した製品だ。その実力を検証してみた。

ようやく国内でもデビュー

 今年初頭のCESでデビューし、「CloudStor」の名ですでに海外で発売されていたバッファローのPogoplug機能搭載NASがようやく国内でも発売された。

 国内では、別途、USBストレージを接続して利用する形態となっているPogoplugだが(ソフトウェア版も存在)、今回の製品では、HDDがはじめから内蔵されたNASのファームウェアとしてPogoplugの技術が組み込まれており、まさに設置するだけで利用できるのが特長の製品だ。

 これまでのPogoplugは、CIFS(SMB)がサポートされていなかったため、専用のソフトウェアでドライブとしてマップするか、Webベースでファイルをやり取りする必用があったが、今回の「LinkStation Cloud Edition」では、一般的なNASと同様にCIFSでのアクセスが可能となっている。

バッファローの「LinkStation Cloud Edition CS-X1.0」。Pogoplugの技術を搭載したシングルドライブの低価格NAS

 最近のNASは、リッチなハードウェアリソースのおかげで、さまざまな付加機能を搭載する傾向にあるが、言わば、この付加機能の1つとしてPogoplugの機能を飲み込んだ形となる。

 正直、これまでのPogoplugは、一般的な知名度が高いとは言えない製品であったが、コンシューマー向けストレージ製品の大手となるバッファローとのコラボレーションによって、より幅広いユーザー層への普及が期待ができそうだ。


入門用として最適なCS-Xシリーズ

 それでは、実際の製品を見ていこう。今回登場した「LinkStation Cloud Edition」には、「CS-X」シリーズと「CS-WV/R1」シリーズという2ラインナップが存在するが、今回用意したのは「CS-X」シリーズの1TBモデル「CS-X1.0」だ。

 基本的な機能は、CS-XもCS-WV/R1も共通だが、シングルドライブでシンプルな構成のCS-Xに対して、CS-WV/R1はRAID1に対応した2ドライブモデルであることに加え、高速なCPUの搭載や外付けHDD(USB接続)への対応といった点がアドバンテージとなる。

 Pogoplugでは、アクティブコピーと呼ばれる機能によって複数のUSB HDD間でフォルダ単位にデータを複製することができるため、必ずしもRAIDにこだわる必用はないのだが、今回のCS-Xシリーズの場合、シングルドライブであるだけでなく、外付けUSB HDDにも対応しない。つまり、CS-Xシリーズでデータを複製したい場合は、本体を複数台用意する必用があるので、この点を考慮するとはじめからCS-WV/R1シリーズを選ぶメリットがある。

 とは言え、HDDの価格が高騰する中、2TBで44,500円、4TBで55,100円となるCS-WV/R1シリーズはなかなか手を出しにくい。入門用として考えると、このCS-Xシリーズは悪くない選択だ。

 実際の製品は、これまでのLinkStation LS-XLシリーズと共通の筐体が採用されており、少し小さめの重箱といった印象のサイズ感になっている。シングルドライブなので幅は45mmとさほど取らないが、奥行きと高さは150mm×175mmと、それなりに存在感のあるサイズとなっている。

正面側面背面

 ケースはメッシュ構造で、横から見ると内部の基盤や反対側の景色が透けて見えるほどだが、この構造のおかげでファンレスの構造となっている。ここまで穴が空いていると動作音が気になるところだが、HDD自体のアクセス音はほとんど気にならない。ベンチマークテストなどを行なっても、かすかにアクセス音が聞こえてくるだけで、ほぼ無音と言って良い印象だ。

 ただし、おそらく搭載されるHDDの機種や個体差にも依存すると思われるが、HDDの振動が気になった。床など、ダイレクトに振動が伝わる場所に設置すると、ブーンという低い振動が常に耳に付くので、設置場所を工夫するか、防振マットなどを下に敷いた方がよさそうだ。

 インターフェイスは背面に、1000BASE-T対応のLANポート×1と電源用のDC端子のみという実にシンプルな設計。若干、物足りない印象も受けるのだが、このシンプルな構成のおかげで、設置の際に迷う要素がないのはメリットだろう。


Pogoplugならではのカンタン設定

 本製品で特筆すべきなのは、やはり「手軽さ」だろう。本製品のセットアップはPogoplugとほぼ共通になっており、LANケーブルと電源ケーブルを接続後して起動後、同一ネットワーク上のPCからブラウザで「http://linkstationcloud.pogoplug.com」にアクセスし、ウィザードによって数ページ画面を進めていくだけと、実にカンタンになっている。

本体をネットワークに接続後、PCからブラウザで「http://linkstationcloud.pogoplug.com」にアクセスすることで手軽に設定できる

 CS-XとCS-WV/R1を除く、同社製のNASには「WebAccess」と呼ばれるリモートアクセス機能が搭載されており、こちらもUPnPによってリモートアクセスの設定が自動的にできる。ただし、設定画面から機能を有効にしたり、ルーターによってはポートフォワードの設定が必用なことがあり、リモートアクセス設定までが手軽に設定できるというわけではない。どのような環境下で、誰が設定しても、迷わず設定できるというのは、Pogoplugの技術を採用したLinkStation Cloud Editionシリーズならではの特長と言えるだろう。

 一方、ローカルでの利用については、2通りの方法での使い方となる。1つは、Pogoplugと同様の使い方だ。バッファローのサイトからPogoplug Driveと呼ばれるクライアント用のユーティリティソフトをダウンロードし、これによってPogoplug上の共有フォルダをドライブとしてマウントできる。

 もう1つは、CIFSによるアクセスだ(AFPも対応)。PCでネットワークを参照し、「\\CS-Xxxxx」などの標準のホスト名にアクセスすれば、共有フォルダにアクセスできる。他のLinkstationシリーズのように、ユーティリティソフトで自動的にドライブにマウントしてくれないのは残念だが(本製品にはそもそも一切のユーティリティが付属しない)、このCIFSでもアクセスできるというのが、本家Pogoplugではなく、LinkStation Cloud Editionを選ぶ最大のポイントだ。

通常のNASと同様にネットワークから共有フォルダを参照可能。Pogoplugにない魅力だ共有フォルダやユーザーを作成し、Pogoplugとは別に管理することが可能

 Pogoplugは、パーソナルクラウドというキャッチの通り、個人的なデータを保存し、その中の一部のフォルダやファイルを「一時的」に第三者と共有するという製品になっている。これは、筆者のようなフリーランスの立場の人には極めて都合が良いしくみである一方、もう少し規模の大きな数人規模の環境では、いまひとつ使い勝手が良くない。数人以上のユーザーが存在する環境では、やはり従来通りのCIFSによるファイル共有の世界観の方が馴染みやすいわけだ。

 もちろん、ソフトウェア版のPogoplugをWindows Serverなどにインストールするのも1つの手だが、LinkStation Cloud Editionであれば、この両方の良いところ取りを非常に手軽に実現できることになる。

 小規模な環境であれば、社内にいるときはCIFSでLinkStation Cloud Edition上に共有データを保存し、必用に応じて、Pogoplugの機能で外部の人にファイルを転送したり、外出したときにPCやスマートフォンを利用して、これらのデータを利用することができるわけだ。

 このため、個人ユーザーが自分の音楽や映像データをどこからでも使えるように保存しておくために利用するのはもちろんだが、個人的には数人規模のSOHO環境での利用をおすすめしたいところだ。

iPhoneやAndroid向けのアプリが提供されており、外出先から手軽にアクセスできるスマートフォンで撮影した写真をアップロードすることも可能自宅のNASに保存されている動画をスマートフォンで再生することも可能。未対応の形式はエンコードして再生することができる


世代の古いUI

 このように、LinkStation Cloud Editionは、従来のNASとパーソナルクラウドというPogoplugを融合させた新しい製品と言えるが、1つ注意点がある。

 実際に使ってみるとわかるのだが、LinkStation Cloud Editionで採用されているPogoplugの機能は世代的に若干古い。

 現状、外出先などから自宅のデータにアクセスするためのブラウザのUIは、本家Pogoplug(4.0.0.6)ではファイルにマウスカーソルを合わせるとポップアップで共有などを行なうためのボタンがポップアップ表示されたり、ファイルの共有方法でリンクの取得やフォルダのコラボレーションができるようになっているが、LinkStation Cloud EditionのUI(2.1.18、http://linkstation.pogoplug.com)では、これらの機能が使えない。

左がLinkstation Cloud EditionのWeb UI。右がPogoplugの最新のWeb UI。バージョンが異なるため、一部機能にも違いがある

 また、本家Pogoplugでは、PC用のクライアントソフトがPogoplug Browserと呼ばれる同期を目的としたソフトウェアに変更されており、これ以外にサーバー機能も搭載したPogoplug Remote Access Softwareが提供されるなど、ソフトウェアの扱いが若干変更されているが、LinkStation Cloud Edition向けのものは、ドライブマップ機能のみを搭載した旧世代のクライアントとなっている。

 同様の現象は、海外で販売されているSeagate製のPogoplug OEM製品でも体験したことがあるので、OEM製品では、どのバージョンを使うのか、最新版にバージョンアプするのかどうかが、そのベンダーに任されているのだろう。

クライアント用のユーティリティソフトも古い世代のものとなる

 とは言え、これはまったく気にする必要はない。LinkStation Cloud Editionでも、「http://my.pogoplug.com」経由でアクセスすることで最新のUIを使うことができるうえ(共有ごとに機器が分かれて表示されてしまう不具合はあるが……)、本家からダウンロード可能なPogoplug Remote Access Softwareを使ってドライブをマウントしたり、Pogoplug Browserを使ってPC上のデータを自動的にPogoplugに同期させることができる。

 もちろん、UIやクライアント側の機能を使うために、今後、端末側のファームウェアの対応が必用になった場合は一部の機能が使えない可能性があるが、現状は最新版と変わらぬ使い方ができるわけだ。

 場合によっては、むしろ、これを歓迎するユーザーもいるかもしれない。個人で使うならUIがいくら更新されても、「おっ」と驚くだけで済むが、企業で使う場合、社内で利用方法をトレーニングしたり、どの機能をどう使うかというルールを作っているはずだ。その際、ユーザーの意図と反してUIが変更されるのは実に好ましくない。

 そういった意味では、発売時点で古いことは気になるものの、開発者側の一方的な都合でUIが変更されることなく、古くても長期間使えるUIが用意されていることは歓迎すべきだろう。


通常のLinkStationシリーズとどちらを選ぶか?

 最後に、個人的にも最も気になる点を書いておこう。バッファローがこれまでに発売してきた通常のLinkStationシリーズとどちらを選ぶべきかという点だ。

 正直、個人的には結論を出しにくい。Pogoplugの手軽さは何者にも代えがたいが、実際に使える機能としては従来のLinkStationシリーズも引けを取らない、もしくは従来シリーズの方が多機能なくらいだ。

 今回のLinkStation Cloud Editionシリーズでは、前述したCIFSファイル共有とPogoplugの機能に加えて、Mac OS X向けのTimeMachineバックアップ(Lionも可能)、BitTorrentクライアント機能が搭載されており、スケジュールによる電源ON/OFF機能にも対応している(プリンタ共有とDLNAサーバ機能はPogoplugの機能で実装)。

 これに対して、通常のLinkStationシリーズの場合、同じ筐体を採用したLS-X1.0TLJを見てみると、価格は1TBモデルで21,000円と若干安い一方で、ファイル共有(CIFS/AFP)に加え、FTPにも対応しているうえ、共有フォルダのゴミ箱機能に対応している。

従来のLinkStationシリーズも機能は豊富。特に共有フォルダのゴミ箱機能やネットサービス連携などは便利。リモートアクセス機能も完成度は高い

 リモートアクセスについては、WebAccessによって実現可能で、iPhone/Android用のアプリも提供されている。このアプリは、NASのリモートアクセス機能向けとしては、国内外の製品の中では、かなり高機能で使いやすいアプリとなっており、Android版アプリの完成度がイマイチなPogoplugよりも使いやすい場合もある。

 このほか、FlickrやEye-Fiとの連携機能なども搭載するなど付加機能も豊富だ。もう少し費用を出して、LS-V1.0TLJ(25,300円)まで出せば、DTCP-IP(スカパー!HD録画やダビング)などの機能までも手に入るうえ、パフォーマンスもワンランク上になる。

 今回のCS-X1.0も、Pogoplugのドライブマップ経由よりCIFS経由での方が速いなどの違いはあるが、CrystalDiskMarkの値そのものは悪くないので、実用上のパフォーマンスには何ら問題はない。しかしながら、より高速で多機能な製品が同価格帯に存在することは大いに迷う点だ。

CIFS経由でのアクセス(左)とPogoplugのユーティリティを使ったドライブ経由でのアクセス(右)。CIFSの方がランダムライトを中心にパフォーマンスが全体的に高い

 個人的には、WebAccessの完成度が高いので、せっかくバッファロー製品を選ぶなら、オリジナルのLinkStationを選ぶメリットが大きいような気がする。また、CIFS+Pogoplugという組み合わせであれば、Windows Server上でソフトウェア版を動かすという手もあるので、従来版LinkStationに対する明確なメリットが見えにくい。

 つまり、ハードウェア版のPogoplugと比べると、+CIFSというメリットが大きいが、ライバルとして従来版LinkStationやソフトウェア版Pogoplugを考えると、若干、微妙な印象を受ける。ここをどう考えるかが、購入するかどうかの決め手となるだろう。


Pogoplugの今後も気になるところ

 ちなみに、Pogoplugは、これまでのアプライアンス型のソリューションから、オンラインストレージを提供するサービス主体のソリューションへと、企業としての中核業務を変更しつつある。

 実際、同社のサイトにアクセスすると、5GBのフリーの「MY CLOUD」を作ることが大きく案内されており、この領域を拡張するための有料サービスの紹介に重きが置かれ、従来のアプライアンスやソフトウェア版の存在感は、だいぶ薄くなったように見える。

 ユーザーのハードウェアをクラウド化するという発想をあきらめたのか、それとも自らハードウェアを提供することをあきらめ、今回のLinkStation Cloud EditionのようなOEMに特化していくのか、その真意はわからないが、いずれにせよ今後、どのような製品やサービスを提供していくのかが注目されるところだ。

 そう考えると、今回のLinkStation Cloud Editionのようなハードウェアが、今後登場するサービスとどのように融合していくのかが、今後の見所だろう。



関連情報



2011/12/6 06:00


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。