清水理史の「イニシャルB」

コンセント直結で使える手軽な無線LAN中継機 ロジテック「LAN-RPT01BK」

 ロジテックから、IEEE802.11n/b/gに準拠した無線LAN中継機が登場した。壁のコンセントに直結することで、既存のアクセスポイントとの間の通信を中継し、無線LANのエリアを広げることができる製品だ。その実力を検証してみた。

「欲しい」を形にした製品

 無線LANルーターを導入したものの、どうしても電波が届きにくいポイントがある――。

 3ストリームMIMOに256QAM、もう少しすれば80MHz幅も……など、無線LANの技術は格段に進歩してきたが、通信エリアに関する悩みは、まだまだ尽きることがない状況だ。

 高速でカバーエリアの広い製品は増えてきたものの、価格的な問題から、「通信機器」というジャンルの製品に、多くの投資をしようと考える人は少数派で、一般的には技術的に多少古くても安い製品が選ばれる傾向が強い。

 また、最近では、携帯電話事業者などから費用負担なしで提供された無線LANルーターを使う人も増えてきたが、このような製品は、MIMOなしの40MHz幅150Mbps対応など、技術的に1~2世代古い場合があり、最新機種並のカバーエリアを実現できるとは言いがたい状況にもある。

 個人的には、2.4GHz帯の限界を考えても、さっさと5GHz同時通信対応の最新の無線LANルーターに買い換えることをオススメしたいところだが、PC、タブレット、スマートフォン、ゲーム機など、すでに接続済みのクライアントの設定をやり直すことに抵抗を感じる人も少なくないようだ。

 そんな中、登場したのがロジテック株式会社の「LAN-RPT01BK」だ。親機となる無線LANルーターと子機となる機器の間で、無線LANの電波を中継する役割を持った中継機となっており、既存の無線LAN環境にプラスするだけで、通信エリアを拡大することができる。

 無線LANの通信エリアを広げたいけど、無線LANルーターを買い換えるのは避けたい、と考えていた人が、まさに「欲しい」と感じていた製品が登場したというわけだ。

無線LANの電波を中継することができるリピーター「LAN-RPT01BK」

残念なレイアウト

 それでは実際の製品を見ていこう。同じような無線LAN中継機、もしくは中継機としても設定できる無線LANルーターは、他にも存在するが、その中でも特徴的なのは、やはり本体のデザインだ。

 本体サイズは、幅32×奥行き26×高さ140mm、重量約48gと、手のひらサイズのコンパクトな設計となっており、背面に収納された電源コネクタを引き起こすことで、壁のコンセントに直結できるようになっている。

正面
側面
背面

 リリース発表後、多くのツイートが見られたように、本体のほぼ中央に突き出てしまう電源コネクタのレイアウトは残念の一言に尽き、2口のコンセントに直結すると、上下どちらに接続しても、もう片方のコンセントを使用不可能にしてしまうが、このサイズとコンセント直結という方式を実現したこと自体は評価したいところだ。

 せめて、上部のアンテナを本体側面から出すか、うまく内蔵すれば話は違ったが、現状は、2口占有する覚悟で使うか、電源タップなどを使ってうまく干渉を避けるしかないだろう。

コンセントを2口占有してしまうのが難点

 インターフェイス類は、シンプルで前面に無線LANの通信や接続状況、WPSの設定状況などを示す4つのランプを搭載し、側面にWPS設定用のボタン、底面に100BASE-TX対応の有線LANポートを搭載している。

 底面の有線LANポートは、公式ページでは「設定専用」とされているが、試した限りでは、接続した有線LAN端末から無線LAN経由でインターネットに接続することも可能となっており、補償外の使い方となるものの、Ethernetコンバーター的な使い方も不可能ではない。

 対応する規格は、無線LANについては、IEEE802.11n/b/gの2.4GHzのみで、送信2本受信2本のアンテナで最大300Mbpsの通信を可能としている。

 対応するモードは、汎用的なユニバーサルリピーターモード(WDSは非対応)で、メーカーを問わず、さまざまな無線LANルーターの中継に利用できるようになっている。無線LANの中継機には、このほかWDSリピーターモードを採用する製品もあるが、WDSのように1対多の接続ができないうえ、IEEE802.1x認証も使えないが、WPSで親機に接続するだけで使えるなど、手軽に使えるのが特徴だ。

底面には設定用の100BASE-TXポートを搭載。試してみたところ有線LANクライアントから無線で通信することも可能だった

WPS接続で親機と同じSSIDで自動構成

 使い方はとても簡単だ。コンセント直結となるため、初期設定のみ親機となる無線LANルーターの近くで作業する必要があるものの、電源を入れた後、親機のWPSボタンを押して設定モードへと移行させてから、続けてLAN-RPT01BKのWPSボタンを押して接続すればいい。

 本体のWPSランプが赤点滅から、青点灯に変われば、接続が確立され、LAN-RPT01BKに親機となる無線LANルーターと同じSSIDと暗号化の設定が適用される。こうして、クライアントからは、同じSSIDの親機が複数見える状況となり、電波の受信感度や速度などを考慮して、より高速な方を選んで接続できるようになるというわけだ。

側面のWPSボタンを使って親機に接続するだけと設定は簡単

 設定が出来たら、あとは設置したい場所のコンセントに移動すればいいのだが、問題は設置場所だろう。この基本的な考え方は以下の通りとなる。

1)電波の届かない場所の調査

 まず、中継機なしの状況で、電波が届かない、もしくは他の場所に比べて極端に無線LANの速度が遅くなる場所を判断する。スマートフォンなどを使い、電波状況をアンテナ表示や速度測定ツール、後述する受信感度判定ツールなどで判断するといいだろう。

2)電波が届く範囲を確認する

 続いて、今度は電波が届く場所を確認する。1で調査した電波が届かない場所から、無線LANルーターが設置してある方向へと徐々に移動し、同様にスマートフォンなどで電波の状況をチェックする。ギリギリ届く場所では中継機に届く電波も弱くなってしまうため、もう少し無線LANルーター側へと移動し、中継機にも十分に電波が届くことが確認できる場所の近辺にコンセントを探し、そこにLAN-RPT01BKを接続する。

3)通信をチェック

 1)で調べた電波の届かない場所に戻り、どれくらい通信環境が改善されているかをチェック。必要に応じて、中継機の場所やアンテナの方向を微調整する。

 くれぐれも避けたいのは、適当な場所にLAN-RPT01BKを設置しないことだ。たとえば、電波が届かない場所の近くにLAN-RPT01BKを設置しても、LAN-RPT01BK自体も無線LANルーターからの電波が届かない、もしくは弱ければ、その効果は得られないことになる。

 また、逆に親機となる無線LANルーターに近すぎると、親機から十分に電波が届く範囲にある端末からも、中継機経由での接続となってしまうため、速度が半減してしまう可能性がある。

 そもそも、無線LANでは、同じ周波数帯での通信を同意通空間上で、同一のタイミングで行なうことはできない。「親機-中継機-子機」という構成にすれば、親子間で1度で済んだ通信が、親機から中継機と中継機から子機というように2度に分割されることになる。すべての経路が300Mbpsであると仮定すれば、中継機がなしなら300Mbpsでの通信が可能なところ、中継機があるおかげで半分の150Mbpsになるということになる。

 よって、中継機を利用する場合は、電波が届きにくいことによる速度低下と、このような中継機を使うことによるしくみ上の速度低下のどちらの影響が大きいかをきちんと調査して利用しないと逆効果、もしくは思わぬ弊害を生むことにもなりかねない。

 面倒ではあるが、後述する調査ツールなどを使って、状況を検証しつつ、最適な場所を見つける工夫が必要と言えるだろう。

3階の速度は改善するが2階に中継の弊害も

 では、実際にどのような影響があるのかを検証してみよう。木造3階建ての筆者宅において、1階にauが利用者向けに提供しているau HOME SPOT CUBEを設置し、2階にLAN-RPT01BKを設置。各フロアで速度を測定したのが以下のグラフだ。

 au HOME SPOT CUBEは、IEEE802.11n/a/b/g技術を採用した最大150Mbpsの通信に対応した製品となる。LAN-RPT01BKは2.4GHzのみしかサポートしないが、参考として5GHz帯の速度も掲載している。

 また、バッファローのWZR-D1100Hを親機として利用した場合の値(中継なし時のみ)も参考値として掲載している。実は、LAN-RPT01BKとの組み合わせでもテストしてみたのだが、WZR-D1100Hの電波の届く範囲が広かったためか、上記の実験環境でクライアントから接続を試みても、LAN-RPT01BK経由で接続することができず、2F、3Fでも直接WZR-D1100Hに接続されてしまったため、中継機経由での値は掲載していない。

 クライアントのローミングの積極性の設定も影響している可能性はあるが、高性能な無線LANルーターととの組み合わせでは機能しない場合がある良い例と言えそうだ。

FTP転送速度
GETPUTLINK速度(Mbps)RSSI(dBm)接続先
au home spot中継なし5GHz(150Mbps)1F57.7380.92150-40au home spot
2F35.6639.281-74au home spot
3F32.7629.5981-79au home spot
中継なし2.4GHz(150Mbps)1F36.7741.8972-34au home spot
2F22.4617.8565-50au home spot
3F10.834.1326-60au home spot
LAN-RPT01BK2.4GHz(150Mbps)1F41.8944.97150-35au home spot
2F20.2315.5672-47Logitec
3F18.6716.41150-55Logitec
WZR-D1100H中継なし2.4GHz(450Mbps)1F75.7480.92270-41WZR-D1100H
2F67.3880.92240-54WZR-D1100H
3F63.9771.45216-60WZR-D1100H
LAN-RPT01BK2.4GHz(300Mbps)1F中継せずWZR-D1100H
2F中継せずWZR-D1100H
3F中継せずWZR-D1100H

 というわけで、グラフとしては中間の2つ、au HOME SPOT CUBEの中継機ありとLAN-RPT01BK利用時の結果に注目してみると、確かに3階での結果が向上している。

 中継機なしの場合は、PUTで4.13Mbps、GETで10.83Mbpsだったものが、PUT16.41Mbps、GET18.67Mbpsにまで向上した。LAN-RPT01BKを2階に設置したことで、届きにくかった1階の親機の電波が2階で中継され、3階まで届くようになったと考えて良いだろう。

 ただし、注目したいのが2階の結果だ。中継なしの場合、PUTで17.85Mbps、GETで22.46Mbpsだった速度が、LAN-RPT01BKを設置したことでPUTで15.56Mbps、GETで20.23Mbpsと落ちている。

 測定時の誤差と考えることもできるが、2階には1階からの電波が十分に届く範囲にあるにもかかわらず、中継機経由での通信になってしまったために、帯域が半減した影響が出ていると考えられる。

 要するに、今回のような設置方法の場合、3階の無線LAN環境は改善される一方で、LAN-RPT01BKを設置した2階までも、中継機経由となり、その影響を受けてしまったことになる。

 実際、電波の受信強度にどのような変化が見られるのかを調べた見たのが以下の画面だ。無線LANのチャネルの使用状況などを調査できる「InSSIDer」を利用して、3階から2階、1階へとクライアントを移動させながら、受信感度を比較してみた。

InSSIDerによるRSSIのグラフ。青がLAN-RPT01BK、黄色がau HOME SPOT CUBEを示す

 3階(左)ではLAN-RPT01BKの強度が強いが、2階(中間)では同じくらいになり、1階(右)ではau HOME SPOT CUBEの強度が高くなっている。3階では、明らかにLAN-RPT01BKを設置した効果が出ているが、2階では、その差が僅かでもあるにもかかわらず、中継機を経由する影響で帯域が半減し、受信強度の強化以上の速度低下が現れてしまったことになる。

 この場合、おそらくLAN-RPT01BKを思い切って3階に設置しなおすことで状況が改善できる可能性があるが、いずれにせよ、こうした調査をせずに設置すると、思わぬ弊害が出ることにもなりかねないというわけだ。

試行錯誤を惜しまず最適な場所を探るべき

 以上、ロジテックから発売された無線LAN中継機「LAN-RPT01BK」を実際に試してみたが、既存の無線LAN環境の設定を一切変更することなく、手軽に電波の届きにくい場所をカバーすることができる非常に興味深い製品と言える。

 本体のレイアウトに難があるためにコンセントを占有してしまうのが難点となるうえ、最適な置き場所を決めるまでに、調査や試行錯誤が必要だが、うまく設置できれば大きな効果を得ることができる。現状、どうしても無線LANの電波が届かないと悩んでいる人は試してみる価値がある製品と言えそうだ。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。