清水理史の「イニシャルB」
「拡張ボリューム」採用の新型NAS アイ・オー・データ機器「HDL6-H6」
(2014/2/3 06:00)
アイ・オー・データ機器から、高い信頼性を備えたビジネス向けのNAS「HDL6-H」シリーズが登場した。高い信頼性を持つWestern DigitalのWD RedをHDDに採用した点、拡張ボリュームと呼ばれる最新の仮想ファイルシステムを採用したのが特徴だ。実際に製品を使ってみた。
最大の特徴は「信頼性」
とにかく安心して使えるNASが欲しい――。
そう考えているのであれば、アイ・オー・データ機器から新たに登場したHDL6-Hシリーズは、なかなか良い選択肢となりそうだ。
高い信頼性で定評のあるWestern Digital社製の「WD Red」シリーズをHDDに採用し、HDDを含め3年という長期の保証を実現している点にも注目だが、「拡張ボリューム」と呼ばれる仮想ストレージ機能を新たに搭載している。
詳しくは後述するが、この拡張ボリュームは2台1組のHDDに対してファイル単位でデータを複製する機能だ。対になったHDDのうちの1台が故障してもデータが保持される上、仮に対になった3組のHDDのうちの1組にあたる2台のHDDが両方とも故障したとしても、他の2組のデータには影響を及ぼすことを避けることができる。パリティ演算が不要なことからアクセス速度が速く、リビルドも短時間で済むといったメリットもあり、従来のRAIDよりも柔軟な運用が可能になっているのが特徴だ。
現状、海外製品を中心に、NASは多機能な方向へと進化してきたが、これらの製品とは対照的に、NASの基本である信頼性に重きを置いて開発された製品と言えそうだ。
静かで振動も少ない良質な筐体
では、製品を見ていこう。まず、筐体だが、6ベイのNASとしては若干サイズが大きい印象はあるものの、かなり細かな部分にまで配慮された完成度の高い作りになっている。
フロントに装着されているホコリよけのカバーを上方向にスライドさせるようにして取り外すと、ゆったりと配置された6つのHDDベイが姿を現す。他社製のNASと比べると、かなりHDD同士の間隔が広く取られており、すき間からファンを通じて背景が見えるほどだ。
これはエアフローを考慮しての配置とのことだ。実際、季節的な影響はあるものの、今回のテスト中、設定画面から確認できる温度は38度前後と常に一定で、背面に配置された2機のファンも1500rpm前後で常にゆったりと、そして非常に静かに回転していた。これなら、過酷な環境で熱が問題になったり、冷却の代償として騒音が気になることもなさそうだ。
また、HDDの品質の高さも影響しているかもしれないが、とにかく振動が気にならないのに感心した。低価格のNASの場合、複数HDDの回転によって発生したうなるような振動に悩まされることがあるが、本製品では前面のアクセスランプを見ないと回転していることさえわからないほど振動が押さえ込まれている。
本体の剛性そのものも高く、さわるだけでも各部が非常にカッチリと組み上げられていることがわかるうえ、HDDトレイを差し込むときなどもレールのすき間を感じることなく、適度な堅さとともにスッとトレイを奥まで差し込み、カチリと固定することができる。目に見えない部分の品質にもかなり気を配っていることがうかがえる製品だ。
インターフェイス類は、背面側にLAN×2、USB3.0×2、USB2.0×1、RS-232C×1、VGA×1が搭載されており、上部にはPCI-Expressらしき拡張スロット用のカバーも用意されている。
一方、前面には、6台のHDDの動作状況を示すLEDが×6、USB2.0×1、POWER、STATUSを表すLED、カバー内部に電源ボタンとFuncボタンが配置されていることに加え、動作状況などを確認できる小型のディスプレイが搭載されている。
このディスプレイもまた秀逸で、何と日本語表示に対応している。NASの利用になれていないユーザーにとって、IPアドレスなどの各種設定やRAIDに関するアラートが英語で表示されると戸惑ってしまうことも珍しくない。しかし、本製品では「お知らせあり」、「RAID構成異常」など、漢字まで使った日本語でメッセージが表示される。
NASのトラブルでは、「なんか表示されてたけど、よくわからないから無視していた・・・・・・」などという理由で、トラブルが放置されたり、より深刻な事態を招くケースも珍しくないが、これなら、何も分からない社員がたまたまメッセージを目にしただけでも、その異常に気づくことができる。トラブルの早期発見と迅速な対処という意味では、これはとてもありがたい機能と言えそうだ。
シンプルで使いやすい拡張ボリューム
続いて、本製品の最大の特徴でもある「拡張ボリューム」について見ていこう。冒頭でも少し触れたが、拡張ボリュームは対になった2台のHDDに同じデータを書き込むことで冗長性を確保する機能だ。
具体的には、以下の図のように動作する。HDL6-H6のHDDは、AとA'、BとB'、CとC'のようなペアで構成されており、データが書き込まれると、内部的なロジックによって自動的にどのペアに書き込むかが判断され、各ペアの両方のHDDに同じデータが保存される。
ここでは便宜上、ファイル1がAとA'、ファイル2がBとB'、ファイル3がCとC'に書き込まれるとしたが、実際には容量などを考慮して書き込み先が決定される。実際、前面のLEDを見ながらファイルをコピーしてみると、その様子がよくわかる。
あるファイルをコピーするとAとA'が点滅したかと思えば、次のファイルはCとC'が点滅する。数十枚の写真などをまとめてコピーすれば、各LEDがまんべんなく点滅するといった具合だ。
では、これらのHDDのうち1台が故障すると、どうなるのだろうか? 試しにいくつかのファイルを書き込んだ状態で、1番目に装着されているAのHDDを取り外してみたとしよう。この場合、本体が障害を検知してビープ音が鳴るが、ファイル1はAとA'の両方に保存されているため、ネットワーク上のユーザーは特に何事もなかったかのように、A'上のデータを使って作業をすることができる。
この状態で、HDDを新品に交換すれば、自動的にリビルドが開始され、ものの数分(データ容量によって実際の時間は異なる)で、元の状態へと復元される。HDDを装着するだけで特に操作が必要ないのもメリットだが、とにかくリビルドがスピーディなことに感心した。
一般的なRAIDの場合、実際に保存されているデータがわずかだったとしても、HDDの交換によるリビルドは数時間にもおよぶ大作業となる。もちろん、バックグラウンドで実行されるが、NASへの負荷がかかるうえ、古いHDDなどの場合、リビルドの負荷が原因で、連鎖的にHDDが故障するといったケースもある。こういった作業が短時間で完了するのは、非常にありがたいところだ。
続いて、ペアのHDDの2台ともが故障した場合を見てみよう。この場合、書き込まれたデータには複製もろともアクセスできなくなるため、残念ながらデータは失われることになる。
しかし、注目してほしいのは、その被害が及ぶ範囲だ。拡張ボリュームの場合、被害がおよぶ範囲は、あくまでもそのペアの中で完結する。このため、AとA'が故障したとしても、BとB'、CとC'のHDDには何の影響も及ばず、そのまま運用し続けることができる。
RAID5であれば、2台のHDDの故障はシステム全体の崩壊につながるが、拡張ボリュームであれば、最悪の場合の被害を1/3にとどめることができるわけだ。
もちろん、RAID6を利用すれば最大で2台のHDDの故障にも対応できる。しかし、拡張ボリュームでは、ペアが崩壊しなければいいため、A+B+CやA+B'+Cなど、最悪3台のHDDが故障したとしても運用を続けることができる。これが、このシステムの強みだ。
また、HDDの組み合わせも柔軟に構成できるのもメリットだ。たとえば、AとA'は1TB×2、BとB'は2TB×2、CとC'は3TB×2といったような組み合わせができる。容量不足によるHDDのアップグレードも気軽にできるのもメリットの1つと言えそうだ。
なお、従来のRAIDにも対応しており、RAID 0/5/6での運用も可能だ。出荷時状態は拡張ボリュームとなっているので、必要に応じて後から変更するといいだろう。
高速な書き込みパフォーマンス
続いて、パフォーマンスについて見ていこう。以下は、Core i7 4770/RAM16GB/Intel I217-VのPCから、ネットワーク経由でCrystalDiskMark 3.0.2を実行したときの結果だ。
シーケンシャルのリードが50MB/sと控えめだが、書き込みはシーケンシャルで90MB/sを越えているうえ、ランダムの書き込みも優秀な結果を示している。これなら、複数ユーザーでデータを編集するといった用途はもちろんのこと、映像などの大容量データを扱う場合でも十分な性能を期待できそうだ。
使い勝手については、設定ページのレスポンスは良好なものの、若干、画面遷移が多いのが気になった。本製品で一新されたユーザーインターフェイスは、大きなアイコンを利用したわかりやすいものになっているのだが、細かく分類した各機能が1画面ごとに構成されるため、若干、画面の行き来が煩雑だ。
たとえば「共有」-「フォルダー」-「追加」で新しいフォルダーを追加後、ユーザーを追加したいとすると、再びホームに戻ってから、「ユーザー&グループ」-「ユーザー」-「追加」を選ぶ必要がある。要するに、実際の設定画面の各階層が深いため、他の設定に移動するのに手間がかかるのだ。
ユーザー追加画面からユーザー一覧の表示画面への移動など、一部の機能はショートカット用のボタンが表示されたり、いわゆる「ぱんくず」で移動することもできるのだが、操作に慣れてくるほど、この移動の多さが気になってくる。
また、ホーム画面に親カテゴリしか表示されないため、たとえばシステムの温度を確認したいと思っても、「情報」の下に設定があるのか、「システム」の下なのかが判断できない。このため、慣れないうちは、画面の行ったり来たりが頻繁に発生する。
全体的なツリー構造を表示したり、やりたい操作をベースにした逆引きのサイドメニューを用意したり、ホーム画面によく使う機能へのショートカットを配置するなど、もう少し、工夫が欲しいところだ。
パッケージの追加で機能拡張も可能n
機能的には、比較的シンプルで、標準ではMicrosftネットワーク共有(Active Directory連携も可能)、USBハードディスクへのバックアップ(USBハードディスクの暗号化にも対応)などとなっているが、このほか、同社のパッケージサーバーからインターネット経由での機能の追加に対応しており、後から機能を追加することが可能になっている。
発売時でのリリースが予定されているパッケージは、「Apple Share」、「FTP」、「クラウド同期(Amazon S3/Dropbox)」、「レプリケーション(HDL6-H6同士の同期)」の4つ。設定画面の「パッケージ管理」から簡単に追加することができる。
なお、現状のパッケージは、追加した機能が既存の機能にシームレスに組み込まれるようになっている。たとえば、「クラウド同期」のパッケージを追加しても、クラウド同期というアイコンがホームに追加されるわけでなく、共有フォルダーの設定画面にAmazon S3やDropboxと同期させるかどうかをオン/オフする設定が追加される。
最初は追加した機能をどこから設定すればいいのか迷うこともあるかもしれないので、よく確認して利用するといいだろう。
ビジネスシーンでおすすめの一台
以上、アイ・オー・データ機器から登場したHDL6-H6を実際に使ってみたが、非常に完成度の高い一台と言って良さそうだ。ハードウェアの作りの良さはもちろんだが、拡張ボリュームの使い勝手が非常にいい。リビルドの失敗などでRAIDにあまり良い思い出がない人は、ぜひ試してみて欲しいところだ。
また、サポート体制が整っているのも、本製品ならではの特徴と言えるだろう。冒頭で触れたHDD込みで3年の保証というのは、他社製品に対しての大きなアドバンテージとなるうえ、有料の保守サービスも充実している。ビジネスシーンでの利用を検討したい一台と言えそうだ。