清水理史の「イニシャルB」
スマホユーザーのためのリモートアクセス用NAS アイ・オー・データ機器「ポケドラCloud HLS-C500」
(2015/1/13 06:00)
アイ・オー・データから発売された「ポケドラCloud(HLS-Cシリーズ)」は、スマートフォン向けに最適化された小型NASだ。複数のルーターが存在する多段NATのケースでも外出先からのアクセスを可能にするなど、設定の手間がかからないような工夫がなされている。その実力をチェックしてみよう。
スマホデータの保存先に
NASと見るか、クラウドサービスととらえるか、それともハイブリッドと考えるか。
人によって、その判断は分かれそうなところだが、アイ・オー・データ機器から発売された「ポケドラCloud(HLS-Cシリーズ)」は、スマートフォンのデータの保存先として、新たな選択肢の1つとなりそうなデバイスだ。
基本的には、ネットワーク経由で利用できるハードディスク、いわゆるNASだが、スマートフォンでの利用に最適化されており、専用のアプリを使ってスマートフォンのデータを保存したり、保存したデータを参照したりできるようになっている。
同様の製品は、既存のNASやルーターにも搭載されているが、特筆すべきは、設置や初期設定、データの保存や参照など、スマートフォンからの利用が、とにかく簡単な点だ。
セットアップにPCは必要ないうえ、ルーターの多段構成やNAT越えの設定も意識する必要がなく、スマートフォンがWi-FiとLTEのどちらでつながっているのかも意識しなくて済むようになっており、NASのリモートアクセス機能としては、かなり考えて作り込まれている。
製品名の「Cloud」が示すように、OneDriveやDropboxなどのCloudサービスを置き換える存在になり得るか? と問われると、UIや機能面で好みが分かれる部分もあるが、少なくとも、既存のNASのリモートアクセス機能、それもスマートフォン向けのリモートアクス機能の中では、トップレベルの手軽さを備えていると言っていい製品だ。
想像以上にコンパクト
それでは、製品を見ていこう。本体は、丸みを帯びた三角柱のような個性的なデザインとなっており、サイズは幅85×高さ130×奥行き79mm、重量340gとなっている。
実際にパッケージから取り出して見ると、予想以上にコンパクトで、ちょっとしたペン立てくらいのサイズしかない。ファンレス仕様で動作音がほぼ無音となるうえ、通常時は前面のLEDが1つ緑に点灯するだけなので、リビングや自分の部屋に設置しても、まったく邪魔にならないだろう。
採用されているハードディスクは2.5インチで、500GBモデルの「HLS-C500(1万6500円)」、1TBモデルの「HLS-C1.0(2万2100円)」、2TBモデルの「HLS-C2.0(2万8800円)」の3モデルをラインナップする。NASと言うと、複数台のハードディスクを利用してRAIDを構成できる製品が多いが、本製品はシングルディスク構成となっている。データの信頼性よりも、価格や手軽さを優先した製品と考えるといいだろう。
ネットワークは有線LANのみの対応で、背面に1000BASE-T対応のポートが1つ搭載されている。せっかくならWi-Fiで、とも思えなくもないが、わざわざルーターから離れた場所に設置する利用もないうえ、PCやスマートフォンなど、複数の機器からの接続を受け付けることを考えると、やはり有線接続がベストだ。
誰でもスグに使える
初期設定に関しては、前述したように、非常によく作り込まれている。
簡単に流れを説明すると以下のようになる。
1.LANケーブル接続
2.電源接続
3.付属のカードからQRコードをスマートフォンで読み込み
4.「Remote Link 3」アプリをダウンロード
5.Remote Link 3で付属カード背面のQRコードを読み込み
6.管理者パスワードを設定
これで初期設定が完了し、スマートフォン上のアプリからデータを保存したり、保存したデータを参照できるようになる。
特筆すべきは、ルーターの構成や設定を意識しなくて済む点だ。通常、NASのリモートアクセス機能では、UPnPを利用してルーターのポートを転送する場合が多いが、ルーターによってはうまく設定できなかったり、ISPのルーター+無線LANルーターのような多段ルーター(多段NAT)の場合にうまく設定できない。
これに対して、本製品ではアイ・オー・データ機器がインターネット上に設置したセンターサーバーとの間にP2Pによるセッションを張ることで、外出先からのアクセスを可能にしている。
実際、NTT東日本のPR-500KIの背後に、ルーター構成のネットギア Nighthawk X4 R7500を接続した多段NATの構成でテストしてみたが、問題なくポケドラCloudを利用することができた。
Symmetric NAT(アクセス先によってマッピングするポートを変更するタイプのNAT方式)を採用しているルーターでは、うまく動作しないとのことだが、家庭向けのルーターの多くは問題なく利用できるだろう。
事前にどうしても確認しておきたい場合は、DiGiOnが配布している「DiXiM リモートアクセスサービスチェックツール」のような、ルーターのNATタイプを判定できるツールを使ってみるといいだろう。まったく別のサービス用のアプリとなるため、あくまでも目安でしかないが、結果がタイプ5以降で表示されるケースでは、同様にポケドラCloudを使えない可能性が高いと考えられる。
ポケドラCloud自体の設定も簡単だ。スマートフォン上のRemote Link 3アプリから変更可能で、新たに共有フォルダを作成したり、ユーザーを追加してアクセス権を設定するといった設定がすべて可能になっている。
とは言え、通常はこの設定画面すら利用しなくて済む。詳しくは後述するが、家族それぞれに自分専用のフォルダを用意したり、Dropboxとの同期機能を利用する場合は、設定画面へのアクセスが必要だが、単純にスマートフォンのデータを保存したり、参照するだけなら、標準設定のまま利用できるので、この設定画面さえ見なくて済むのだ。
NAT越えなどの動作を説明すると、小難しい話になってしまいがちだが、実際に使ううえでは、ユーザーは何も難しいことを意識しなくて済むのが、本製品のメリットと言えるだろう。
ファイルのアップロードは手動
実際のデータの保存、参照は、Remote Link 3アプリから実行する。今回は、Android版のアプリを利用したが、iOS向けのアプリも提供されており、いずれも無償で利用できる。
アプリを起動後、アクセス先を選択すると、「disk」という標準で作成済みの共有フォルダが表示されるので、タップする。
この状態で画面下の「接続機器に保存」をタップすると、スマートフォン上のストレージ(microSDカードにも切り替え可能)を参照できるので、アップロードしたいデータをタップして選択し、「アップロード」ボタンを押せばいい。
なお、複数ファイルを選択することは可能だが、フォルダそのものを選択することはできないので、あらかじめポケドラCloud側にも同じフォルダを作成しておき、フォルダ内のファイルを全選択してアップロードすることになる。
逆にデータを参照する場合は、一覧からタップするだけでかまわない。再生可能なフォーマットの写真や動画であれば、そのまま再生されるし、Textなどのファイルであればダウンロードされ、別のアプリで表示される。このあたりは、直感的に操作できるので、初めてでも簡単に扱えるはずだ。
なお、一部のクラウドサービスなどでは、アプリによって端末上のデータ(写真など)を自動的に同期することができるが、本製品ではスマートフォンの同期はサポートされない。
このあたりは、利用者の好みによって判断が分かれるところだろう。自宅のWiFi接続時に写真などをまとめて同期してくれた方がありがたいと考える人もいれば、自分の意識しないところでデータが勝手に同期されることは避けたいという人もいる。
本製品は後者向けと言えるが、やはり同期機能も搭載し、好みによってオン・オフできるようにしてくれた方が親切だろう。
NASならではの細かなアクセス制限が可能
このように、簡単な設定で手軽に使えるポケドラCloudだが、中身はNASなので、結構、しっかりとした使い方もできる。
例えば、家族それぞれのユーザーとフォルダを作成し、各ユーザーのみにアクセス権(読み取り/読み書き)を設定すれば、ユーザーの個人フォルダとしてプライバシーを守った使い方ができる(アクセス時はユーザーが許可されたフォルダしか表示されない)。
さすがにグループまで設定することはできないので、ビジネス用途には物足りないが、個人フォルダ、保護者だけがアクセスできるフォルダ、家族全員がアクセスできるフォルダなど、用途によってフォルダを使い分けることが可能だ。
USBポートを備えたルーターなどでは、フォルダごとにパスワードを設定することはできても、ユーザー単位でアクセス権を設定することはできないケースが多い。また、こういった共有フォルダとアクセス権の組み合わせは、個人向けのクラウドサービスも苦手とする分野だ。
このような点は、他のデバイスやサービスではなく、ポケドラCloudを選ぶ理由の1つとなるだろう。
また、共有フォルダに対しては、以下のサービスを必要に応じて設定することができる。
・Microsoftネットワーク共有
・マルチメディア共有
・リモートアクセス共有
・クラウドストレージ共有
Microsoftネットワーク共有は、PCから共有フォルダにアクセスする機能だ。標準の「disk」も有効になっている。
続いてのマルチメディア共有は、いわゆるDLNAサーバー機能だ。有効にすると、DLNAに対応したテレビなどで、本製品に保存されているメディア(写真、動画、音楽)を再生することができる。
リモートアクセス共有は、前述したRemote Link 3によるアクセスを有効にする機能だ。オフにしておけば、スマートフォン上のRemote Link 3からはアクセスできないLAN上でのみ有効な共有フォルダなどとしても利用できる。
最後のクラウドストレージ共有は、Dropbox、フレッツ・あずけ~る、および別のポケドラCloudなどRemote Link Cloud Sync機能をサポートした機器同士でデータを同期する機能だ。
例えば、Dropboxの場合であれば、クラウドストレージ共有を有効後、Dropbox側でアプリからのアクセスを許可すると、Dropbox上の自分の領域とポケドラCloudの指定したフォルダが自動的に同期される。
アップロードできるファイル(ポケドラCloud→Dropbox)の容量が1ファイル300MBまで、同期対象となる1フォルダの直下に存在するファイルとフォルダは10000までという制限があるうえ、同期にはかなり時間がかかるが(目安は2GB前後で1~2時間)、有効にしておくことで同じデータがポケドラCloud上にも自動的にコピーされる。
同期させたまま併用すると、かえって複雑になりそうなので、あまりおすすめしないが、Dropbox上のデータをバックアップしたり、DropboxからポケドラCloudに利用環境を移行することが簡単にできるだろう。
PCからのアクセスは少々面倒
PCからのアクセスは、前述したMicrosoftネットワーク共有以外に、「http://rm3.iobb.net」を利用して外出先からアクセスすることもできるが、このアプリからのアクセスは少々面倒だ。
Remote Link 3では、利用時の認証に、ユーザー名とパスワード、PINコードの3つの要素が利用される。スマートフォン版のアプリでは、これらの情報が保存されるのだが、PCでは接続時に毎回入力する必要がある。
中でも最も長いPINコード「xxA038xxx56911xxx13234xxx5540xxx(一部伏せ字)」は、記憶することがほぼ不可能となるため、接続するには事前にメモしておくか、スマートフォンのRemote Link 3でいったん接続して設定画面から確認しなければならない。
もしくは、PC向けのソフトとして「Remote Link PC Sync」と呼ばれる同期ツールも提供されており、このツールからもPINコードも確認できるので活用するといいだろう。
なお、Remote Link PC Syncは、PC上のフォルダとポケドラCloudの共有フォルダを同期させることができるツールだが、最大5つまで同期対象を設定することが可能となっている。前述したように、家族の共有フォルダ、個人のフォルダなどと使い分けている場合でも、同期させることが可能だ。
入門用NASとしておすすめ
以上、アイ・オー・データ機器のポケドラCloudを実際に使ってみたが、手軽さを前面に押し出しながらも、NASとしての利便性も兼ね備えており、なかなか完成度の高い製品と言える。
アクセス速度は以下のように、決して高速とは言えないが、スマートフォンのデータ保存先としてはもちろんのこと、NASの入門用としても良い選択と言える。
ただし、Dropboxなど、既存のクラウドサービスの機能をフルに活用しているようなケースでは、おそらく機能的に物足りなく感じる場合もありそうだ。ターゲットとなるのは、現在、無料サービスを利用している場合で、今後、有料サービスに移行するかどうかを悩んでいるようなケースとなりそうだ。