10代のネット利用を追う

中高生がネットの啓発動画を制作・公開する作戦「ウェブレンジャー」でGoogleが目指すもの

 6月7日、グーグル株式会社(Google)が「ウェブレンジャープログラム」の表彰式を行った。ウェブレンジャープログラムとは、全国の中学生、高校生、高等専門学校生を対象とした、インターネットを安心・安全を広めるためのプログラム。これに応募したウェブレンジャーは、活動を紹介する動画をYouTubeにアップする仕組みだ。

 表彰式では、「nextlav」「Tkakarian.Project」「koryo1011」「超平和レンジャー」の4組にアンバサダー賞が、「大里中学校ウェブレンジャー」にアンバサダー奨励賞が贈られた。これらの動画は、サイト上で一般公開されている。

 なぜ、Googleがこのようなプロジェクトを始めたのか、Googleの目指すもの、そして受賞者たちの声を聞いた。

イスラエル発祥で世界に広がる

 ウェブレンジャープログラムは、日本では今回が初開催。全国67校(中学校2,高校・高専46)から125チーム・314人(中学生70人、高校・高専生244人)が参加。3月にはトレーニングセッションとして、インターネットの危険性、効果的なキャンペーンの作り方、魅力的な動画についての講習も行われた。「伝えたいメッセージが明確か(Message)」「伝える方法がユニークでイノベーティブか(Innovative)」「多くの人に伝わったか(Impact)」という3点の審査基準に則ってGoogleの社員や外部関係者が審査し、授賞チームを決定した。

 ウェブレンジャープログラムは、もともとは2012年、Googleのイスラエル支部で始まったもの。評判がよかったため、全世界の支部に広がった。これまでに、欧州、南米、フィリピン、インド、ニュージーランド、コロンビア、メキシコ、アルゼンチンなどで開催されている。

 例えばニュージーランドのチームは、オンライン上で見かけるようなネガティブな言葉、ポジティブな言葉に対して、人はどのような反応を示すかについて路上で実験を行っている。トルコのチームは、インターネット上で個人情報が漏れる危険性について、透明なビニールの服の上に住所やメールアドレス、電話番号、パスワードなどの個人情報をポストイットで付けて登校。友人経由で個人情報が漏れていくことを動画で表現している。チェコのチームは、フィッシング詐欺の被害に遭わないためのゲームを開発し、サイト上で公開している。

グーグル株式会社広報部マネージャーの富永紗くら氏

 ウェブレンジャー作戦本部にも参加したGoogleの富永紗くら氏(グーグル株式会社広報部マネージャー)は、「大人だとできないことが多く、情報が波及していかない。一方、ティーンは大人の言うことは聞かないが、仲間の言うことは聞く。だからティーンにやってもらいたかった。彼らは本当にデジタルネイティブ。大人が思いも付かないアイデアを出し、しかも人を巻き込んでいる」と企画意図を説明する。

 「初回としては満足な応募数であり、関係省庁などの協力も得られた」と、今後も継続を検討中。応募された動画は、ネットいじめ、個人情報、落とし穴などバランスよくいろいろなテーマが取り上げられていたという。

 「技術は人がどんな使い方をするかによる。知識を持ってうまく使っていってもらいたいし、ウェブレンジャーになった皆さんにはこれからも活動を続けていってほしい」(富永氏)。

Googleの安心・安全の取り組みの一環として開催

 表彰式は、クリエイターが動画を作って発信するスタジオ「YouTubeスペース東京」で行われた。リテラシーを啓蒙する会ということで、「写真撮影はOKだが、公開する場合は友達に確認を」など、事前にルール確認されていた。

 開会あいさつとしてGoogleの徳生裕人氏(グーグル株式会社製品開発本部長)は、「Googleはインターネットをどうやって安全にするかという課題に取り組んでいる。SSLを使っているサイトの方が検索結果に出やすいなどの工夫はしているが、それだけではなくみんなの力を借りようと考えた」という。

 車のように100年前にできたものならルールやマナーがあるが、ネットは新しいものであり、ルールはこれから決めていかなければならない。「知らないことで被害者になるだけでなく、加害者になることもある。安心安全を広める伝道師として、意識を変えるきっかけとなってほしい」とまとめた。

グーグル株式会社製品開発本部長の徳生裕人氏

 外部審査員の尾花紀子氏は、「デジタルをデジタルに終わらせず、リアルに向かったところがよかった」と全体を高く評価。講評通り、保護者に働きかけたり、ゲームを通してリテラシーが身に付けられたり、ワンクリック詐欺を体感できたりなど、リアルに落とし込めたものが高評価とつながったようだ。

 受賞者には、YouTubeスペース東京のスタジオで受賞動画の紹介動画を撮影してもらえるという特典も用意されていた。

YouTubeスペース東京

ネットで知り合い協力して作成したチームも

 「nextlav」は、ネットの落とし穴が分かるスマートフォン向け人生ゲーム「ネットで生きる」を作成・公開してグランプリを受賞した。メンバーは埼玉県の高校2年生2人と北海道の高校2年生徒1人。中心となる2人はもともとオンラインゲームつながりで知り合い、Skype友達だった。「プログラミングの勉強がしたい」と話し合う仲であり、YouTube活動も行っていたという。アニメーション制作を描いたアニメ「SHIROBAKO」に刺激を受けて生まれたのがこのゲームだ。「メンバーと距離が遠いので、やりとりにGoogle ドライブを利用するなど工夫した。正解が明らかだとつまらないので、プレイヤーに判断してもらえるようにシナリオや選択肢部分に苦心した」という。

人生ゲーム「ネットで生きる」

 山形県の高校3年生女子3人組「koryo1011」は、「どうして消えないの?」という動画で受賞した。問題ある画像をアップロードすると、炎上により一気に拡散して消せなくなってしまうことがある。その危険性を彼女たちは、1000枚以上の画像を印刷して校内に貼って表現した。動画では、ある女子高生が学校の窓に書いた落書きの前でピースした写真を、「面白いから」という理由でアップロードする。すると、それが瞬く間に拡散し、気付くと校内がその画像で埋まってしまう。友達を呼んではがしていくがはがしきれない……というものだ。テーマは「みんながよくやってしまうから」という理由で、KJ法を使って決定。動画に出演する友人を集めるのに苦労したが、結果的に約30人が集まり、一気に撮影したそうだ。

どうして消えないの

 「超平和レンジャーズ」は山形県の高校3年生男子3人組。「ネット犯罪防止ドッキリ! 超平和レンジャーズの挑戦」で受賞した。ワンクリック詐欺への注意喚起のために、校舎の入り口に赤いボタンを押すとお菓子がもらえる仕掛けを設置。同級生がだまされてボタンを押すと、般若面の人が現れて「登録料を支払え」と言うドッキリ企画だ。「高校生活の想い出として動画投稿したかった。何かバカなことをしたかった」と参加を決めた。動画撮影は初めての上、Googleのトレーニングセッションにも参加できなかったため、トレーニングセッションレポートを読み込み、独力で学んで作り上げたという。

「ネット犯罪防止ドッキリ!」超平和レンジャーズの挑戦

 「Tkakarian.Project」は埼玉県の高校3年生2人組だ。「ネット戦隊!ウェブレンジャー!」という、その名の通りウェブレンジャーの活躍を描いたショートムービーを作成した。内容は、青いタイツとかぶり物をかぶったウェブレンジャーが少年のもとを訪れ、毎回、コント調に1テーマを教えていくというもの。ウェブレンジャープログラムのことはニュースサイトで知り、「受験前にやりたかった。見た途端、面白そうだと決めた」という彼ら。個人での参加のため、友達に協力してもらって拡散したという。1人がアイデアを出し、もう1人は以前から仲間内限定で動画を作成・公開していたため、編集を担当した。動画を公開したことで周囲から反響があり、ウェブレンジャー役の生徒は「映画泥棒の役をやることになった」という。

ネット戦隊!ウェブレンジャー!×1.5倍速版

 なお、奨励賞となった「大里中学校ウェブレンジャー」は受賞者の中で唯一の中学生チーム。技術部仲間の3人組で、「動画編集がやりたい」と参加した。ウェブフィルタリングには効果があるものの、「生徒が自分で自分にフィルタリングをかけることは難しい」と判断し、対象を保護者に決めた。3つのフィルタリングソフトをテストし、使いやすいものを決定。当日は、全校に呼び掛けて集まった約20人の保護者に対してインストールの手順を説明した。

 動画編集テクニックはもちろん、実際に人を集めて撮影したり、保護者に呼び掛けたりというその行動力に驚かされた。このウェブレンジャープログラムは、動画作成というモチベーションがあって楽しんで取り組める上、テーマ決定の際にネットの問題についても考えられる。これを参考に、各学校などで導入してもよい効果が得られるのではないだろうか。

高橋 暁子

小学校教員、ウェブ編集者を経てITジャーナリストに。Facebook、Twitter、mixi などのSNSに詳しく、「Facebook×Twitterで儲かる会社に変わる本」(日本実業出版社)、「Facebook+Twitter販促の教科書」(翔泳社)など著作多数。PCとケータイを含めたウェブサービス、ネットコミュニケーション、ネットと教育、ネットと経営・ビジネスなどの、“人”が関わるネット全般に興味を持ってる。http://akiakatsuki.com/