イベントレポート

第22回東京国際ブックフェア

書店、出版社が図書館向け電子書籍貸出サービスへ望むこと

 「第22回東京国際ブックフェア」で1日、日本電子図書館サービス(JDLS)の公開セミナー「電子書籍の新たな形!? 出版社が期待する電子図書館サービスの役割について」が行われた。登壇者は、山口貴氏(JDLS代表取締役社長)、井上伸一郎氏(KADOKAWA代表取締役)、吉井順一氏(IDPF理事)、高井昌史氏(紀伊國屋書店代表取締役社長)。コーディネーターは湯浅俊彦氏(立命館大学文学部教授)。

 JDLSは、講談社、KADOKAWA、紀伊國屋書店の出資によって設立された会社で、この4月に図書館向け電子書籍貸出サービス「LibrariE(ライブラリエ)」をスタートした。本セミナーは、来年4月に施行される「障害者差別解消法」や教育のICT化促進など、電子図書館へのニーズが高まる中、出版社、書店それぞれの視点から、電子図書館に対する意見や希望・未来像について討論する場という位置付けだ。

図書館で借りた本を後に紙・電子で購入した人は32%

 まずJDLSの山口氏から、日本の公共図書館における電子書籍貸出サービスの現状とアメリカとの比較、そして、JDLSのビジネスモデルや半年間の実証実験についての報告があった。日本に公共図書館設置自治体は1300あるが、電子書籍貸出サービスを導入しているのはわずかに31館、導入率はたったの2.3%だ。

JDLS代表取締役社長の山口貴氏

 それに対し、アメリカの公共図書館への電子書籍貸出サービス導入率は95%超。人口が2万5000人を超える地域ではほぼ100%だという。電子書籍貸出ライセンスの購入費も、2014年には図書館資料予算の7%以上を占めるようになっているとのこと。

 アメリカの場合、大手出版社が図書館向けへ積極的にライセンス提供しているところが日本との大きな違い、と山口氏。アメリカでも期限付きライセンスという契約形態が7割以上を占めており、JDLSの販売モデル構築の参考にしたという。

 JDLSのアクセス権販売モデルは以下の3つ。

 ・ワンコピー/ワンユーザー型(基本)
 ・都度課金型(更新時のみ)
 ・ワンコピー/マルチユーザー型(教育現場向け)

 JDLSは2014年10月から半年間、山中湖情報創造館と稲城市立図書館で、電子書籍貸出サービスの実証実験を行った。期間中、1851コンテンツに対し2館合わせ3000冊以上の利用があったそうだ。利用者の年代は、40〜50代がボリュームゾーン。文芸に限らず、社会科学や技術書など、幅広いジャンルの本が貸出されたそうだ。

 利用者アンケートの結果で興味深いのは、電子書籍貸出サービスで読んだ本のうち「購入したい」と思った本がある人が半数、実際購入に至った人が32%いるという点。借りた本の32%ではなく、利用者の32%である点に留意する必要はあるが、「無料サービスの利用者が購入へ至る率」として考えると決して悪くない数字だ。

 なお、電子書籍貸出サービスをアメリカ公共図書館の90%以上に導入しているOverDriveは、ワンコピー/ワンユーザー型のモデルで貸出待ちになる画面に“Buy it Now”ボタンを設置し大きな成果を生んでいると言われている。

書店の立場でも、早く公共図書館へ電子書籍が普及して欲しい

 続いて高井氏から、紀伊國屋書店としての立場から、公共図書館における電子書籍貸出サービスについての要望が述べられた。紀伊國屋書店は、大学図書館向けに電子ジャーナルの販売や電子書籍貸出サービス「NetLibrary」を提供しており、JDLSにも出資するなど、電子図書館には積極的だ。

紀伊國屋書店代表取締役社長の高井昌史氏

 高井氏は、図書館の役割は一般読者や市民が手の届かない高額な本や、教育に貢献する専門書などを充実させることが第一だという。ところが昨今の公共図書館は、市民の要望に求めて発売間もない新書やベストセラーを何十冊も入れてしまい(※1)、住民サービスという名の元に貸出数を競うようになってしまっていると不満を述べる。また、公共図書館の年間貸出数は(※2)は書籍の販売冊数(※3)を超えており、これでは書店も出版社も売上機会喪失だと思ってしまうとのこと。

 貸出待ちが数百人という状況や、借りて返さない人への督促状、督促電話などの費用や時間について指摘。自動返却される電子書籍を、公共図書館には普及していくべきだと高井氏。JDLSが図書館貸出でもしっかり著者に還元されるモデルを作り上げてくれたので、図書館は早く複本をやめ、電子書籍貸出へ移行して欲しいと希望を述べた。

※1 いわゆる「複本問題」。2003年に日本図書館協会と日本書籍出版協会が実施した調査によっていったん沈静化したが、今年になって「新潮45」2月号の特集などで再び主張する人が現れている。
※2 個人・団体合計で7億1828万点、ただし書籍以外の視聴覚資料も含まれる。日本図書館協会調べ(2014年)。
※3 推計6億4461万冊。出版科学研究所調べ(2014年)。

図書館で借りられても著者が潤うモデルを作っていただいた

 次いで、KADOKAWAの井上氏は出版社の立場から、「図書館で借りられても著者が潤うモデルを作っていただいた」と、JDLSの方針を支持した。販売額減、書店数減という傾向は、顧客の喪失であり危惧しているという。

KADOKAWA代表取締役の井上伸一郎氏

 一方、明るい話題としては、電子書籍市場が成長中であり、KADOKAWAの売上も右肩上がり。2013年は対前年比446%、2014年は158%、2015年は131%成長見込みだという。電子書籍を売り始めると紙書籍の売上が食われてしまうのではという危惧も以前はあったが、むしろサイマル配信(紙と電子を同時発売)した方が紙の本も売れるということが分かってきたそうだ。

 ひとつ危惧しているのは、イギリス公共図書館の電子書籍貸出サービス実証実験で、本の購入に繋がっていないという結果が公表された点。KADOKAWA社内でもこのニュースは、大変な衝撃を持って受け止められているという。ぜひこの件について意見を伺いたいと、吉井氏にバトンを渡した。

アメリカでは図書館がテストマーケティングの場に使われている

 IDPF理事の吉井氏は、海外の事例を中心に話をした。アメリカの図書館は標準化が進んでおり、“Your own device”すなわち、Kindle、Kobo、Readerなどの専用端末であろうが、スマートフォン/タブレットであろうが、パソコンであろうが、何でも自分が持っている端末で借りられる状況にあるとのこと。

 また、日本より役割分担がはっきりしており、出版社の存在価値は著者に利益を返すことが最大で、著者もライフタイムバリューを最大化してくれる出版社とつきあう。そのための仲介をするエージェントも存在している。つまり、紙もデジタルも、販売も貸出も、すべて含め利益の最大化を図っているそうだ。

IDPF理事の吉井順一氏

 ただ、アメリカでのISBN発行数は年間46万点。それだけの新刊が出る中で、どうやって本を紹介するかが課題になっているという。そこでOverDriveをはじめとする電子図書館サービスが、テストマーケティングのツールとして活用されているという。発売半年前から書誌情報を電子図書館サービスに載せ、ユーザーの反響を発行部数の参考にするようなことも行われているそうだ。

 井上氏が危惧していたイギリスのケースは、電子書籍市場シェアの95%をAmazonが握ってしまっている状況で、“Your own device”にできないから成果が出しにくかったのではないかという推測を述べた。他には、ドイツではTrinoがAmazonといい勝負をしていること、フランスではAmazonを標的とした法律を次々と作ってなんとか締め出そうとしていることなどを紹介した。

出版社が及び腰なのは著者を理解させられていないから

 高井氏は、公共図書館によって発展したアメリカとは異なり、日本は書店がその役割を担っていたという。ところが今は書店と図書館の立場が逆転してしまい、異常に図書館が発達して便利になってしまったことで、作家が食べられなくなっているという持論を述べた。このままでは日本の文化が守れなくなるから、発売から1年間は図書館へ入庫するなという運動をしていこうと思っているそうだ。

立命館大学文学部教授の湯浅俊彦氏

 立命館大学文学部教授の湯浅氏は、高井氏の意見を踏まえ、要するに著者にちゃんとお金を回す仕組みが重要と山口氏に話を振る。前述のOverDriveのように、JDLSでも年内には電子書籍貸出サービスから購入への導線を用意する予定とのこと。図書館利用者を「本を買う読者」にしていく意向だ。

 また、湯浅氏は井上氏に、日本で多くの出版社がまだ電子書籍貸出サービスに及び腰なのはなぜか? と質問。井上氏は、出版社自身がまだ否定的であったり不安であったりするので、著者にメリットを理解させられないのが理由ではないかと推測する。新しいものが出てくると必ず不安が生まれるものなので、そこは実証によって払拭していくしかないと語る。

 湯浅氏は、出版業界は新たな図書館像を構築する時であり、電子図書館を出版ビジネスの新展開と積極的に捉えよう、電子出版と電子図書館は競合ではないと締めくくった。

(鷹野 凌)