インタビュー

創業30周年を迎えたニフティ、「IoTでナンバーワン企業を目指す!」~三竹兼司社長インタビュー

 ニフティが、1986年2月4日にエヌ・アイ・エフとして設立してからちょうど30年を迎えた。設立当初は、富士通と日商岩井が50%ずつ出資するパソコン通信サービス企業としてスタート。CompuServeの国内販売を経て、1987年にはNIFTY-Serveのサービスを開始。パソコン通信時代をリードしてきた。現在では、ISP事業、ウェブサービス事業、クラウド事業の3つの柱で展開。今後は、IoTへの取り組みを加速させる姿勢を見せる。ニフティ株式会社代表取締役社長の三竹兼司氏に、これまでのニフティと、これからのニフティについて聞いた。

ニフティ株式会社代表取締役社長の三竹兼司氏

ネットワークの変化に対応した30年間

――2016年2月4日に、ニフティが創業30周年を迎えました。どんな気持ちでこの日を迎えましたか。

 今日、30周年を迎えることができたのは、多くのお客様に、長年に渡って支えられてきたことが大きいといえます。その点に対しては、本当に感謝を申し上げたいと思います。また、ニフティのビジネスは1社ですべてを開発して、サービスを提供するというものではありませんから、数多くのパートナーの存在も見逃せません。そして、創業期から尽力されたOBの方々、そして現在のニフティを支えている社員の努力も欠かせません。多くの人に支えられて、30年目の今日があるといえます。

 ニフティは、1986年2月4日に、富士通と日商岩井が50%ずつ出資するパソコン通信サービス企業「エヌ・アイ・エフ」としてスタートしました。当時の富士通にとってみれば、商社との合弁会社という、まさに異文化の中での事業運営であり、ベンチャーという言葉が当てはまる企業だったといえます。パソコン通信の利用拡大に伴い、ISP事業を拡大し、その後のインターネット時代の幕開けとともにインターネット接続サービスや、ウェブサービス事業を拡大。そして、2010年1月からはクラウド事業を開始し、この30年間に渡って、ネットワークに関するサービスを提供し続けてきました。時代の流れに合わせて、持っているものを少しずつ変えながら、事業を展開してきたというわけです。

 例えば、クラウド事業の発端は、ウェブサービスを展開する上で、早い段階から仮想化技術に着目し、これを社内で運用し、そのノウハウを生かして、事業化したという背景があります。それまではウェブサービスを開始するたびにサーバーを立てて、提供開始までに2~3カ月間もの期間が必要でしたが、仮想化技術を活用することで、そうした時間やコストが不要になった。その繰り返しが社内でクラウドに関するノウハウを蓄積することにつながり、それがベースとなってクラウドサービスが始まっています。経験の積み重ねが、今のニフティの事業を構成しているといっていいでしょう。

――ニフティには、ISP事業、ウェブサービス事業、そしてクラウド事業の3つの事業の柱があります。しかし、ISP事業は2015年度見通しで、年初から減益計画を打ち出していました。固定系接続会員数の減少もあり、かなり厳しい局面に入ってきたように感じますが。

 2015年度通期業績見通しの中で、ISP事業を減益計画としていたのには理由があります。ご存知のように、2015年から光回線サービスの卸売りが始まり、事業者間の競争が激しくなることが予想され、それに向けた費用を計上していたことが背景にあります。当社で言えば、@nifty光での転用、あるいはコラボ商品の展開ということになります。しかし、これが、予想を大きく外れるほど動かなかった。これは当社だけではなく、業界全体の動きだったといえます。むしろ、ようやく今年からお客様に認知され始めるのではないかという声も出ているほどです。

 当社では、需要が本格化すると見られた2015年4月以降、かなりの席数を確保して、テレマーケティングを展開したのですが、その当時は、お客様にいくら説明してもそのメリットがなかなか伝わらず、数字には結び付かなかったというのが正直なところです。月々1000円安くなるということを提示しても、それで動こうとする顧客が少なかった。裏を返せば、やめるという顧客も少なかったわけです。本来ならば、ここで自社コラボ商品による契約数を増やしておけば、一時的に収益は悪化しても、卸販売による一顧客あたりの利益が上昇しますから、将来につながるという目論見があったわけですが、それが大きな空振りとなってしまった。第1四半期にかなり多くの赤字を計上することになったのは、それが理由です。

 結果としては、会員数の増加も今年度は限定的となります。この計画はもともとブレーキを踏むことを目的としたものではなく、将来に向けての種まきという意味があったのですが、予想外の結果に、第2四半期以降は若干ブレーキを踏まざるを得ない状況になったのは事実です。

 とはいえ、全社業績では、第3四半期累計では赤字となっていますが、第3四半期単独では黒字化していますし、2015年度の営業利益14億円という黒字目標は、コストダウンや広告事業の成長、クラウド事業の成果などを含めて、なんとか達成したいと考えています。

 一方で、2016年は、ここに手を打たなければ、会員数が減少するということにもつながる可能性がありますから、市場の動きを見ながら@nifty光の提案をもう一度進める必要があると判断すれば、それをやっていきたいですね。ここは、慎重に考えていくつもりです。

 また、4月からは、電力小売全面自由化がスタートしますから、そこに向けても何かしら手を打ちたいと考えています。ネットワークは、電気、ガスとともに家庭における重要インフラですし、電力の見える化の動きや、ホームセキュリティの提案と連動した提案もできるのではないかと考えています。

 さらに、LTE高速データ通信・音声通話対応のMVNOサービス「NifMo」は、会員獲得に力を入れ、月1万人の新規会員を獲得するという水準までは行きましたが、まだ収益を生む会員数までには至っていません。これは来年度以降の課題となります。もちろん、NifMoのサービスそのものて収益を生むことは大切であり、2016年度中には単月黒字化を目指しますが、その一方で、さまざまなネットワーク手段を持つことでビジネスの幅が広がるというきっかけになる点で、この取り組みにメリットを感じています。手の打ち方が広がり、IoTの展開においてもプラスに働くと考えていますし、さまざまなサービスを提供する上で、NifMoを積極的に活用していきたいですね。ISP事業は、固定系接続会員数の減少という点は確かにありますが、手の打ち方はまだまだあると考えています。

――ウェブサービス事業の成長についてはどうですか。

 検索や広告の仕組みを、PCベースで作り上げてきたものが多く、PC利用者の減少に伴って、ここの収益は微減となっています。ただ、当社会員の場合にはターゲットが明確化しやすいですから、それを生かした広告提案などが依然として強みになっているのは事実です。一方で、スマホアプリに注力しており、今後は、この分野の成長を期待しています。

 さらに、不動産情報やホテル情報、保険情報、スポーツジム情報、温泉情報などを提供するマーケットプレイス型事業は、ようやく利益を生む状況になってきました。今後は、リアルとの連動部分にさらに力を注ぎたいと思っています。温泉情報では、外国人の利用も増えていますし、子会社のクリニック・動物病院向けに各種医療材料を販売するプロミクロスと連携したペット向けサービスも用意したいと考えています。マーケットプレイス型事業では、今後どんなサービスが登場するのか、ぜひ楽しみにしていただきたいですね。

2017年にクラウド事業100億円を目指す

――クラウド事業は、2015年度は二けた成長を遂げ、60億円の事業規模にまで拡大してきましたね。

 ニフティクラウドは、当初エンターテインメント系の利用が多かったのですが、現在の新規契約では7~8割がビジネス系の利用であり、クラウドサービスの強化ポイントも、企業向けのものを中心としています。また、ハイブリッドクラウドに対する要求も増えており、それについても積極的に対応しています。2015年12月末で、4300件でご利用をいただいていますが、昨今では、最初は小さくスタートして、その後、適用範囲を広げていくというユーザーが増えています。利用社数を増やしていくということ大切ですが、今は、ひとつひとつのユーザーにおける適用範囲を広げることにも力を注ぎたいですね。クラウド事業はまだまだ成長の余地がありますし、今の数字では満足はしていません。

――ニフティクラウドではOEM事業も開始していますね。この狙いは何ですか。

 この1月末には、丸紅へOEMすることを発表しましたが、これで7社目となります。ニフティクラウドの特徴は、ほぼ自動化されている点であり、OEM先のセンターにニフティクラウドの仕組みを移植し、それをニフティ側からコントロールすることができます。自動化によって、人手がかかりませんから、障害が少ないというメリットもある。

 また、丸紅へのOEMでは、丸紅のグループ会社であるイーツが販売を行いますから、それによって、我々がアプローチできなかった市場にも展開できるというメリットがあります。ビットアイルとの協業も同様です。今後も、OEM展開は増やしていきたいと考えています。

――三竹社長は就任直後から、クラウド事業では、将来的には年間100億円の売り上げ目標を達成したいとしていましたが、この目標達成はいつごろを想定していますか。

 今の成長にもっとドライブをかけて、2017年度には達成したいという気持ちはありますよ。ニフティクラウドのOEMは、100億円に向けての原動力というにはまだ力が弱い部分もありますが、将来的には1割ぐらいをOEMビジネスで占めたいと考えています。

2016年はニフティにとっての「IoT元年」に

――今後、ニフティが注力していく部分はどこになりますか。

 ひとつ挙げるとすれば「IoT」ということになります。私は、今年はニフティにとっての「IoT元年」になると考えています。2年ほど前から、社内に向けてはIoTという言葉を使い始めていましたが、今年はそれをさらに加速させたい。ニフティが、今後、20年、30年を経過した時に、30年目という節目を迎えた2016年に、次の30年に向けた新たなステップに踏み出すことができたといえる1年にしたいと考えています。

 ニフティが持つISP事業、ウェブサービス事業、クラウド事業という3つの事業の柱は、今後も伸ばしていきます。私が考えているのは、それらの3つの事業のすべてにおいて、IoTという切り口によって、横串で事業を展開する形にしたいということです。言い方を変えれば、IoTの事業を展開する上で、この3つの事業を持っているのは、ニフティならではの強みになると考えています。

 そして、ネットワークにおけるセキュリティに長けた企業であるということも強みになるでしょう。IoTは、Internet of Thingsの略語ですが、今はどちらかというと、Thingの方が話題を集めています。どんなデバイスがつながるのかという話があちこちで聞かれますよね。しかし、IoTはその言葉の通り、インターネットにつながることが前提です。そこの部分に、ニフティは長年の経験があり、強みを発揮できる。

 また、センサーなどから大量に発生する小さなデータを取りまとめて、サービスとして提供するといった技術を、ニフティ自らがもっと磨いていく必要もあります。2、3年先にはどんなものが求められるのか、ということを見据えて技術を磨くための投資は行っていきたい。PCやスマホだけでなく、さまざまなモノがつながるという環境において、ニフティはどんなサービスが提供できるのかということを考えているところです。

――具体的にはどんなサービスを想定していますか。

 それは、これから決めることになります。というよりも、「この領域を狙うんだ」ということを最初に決めて、可能性を狭めてしまうよりは、走りながら考えていきたいと思っています。社員には、「とにかく、IoTでナンバーワンを目指せ!」と言っています。これに対しては、「社長が言っている言葉の意味が分かりません」「なんのナンバーワンを目指せばいいのですか」という声が挙がっているのですが(笑)、「いいからナンバーワンを目指せ」と(笑)。

 予想がつかないようなことが起こる市場ですし、そこでニフティがどんなポジションを担うことができるのか、どんな強みを発揮できるのか、ということを走りながら考えていかなくてはならないと思っています。そこで、ナンバーワンを目指せるところがあれば、そこを目指してやっていくというわけです。今は、「ナンバーワンは何かというのは、私が考えるのではなくて、社員みんなで考えるものだ」と社員に言い返していますよ(笑)。

 もちろん、方向性というものは必要だと思います。それはこの4月にも明確にしていくつもりです。ただ、その一方で、IoT事業部というものを社内に作るつもりはありません。IoTは、ニフティが展開しているすべての事業に関連していくものになります。3つの事業が重なり合って、IoTを実現していくことになる。昨年、3つの事業を横串するための組織として営業企画本部を設置しました。事業部ごとの商談に加えて、事業部を横断した提案などを行う一方で、今年4月以降は、IoTという観点からも提案ができるような仕組みを作りたいと思っています。

IoTデザインセンターを通じた成果も

――すでにIoTに関しては、いくつかの取り組みも開始していますね。

 2015年11月には、東急グループのイッツ・コミュニケーションズと、東京急行電鉄(東急)と、スマートライフ事業に関する新会社として「Connected Design(コネクティッド・デザイン)」を設立しました。ここでは、スマートライフ分野におけるIoTサービス用ハードウェアおよびソフトウェアの企画開発を主な事業とし、米Icontrol NetworksのIoTプラットフォームが持つ高い拡張性を生かしたハードウェアの拡充や、家事代行、介護など各種生活サービス関連事業者との連携による個人向けサービスの企画開発、さらには店舗、オフィス、ホテルなどの法人に向けたサービスの企画開発を行っています。

 将来的には、これをニフティクラウドに移植して、我々からもホームセキュリティの提案を中心にした販売を行っていくことになります。今は、IoTというとM2Mの世界が中心であり、BtoBでの活用が先行していますが、コネクティッド・デザインで展開しているようなBtoC向けのIoTを考えた時に、ニフティが活躍できる場があるのではないかと考えています。

 1月にラスベガスで開催された「CES 2016」でも、いくつかの北米の企業と直接話し合いを行う場を持ちましたが、日本にはないようなIoTの考え方が出てきていることを感じました。こうした米国での先進事例を、ニフティクラウド上に乗せて、日本でサービスを提供していくことも検討していきたいですね。

 一方で、2015年7月に、ニフティIoTデザインセンターを設置しました。ここも、どんなことが起こるか分からないというのが正直なところです(笑)。ネットワーク、ウェブサービス、クラウドのそれぞれの事業部から人を出して組織化し、IoTの可能性を、パートナーとともに探っていこうという取り組みです。

 すでに約70社から問い合わせをいただいています。その多くがハードウェアの企業で、独自のハードウェアは持っているものの、これをどうサービスにつなげていくかという点での相談が多いですね。それぞれの案件ごとに、約1カ月という期間の中で、ヒアリングを行い、それによってどんな可能性があるのかを探り、場合によってはアプリのモックアップを作り、具体的なサービスの形までお見せするということもあります。実際にアプリを試作するような段階まで至っているのが約3割。その中から、実際にビジネスをやってみましょうというケースが4、5社あります。

 ただ、現時点で、IoTはどんなクラウドプラットフォームが適しているのか、ネットワークの構築はどうするのか、アプリもどんな作り方をするのがいいのかというノウハウを蓄積する段階にありますし、ニフティのこんなところを活用すれば、パートナーにとってメリットがあるということも、まだ手探りの段階だといえます。ですから、ニフティIoTデザインセンターによる支援は、今は無償で行っています。次のステップでは、ニフティIoTデザインセンターの組織も昇格させ、増員を図りながら、IoTに関する新たなサービスを、ビジネスへとつなげていきたいと考えています。

 IoTというのは、先進デバイスをつなげて、それをクラウドに乗せただけでは意味がありません。しかし、まだそこまでで止まっているものが多いのも事実です。問題はそれによって、何ができるのかということです。

 例えば、脈拍を計測して、それをデータ管理するだけでは意味がない。そのデータを活用して、医師の知見と組み合わせて、利用者にフィードバックし、何かしらのサービスとして提供することができるようになって初めて意味が出ます。IoTでデータを集めても、「だからなんなの?」と言われるような段階で終わっていてはいけません。この時に、ニフティが直接サービスを提供するという選択肢もありますし、パートナーと連携してサービスを提供するということも可能です。そのあたりは柔軟に考えて行こうと思っています。

 CES 2016において、北米の先進事例を見ても、まだサービスといえる段階に来ていないものが多いと感じましたね。ただ、準備はすでに整っているという段階にあるのも事実です。この1、2年で、一気にさまざまなサービスが登場するのではないかと感じました。日本での普及は、その後となりますから、それまでにしっかりと準備をしておきたいというのが私の気持ちです。流れが来た時に、出遅れない、あるいは先行できる体制づくりをしていきたいと考えています。「IoT元年」である今年1年は、そこに力を注ぎたいですね。

――30年目の節目を迎えて、今、社員にはどんなことを言っていますか。

 社員に言っているのは、「変わらなくてはいけない」ということです。ひとつひとつの事業を成長させることは必要だが、IoTに取り組む上では、この3つの事業が持つファンクションが重要な意味を持つ。これを1社でやっている会社はそれほど多くない。そして、これを30年間という長年に渡ってノウハウとして蓄積している会社はほかにありません。変わるというのは、この蓄積をIoT時代に向けてどう生かしていくか。そこに「変わる」という言葉の意味があるわけです。ゼロからスタートして新たなことをやるのではなく、今までの30年間の蓄積を活用して、新たなことをやっていくということが、ニフティの強みにつながります。社員には、そこに挑戦してほしいと考えています。

大河原 克行