インタビュー

Instagramを活用した企業のブランド戦略、「公式アカウントのフォロワー数は関係ない」

日本コカ・コーラ「い・ろ・は・す」のキャンペーン事例

 Instagramの月間アクティブユーザー数は、2015年9月時点で世界で4億人以上。2014年12月に3億人を突破して以来、わずか9カ月で1億人増加するなど、ユーザーが急増中だ。日本でも約810万人のユーザーがいる。画像のみでコミュニケーションできるという特徴を持ち、20代の女性に特に人気が高い。

 女性向けサイト「BWRITE」の「Instagramについての意識調査」(2015年9月)によると、20~30代女性の4割がInstagramを利用しており、48.5%が企業アカウントをフォロー。企業アカウントを見て「アイテムを購入したことがある」は30.3%、「店に実際に行ったことがある」も42.4%いた。販促・来店促進などにも利用できるため、企業からの注目が集まっているのだ。

 Instagramは、主に写真で訴求しやすいファッションやインテリア、美容系などと相性が良いと言われているが、どのように活用すればいいのだろうか。

 天然水ブランド「い・ろ・は・す」でInstagramを活用したキャンペーンを行っている日本コカ・コーラ株式会社の田中学氏(マーケティング本部ハイドレーションカテゴリーウォーターチームマネージャー)、渡辺幸恵氏(マーケティング本部IMC iマーケティングマネジャー)に、活用のコツや他のSNSとの違いなどについて聞いた。

日本コカ・コーラ株式会社の田中学氏(マーケティング本部ハイドレーションカテゴリーウォーターチームマネージャー、右)と渡辺幸恵氏(マーケティング本部IMC iマーケティングマネジャー、左)

ブランドの楽しいイメージを浸透させたい

 い・ろ・は・すは、地元の美味しい水を地元に届け、ペットボトルはつぶして再利用するという、美味しさと環境への良さを提案しているブランドだ。他の天然水ブランドと違い、ラインナップに愛媛県産温州みかんエキス入り「い・ろ・は・す みかん」や瀬戸内産れもんエキス入り「い・ろ・は・す スパークリングれもん」、山梨県産ももエキス入り「い・ろ・は・す もも」などのフレーバー付き天然水があるところが特徴だ。フレーバー付き天然水にはそれぞれにテーマカラーが与えられていて、非常にカラフルになっている。

 「一般に水を購入する際、『ブランドが好き』『世界観が好き』というものが購入理由の上位に来る傾向にある。国内の天然水ブランドは、学級委員長のような真面目でしっかりしたイメージ。一方、い・ろ・は・すは、カラフルでさまざまなフレーバーのものがあるため、『楽しい』『個性的』など、放課後に一緒に遊びに行きたい友だちのイメージが挙がる。」(田中氏)

 従来の日本における水のイメージと言えば、静かで落ち着いているものがほとんど。そこで、ブランドイメージに合う、水を使って楽しさ、面白さをアピールしたいという考えから生まれたのが、2015年に行っている「LOVE WATER, LOVE い・ろ・は・す」キャンペーンだ。

 「水の可能性や自由さ、変幻自在性、生き生きした躍動感などがコンセプト。ユーザーに、楽しく自由な水のイメージを写真で表現してもらいたいと考えた。」(田中氏)

親和性の高さからInstagramを採用

 い・ろ・は・すのブランドは従来より、ソーシャルメディア内で自発的に「買ったよ」「飲んだよ」と語られる傾向にあり、SNSとの親和性の高さは感じていた。そこで「撮った写真はぜひSNSで投稿を」と呼び掛けたところ、3分の1ほどがInstagramに投稿していた。Instagramを使う理由を聞いたところ、「写真を加工したい」と答える人が多かったという。

 「Instagramには、いろいろなフィルターが用意されているため、簡単に雰囲気がある写真にできる。ビジュアル的にアピールしたい人には一番好まれる。」(田中氏)

 そこで、「改めてブランドをアピールする場を考えた時に思い浮かんだのがInstagramだった」と田中氏は語る。海外ではすでにバーバリーなどがイメージ戦略などで使っていたが、日本ではまだまだ少なかったため、チャレンジすることに決まった。

 「い・ろ・は・すはもともと、新しいことに取り組んでいくブランド。その意味で、次々チャレンジしたいし、新しいことをしている人とつながっていきたいと考えた。」(田中氏)

 7月18日から8月23日には「テレビ朝日・六本木ヒルズ 夏祭り SUMMER STATION」で期間限定の「LOVE WATER PHOTOブース」をオープン。水のボール、二人で作る水のハート、水の刀を持った写真などが撮影できるようになっており、ユーザーに人気を博した。例えばハート型の水は、中に水を入れたハート型の風船を作って割り、ハイスピードカメラで撮影。すると、ハート型の水が空中に現れ

「LOVE WATER PHOTO」

インスタミート「い・ろ・は・すMeet」開催

 インスタミート(instameet)というイベントをご存じだろうか。Instagramユーザーが特定の日時・場所に集まって写真を撮り、撮影のコツを共有しながら楽しむイベントのことで、これまでにさまざまなイベントが行われている。

 ここに目を付け、2015年の「水の日(水資源の有限性、水の貴重さ及び水資源開発の重要性について関心を高め、理解を深めるために制定された国の記念日)」である8月1日には、インスタミート「い・ろ・は・すMeet」を横浜の臨港パークで開催。当日は、日本最大規模となる187人のユーザーが参加し、水を思い思いにとらえた写真を撮る「LOVE WATER PHOTO」を撮影した。696枚の写真が撮影され、ハッシュタグ「#いろはすMeet」「#LoveWater」を付けて投稿されている。

「い・ろ・は・すMeet」

 撮影された写真には、水の魅力をとらえた美しいユニークな作品が並ぶ。「い・ろ・は・す賞」受賞作品は、まるで地球のように見える球形の水の写真。そのほか、飛んでいるように見える人と水の写真、水でできた帽子をかぶっている写真など、不思議な世界観を醸し出している。

「い・ろ・は・すMeet」の受賞作品
「い・ろ・は・すMeet」の受賞作品
「い・ろ・は・すMeet」の受賞作品

 イベント当日はインスタミート常連のユーザーもいたが、初参加という人もいた。い・ろ・は・す色の浮き輪などを用意してくるなど、準備をして臨んできている人も多かった。一眼カメラなどで撮っている人もいたが、スマホで撮影している人もいた。8月頭で暑い日だったこともあり、ユーザーの多くは撮影を通じて全身びしょ濡れになっていた。最後の集合写真を撮る際には「濡れたくない人はどいてください」と断って飛び散る水と撮影したが、多くの人が楽しんでびしょ濡れになっていたという。

 当日撮影された写真は、六本木駅などの交通広告としても採用された。「企業側が発信するのではなく、ユーザーの視点で発信されたものは新鮮で効果的。Instagramは、言葉で説明するのは難しい世界観などを伝えるのに向いている。」(渡辺氏)

 早く取り組んだブランドならではの先行者利益も感じた。

 「Instagramを使ったこの規模の企業イベントは初めてだったので、多くのメディアに掲載されるなどの副次的効果も得られた。LINEスタンプ同様、増えすぎるとユーザーが使いこなせなくなり、注目も減って広告効果が減る可能性もある。」(田中氏)

フォロワーを増やすことは必須ではない

 他のSNSとの使い分けはどうなっているのだろうか。

 い・ろ・は・すのTwitterアカウントのフォロワーは18万人以上。一方、Instagramの公式アカウントのフォロワーは3000人強とまだ少ない。しかし、例えば『#いろはすもも』などのハッシュタグで調べると、自分で同商品を買って飲んだユーザーが投稿している写真を多数見ることができる。

 「桃はピンクカラーで可愛いイメージがあるのか、若い女性がボトルと一緒に自撮りした写真、デコった写真などもたくさん上がっている。」(渡辺氏)

 Twitterの場合は、フォロワーを増やすことを一番に考えてきた。しかし、Instagramの場合は、公式アカウントのフォロワーを増やすことはあまり考えていないという。

 「公式アカウントのフォロワーの数よりも、実際に写真を見てもらうことが大切。例えば、フォロワーが何十万人といる影響力のあるインスタグラマーとイベントをしたり、ユーザーにイベントで投稿してもらうことが大事。」(渡辺氏)

 そこでい・ろ・は・すは、11月20日より人気インスタグラマーである「@halno」さん、「@wacamera」さんとコラボレーションした動画を公開した。

 動画の内容は、@halnoさんが湖面から浮かび上がったい・ろ・は・すを一口飲み、ほうきにまたがって森の中を飛んでいくというものだ。水源の1つである山梨県白州を舞台に撮影を行った。撮影の裏側もメイキング映像から見ることができるが、ジャンプした瞬間の写真を連続で表示させたコマ撮り動画となっている。@halnoさんは飛んでいるような不思議な美しい写真で人気のあるインスタグラマーだが、動画も同じ撮影方法で撮っているのだ。

 い・ろ・は・すは、今後もInstagramを通じて水の魅力を伝えて行くつもりだ。「Instagramは、使っている企業がまだあまりないので、使い方次第ではもっと面白いことができる可能性を感じている」と田中氏は手応えを語った。

 Instagramでは、とにかくユーザーに好まれる“インスタジェニック”な写真であることが大切だと言われる。世界観をイメージで伝えるなど、商品の魅力や世界観を伝えるのに利用するのが向いていそうだ。ユーザーに美しい驚きのある写真を投稿してもらう工夫や、影響力のあるユーザーを巻き込む仕掛けなどがポイントとなるのかもしれないと感じた。

高橋 暁子

小学校教員、ウェブ編集者を経てITジャーナリストに。Facebook、Twitter、mixi などのSNSに詳しく、「Facebook×Twitterで儲かる会社に変わる本」(日本実業出版社)、「Facebook+Twitter販促の教科書」(翔泳社)など著作多数。PCとケータイを含めたウェブサービス、ネットコミュニケーション、ネットと教育、ネットと経営・ビジネスなどの、“人”が関わるネット全般に興味を持ってる。http://akiakatsuki.com/