国会図書館のアーカイブ活用、日本版書籍検索システム検討に着手


左から弁護士の松田政行氏、日本書籍出版協会副理事長の金原優氏、同理事長の小峰紀雄氏、国立国会図書館館長の長尾真氏、日本文藝家協会理事長の坂上弘氏、同副理事長の三田誠広氏

 日本文藝家協会や日本書籍出版協会などは4日、日本における書籍検索システムのあり方を検討するための組織「日本書籍検索制度提言協議会」を設立した。国立国会図書館がデジタルアーカイブ化する書籍のデータを有料でネット配信する仕組みを検討し、来春をめどに提言を発表する。

 具体的な仕組みは未定だが、絶版書籍だけでなく刊行中の書籍も対象に、権利者から許諾を得た書籍を有料配信するシステムを検討する。ネット配信に伴う権利処理は、「公共性のある団体で集中管理する」(日本書籍出版協会の金原優副理事長)ほか、収益を著者や出版社などの権利者に分配する組織の必要性も検討するという。

 協議会の座長を務める弁護士の松田政行氏によれば、協議会設立の背景には、国会図書館における所蔵資料の電子化を認める改正著作権法が6月に成立したこと(施行は2010年1月1日)が挙げられるという。なお、現時点でアーカイブ化された書籍の検索・閲覧は、国会図書館内のみに限られるため、外部から利用することはできない。

 協議会設立の経緯について松田氏は、「デジタルアーカイブ化が進めば、公共だけでなく商用利用もできるようにしようということになる。出版関連団体だけでなく関係省庁も同じことを考えているはず。協議会としては法改正ではなく、関係者の話し合いで利用を促進できると考え、今年の5月から“準備会”において話を進めていた」と説明する。

 一方、書籍検索システムの導入が進むことで、書籍の売り上げが減る恐れもある。この点について金原氏は、「基本的に書籍の著作権は著者が持っているが、出版社も制作や流通に携わっている。出版社としてはネット配信による収益の配分を主張しているが、協議会内で異論は出ていない」という。

 この意見に対して作家などの権利者団体である日本文藝家協会副理事長の三田誠広氏は、「書籍のネット配信は、音楽をラジオや有線放送で配信するのと似ている。音楽の著作権はJASRACが著作権者の信託を受けて対応する。書籍のネット配信でも、何らかの団体が集中管理することになるが、書籍の版面を配信するので、“版面送信権”のような権利が必要になるだろう」と理解を示した。

 また、日本文藝家協会理事長の坂上弘氏は、「国民がどこからでも使える書籍検索制度は国民的急務。ただし、書籍文化にかかわるすべての関係者の同意のもとで、日本独自の仕組みを作りたい。個人的には、Googleの書籍検索のように法律闘争に持ち込まれる愚かなことにはならないと考えている」と述べ、話し合いによる利用促進の重要性を訴えた。

 ただし、書籍検索システムの実現にあたっては法改正も必要だと松田氏は指摘する。「例えば、国会図書館のアーカイブの利用を民間へ認めるには、著作権法とは別の問題もある。権利処理でも、著作権法等管理事業法の適用が必要であれば、法律内で行わなければならない」。

 協議会には、日本文藝家協会と日本出版協会の理事長・副理事長に加えて、森・濱田松本法律事務所に所属する松田氏と齋藤浩貴氏が参加するほか、相談役には国会図書館館長の長尾真氏が就任。今後はその他の構成団体の参加を募り、来春に書籍検索制度を確立するための提言を行うという。


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(増田 覚)

2009/11/4 21:44