ソニーなど4社が電子出版事業で共同会社設立、「Reader」も日本で年内発売


 ソニー、凸版印刷、KDDI、朝日新聞社の4社は27日、電子書籍配信事業に関する事業企画会社を7月1日をめどに設立することで基本合意に至ったと発表した。事業企画会社は、書籍・コミック・雑誌・新聞などを対象とした、デジタルコンテンツ向けの共通配信プラットフォームを構築・運営する事業会社への移行と、年内のサービス開始を目指す。

 事業企画会社の資本金および資本準備金は合計3000万円で、4社が25%ずつ出資。取締役は4社各社から指名の予定で、本社所在地や従業員数などは未定。代表取締役には現レコチョク 取締役 代表執行役社長の今野敏博氏が就任する予定。

 4社は、保有する技術やノウハウを結集し、出版社や新聞社などが安心してデジタルコンテンツを提供できる環境を整備し、国内最大級の電子書籍配信プラットフォーム構築を目指すと説明。様々な端末を通じてコンテンツを提供できるオープンなプラットフォームの整備を図り、他の企業にも広く門戸を開き、事業への参加を各社に呼びかけるとしている。また、出版社では、講談社、小学館、集英社、文藝春秋などからも設立趣旨に賛同する意思が表明されており、今後も増える見込みになっている。

 企画会社と参加企業による協議のもと発足する事業会社では、出版・新聞コンテンツの収集、電子化、管理、販売、プロモーションを手がけ、必要なシステムの企画、開発、構築、提供を行う予定。

 27日には、4社が合同で記者会見を開催した。会見に出席した米Sony Electronicsシニアバイスプレジテントの野口不二夫氏は、現在欧米で展開している電子書籍端末「Reader」を、日本市場でも年内に発売する予定を明らかにした。

レコチョク 取締役 代表執行役社長の今野敏博氏

 

ソニー・KDDIがリーダー端末の提供を表明、スマートフォンへの展開も

 今回設立される事業企画会社、および移行先の事業会社は、前述のように電子書籍配信プラットフォームを構築するもので、他社に門戸を開いたオープンなプラットフォームとするもの。配信フォーマットなどの詳細は、事業会社に移行した後に改めて発表される予定。このため、専用端末あるいは汎用端末向けの配信が明らかにされているものの、具体的な提供形態は現時点では明らかにされていない。また、電子書籍販売サイトやその仕組みについても、複数の販売サイトが存在可能とされている。

 野口氏は、冒頭の挨拶の中で、「北米、欧州の電子書籍ビジネスは、ここ数年大きなうねりになっている」と市場が急速に拡大している様子を紹介。2010年を「日本でも、電子書籍の新たな元年になる」と位置づけた上で、「出版は文化と結びついている。電子書籍ビジネスとして、日本市場に合ったものを立ち上げていきたい。国内の電子書籍市場の発展を目指し、世界市場もリードしていきたい」と意気込みを語った。また、同業他社を含む、ほかの事業者にも参加を促す方針で、「今後もさまざまな方々と相談しながら、スピーディに立ち上げていきたい」と語った。

 一方、ソニーグループに所属する同氏の立場としては、北米・欧州で電子書籍ビジネスを展開しているノウハウを日本市場に適した形に転換し、生かしていく方針が示されたほか、ソニーとして、年内にリーダー端末を発売する方針を表明。「別途、ソニーとしてその場を持つ」と、詳細な発表を別の機会に設けることを明らかにした。

 凸版印刷 取締役 経営企画本部長の前田幸夫氏は、低迷する出版業界の厳しい市場環境を振り返りながら、「新たな電子書籍の大きな波が押し寄せている。新たな製造ラインで、リアルな出版の活性化や新たな販路など、両面で進めていく」と語り、電子書籍と紙の出版の両面で新しい取り組みを進めていくとした。また、同社は携帯電話向けのデジタルコンテンツを流通させる電子書籍取次事業「ビットウェイ」を提供しており、こちらの事業も拡大を図るとした。

 KDDI 取締役執行役員常務 グループ戦略統括本部長の高橋誠氏は、音楽、動画、電子コミックなど「非常にエンタメ系に力を入れてきた」と同社の取り組みを紹介し、「今回の取り組みにも積極的に参加していく」と姿勢を表明。「いわゆるフィーチャーフォンにおける電子書籍の展開に加えて、スマートフォン、専用端末、タブレット型など、対象の市場は広がってくる。幅広いターゲットの向けて電子書籍ビジネスが展開できる」と今後の展開を予測した。

 さらに高橋氏は、「KDDIとして、スマートフォンでの展開に積極的に取り組みたい。専用端末も企画したい」と対応端末の展開にも言及。「電子書籍端末には通信手段がかかせない。いろいろなものに組み込んでもらいたい」とした。なお、すでに携帯電話向けに各コンテンツプロバイダーが提供している電子書籍コンテンツについては「今から変えるもりはない」として、引き続き提供していく方針を示している。

 朝日新聞社 デジタルビジネス担当の和気靖氏は、「日本の文化を担うコンテンツを、維持・発展させていきたい。今回のプラットフォームが、新たな価値を持つものにしたい」と語り、「紙とデジタルは対抗ではなく、プラスになる。そうしなければならない」と意気込みを語った。


 

質疑応答

 米ソニーの野口氏は、質疑応答の中で、「世界中で各社がこのビジネスに参入している。予想以上に早いペースで広がっている。今年ソニーが新たに(電子書籍ビジネスを)スタートする国が数カ国ある」と世界レベルで広がっている様子を語った。一方で、5月28日にiPadが発売される中、ソニーの端末は年内発売としたことを「出遅れたのでは」と指摘された同氏は、「正直言って、世界と比べて日本の動きは遅い。出遅れたとは思っていない」との認識を示し、コンテンツ業界を含めた市場形成は今回の取り組みで対抗できるとした。

朝日新聞社の和気氏(左)、凸版印刷の前田氏(右)米ソニーの野口氏(左)、KDDIの高橋氏(右)

 


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(三柳 英樹 / 太田 亮三)

2010/5/27 16:55