第2回「WISH2010」開催~オーディション形式で新サービスをプレゼン
ベンチャー企業によるウェブ関連の新しいサービスや端末などをプレゼンテーションするオーディション形式のイベント「WISH2010」が、8月28日に開催される。第1回にあたる昨年のWISH2009では、ウェブラジコン「Joker Racer」をはじめ、当時まだ発売されていなかった「CerevoCam」、語学SNS「Lang-8」など、錚々たるプレゼンターが集結し、会場とUstreamで盛り上がった。
WISH2009を始めた経緯と成果、そしてWISH2010への狙いについて、主催するアジャイルメディア・ネットワーク株式会社の徳力基彦氏に話を聞いた。
●言いだしてから2か月で開催
アジャイルメディア・ネットワーク株式会社 代表取締役社長CEO 徳力基彦氏 |
―― 去年WISH2009を始めたきっかけや動機などを教えてください。
徳力氏:
きっかけと言っていいかはわかりませんが、去年、梅田望夫さんが「日本のウェブは残念」と発言して、話題を呼んだことがありました。そのとき、私も日本のウェブについてブログでいくつかエントリーしたところ、反響が大きかったんですね。そこで、「日本のウェブを盛り上げてくれそうなサービスや端末のプレゼンイベントをやってみませんか?」というエントリーで呼びかけたのが始まりですね。
もともと、TechCrunch50みたいなことをやりたいと前々から思っていました。ああいう、未発表の新サービスを集めてプレゼン大会をやって、優勝するとその時点で成功が決まる、という場所が日本でもあったらいいなと。
スタートアップ期のベンチャーが知名度を得るのは、日本ではハードルが高い気がするんですよね。個人がサービスを作って、ものはいいのだけれど誰にも知られていないというのが、けっこうあるなと思っていて。そういう黎明期のサービスをみんなでワーっと評価するような場があるといいなとぼんやり思っていました。
―― イベント開催のためのプロジェクトを立ち上げるなどして進められたんですか。
いえ、手作り感満載のボトムアップな進行でした(笑)。呼びかけにリアクションがけっこうあったので、あわててGoogle Groupのメーリングリストを作ったところ、100人ぐらい登録いただいて。100人ぐらいならツテで会場を借りてイベントをやれるなと感触を得ました。実際には、もっと多くの人が集まってくれて、300人規模になったんですが。
順番としては、まずメーリングリストで手伝ってくれる人を集め、どのようなイベントにするかを議論して。その時点でまだイベントの名称も決まっていませんでした。
私は「Web Innovation Summit」がいいかなと思っていたんですが、アルファベットの省略形がカッコいいので、“Web Innovation SHare”で「WISH」でどうだと。ブログで意見を集めたらやはり「WISH」への投票が多かったので、そこで決めました。ロゴもlinkerさんに候補をいくつか作ってもらって決めて。それと並行してプレゼンしたい人を募集して。そんな、非常にボトムアップな進行でした。
―― プレゼンターの応募状況はいかがでしたか。
募集開始から1~2週間で60社ぐらい応募がありました。ただ、スタッフで決めていいのかという思いがあったので、急遽、自分たちは10社だけ決めて、残りは一般投票ということにして。最終的に14社選ばせていただきました。
最初にイベントをやろうと提案したのが6月17日で、実際の開催が8月21日と、そうとう突貫工事でした。ロゴのサンプルができたのが7月7日で、そこからロゴを決めてプレスリリースなども打ち、プレゼン募集が7月末まで。その後でやっとウェブサイトができて、一般申し込みが8月7日に開始という。
―― 怒涛の勢いですね
徳力:実は、9月は決算期でアジャイルメディア・ネットワークが忙しいので、8月にやろうというのは先に決めていました。大変でしたが、決めたから逆にやれたというのもあると思います。
アジャイルメディア・ネットワークが一応主催になっているんで営利イベントに見られることもあるんですけど、正直赤字で、私の趣味でやっているという感じなんですよね(笑)。実態はほぼみなボランティアです。ウェブサイトも、ウープスデザインさんにボランタリーでオシャレなものを作っていただきました。
たまたま去年はソニー銀行さんとライブドアさんにスポンサーしていただいて、会場費をほぼカバーできました。一般参加者の人には参加費を払っていただいて、それで会場にパンを配りました。
WISH2010 http://agilemedia.jp/wish2010/ |
●サービスがブレイクするきっかけになりたい
―― 今年の態勢は
0から1を生み出すベンチャーのコンテストは実は日本でもすでにいくつかあります。そこで、WISHとしては、1までは行っているんだけどその先にいけていないベンチャーを5や10にするお手伝いをしたいなと考えています。
個人的に、日本では、マニアックなネットユーザーの人たちと、一般の人たちのギャップが広くて、ネットユーザーの人たちにはよく知られているけど一般の人たちまでなかなか伝播していかない、というものがけっこうあると思っています。
そのギャップを超えてはじめてサービスがビジネスになる。たとえば、TwitterもfoursquareもSouth by Southwest(SXSW)というアメリカのイベントでブレイクして一気に広まったという経緯があります。そういう場所を目指していきたいと、ちょっと方針を変えました。
プレゼンだけじゃなくて、未来を感じさせる議論もやりたいと考えて、今年はパネルディスカッションもすることになりました。グリーの田中さん、ミクシィの原田さん、デジタルガレージの枝さんにご登壇いただいて、日本のウェブはいかに世界に出ていくべきかという議論をしたいと思っています。
去年の反省としては、ほかに、ネット界隈だけで盛り上がったというのもあります。twitterのトップページの「人気のトピック」コーナーに#wish09というハッシュダグが出たなど、すごく面白いことにはなりました。
ただ、さっきのギャップを超えるところにはたどり着けてないんですよね。面白いサービスがより多くの人に知っていただいて、ブレイクするための出会いの場をWISHで作っていければと思っています。
●海外の投資家からも反応
―― 去年のプレゼンターへのその後の反応など
去年大賞をとった「Joker Racer」のサイドフィードさんは、Joker Racerの技術をもとに作った、iPhoneからライブ配信する「TwitCasting(ツイキャス)」というサービスが好評で、そちらにシフトしているようです。サイドフィードさんはWISH以前からネット界隈で活躍していたんですが、WISHで知られたことで活動しやすくなったとおっしゃっていただきました。また、ユーザーローカルさんの「ユーザーインサイト」も着々とビジネスがうまくいっているみたいです。Cerevoさんも今回また新商品で登場します。
去年いちばん驚いたのが、TechCrunchの英語版で紹介されて、動画を見た海外の投資家から打診があった会社があったという話です。私のところにも何社かコンタクトがありました。セカイカメラの例のように、最初から海外に行っちゃったほうが早いのかも、とも思わされました。
今年もそういう、WISHに出たことによる成功事例を出せるように、いろいろな人を呼びたいなと思ってはいます。
去年はとても有名なプレゼンターが多数参加してくださったので、今年は大丈夫かという心配も正直あったのですが、いいサービスが集まっています。
黎明期のウェブサービスだと、メディアやブログでの1本の記事が状況を変えることがあると実感しています。
自分もブロガーとして反省しているんですけど、つい海外のサービスを紹介するということになりがちです。ただ、日本はある意味で進みすぎているという点もあると思っています。例えばいま流行の位置情報でも、コロプラはかなり以前(2003年)から個人でスタートしている。
ああいうサービスがグローバルに出ていくという可能性もあったんじゃないかと。でもfoursquareが来ると急にfoursquareのほうが未来に見えてしまうのが、悔しいなと。そういう私もいまfoursquareにハマっているんですが(笑)。海外のトレンドを見るというのは大事ですが、もっと日本のサービスを紹介して応援してあげるというのがあってもいいかなと思います。
あと、米国のベンチャーキャピタルってベンチャーが注目される前のスタートアップ時期から支えてくれるのですが、その時期を支えているのは実はエンジェルだそうです。
ベンチャーで成功して事業売却した人がエンジェルになり、ビジネスプランも立てられない小さな種の時期に投資してくれる。ある程度のところまで持っていけたら、そこにベンチャーキャピタルが乗ってくる。しかも、あのエンジェルがバックアップしているなら大丈夫だろうという信頼もある。日本はこのエンジェルがいない気がするんですよね。
まだ、まったくの妄想レベルですが(笑)、大企業とベンチャー、あるいは投資家とベンチャーを結び付けるようなきっかけづくりも考えていけたらと思っています。
●サービスを応援する人を増やすイベントに
「単純に大きなイベントにするというよりは、ボトムアップの雰囲気を残したい」(徳力氏) |
―― WISHの今後について、構想
今年も赤字決定ですし、ずっと続けていけるかどうかも断言はできないのですが(笑)、単純に大きなイベントにするというよりは、ボトムアップの雰囲気を残していきたいですね。「Web Innovation Share」と名付けていますけど、このうち「Share」が私の中でいちばん重きを置かれています。
ウェブでのInnovationをみんなでShareしていくことによって、プッシュされていく、というのがソーシャルメディア的ではないかと。AKB48のように、「僕らが育てたんだ」という人を増やしていくことで強固なサービスになっていくと思っています。そういう応援してくれる人を増やしていくためのイベントでありたい。
ビジネスモデルを評価するだけでしたら、ほかにもイベントはあります。どちらかというと、面白いんだけどベンチャーキャピタルが支援しないようなサービスが、みんなで盛り上げることでヒットする、というようなイベントでありたいなと。そういう思いが私の中にあります。
―― ありがとうございました。
【お詫びと訂正】記事初出時、WISH2010の開催日の記載が間違っておりました。お詫びして訂正いたします。
関連情報
(高橋 正和)
2010/8/10 06:00
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