ニュース
スモールビジネス向けサービス「Evernote Business」提供開始
(2012/12/6 14:46)
米Evernoteは12月4日より、スモールビジネスやグループ向けのクラウドサービス「Evernote Business」を米国、日本、英国、カナダ、スイス、ドイツ、フランスの7カ国で提供開始した。利用料金はユーザー1人あたり月額900円。1ユーザーあたり毎月個人ノートが2GB、企業ノート(全体共有)が2GBまでアップロードできる。
「Evernote Business」(以下Business版)は、既存のコンシューマー向けクラウドサービス「Evernote」の機能に加え、企業やグループで情報の収集、発見、共有を効率的に行えるよう設計された。
Business版では、ドキュメントやプロジェクトなどを共有できる「ビジネスノートブック」を情報単位として、「ビジネスノートブック」を企業内で一元管理する「ビジネスライブラリ」機能が提供される。「ビジネスノートブック」は、「ビジネスライブラリ」で共有する企業所有のものと、個人所有のものに分けられ、企業所有のノートはグレー、個人所有のノートは茶色で色分けして表示される。
「ビジネスライブラリ」で共有されたノートは全社員が閲覧できるが、閲覧するかどうかはユーザーが個別に自分で決める。閲覧するチェックを入れると、自分のノート一覧に表示される仕組み。部署ごとやワークグループごとに公開する機能はなく、個別に人数分のアカウントを指定してシェアするか、公開用URLを取得してメールで送るといった共有方法になる。ただし、グループ共有機能については要望はすでに上がっており、対応を検討中だという。
「ビジネスライブラリ」で一元管理することにより、プロジェクト報告、対応事例など、担当者が退職したりプロジェクトが終了すると散逸しがちな企業内の知的資産の蓄積が容易になる。管理者がおすすめノートを選定することも可能で、業務マニュアルなどの社内ルールの周知徹底を図ることができる。
セキュリティ面は個人向けのプレミアムサービスから追加された機能などはないが、ノートのテキストを暗号化する機能などは個人向けプレミアムにもすでに提供されており、Business版にも実装されている。
Business版の目玉と言えるのが、「関連ノート」機能だ。「関連ノート」機能は、特定のノートを閲覧・検索・作成しているときに、自動的に関連したノートが表示されるというもの。具体的には、パリ出張の予定を新規ノートブックに書いていると、リアルタイムにその内容を解析し、他のユーザーの過去のパリ出張レポートが表示されるといった形だ。
「関連ノート」機能では、ユーザー側ではとくに設定などを行う必要はなく、入力や閲覧をしている時に、システムがテキストの内容を自動解析し、関連すると思われるノートブックを提示してくれる仕組みだ。個人向けのEvernoteでも同様の機能は提供されているが、「より多くの人の情報をチェックして情報を引き出す」という点において異なるサービスとなっている。
Evernoteによると、自分で把握していなかった共通点のあるプロジェクトの報告など、存在すら知らない情報、企業内に存在してはいるが埋もれたままとなってしまう報告書などが自動的に発掘され、有効に活用可能となる点に意義があるという。
企業向けのため、管理機能もいちおう備えているが、個々のユーザーの追加や削除などのユーザー管理と、ビジネスライブラリにある会社所有となるノートブックの管理機能、料金の請求や支払いの管理機能など最低限必要な機能が提供されている。企業内の部署・グループという概念が現状は導入されていないため、ユーザー管理は個人単位となる。
なお、個人ですでにEvernoteを利用しているユーザーを企業内のユーザーとして登録する場合は、企業の管理者がメールを送信して招待する形になる。現在は1人のユーザーは1つの企業にしか所属できない仕様になっているが、複数の企業で仕事をしているユーザーなどからの要望が多ければ、今後複数企業に紐付けできる機能の追加も検討するという。
なお、ユーザーが個人で所有している(ビジネスライブラリで共有していない)ノートについては、個人ユーザー時代のもの、企業アカウントで作成したもの、どちらのノートについても、登録企業の管理者でも、その存在すら知ることができない仕様になっている。
中小企業でも簡単に「企業内の知的財産を集約、集合知を蓄積し活用するツール」
今年5月にEvernnote Japanのジェネラルマネージャーに就任した井上 健(いのうえ けん)氏は、「サービスのリリースから4年で、Evernoteのユーザー数はワールドワイドで4500万に達した。2011年末に2100万だったため、1年弱で倍以上に伸びたことになる」とユーザーが引き続き順調に伸びていると説明。なお、4500万のユーザー数にはEvernoteが買収した企業の提供するサービスの登録ユーザーも含む。
井上氏は、Evernoteのアクティブ・ユーザーは現在米国が33%で1位、日本は21%で2位で、新興国でユーザーが増えているため日本の占める割合は以前より小さくなってはいるが、引き続き最重要な地域であることは変わらないとした。中国では独自サービスを5月にスタートしてすでに100万ユーザーを突破、韓国も100万を突破したという。
拠点としては、現在世界に7カ所の事務所を開設しており、米国を除くグローバルなヘッドクオーターはスイスのチューリッヒに置く。現在インドには拠点はないが、「今後注力領域になると思う」という。
11月に米国でアクティブ・ユーザーの利用状況を調査したところ、91%が知識の収集のために利用しており、66%が仕事で利用しているという結果になったという。仕事で利用しているユーザーの15%は会社からの指示、85%は自発的に利用を開始していた。
井上氏は、「Evernoteとしてはこれまで企業に向けた営業は一切していないがこれだけ仕事で利用されている。また、『会社で使えるEvernoteを開発してくれないか』という話が以前からあったが、この4年間は個人向けサービスに注力してきた」と説明。
Evetnoteでは、企業の設立時から「Build for Ourselves(自分たちが使うために作る)」をコンセプトとしてきたと説明。Evernote自身が急成長を続けているため、従業員数も現在280名でうち9名が日本にいるが、世界に拠点があることから情報共有が困難で、拠点や従業員間の知識格差が広がるといった問題が出てきているという。
井上氏は、ユーザーの要望や社内のニーズもあり、「これまではCEOのフィル・レーピン氏が欲しかったサービスを個人向けに作ってきたが、Business版については、Evernoteスタッフが欲しいものを作る」として、Business版についても「自分たちが使うために作る」という基本に立って開発を進めたと述べた。
このため、Business版ではあるが、スモールビジネス向けと謳っている通り、中小企業やSOHO、ベンチャーなどでの導入に向いた、管理機能はシンプルで簡単、権限管理についても、企業所有(全体公開――ただし見るかどうかは各ユーザーが決める)と個人所有の2種類といった作りになっている。
さらに管理機能やセキュリティ面を強化した大企業での導入にも向くエンタープライズ版についても、「すでに話は出ている」という。
また井上氏はAPIについて、「Evernoteは基本的に全公開。Evernote Businessに関するAPIはまだ公開しておらず、スキャナで取り込んだドキュメントが自動的にEvernote Businessで共有されるといったことはまだできていないが、API公開は準備中」だと述べた。すでに、十数社の限定した企業にはAPIについての情報を提供し、作業を進めているところだという。