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「.shop」で世界市場を狙うGMO、「.日本」には興味なし?

熊谷正寿社長に聞くレジストリ戦略

 ドメイン名登録サービス「お名前.com」を運営するGMOインターネットは25日、グループ会社のpaperboy&co.が運営するドメイン名登録サービス「ムームードメイン」などと合わせ、GMOインターネットグループが管理しているドメインの数が、アクティブなものだけで100万件を突破したと発表した。

 国内のドメイン名が約250〜260万件と言われているため、GMOインターネットグループの国内シェアは実に約40%。「お名前.com」と「ムームードメイン」では、日本中の企業や団体、個人が日々ドメインを登録しており、両サービスを通じて新規登録されるドメインは1日あたり約1000件に達するという。

 一方、GMOインターネットでは7月末、子会社「GMOドメインレジストリ株式会社」を設立。世界各国のccTLDの運用代行や、2010年にも導入される見込みの新gTLDの申請・運用代行のほか、みずから新gTLD「.shop」を申請・運用するという事業計画を発表し、従来のドメイン登録サービス事業者(レジストラ)に加え、ドメイン管理事業者(レジストリ)に進出することを明らかにした。


新会社「GMOドメインレジストリ株式会社」の位置付け

 また、最近のドメイン関連の話題としては、IDN ccTLD「.日本」が来年にも導入される見込みとなっており、それを管理するレジストリの公募が今年末に始まる見込みだ。GMOインターネットによる新会社の設立タイミングや事業内容を見る限り、「.日本」との関連性も気になるところだ。

 GMOインターネット代表取締役会長兼社長/GMOドメインレジストリ代表取締役社長の熊谷正寿氏、GMOドメインレジストリ取締役の大東洋克氏に、レジストリ事業について話を聞いた。

ドメインが増えれば情報量も増え、ネットがより便利に

――まず、レジストリ事業に進出するに至った経緯を教えてください。

GMOインターネット代表取締役会長兼社長/GMOドメインレジストリ代表取締役社長の熊谷正寿氏

熊谷氏:参入を決めた理由としては、大きく4つあります。まず1つめが、ICANNにおける新gTLD導入の動きです。日本国内では1日あたり約1900件、年間で約70万件のドメインが新規登録されています。全世界では、1日13万件、年間4750万件に上ります。ドメインは同じ文字列が2つ存在しないため、逆に言うと、毎年4750万件のドメイン空間が減っていくということです。日々、短い文字列やわかりやすい文字列のドメインは取得されていくため、ICANNで現在、新たなgTLD導入に向けた検討が進められているわけです。

 2つめが、比較的参入が難しいと言われるレジストリ事業を運営できる実績と技術力、ノウハウをGMOインターネットが持っていることです。GMOインターネットは1999年9月、アジア初のレジストラとしてICANNから認定を受け、ドメイン名登録サービス「お名前.com」を開始し、今年でちょうど10年を迎えます。GMOインターネットグループで現在、アクティブなものだけでも約100万件のドメインを管理しています。

 3つめが、今なお2けた成長を続けるドメイン市場が非常に魅力的だということです。世界のドメイン登録数は増加の一途を辿っており、2008年12月末現在で累計1億7700万ドメインが存在しています。前年比16%増という高い成長率を誇り、今後も成長が見込まれます。

 そして4つめが、収益性と同時に、レジストリ事業には大きな社会的意義があると考えていることです。ドメインの数≒Webサイトの数。すなわちインターネット上の情報量です。情報量が増えれば、インターネットユーザーはより便利になります。ドメインを増やすことは、インターネットをより便利にすることなのです。レジストラ事業だけでなく、レジストリ事業にも力を入れていくことがGMOインターネットグループの使命だと考えました。

そのgTLDが普及するかは、レジストリの考え方しだい

――ドメイン事業を展開する上で、レジストラとレジストリではどのような違いがあるのでしょうか。

熊谷氏:ドメインは、レジストリの考え方しだいで、広く使われるようになるかどうか決まります。要は、価格です。いくらレジストラや販売代理店ががんばっても、経営努力には卸値という限界があります。ドメインは価格に左右される商材です。しかし、レジストリからレジストラへの卸値は、レジストリでなくてはコントロールできません。

――GMOインターネットグループが管理しているドメイン100万件の内訳を見ると、「.com」が52%を占めており、次いで「.jp」が汎用・属性合わせて27%、「.net」が12%と続いています。「.info」をはじめとしたgTLDが新設された後でも、やはり「.com」が人気のようですが。

GMOドメインレジストリ取締役の大東洋克氏

大東氏:「.com」がこれだけ人気があるのは、耳になじんでいることもありますが、価格の面が大きい。「.com」はブランド力があるとともに、いちばん安価なのです。その後新設された「.asia」や「.mobi」にしても、卸値の限界があります。卸値ですでに倍以上の差が付いてしまうTLDもあります。

――普及するかどうかはレジストリの考え方しだいとのことですが、比較的新しいgTLDでブランディングや価格設定で成功しているレジストリはあるのでしょうか。

大東氏:「.info」は、「.com」や「.net」の代替として使われることが多いようですが、レジストリが自分の位置付けをよく理解しており、期間限定で登録料数百円といったキャンペーンをよく展開しています。そうした戦略面で「.info」は成功しています。「.asia」も、申請受け付け開始初日だけで約29万件のドメイン名が申請されました。アジアのマーケットにおけるイメージ戦略や、イメージ作りのプロモーションをしっかりやっています。

――これまでにも、「.info」「.biz」「.name」「.pro」「.asia」などのgTLDが順次新設されてきました。今後、gTLDの“自由化”により導入される「.shop」のような新gTLDでは、何か大きく変わる点はあるのでしょうか。

熊谷氏:レジストリの選定プロセスが綿密に計画され、申請が競合して比較審査で決められなかった場合、オークションによる決定がされるため、本気でそのドメインを広げようとしているところでなければ名乗りを上げなくなるでしょう。今までは利権的な要素がありましたが、今後はレジストリの力の入れようが違ってきます。競争が生まれ、もっとドメイン市場が活性化すると思います。

新gTLD「.shop」で、GMOインターネットグループのシナジー生む

――みずからレジストリとなって運用する新gTLDとして、ECサイト向けの「.shop」を選んだ理由は?

熊谷氏:GMOインターネットグループのシナジーを最も発揮できるからです。我々は、ECサイトが必要とするサービスをすべて保有しています。ショッピングカートとしては「MakeShop」と「Color Me Shop! pro」というサービスを展開しており、契約店舗数は合計3万4000店舗と国内トップを誇ります。カード決済サービスとしてはGMOペイメントゲートウェイ、セキュリティではSSLサーバー証明書サービスのGlobalSignがあります。

 「.shop」は、世界のレジストラを通じて販売するかたちになりますが、ショッピングカートをセットにして提供することも考えています。現在、SSL証明書はGMOグローバルサインが世界で販売していますが、他のサービスは今のところ国内販売のみです。「.shop」を獲得した暁には、一緒にショッピングカートの世界販売にも乗り出す計画です。

 このように、我々は「.shop」に付加価値をたくさん付けることができる。価格も企業努力で極力安くする。「.shop」にショッピングカートやSSL証明書を付けて格安で販売すれば、世界のECが変わります。ECサイトを開設しようという人が、「.com」よりも「.shop」に来るようになるでしょう。

――「.shop」以外にも候補はあったのですか。

熊谷氏:アンケートの結果やユーザーニーズからは、「.blog」や「.web」なども可能性がありますが、マネタイズが難しいと考えます。Movable Typeなどと組んで「.blog」を普及させるといった話があればいいのですが、ビジネス的には単なるレジストリ事業にとどまってしまいます。

 これに対して「.shop」は、GMOインターネットグループのリソースの相乗効果を期待できる点で魅力的です。「.shop」のレジストリ事業だけで利益を増やそうとすると、「.com」など世界のレジストリとの競争に陥ってしまいます。GMOインターネットは、今保有している他のリソースと合わせてグループ全体として利益を上げようとしているため、「.shop」じたいは安値で提供できるのです。

大東氏:レジストリとしての運用面でもコストを圧縮し、かつ安定運用できるようなシステムをすでに設計しています。

――ドメインとの相乗効果が期待できるリソースを持っている企業や団体などに、逆にGMOドメインレジストリ側から働きかけて、共同で新gTLDを新設・運用するといったことはあるのでしょうか。

熊谷氏:例えば「.kyoto」「.tokyo」「.yokohama」といったドメインは日本のためにもなります。こちらから働きかけて、そういったものを1個ぐらいやってみてもいいのかもしれません。事例を作れば、続くところも出てくるでしょう。

「.日本」と「.jp」との競争関係を期待

――日本語ccTLD「.日本」のレジストリの公募が年末にも始まる見込みです。GMOドメインレジストリは、手を挙げるのでしょうか。

熊谷氏:今のところ、その予定はありません。GMOドメインレジストリは、日本の中に閉じこもるのではなく、もっとグローバルな展開を見据えています。だからこそ、「.shop」なのです。

 ただし、「.jp」のレジストリであるJPRSさんが「.日本」のレジストリもやることはちょっと賛成できません。なぜならば競争が生まれないからです。もし他に手を挙げる事業者がいなければ、やらざるを得ない。国内にはICANN公認レジストラが10社、JPRSさんの指定事業者が634社あります。これらの事業者が団体を作って運用するといいかもしれません。もちろん、GMOドメインレジストリもそこに参加します。

大東氏:ccTLDは国ごとに1つしか設置できないため、もっと公共性の高いものという認識で公益に還元できる仕組みを作り、業界が一体となって運営のルールを作っていくのが正しいやり方だと思います。国内にレジストリの競争がないことが問題であり、JPRSさんと競争できるような事業を作ることが大事です。

――ドメインが広がるかどうかは、レジストリの考え方しだいというお話がありました。では、「.日本」のレジストリはどういう方針をとるべきだとお考えですか。

熊谷氏:まずはブランディングをきちんとすることです。日本の上場企業には積極的に使ってもらう、官公庁にも、例えば「総務省.jp」とともに「総務省.日本」を使ってもらう――など、マーケティングをすることです。同時に、安価な設定にして薄利多売にすれば、「.jp」との競争関係が生まれます。

 我々の「.shop」は直接「.jp」と競合するわけではありませんが、「.shop」を世界で展開し、レジストリとしてのビジネスモデルを確立すれば、刺激材料になる。そういう意味で、我々は、「.日本」よりも「.shop」で成功事例を世の中に示すことに注力したいと思います。

――「.日本」というと、主に自治体や官公庁などが利用するようなイメージがあります。「.shop」のように、ビジネスとしての市場が期待できるようなものではないのでしょうか。

熊谷氏:やり方しだいだと思います。それには価格設定も大きく関わってきます。

大東氏:レジストリとして、登録件数は伸びなくても収益があがっている状態だけで満足するのはよくないと思います。広く使ってもらって世の中に還元していくのが正しいのではないでしょうか。

【お詫びと訂正 2009/9/1 19:15】
 記事初出時、JPRSの指定事業者を226社と記述しておりましたが、正しくは634社です。お詫びして訂正いたします。

「.shop」でネットユーザーを幸せに

――「.shop」獲得の勝算は?

「.shop」を獲得した暁には、年額数百円で提供する――公約を掲げた熊谷社長

熊谷氏:正直、わかりません。今のところ、他に「.shop」を申請すると表明している企業はありませんが(2009年8月7日時点)、もし同じ文字列を他社が申請してくれば、最後はオークションで決定することになります。とはいえ、我々はこれまで「お名前.com」でいろいろなTLDを取り扱い、100万ドメインを運用している実績があります。また、世界で開かれているICANNの会合にもこの10年間で22回、延べ50名を派遣し、世界のドメインの活性化に尽力してきました。条件面では、我々がいちばん有利なところにいると思います。

――新gTLDのレジストリの選考基準はどういうものなのでしょうか。

大東氏:まずはしっかりと計画されたビジネスプラン、そして会社の経営基盤と技術力です。さらに、サービスをどうやって提供していくのか、安く普及させることができるのか――といった事業の計画性や、TLDを維持していくための経済的・技術的能力の有無が主なポイントになります。

――それでは最後に、「.shop」にかける意気込みを聞かせてください。

熊谷氏:レジストリはビジネスとしてはあまり見向きされませんが、インターネットの基礎を成すサービスです。私は、インターネットをより便利にするためには、ドメインが普及する必要があると考えています。

 我々が申請する「.shop」は、誰にでもわかりやすいドメインです。インターネットユーザーをもっと幸せにしようと考えているレジストリがこれを獲得すれば、もっともっとドメインが普及します。他のレジストリだったら「.shop」を年額数千円で販売するかもしれませんが、我々が「.shop」を獲得した暁には、「.com」「.net」「.org」並みの年額数百円で提供します。同時に、ショッピングカートを超格安で、あるいは無償で、あるいは一定期間無料で世界中に提供します。これは公約です。

 ショッピングカート市場で競合のEストアーさんやおちゃのこネットさんにも、ほとんどタダ同然で「.shop」を卸したいと思っています。競合なので「いらない」と仰られるかもしれませんが、私は日本のECがもっと広がってほしい。そのために、Eストアーさんやおちゃのこネットさんの既存ユーザーに「.shop」ドメインを無料で差し上げるぐらいの勢いです。

 年間数百円で自分の名前のネットショップを開けるとしたら、事業者でなくとも、主婦の方が手作りの商品を販売してみようと思われるかもしれない。そういう革命を起こしたい。ドメインはあまり注目されない事業ですが、インターネットを一新する可能性を秘めています。

――ありがとうございました。


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(永沢 茂)

2009/8/25 16:12

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