INTERNET Watch Title
Click

【レポート】

父島の“日本一早い初日の出ライブ”計画のその後
<その1>のんびりムード(?)で進むライブ前日の準備作業


 INTERNET Watchでは昨年12月、「2002年の初日の出、日本一早いライブ中継サイトはどこになる?」と題した記事を掲載。これまでライブ中継で日本一の座に着いていた千葉県銚子市を26分も上回るという小笠原諸島の父島で、インターネットカフェのスタッフらによって進められていたライブ中継計画を紹介した。

 これをお読みになった読者の中には、元旦の朝に同サイトにアクセスしてみた方もいたかと思うが、前回の記事執筆時点でいくつか残されていた課題もその後クリアされ、なんとか成功を収めたようである。

 一方、記事に掲載はしたものの、その後の状況が気になっていた本誌は、大晦日から元旦にかけて実際に父島を訪問。離島のインターネット事情などを含めて、その舞台裏を取材してきた。今回から全4回の予定でレポートする。


 父島は、東京から1,000キロメートル以上も南の大平洋に浮かぶ島だ。“東京都内”でありながら、緯度は沖縄本島と同じくらいで、海洋性亜熱帯気候に属している。観光資源に恵まれている点も沖縄諸島と同様だが、決定的に違うのは飛行場が存在しないこと。交通手段は原則として、6日間に1往復の割合で運行されている定期船に限られ、東京港から片道25時間半かかる。

 今回、そんな離島からの初日の出ライブを計画したのは、父島で電気工事やコンピュータ関連のサービスを提供しているランドサービス有限会社の社員ら。同社は2000年末、島内にインターネットカフェ「ガーデン」を開店しており、同店のスタッフである三澤一信さんが中心となっている。

 詳しいシステムの構成などは、同店が運営するウェブサイト「小笠原チャンネル」を参照してほしいが、注目されるのは無線LANと風力発電を活用している点である。中継地点となる山の山頂にウェブカメラと無線ルーターを設置し、風力発電により電力を供給する。そこからカフェの敷地内まで無線LANで接続し、さらにインターネットにはISDNのダイヤルアップ回線を通じて接続する仕組みだ。

東京と父島を結ぶ「おがさわら丸」。所要時間を大幅に短縮する高速艇の就航が検討されているらしいが、それでも片道16時間。しかし裏を返せば、この不便さゆえに取り残された自然が小笠原の最大の資産なのだろう システム構成や使用機器は、初日の出ライブのページで説明されている。ルートの無線ルーター、AXISのウェブカメラ、アースグッズワールドの風力発電機が使われたほか、ライブ実現にはある秘密兵器が必要だったという(詳細は次回紹介の予定)。地図上、カフェのあるあたりが父島の中心地である大村地区だ

 同店を訪問したのは、ライブ中継も翌日に迫った12月31日の午後。まずは店内で1時間ほど父島の通信事情などについてお話をうかがったのち、機材設営の様子を見学させてもらうことになった。設置テストについては同日の午前中にも一度実施していたようだが、なんと、最終的な作業はこれから行なうという。インタビューが終了した午後3時すぎ、三澤さんは店内で説明してくれた無線ルーターやケーブル、机など一式をおもむろに運び出し、店の前のポールに無線ルーターの指向性アンテナを設置しはじめた。

 アンテナの向く方向には、二見湾を挟んで約2.1キロメートル離れた、傘山山頂が目視できる。使用している無線ルーターは、2.4GHz帯を使って最大11Mbpsの通信が可能な製品だが、三澤さんによると2キロメートルを超えると急にスループットが落ちるようだという。それでも、昨年夏に島内で行なった映像配信実験では、同じような距離で1Mbpsのスループットが出ていたとしている。

 アンテナの方向調整が終わると、ポールの下に机を設置。その上に無造作に置いた無線ルーターにアンテナ線を接続し、さらに無線ルーターから店内にあるダイヤルアップルーターまでEthernetケーブルが引かれた。

 店内に消えた三澤さんはしばらくすると、今度は半透明のゴミ袋を持って登場。「万一雨が降ったときのために」、ゴミ袋で無線ルーターに“防水処理”を施した。実は今回使用する無線ルーターは、室内設置用の製品だったのだ。この無線ルーターメーカーでは屋内設置用の同等製品も用意しているが、今回は貸し出し申込みが間に合わなかったのだと苦笑する。

カフェの前庭で無線ルーターのアンテナ設置作業を進める三澤さん。右奧に見える“民家”が、ランドサービスの運営するインターネットカフェ「ガーデン」だ。離島のために高速バックボーンは通じておらず、その存在意義を疑問に思われるかもしれないが、意外にニーズは高い。その全貌(?)は、父島のインターネット事情とともに、本レポートその3でお伝えする カフェ側の機材設営終了後の様子。白いゴミ袋の中に無線ルーターが入っている。写真ではわかりにくいが、駐車場の向こう側が二見湾。ウェブカメラが設置される傘山は、海を挟んだ向こう側になる。アンテナのすぐ左下に見える小さなピークが傘山山頂

 これでカフェ側の設営は完了。三澤さんは店の戸締まりを済ませ、クルマで山頂側の準備に向かう。カフェと山頂間で接続テストを行なうため、さきほどカフェの前に設置したアンテナや無線ルーターはそのままだ。カフェが位置するのは、父島でもっとも人通りの多いメインストリートである。もちろん都会の比ではないが、年末年始で観光客も多数来島している時期だ。しかし、そんな場所に機器を出しっぱなしにしておいても大丈夫な、のんびりしたムードが父島にはあった。

 それと同時に、ライブ中継を翌日に控えながらも、一人でマイペースに作業を進める三澤さんの姿を眺めながら、いい意味で、今回のライブ中継計画の手作り感覚ののんびりさを実感した。大がかりな設備を必要とせず、一般に市販されているような製品だけでも(今回はメーカーの協力で貸し出しを受けたかたちだが)、最低限のネットワークスキルさえあれば、その地域ならではの魅力あるコンテンツ配信が実現できることを証明していると言えるだろう。(以下、その2へ)

◎関連記事
2002年の初日の出、日本一早いライブ中継サイトはどこになる?
父島の“日本一早い初日の出ライブ”計画のその後<その2>
父島の“日本一早い初日の出ライブ”計画のその後<その3>
父島の“日本一早い初日の出ライブ”計画のその後<その4>

(2002/1/19)

[Reported by nagasawa@impress.co.jp]


INTERNET Watchホームページ

ウォッチ編集部INTERNET Watch担当internet-watch-info@impress.co.jp