【インタビュー】

ファイルローグは合法的なサービスをやっているつもりです
~日本MMO松田社長に聞く

■URL
http://www.filerogue.net/

 

 「ファイルローグ」――これは、有限会社日本エム・エム・オー(日本MMO)が開始した国内初のファイル交換サービスだ。P2Pによるファイル交換サービスといえば「Napster」、「Gnutella」が知られているが、いずれも違法コピーファイルが蔓延し、著作権侵害行為を増長させるものとして社会問題化している。

 1月29日、社団法人日本レコード協会(RIAJ)の会員であるレコード会社19社と社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)は、「ファイルローグ」が著作権法に抵触しているとして、CDから作成されたMP3ファイルの交換停止を求める仮処分をそれぞれ東京地方裁判所に申請した。これに対し、日本MMOでは2月12日、仮処分申立書に対する答弁書を提出している。「日本初のファイル交換サービス」に対する裁判の行方について、現在大きな注目が集まっている。

 今回、日本MMOの松田道人社長に「ファイルローグ」の狙いや今後の展開について話を伺った。

 

CD売上減少の原因はファイル交換のせいではない

―「ファイルローグ」を開始するきっかけを教えてください


松田道人社長

松田道人社長(以下松田):3~4年位前に「Napster」を使い始めたのがP2Pとの出会いです。初めて使った時にこれは“はやる”と直感しましたね。みんな、音楽のMP3ファイルの交換は違法ということをわかっていて、「逮捕されるかもしれない」とおっかなびっくりやっていました。結局「Napster」はサービス停止に追い込まれたし、このままいくとファイル交換というものがなくなってしまうだろうと感じたんです。こんな便利なものがなくなるのは嫌でした。ならば、自分で合法のファイル交換サービスを作って堂々と使おうと考えたんです。

―ファイルローグは合法ですか?

松田:合法的なサービスをやっているつもりです。というのも、権利者から申し立てがあった際に削除する「ノーティス・アンド・テイクダウン手続き」を用意しています。つまり、著作権者からファイルの削除の要請があった場合、IDごと削除するシステムです。これまで問題となっていた「Napster」や「WinMX」にはなかった機能ですので、この機能を持っていることが、合法である最たる理由だと考えています。

― これまでに削除した件数はどのくらいですか?

松田:現時点で1件も申し立てはありません。申し立てがなければ法律的に問題はないとの認識です。レコード協会側は、「ノーティス・アンド・テイクダウン手続き」は不十分なものであるとの認識です。つまり、彼らは未然に違法なファイルが上がらないようにすべきとの主張です。一方、我々は「ファイルローグ」に上がっているものについて、著作権者からの申告があった場合に降ろすというスタンスです。この点で、食い違いが生じています。

 また、「Napster」や「WinMX」による損害は6,000億円で、ファイル交換のせいでCDの売上が130億円減ったとも言われています。確かにCDの売上が130億円減っていますが、それについては、ファイル交換のせいで130億円減ったのではなく、iモードの普及により、電車の中でウォークマンでCDを聞いていたのが、ウォークマンを聞かなくてiモードをやるようになってしまったこと、車でカーステレオを聞いていたのが、カーナビの普及によりテレビを見るようになったこと、この2つが原因だと思っています。

― ファイルローグの仕組みについて教えてください。

松田:いわゆる、“Napster型”を採用しています。“Napster型”を選んだのは、“Gnutella型”は中央サーバーがないから法に触れないという理由でいいと言われているが、それは、警察に捕まらないとか、裁判で負けないという意味でいいだけであって、企業としてビジネスの観点からすると、中央サーバーがあったほうがいいと考えたからです。というのも中央サーバーがあるとユーザーの管理ができ、課金することもできますからね。

 また、権利処理が効かなかった場合、ストップすることができるのはNapster型だけです。“Gnutella型”で始めてしまうと万が一法に触れた場合に、違法なものを降ろすことができないうえ、著作権侵害しているユーザーを削除することもできなくなってしまいます。

 

「ファイルローグ」は有料にしたい

―「ファイルローグ」の有料化についてどのように考えていますか


ファイルローグ画面

松田:著作権者の許諾を得るまではできませんが、有料にしたいです。課金するということは身分を明かすことですので、P2Pの長所である匿名性が消えてしまいます。となるとユーザーは違法なことができなくなります。それはそれでいいことだと思いますが、お金を払う代わりに、警察に捕まらなくてすむということがなければ、ユーザーは金を払わないと思います。例えば、レコード協会公認のファイル交換サービスと謳うことができれば、堂々とファイル交換ができますから、たとえ月額1,000円でもユーザは払いますよ。

―ブロードバンド時代のファイル交換技術の活用法はどのように考えていますか?

松田:ブロードバンド時代の到来により、これから情報が音楽だけでなく、映像の時代になっていくと思っています。つまり、1人が発信する情報量が格段に増えます。今は、無料HPスペースで情報発信している人が多いですが、映像となると、容量が100MB~200MBにも達しますよね。とすると、公開したくても、無料HPスペースにはおけないし、どこにも置くことができない状況に陥ります。これまで大企業が情報を発信していたのが、個人でも情報を発信できるというのがインターネットのメリットでしたが、そのメリットがブロードバンド時代になくなってしまうというのは問題です。

 となると、個人でも動画の情報を世界中に公開するにはファイル交換しかないと思っています。例えば、子供の運動会のビデオを取るとしてそれが200MBとします。このビデオを秋田に住むおばあちゃんに送るとなると、ホームページにあげることもできないので、「ファイル交換でおばあちゃん取ってね」と言って、渡すことができるわけです。ファイル交換サービスは、違法ダウンロードというよりはブロードバンド時代の新しいインフラの1つであり、情報を渡すツールの1つとして考えています。

 例えば昔は手紙だったのが、電話になり、電話がiモードやFAXになったりと、新しいインフラが次々と出てきています。新しいインフラがでてきたときには、必ず部分的に悪いことに使う人がいるんです。例えば「iモード」の場合、援助交際に使ったり、テレクラみたいなことに使ったりする人が出てきましたよね。新しいインフラに負の面があるのは宿命なんです。

― 今後の展開について教えてください

松田:裁判をやって和解して、許諾が出てそのとき初めて課金ができてファイルローグが儲かると思っています。ただ、これにはかなりの時間がかかると思います。

 ベンチャー企業が何をもって大企業と競争して優位性があるかといえば、2~3年前のITバブルのころはスピードでした。しかし、今は大企業もスピードが速くなっています。大企業がスピード経営するとベンチャー企業の価値がなくなってきます。そんな中、ベンチャー企業が何をもって存在意義を出すかというと、大企業にできないことをやるしかないのです。できないことというのは、法律すれすれの未開拓地で無理やり市場をこじ開けていくことだと思っています。

 “グレーな部分”つまり、リスクを取れる部分をベンチャーが開拓していくのです。ファイル交換サービスも「合法化されやってい良い」ということになると大手が必ず参入してくるでしょう。日本MMOとしては、ある意味旗振り役として、何をどこまでやっていいかはっきりさせたかったというのが本音です。現にファイル交換は、メッセンジャーなどで送ることもできるし、ブリーフケースのような共有フォルダもあります。技術革新と権利というものは相反するものだと思っています。


 「MP3交換停止仮処分要求」に対する日本MMOからの答弁書では、RIAJ・JASRACに対して非常に強固な姿勢を見せていたが、両者が歩み寄るのか、または決裂するのか、今後の動向に注目だ。なお、ファイルローグ開始のきっかけとなったNapsterは、米レコード協会(RIAA)らの訴えによりサービスを停止。大手メディア企業による資本参加を経て、現在、会員制サービス導入に向け再開準備中である。

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(2002/2/20)

[Reported by maki@writeup.jp]


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