【イベントレポート】
地域IXがもたらす産業創出~富山県、北海道、秋田県の場合■URL ブロードバンドビジネスに焦点をあてたイベント「e-drive2002」において、「地域IXにおける挑戦~地域を変えるインフラモデル」と題したパネルディスカッションが行なわれた。モデレーターには、富山県で地域IXを構築した株式会社インテック・ネットコアの中川郁夫氏、パネリストとして北海道総合通信網株式会社(HOTnet)ネットワークソリューション部の馬場聡氏、および秋田県工業技術センター情報システムグループの佐々木信也氏が各地の事例を紹介した。
●民間主導、ボランタリーな出自を持つ富山県の地域IX まず、中川氏が地域が抱える問題を提示した。例えば、物理的に隣にあるビルへアクセスするにしても、回線的には東京を経由して接続されるため、平均して3秒程度の遅延が生じたり、75%パケットロスが生じたりしていたという。また、地域の技術者にとって交流の場がないことや、地域のコンテンツにも関わらず東京のサーバーから配信するといった問題も存在していた。中川氏は、「地域IXが存在しないということは、東京依存になってしまい、回線の運用ポリシーにしても地域の自立性を発揮することができなかった」と語った。 このような問題提起は、東京のネットワーク管理者から「地域でIXが必要なほどトラフィックがあるのか」と反発されたという。だが実際に、富山県の地域IXが運用され始めると、パケットロスの問題は解消したほか、往復遅延時間(RTT)も半分程度になるなど安定したネットワークの提供に成功したという。 また、地域型コンテンツも数多く登場した。北日本新聞社が主催した花火大会のインターネット中継を実施したところ、アクセスが集中し、通常のインターネット回線ではすぐに帯域がいっぱいになってしまった。富山県では、全てのCATV事業者が地域IX網に接続していることもあり、7,400あったアクセスのうち2,400強の地域ISPからのアクセスに対しては、500kbpsのストリーム配信を問題なく実施できたという。中川氏は、「地域IXを利用することにより500kbps程度のストリーム配信はもはや当然のサービス。高速なインフラを安価に持てるだけでなく、地域ユーザーに限定したサービスを提供することも可能になった」と語った。 ●通信事業者が積極的に展開する北海道の地域IX http://www.hotnet.co.jp/ 次に登場した馬場氏は、通信事業者の立場から北海道における地域IXに対する取組みを紹介した。馬場氏はまず、通信事業の矛盾点として、アクセス部分が広帯域になっているにも関わらず中継網が変わっていなかったり、首都圏におけるトランジット料金は安いのに、地方では高いのに加えて専用線のコストが余計にかかるという地域間のデバイドがあると語った。 そこでHOTnetでは、北海道の中継網を全てイーサネット化する「Giga Exchange構想」を推進した。これは、WAN-LANの概念を一掃し、脱ATM/SDH化を目指した取組みで、TLSの帯域保証や最低速度保証なども計画しているという。また、馬場氏は「どれだけオリジナリティを発揮できるかが重要」として、「IPベースのサービスではすぐに同様のサービスが立ち上がってきてしまう」と語った。 ●県庁が主導する秋田県の地域IX 最後に佐々木氏が、来年2月頃から稼動予定の秋田県の地域IX「ATNAP(仮)」について紹介した。秋田県は、インターネット人口普及率では32.6%(全国平均34%)と全国18位だが、発信情報量では全国36位、ブロードバンド世帯普及率は4.1%(全国平均7.3%)の全国34位という県だ。 秋田県の地域IX構想の特徴は、秋田県単独事業であるものの県庁では構築運用を行なわない点だ。そのため、コンペ形式で「秋田県に登記され、社長もネットワーク管理責任者も秋田県内に居住している新しい企業」を募集したという。当初の予定では、ダークファイバー+DWDMで大手町までつないだ回線を、ADMで途中の各県に1波長ずつ貸し出すといった案も構想されていたが、品質保証やコスト面で断念したという。 また、秋田県が旗を振り、民間企業が地域IXを構築するやり方の背景には、数年前に通産省(当時)から予算まで付きつつ頓挫してしまった民間主導の地域IX構想があったからだという。今回のコンペでは、事業の収益性が重要なポイントで、IXに付随するデータセンター事業やADSL回線のホールセールスなども含んだ事業計画が寄せられた。佐々木氏によると「秋田県を驚かせるような事業計画を持ってくるようなお願いがあった」という。その結果、「ATNAP(仮)」では、株式会社スクウェアが提供中のPlay Station2向けオンラインゲームサービス「PlayOnline」のデータセンターとも直結されるとのことだ。 佐々木氏によれば、「地域IX事業のおかげで、『IX』という言葉を知らなかった秋田県民の知識レベルが向上したことは間違いない。また、局舎に導入されるDSLAMの半額程度を秋田県が出資し、県民に安価なADSL回線を提供できる」と語った。 ◎関連記事 (2002/10/25) [Reported by okada-d@impress.co.jp] |
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