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【イベントレポート】

~IPv6を応用して介護に活用する「e-ケアタウンプロジェクト」など

慶應SFC、研究展示イベント「Open Research Forum 2002」を開催

■URL
http://www.kri.sfc.keio.ac.jp/ORF/2002/

 22日、「SFC Open Research Forum 2002(以下、ORF2002)」が慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)にて開幕した。同フォーラムは、SFC研究所が取り組んでいる研究を一般に広く紹介するイベントで、研究成果の発表会や講演会が行なわれている。会期は23日までとなっている。ここでは、22日に行なわれた講演や興味深い発表を紹介する。

●デジタルシネマ技術を全国の映画館に導入していきたい~稲蔭教授


 SFC研究所では、研究グループの研究活動の単位として「ラボ制度」を新たに導入しており、今回のORF2002では各ラボ毎に研究報告がされた。ここでは、その中より「デジタルシネマ・ラボラトリ」の発表を紹介する。

 デジタルシネマ・ラボラトリは、環境情報学部の稲蔭正彦教授が率いる研究グループだ。同ラボではブロードバンドを駆使したデジタルシネマ研究を行なっており、ブロードバンド回線を利用した「新しい製作スタイルの提言」や「家庭への配信によるプライベートシアターの提言」、「パブリックスペースにおける新しい鑑賞の可能性」などを研究しているという。

 「新しい製作スタイルの提言」では、IPv6を用いた40Mbps保証帯域のネットワーク回線を用いて、米国・香港・大手町などの複数拠点での映画撮影に成功したという。具体的には、米国の監督が香港や大手町の製作スタジオに指示を出し、実際の演技はSFCで行なわれているという環境だったという。

 「家庭への配信によるプライベートシアターの提言」は、松下電器が開発したブロードバンド映像配信システムを使用して、100Mbps IPv6でMPEG2でエンコードされたハイビジョン映像を配信するというもの。2001年に行なわれたイベント「Net.Liferium 2001」では実際にこの方法を用いて、倉木麻衣などのライブ映像を配信した。

 また、「パブリックスペースにおける新しい鑑賞の可能性」では、「MIVE(Movie Interactive Vivid Experiment)」という双方向型映像イベントを実施したという。これは、会場の視聴者にボタンを持たせて、面白かったシーンや興奮したシーンなどでそのボタンを押してもらい、その結果が表示されることによって、視聴者の反応がより一層明確に分かるというものだ。

 稲蔭教授は、「現在のハリウッド映画は、数多くのユニオンが存在し、影響力が強い。従って、簡単にデジタル技術に完全移行できるとは言えないが、スターウォーズのエピソード2などでは、デジタル技術が多く利用されていた。今後はどこの映画館でも、デジタル投影ができるような標準化策定などを進めていきたい」と抱負を語った。

慶應義塾大学環境情報学部
稲蔭正彦教授
遠隔撮影システムのイメージ
下にあるグラフがテンション・パラメーターやインプレッション・ボード LightStage3を用いた撮影の様子

●WebとCSを融合したコンテンツ「item.tv」の配信実験が開始


「item.tv」のサイト

 稲蔭研究室・CSプロジェクトと岩崎産業株式会社は、通信と放送の融合を目指した共同研究結果の一つとして、WebとCSを融合したコンテンツ「item.tv」の配信実験を開始した。

 「item.tv」は、Web上に仮想デパートを作成し、ユーザーが各自アイディアを提案・投稿し、それを商品として売買するゲーム形式となっている。商品の価格は、株価などと同様に、人気のある商品ほど高くなるなど常に変動する。これと同時にCSデジタル放送では、Webコンテンツと連動してWebの売買価値を反映させた株価ニュース形式の放送を行なう。この番組では、人気商品の紹介や、商品価格を促進するようなイベントを行なって、WebからCS番組への誘導を行なうという。

 「item.tv」の特徴は、Webストリーミング用、放送番組用の撮影から編集までをフルデジタルで行なっており、動画やテキストまで全ての素材を単一サーバーに保存している点だ。これにより、放送用映像やモバイル用の映像を一括して製作できる。具体的には、XMLでコンテンツを作成すると、そのXMLからWeb用(HTML)、i-mode用(CHTML)、EZweb用、J-Sky用、データ放送用(BML)などをアクセス元の環境に合わせて自動的に作成するという。これにより、WebやCS、携帯電話のそれぞれの特徴を活かしたシームレスなコンテンツ作成やマーケティングが可能になるという。稲蔭研究室の今後の予定では、アジアをプラットフォームにした放送番組コンテンツの製作を計画しており、Web放送やWeb上でのコミュニケーションの多言語問題を解決するための実験を行なうという。

◎関連URL
http://www.item.tv/

●IPv6を応用して介護に活用する「e-ケアタウンプロジェクト」


 SFCキャンパスのある藤沢市は、総務省の「e!プロジェクト」の介護福祉分野における実証実験実施地域に選ばれた。これに伴い慶應義塾大学では、看護医療学部を中心として環境情報学部などを含めて、藤沢市などと共に「e-ケアタウンプロジェクト」を発足し、実証実験を2003年1月より開始する。22日には、「e-ケアタウンプロジェクト」のプロジェクト長でもある看護医療学部長吉野肇一教授などが講演を行なった。

 「e-ケアタウンプロジェクト」は、ITの導入により、ケアを必要としている高齢者や、その高齢者を支える家族、ケアを提供する専門スタッフなどが、より一層密接なコミュニケーションを実現できるようにしようという実験だ。データ通信は、全てIPv6を用いて行なわれる点が特徴だ。藤沢市の市民を対象に参加者を募集し、2003年1月より3年間を目処に実施される。

 2003年度に用意されたプログラムは、「e-ヘルスアップ」、「e-ファミリーケア」、「e-介護」、「e-専門化スキルアップ講座」、「e-市民健康講座」、「e-ケア情報セキュリティ」の6つとなっている。

 「e-ヘルスアップ」は、中高年を対象とした遠隔トレーニングの実験。モニターには、PCと特殊なエアロバイクが提供される。このエアロバイクを用いてトレーニングすることにより、トレーナーにデータが転送され、逐次トレーナーからトレーニングメニューなどの指示や相談を受けることができるというもの。これらの通信を100Mbpsの専用回線上をIPv6を用いて実施される。

 「e-ファミリーケア」や「e-介護」は、モニターの様子を複数のセンサーから得られた情報を家族等に知らせるというもの。センサーには「元気コール」、「照明計センサー」、「歩数計」、「パッド・センサー」が用意され、それぞれインターネットを介して情報が家族等に送信される仕組みだ。中でも興味深いのは「元気コール」で、簡単なメッセージを送るためのボタンが3つ配置されており、モニターはその中の一つを押すことによって家族に「元気です」のようなメッセージを送ることができるという。

 「e-専門化スキルアップ講座」は、ホームヘルパー2級保有者のためのスキルアップeラーニング講座だ。マルチアングルによるビデオ学習のほか、遠隔講義や技術実習などが行なわれる。「e-市民健康講座」では、インターネット上で市民健康講座を開講し、健康に役立つ情報を提供するというもの。「e-ケア情報セキュリティ」では、在宅ケアを受けるモニターの個人情報を保護すると共に、複数の職種に渡るケアスタッフ間の情報共有を実現するプログラムとなっている。

 環境情報学部専任講師の南政樹氏は、「このプロジェクトには、介護という命に関わる問題を扱うため、特に“家電製品のように3~5年は最低壊れない安定性”“5W1Hを実現する可用性”“健康面を扱うために必要な安全性”が重要となっている」と語った。また、これらを実現するために、PCを利用しないマイクロノードの導入や、MobileIPや無線LAN技術の導入、IPsecや耐クラックソフトウェアの利用など複数の対策を導入するとしている。

 最後に看護医療学部長吉野肇一教授は、「この実験は、今後到来する高齢化社会や、それに付随して確実にやってくる“介護問題”にITを如何に上手く利用するかを探るための実証実験だ。しかし、“モニターを複数のセンサーで四六時中監視するとプライバシーの問題は発生しないのか?”など内在する問題は多数ある。これらをクリアするための研究や検証を行なっていく。また実験を進めながら各方面からアンケートによる意見収集によって、新たに問題が発生して対応するといった手探り感覚で実験を進めていきたい」と語った。

慶應義塾大学看護医療学部長
吉野肇一教授
慶應義塾大学環境情報学部
南政樹専任講師
マイクロノードとセンサーの融合によるモニタリングイメージ 「e-ケアタウンプロジェクト」の位置付けイメージ

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(2002/11/22)

[Reported by otsu-j@impress.co.jp]

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