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~「基調討論:どうする?どうなる?日本のIT」よりIT化による行政と市民の対話は有効か■URL 「IAjapan エグゼクティブフォーラム~どうなる日本のIT!~」2日目の午後は、「基調討論:どうする?どうなる?日本のIT」が開催された。鳥取県や宮城県など地方行政に携わるメンバーを中心に、行政のIT化に関する話題を展開した。 参加したメンバーは鳥取県副知事の平井伸治氏、宮城県企画部次長の広島和夫氏、東京大学大学院情報学環教授の須藤修氏、イー・ウーマン代表取締役社長の佐々木かをり氏。
鳥取県は2001年から本格的にIT戦略を始め、現在県内を結ぶ光ファイバー網「鳥取情報ハイウェイ」の整備を行なっている。鳥取~米子を中心に各市町村を結ぶほか、その後岡山県や兵庫県の情報ハイウェイと接続する計画も進んでいるという。また電子申請など住民が利用する現場の電子化にも積極的だ。宮城県では、仙台市を始めとした約3分の2のエリアで、光かADSL・CATVでのブロードバンド接続が可能となっている。反面、38の市町村、市町村数で見た場合半数はブロードバンドに未対応だ。こうしたエリアをカバーするため、県では市町村を結ぶ光ファイバー網「みやぎハイパーウェブ」を構築中で、公共機関が使わない帯域を民間に開放することも検討している。 一方、福島県・三重県のIT顧問や電子政府世田谷委員会委員長を務め、各国の電子政府事情に精通する須藤氏によれば、行政のIT化で最も進んでいるのはドイツ、次いで意外なことに日本だという。また女性向けコミュニティ「イー・ウーマン」を運営する佐々木氏は、「今回この討論会に出席するにあたって、会員に地方自治体とIT化に関するアンケートを募ったところ1日で三百数十通の回答が集まり、関心の高さがうかがえた」という。 電子政府についてのスタンスはそれぞれ異なり、宮城県の広島氏は「住民サービスと自治体効率化のためにIT化がある。我々としては地域振興が大きなポイントかと捉えている。例えば“みやぎ大島モデル事業”で、離島のみやぎ大島に光ファイバーを引いたが、観光事業などへの活用に加えて、島民の意識が大きく変わり、自信を持った面がある」と発言。今後は「コミュニティのポータルシステムが基本だと考えていて、県というより市町村が要の位置を占めていくだろう」という。そこで重要になるのはITを使った産業作り・人作りとして、東北テクノロジーセンターでオラクルやシスコのスペシャリストを養成するプロジェクトや、「みやぎ情報天才異才塾」という小中学生向けのパソコン塾などを紹介した。一方、システムのアウトソーシングには前向きに取り組んでいて、「共同アウトソーシングのなかで地元のIT事業者に発注していくのがよいのではないか」と見る。 鳥取の平井氏は、「住民にとって便利になるかがまず第一で、次いで民主主義の促進、官僚主義の打破」がIT化の目的としている。鳥取県では本格的な認証の必要がないところから電子申請に着手していて、まず公文書の開示請求から電子化に対応。今ではこの申請の半数がネット経由となった。また企業関連の申請など、対応そのものは窓口だが、申請に必要な様式がダウンロードできるサービスも好調で、週に1,000件ほどのアクセスがあるという。並行して行政内部では、予算請求・査定のシステム化や旅費システムを構築している。これらの活用で各部署の庶務を効率化を視野に入れており、いわば「県庁もテクノロジーに合わせて姿を変えていく」(平井氏)という状況だ。
将来的には、ネットで対話の手段が増えたり、バリアフリーの支援ができる要素を生かしていくほか、自分たちの手でできることはなるべくやっていく方針という。「職員が実際にシステムを作ったりもしていて、こうしたスキルをもった職員をeラーニングなどで養成していく。大きな目標は頭のなかに置きつつ、あえて現場主義でやっていく」という姿勢を表明した。なお本格的な電子申請については法整備を待って対応する方向だが、その一方で「情報ハイウェイの空きスペースを民間に開放しようとしたら、“第一種電気通信事業者をとらないと開放できない”と総務省から待ったがかかった。こうした法規制を解いていく必要もある」と述べた。 須藤氏は「ドイツの次は日本が進んでいる」としながら、「全国的な基盤整備を国が担当して、地域住民に向けた電子化をやるという構想が進んでいるという意味で、現状とは別」と説明。実装レベルでは米国のサンノゼ市などを代表的な例として挙げた。ただ米国の場合、先進的なエリアとそうでないエリアの差が大きく、州や市の財源によって全く異なる状況が見られる。反面、ドイツでは地方自治体の力が強いが、電子化においては国がきっちり先導してうまくいっているという。 日本国内で検討されているものでは、東京・世田谷区について「世田谷区民は89万人で、市庁舎が現在20あるが、高齢化とともにコストがかさみ、区庁舎の維持ができなくなっている。そこでITを使って出先機関を整理をし、そこで浮いた人員を人手不足の福祉分野に再配置することが考えられている」と説明した。 一方、IT化によって行政が市民と対話できるという考えがあるが、「不用意な対話は行政当局の混乱を招く」と須藤氏は警告する。こうした場合、「市民よりも、信頼できるNPOなどの外部期間に意見集約をしてもらい、コーディネイターとして行政と対話してもらうやり方」があり、サンノゼ市などはこの手法で成功した例になるという。これに対し、平井氏は「対話をしてはいけないとは思っていない。あえて住民の声は拾い上げる方向でやっている。例えば県民の窓口を1本化してやりとりをWebに掲載している。また実験的に県民会議室を民間運営でやっていて、これも盛況だ」と反論した。対して須藤氏は「こういう場合、“区議長が返事をしている”といって、実際にやっているのは補佐官だったりすることが多い。そういう嘘をついてはだめ。かといって本当に県知事が返事をするのは不可能だと思う。三重県のIT計画顧問をやった経験も含めて、信頼できるサードパーティをうまく使っていくのは重要だと思う」と述べた。 佐々木氏は前述のアンケート回答を紹介しながら、「回答者のほとんどはフルタイムで働く女性で、便利なサービスを利用することで他のことに時間を使いたい、生活の質を上げたいからIT化を求めている面がある。まず申請を24時間可能にしてほしいという声と、情報公開を求める声が非常に多かった。たとえば広報誌はなぜ新聞の折込なのか、病院のリストも完璧ではないなどがあり、こうした面から、地方自治体が情報をひとつに集めて公開するのが、まず第一歩といえる」と強調した。 また須藤氏が述べた“行政と市民の意見交換のNPO”について、「まさに私たち(イー・ウーマン)みたいなところは使ったほうがいいと思う。1つは行政のIT化で開発を担当する方は依然として男性が多く、見落としているユーザビリティが必ずあるため。また市民の生の意見を直接受け止めず、一度私たちのようなところが窓口の代役になることで発言する側も自制心が働くため、前に進む情報編集ができる」と説明。加えて、「子供を産む時にどこで産もうかっていうのは、やっぱり調べるし考える。そういう点では、地方自治体が独自のことを展開していて、市民がWebなどでその情報を見て住むところを選ぶのも重要だし、今後多くなっていくと思う」としている。 最後に討論会のコーディネイターを務めた日本経済新聞社論説委員の関口和一氏が「先日IMD(スイスのビジネススクール)の調査で、日本の世界競争力は30位と発表された。中国は31位、韓国は28位。日本は一時3位になったこともあったのだが。この要因に、行政にIT化の遅れがあると思う。ここをちゃんと引き上げれば、もう一度デジタルデバイドされた日本の競争力を上げることができるだろう」と発言して討論を締めくくった。 ◎関連記事 (2002/12/21) [Reported by aoki-m@impress.co.jp] |
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