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ひかり売りの人々
~住宅に街に、広がる光インターネットと支える人々~


第2回 “各種通信回線完全対応マンション”の落とし穴(その2)

 すでに約27万世帯に光ファイバーが届き、少し前まで言われていた「夢の100Mbps!」もすっかり現実のものとなってきた。このシリーズでは、光ファイバーが家庭に届くまでの要所要所に立つ人たちを「ひかり売りの人々」と名付け、彼らの着想や視点、迷いや決断の経験を通じ、光ファイバー接続サービスの今と未来を探っていく。

●「よくあるケース」のどれにも当てはまらなかった、鈴木さん宅の事情
<前回のあらすじ>
 自らがオーナーとなって建設した賃貸マンションにあらゆる通信回線を引き込めるよう、設計段階から準備をしていた元無線エンジニアの河野浩一さん。このマンションに住む鈴木淳子さんが光回線を引き込むことになり、話はとんとん拍子に進む。だが工事には意外な落とし穴が待ち受けていた……。

快調に動くメディアコンバータ。ここに来るまでには予想外の紆余曲折が……
 光ファイバー回線を家庭内に引き込むうえで障壁となるのは、建物の権利や管理に関わる問題と、物理的な回線の引き回しに関わる工事面の問題に大別される。前者は持ち家の戸建ての住宅では問題にならないが、分譲マンションの場合は規約の改定やそれに伴なう管理組合での承認が、賃貸物件ならオーナーの了解を取りつけるなどといった、けっこう手間のかかる説得作業が必要になる。

 回線の引き回しに関しては、その建物の所在地まで通信事業者(キャリア)の光回線が到達していないという問題と、光回線は近所まで来ているが建物の中に引き込めないという問題がある。前者はユーザーにはどうしようもない部分だが、都市部に限っていうなら、ある程度は時間の問題と楽観していてもいい。今はキャリアが、潜在ユーザーがいそうだと思われる場所に、競ってカバーエリアを拡大している真っ最中だからだ。

 さらに集合住宅の場合、建物の中に光ファイバーが引き込めても、各戸の中までそれを引き込めない場合がある。キャリア側はHomePNAやVDSLなど既存の電話回線を利用する形のサービスもラインナップしている。そうした端局機器を置くスペースや電力供給などの問題もあるが、ユーザーの数さえまとまれば(それはそれでたいへんなのだが)、キャリアは熱心にやってくれる。このあたりは追って改めて取り上げるが、かなり高い確率で、ADSLをはるかに上回る高速通信環境を手にすることができる。

 そして、河野さんのマンションに住む鈴木さんは、上記のどれにも当てはまらないケースだった。「建物オーナーは快諾」で「建物に引き込み可能」なのだが、当面のユーザーは自分だけなので、VDSLやHomePNAなど、別建てでコストのかかる装置を介在させることはできない。むしろ工事料金無料モニターの条件が「光ファイバーブロードバンドの利用方法を探ること」だったため、居室内まで光ファイバーを引き込むことが必須でもあった。

●「これはできませんねぇ」 工事業者は首を横に振った

光ファイバー配線作業に欠かせない「通線ワイヤー」。通常のケーブルより張りがあり、曲がっている管も難なく通すことができる
 各種回線を引き込むためのさまざまな仕掛けをあらかじめマンションに施していたという河野オーナーの話を聞いて、安心していた鈴木さん。しかし、下見に来た工事業者の話を聞いて、サーッと頬にタテ線が走った((C)さくらももこ)。

 「業者さんは『ムリだ、できない』っていうんですよ。『管が届いてない』と」

 解説しよう。まず工事業者は、もっとも真っ当な方法なのだが、電話線を引き込んでいるのと同じルートで光ファイバーを部屋にまで引き込もうとした。マンションの電話線は普通、共有部分に置かれたMDF(数十回線を分配する機器)から居室内のモジュラーコンセント(の壁の裏側のコネクタボックス)までを結ぶ、プラスチック製のCD管(フレキシブル管とも呼ばれる)を通す形で施工されているからだ。

 このCD管は、踏んでもつぶれないくらい丈夫なもので、内装工事中や施工後も長期にわたり、内部の配線を守る役割を果たしている。電話線が露出した状態で床下や天井裏を這わされているという施工法は、少なくとも新しい建物では基本的に「あり得ない」はずなのだ。

 下見に来た工事業者は、新設する光ファイバー配線をガイドする役割を、既設のCD管に期待したわけだが、その「管が届いていなかった」ことが判明した。MDF側から通線ワイヤー(現場では「通線棒」とも呼ばれる、樹脂被覆されたピアノ線)を通してみても、その端はモジュラーコネクタの裏側まで到達してくれなかったからである。恐らく通線棒の先っぽは、途中で切れたCD管の隙間から床下の自由空間に吐き出され、ブラブラ、ゆらゆらと漂ってしまっていたのだろう。

 さらに調査を重ねると、鈴木さん宅に引き込まれたCD管が、居室の内部までは到達しているのは間違いないが、床下から壁に立ち上がる部分あたりで切れているらしいということがわかった。モジュラーコンセントまで距離にして1、2mのあとわずかの区間に、CD管が存在しないのである。壁の裏側や床下の隙間を通して、この先にある直径2cmほどのCD管の入り口に光ファイバーの先っぽを差し込む……。ゴルゴ13か内視鏡技師を胃カメラ付きで連れてこないと、とうてい無理だ。だから、光ファイバーが引き込めないのだという。

 「いったい何でそういう施工をしたのか。手抜きなのか工事の段取り上でやむを得なかったのか、将来のリフォームを考えてのことなのか。また他の部屋はどうなっているのか、そもそも管が届いていないのにどうやって電話線を引き込んだのか……。疑問はいろいろありますが、今となってはわからない」(河野さん)
●“イバラの城から大脱出”方式を否定する「業界の仁義」

天井に開けた「点検口」
居住階のMDFスペースに設置された光ファイバー用の分配機器。左下のコードから束になっているのが各戸分の光ファイバー
 この話を聞いて私は、イバラの城に幽閉されたお姫様の大脱出劇を想起した。お姫様は最初、衣服をほぐして結わえた細い糸を、閉じこめられていた塔の窓から地上に垂らした。地上の協力者はその端に最初は細い紐を結びつけ、お姫様がたぐり寄せるに従って、どんどん太くしていった。それが丈夫な縄になったところで、お姫様は安全に地上に降りることができた……というおとぎ話の一節である。現実の巨大吊り橋でも、最初の1本はパイロットロープと呼ばれる細い紐だったりする。鈴木さん宅でも、既設の電話回線をこのパイロットロープ代わりに使えば、光ファイバー引き込みが実現したのではないかと思ったのだ。

 具体的な手順としては、まずMDF側で電話線をいったん切断し、その切端に光ファイバーと新たな電話線を結わえる。そして居室内からそれをズルズルと引きずり出す。こうすれば室内に光ファイバーと新たな電話線が到達する。果たしてこの方法は、試みられたのだろうか?

 「もちろん業者さんに話はしましたよ」と河野さんも鈴木さんも口を揃えた。考えてみればもったいをつけるほどのアイデアではなく、誰でも思いつく単純な方法だ。むしろ配線のプロである工事業者が思いつかないほうがおかしい。

 CD管が届いていないということは、引き込まれる配線は、床下や壁裏の自由空間を旅しなければならなくなるということだ。そこに何が待ち受けているかわからないから、誠実なプロなら「絶対安全」と断言はしないだろう。むしろ最悪の事態として「既設の電話線ごと喪失するリスク」もじゅうぶん考えられる。そもそも業界では、既設線には絶対に迷惑を掛けてはいけないという「仁義」がある。同じ工事をする仲間として、先達の苦労の跡に泥を塗るようなことはできないという配慮は当然。配線ではないが、新たに開通する地下鉄への連絡エスカレータがやたら長いのも、同じようなルールに従っている(従わざるを得ない)からだ。もし既設配線をパイロット代わりに利用して万が一のことがあった場合、コトはユーザー宅での電話線の引き直しという追加工事に留まらない。配線工事業者としての倫理を疑われる事態に発展しかねない、ということなのだろう。

 「結局、何度か下見に来てもらってとった方法は、天井裏を利用するというものでした」(鈴木さん)

 天井の内装ボードとマンションのコンクリート躯体の間には、電灯線の配線のため10cm前後ほどの隙間がある。テレビのアンテナケーブルの引き込み口を利用して天井裏に光ファイバーを引き入れ、天井の内装ボードに切り込みを入れて「点検口」を2箇所設け、その点検口を飛び石づたいに渡るようにして光ファイバーを居室まで引き入れた。

 「もともとモニター特典で配線の工事費は無料だったのですが、工事を監理するネクタイ姿の担当者まで何度も何人も見に来るような大工事になりました。また、天井まわりの工事費用などは内装屋さんに頼んだので、別にかかっているんですが、オーナーの河野さんが肩代わりしてくれた。『設備に不足があったみたいなもので、こっちも勉強ですから』とおっしゃっていただいて」と、鈴木さんは振り返る。

 ともあれ、光ファイバーは来た。鈴木さんはその後、テレビ電話などで光ファイバーの大容量通信を楽しんでいるそうである。


 取材を終え、外観写真を撮るためマンションを一回り鈴木さんに案内してもらった。と、3階のある部屋から、まるで凧が引っかかったときのようにダラリと垂れ下がる黒い線が、ベランダから街路樹の枝に絡まりながら電柱に届いている……。

 「あ、あれも光ファイバーらしいんですよ、ベランダから電柱まで、あんな感じでも引けちゃうんですね。ウチはこんなにたいへんだったのに、あれだけで済むなんて、なんかズルイというかうらやましいというか……」(鈴木さん)

 この言葉に、筆者は満足な答えが返せなかった。次回は筆者宅への光ファイバー引き込み工事と、工事担当者とのやりとりをお伝えしたい。

見えにくいが、右側の電柱(写真外)から建物に、光ファイバーが伸びている

(続く)

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ひかり売りの人々 第1回 “各種通信回線完全対応マンション”の落とし穴(その1)

(2003/4/17)

[Reported by 喜多充成(kita.mitsunari@nifty.com)]