これまでのインターネットによる自動車保険の販売は、資料請求もしくは契約書の送付請求といったものがほとんどで、申し込むと契約書が郵送されてくる仕組みだった。インターネットで販売する自動車保険はどのように変化してきたのだろう。
●Webサイト上での契約完了がこれまでできなかったのはなぜか
書類には契約書だけでなく約款など注意事項やリスク事項なども一緒に送付されるので、これをやり取りすることで「実際に契約する本人が本当に契約を望んで納得した上で契約をした」というかたち、つまり本人確認と契約内容の了承がとれるわけだ。もっとも、オンラインで申し込んで書類が送られてきたときに、本当に本人が書いたかどうかなどは事実上厳重に確認が取れるわけではないし、どこまで内容を理解しているかも分からないため、このやり取り自体は形式化しているだけともいえる。しかし、その形式をとらなければならないゆえに、オンラインだけで証券や証書を扱う契約を完了することはできなかった。
保険商品の販売は金融監督庁の認可が必要となる。インターネットで販売する仕組みも許可を取らなければならない。金融監督庁が重視する大きなポイントは、本人確認や契約者保護(顧客情報の管理体制など顧客が不利益を生じない仕組み)などだ。
●ソニー損保とチューリッヒ保険が先駆
ソニー損保は、インターネット販売に係る特約と、業務に係る基準書類の2つの面で監督庁から認可を受けて、昨年9月25日から販売を開始。認可を受ける際に焦点となったのは、やはり本人確認と契約者保護をどのように行なっていくかという点だ。認可された内容の詳細は、他社が真似れば簡単に認可を受けられてしまうため、もちろん非公開となっているが、本人確認は基本的にクレジットカード番号の入力をもって行なう。このほか、Web上でのやり取りなどをすべてログで残すなど、幾重にもチェックや保護体制を敷いているという。
チューリッヒ保険は、インターネットによる自動車保険の販売認可を昨年9月17日に受け、9月27日から販売を開始した。契約申し込みには、先にユーザー登録と見積もりを済ませることが必要で、ユーザー登録の際には個人情報とEメールアドレスを入力し、パスワードを決める。見積もり以降の作業では、このEメールアドレスをIDとして使い、パスワードとともに入力することで本人と確認しログインが可能になる。
・ソニー損害保険
http://www.sonysonpo.co.jp/
・チューリッヒ保険
http://www.zurich.co.jp/
●新会社や新販売形態が先駆2社に続く
前者は、6月1日から開始する予定の三井ダイレクト損害保険と、予定はまったく未定だが今後完結型で行なっていく方針としているアメリカンホーム保険。後者は、6月1日から開始する予定の松井証券と6月中に会員向けに開始する予定の@nifty保険。
三井ダイレクトは、三井物産など三井グループの出資で設立され本年5月に損害保険業の免許を取得した新しい会社。インターネット完結型の保険販売では、インターネット特約の認可を受けた。認可を受ける際には、契約者に不利益が生じないようにどのような仕組みをとっていくのか、本人確認についてはどうするのかという点を中心に、詳細な説明を強く求められたという。
松井証券ではオンライントレード「ネットストック」において、保険代理業として開始する。損害保険代理店契約を結んだのは7社だが、このうちインターネット完結型での販売は、「通信ネットワークシステムによる通信販売に関する特約」を取得した住友海上と「通信による契約手続きに関する特約」を取得した三井海上の2社4つの保険商品。あとの5社の保険商品は、保険会社のWebサイトの申し込みページへリンクを張るかたちのものと、ネットストックで申し込みを受け付けて、保険申し込み書類を顧客に送付はするが、その書類はネットストックの口座開設時に登録した情報に基づいて自動作成され、顧客は送られてきた書類に署名・捺印のみを行なって送り返すというかたちのもの。
@niftyは「@nifty保険」をつくり、エース損害保険などと協力して昨年12月からすでにゴルフ、スキー、スノーボードのレジャー保険、国内・海外の旅行傷害保険をインターネット完結型保険として扱っている。そして今回、保険販売代理店による自動車保険のインターネット完結型の販売認可を大東京火災海上が受け、@niftyがその代理店として販売する。
・三井ダイレクト損保
http://www.mitsui-direct.co.jp/
・アメリカンホーム保険
http://www.americanhome.co.jp/
・松井証券
http://www.matsui.co.jp/
・@nifty保険
http://www.nifty.com/insurance/
●インターネットを利用した場合の差は
保険料については、インターネットを利用した場合2,000円~3,000円程度割引される。電話を使った場合にはインターネットの場合よりも割引率は低い。この割引は顧客のリスク要因などで決定されることではなく、あくまでもコスト削減など企業努力の結果で左右されるため、株式の手数料引き下げ競争と同様に、今後さらに割り引かれていくかもしれない。実際、インターネット利用での割引はソニー損保が2,000円、チューリッヒが2,500円、6月1日から開始する三井ダイレクトが3,000円と差が出ている。
保険料の決済としては、共通して対応しているのがクレジットカード。ほか、銀行引き落としやコンビニ決済などに対応しているところもある。@niftyでは決済サービス「iREGI(アイレジ)」(@nifty会員の利用料金をクレジットカードで決済しているユーザーがカード番号を入力することなく、@niftyのIDとパスワードで決済できる仕組み)を利用。また、松井証券ではオンライントレードの口座から引き落とされる。
見積もりもインターネット上で行なえる会社がほとんどだが、名前や住所など個人を特定できる情報の入力を求められるタイミングが違う。ソニー損保と三井ダイレクトでは、そういった個人情報を入力しなくても見積もりを実行できる。見積もりを保存する時、見積もりのあとに契約を申し込む時になって初めて個人情報を入力する。一方、チューリッヒでは、見積もりを行なう前のユーザー登録の時から個人情報を入力しなければならない。
さらに、ひとえに見積もりといっても二つある。Q&A形式で簡単に答えていくと、おすすめの保険をいくつか推奨してくれるおためし的なものと、車両番号などまで入力を求められる本格的な見積もりがあり、ソニー損保と三井ダイレクトは両方を用意している。ソニー損保では、実際に事故が起こったと仮定してどのように補償がなされるかなどのシミュレーションも可能。
補償や事故を起こした時の対応などサービス面に関しては、各社各商品によって複雑でさまざまになっており、一概になんともいえない。理解するのも一苦労といったところ。それゆえに、使用されている言葉も難解だ。この点については、各社いろいろと考えている。三井ダイレクトでは単に用語集サイトを用意するだけでなく、見積もりのページなどで分からないと思われる言葉に対しては徹底してリンクを張り、それをクリックすると簡単に用語の解説が表示される仕組みを作っている。
●保険会社サイドから見ると
しかし、代理店を通じて対面販売を行なってきた歴史のある損害保険会社の場合は、インターネットや電話を使ったオンライン専業の企業とは販売の仕方が違う。歴史のある損保は、オンラインでもこれまでと同様に代理店方式で販売し直販はない。
代表的な例を挙げると、損保最大手の東京海上は、同損保の代理店による代理店のためのネットワーク「TA-Net」を推進している。電子メール・電話・FAXを利用してコミュニケーションを図っていき、見積もりはネット上で、契約とアフターフォローはTA-Net会員および業務提携している現地の代理店が行なうというサービス。しかし、原則として対面販売をしているためネット上で契約するこはできないことにしており、実際の契約時には代理店から営業員が訪問する。
代理店を一気に無くすわけにはいかないため、対面販売にこだわるのは当然といったところだが、それゆえにコスト的には切り詰めるのも限界があるというジレンマが生じている。
ただし、オンライン上での代理店展開の場合、松井証券にしても@niftyにしても保険会社が本人確認など直接行なうわけではなく、すでに口座を開いたり会員になる段階でそのやり取りは済んでいる。そのため、認可を受けるのはオンライン専業に比べるとそれほど困難ではなかったのではないかと推測される。また、保険料の徴収の部分でも各々代理店の仕組みが使える点も効率的といえよう。
・東京海上火災
http://www.tokiomarine.co.jp/
・保険プラザ(TA-Net)
http://www.remix.ne.jp/~plaza/index.shtml
●消費者サイドから見ると
そうしたことを示しているのか、実際に契約件数を見ていくと以下のようになる。
完結型を開始してすでに約8ヶ月経過しているソニー損保のインターネットを通じた契約件数は現在8,000件を超えている。年内には、10,000件の大台を突破するのはほぼ確実。同社では、全体の契約件数を公開していないため、電話を通じた契約件数がどのくらいなのか正確にはわからないが、インターネットと電話の契約件数の比率は圧倒的に電話の方が多いという。
同じく先行してはじまっているチューリッヒの場合、契約件数は一切非公開になっているが、インターネットを通じた契約は全体の1割程度という。今年中に2割程度になる見込みとしているが、圧倒的に電話による契約が多いことに変わりはない。
●生命保険では
三井生命が、インターネットを通じて保険などを販売する専門会社を8月に設立する予定になっている。
生命保険の場合、認可を受けるのはより難しいかもしれない。自動車保険の場合は、契約の際に自動車の車体番号などを入力しなければならないため、盗んだ場合を除けばそれだけでも本人認証という面で少なからず効果がある。また、自動車保険を使った悪事もそれほど大きなことは相対的に考えにくい。
しかし、生命保険の場合は保険金を目当てにした殺人が近年相次いだことからも分かるように、単純にオンラインで契約できることがよいとは限らないだろう。
●参考Webサイト
・金融監督庁
http://www.fsa.go.jp/
監督機関。報道発表等のページを見ると保険に関するヘッドラインがかなり
多いことがわかる。
・日本通信販売協会(JADMA)
http://www.jadma.org/
インターネット通信販売の促進と消費者保護を両立させるため、適切な取引
をするための体制を整備している事業者に対し、その旨を表すオンラインマ
ークを付与する制度を策定しており、現在その実験中。アメリカンホーム保
険とチューリッヒ保険は協会員で、アメリカンホームは実証実験に参加中。
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■チューリッヒ保険、オンライン保険金支払情報サービスを13日から日本で初めて開始
/www/article/2000/0301/zurich.htm
■松井証券が保険代理販売開始、署名捺印がいらない完全ペーパレス契約も
/www/article/2000/0519/matuis.htm
■三井ダイレクト損保、6月からインターネットで自動車保険の販売開始
/www/article/2000/0517/mituid.htm
■@nifty、オンラインのみで保険商品を販売
/www/article/1999/1025/nifty.htm
■三井生命がインターネット保険会社設立へ、保険以外のコンテンツサービスも
/www/article/2000/0512/mli.htm
(2000/5/29)
[Reported by betsui@impress.co.jp]