【特集】

プッシュ・リターン!~ブロードバンド時代に始まるプッシュの逆襲

タイトルロゴ  プッシュ。この言葉を懐かしく思うか、新鮮に感じるかで、その人のインターネット暦が分かる。「PointCastってあったねえ、懐かしいねえ」という人は、インターネットを使い始めて4年以上経っている、ベテランユーザーに違いない。一方、「プッシュ? 何を押すの?」という人は、恐らく2000年以降にインターネットデビューを果たした人だろう。
 …というのはともかく、「PointCast」の終焉とともに終わったと思われていたプッシュが、2002年の今、再び注目を集めようとしている。今、プッシュに何が起ころうとしているのか?

●そもそもプッシュとは?

 比較的最近インターネットを始めたユーザーの場合、プッシュと言われてもぴんと来ない人も多いようだ。まずはプッシュの歴史をざっとおさらいしてみよう。

 プッシュは、正しくは「プッシュ型情報配信」という名称で、「プッシュ技術」と呼ばれる場合もある。ここでは両者をまとめて“プッシュ”と称している。WWWサーバーなどから情報をユーザーに自動的に配信する技術で、情報が“押し出されて”ユーザーの手元にやってくるイメージが、“プッシュ”と呼ばれる由縁となっている。またユーザーによる操作を必要としない点も特徴だ。これに対し、Web閲覧などはユーザーがサイトに自らアクセスして情報を引き出すため、“プル型”と呼ばれている。
 プッシュ型情報配信では、サーバーに情報が追加されると即時でサーバーから情報を配信するタイプと、一定の時間ごとにクライアントソフトがサーバーに自動的にアクセスして情報を受信するタイプがある。後者はクライアントソフトのリクエストによって配信するため(つまりはクライアントがプルしている)、正しくは前者のみが“プッシュ”といえるのだが、ほとんどの場合、後者も含めてプッシュと呼ばれている。

プッシュ、その台頭と凋落

プッシュ台頭の立役者となったPointcast
 このプッシュだが、インターネットの歴史のなかで、一度大きくクローズアップされ、そして忘れ去られるという目にあっている。

 プッシュが注目されたきっかけは、なんといっても「PointCast」の存在だ。PointCastは米カリフォルニアの企業で、1996年に専用ソフトを用いたサービス「PointCast Network」を開始した。これはニュースや株価情報、天気予報といったコンテンツを自動的に取得・表示するもので、スクリーンセーバーに情報を表示することができた。デスクにPCがあることが一般的になりつつあった企業ユーザーを中心に人気を集め、ユーザーはサービス開始後1年以内に100万人を突破。1997年には日本法人も開設して積極的な展開を行なっていた。
 PointCastの成功に加え、同じくプッシュ型サービスを展開するBackweb社、企業向けにプッシュ型アプリケーション配信システム「Castanet」シリーズを提供する米Marimba社などの登場で、「メール、Webの次はプッシュだ」という声がインターネット業界内で高まった。1997年にはMicrosoftはWebブラウザー「Internet Explorer4.0」に「Active Desktop」機能を搭載、Active Channelと呼ばれるプッシュ型コンテンツの表示に対応した。またNetscape社も、Webブラウザー「Netscape Communicator」でプッシュ型コンテンツ受信ソフト「Netcaster」を同梱。プル型の代表格だったWebブラウザーにもプッシュ要素が加わり、プッシュはインターネットのメインとして定着するように見えた。

 しかし、プッシュはそうならなかった。ならなかった原因の1つは、回線環境だ。当時はまだ企業でもそれほど回線環境はよくなく、ましてや個人の場合、常時接続のほうが珍しかった時期。企業ユーザーが出社してPCを立ち上げる際、PointCastによるアクセスが集中してトラフィックの負荷が増えるといったトラブルが多かったという。またコンテンツの増え方が緩慢だった面もあり、広告モデルを確立するまでには至らなかった。
 こういった点から、プッシュへの業界・ユーザーの興味は次第に薄れていった。1998年にはまずNetscape社が「Netcaster」のサービスを停止した。またMicrosoftも、「Internet Explorer5.0」以降では「Active Desktop」を打ち出すことは止め、チャンネル(コンテンツ)を提供していた企業も次々と撤退していった。2000年5月には火付け役となったPointcastがサービスを停止し、プッシュは終焉を迎えた…と思われていたのだ。

Netcasterの画面
◎関連記事
CDF形式をサポートしたWindows用の「PointCast Network 2.0」のβ版がリリース(1997年6月)
/www/article/970602/pc20b.htm

Internet Explorer 4.0 Preview 2」日本語版が登場(1997年7月)
/www/article/970722/ie40p2j.htm

Netscape Communicator 4.02 Windows版が公開。Netcaster正式版を同梱(1997年8月)
/www/article/970816/ncast.htm

プッシュ配信システムのBackWeb社が日本上陸(1997年10月)
/www/article/971022/backweb.htm

「もう“Push”とは呼ばない」Marimba社長語る(1998年7月)
/www/article/980714/casta.htm

PointCast、Idealab!傘下のLaunchpadに買収される(1999年5月)
/www/article/1999/0512/pcast.htm

プッシュは死んでいなかった!

 確かにプッシュを売り物にしたソフトやサービス、企業は消滅したかに見えた。しかし、プッシュは死んでいなかった。むしろプッシュと強調しないサービスやソフトの一部として機能することで、静かに生き続け、成長していたといえる。

 たとえば、インスタントメッセンジャーのアラート機能。メール到着や株価の変動、スポーツの試合スコアなどを、Webサイトにアクセスしなくても伝えてくれる。オークションサイトでは、自分より高い金額が入札されると自動的にメールが届き、高値更新を知らせてくれる。またRealPlayerなどメディア再生ソフトは、起動していると新機能が付いたのでバージョンアップをしないかと呼びかけてくる。これらはすべて、プッシュを利用して提供されているものだ。
 他にも、オンライン証券会社などが提供しているリアルタイム株価ソフトや、ウィルス対策ソフトのアップデートファイル自動配信などにプッシュは使われている。恐らく思っているより多くのところで、プッシュを使った機能に触れていることだろう。また企業内の各PCに向けた一斉通知など、グループウェアなどの機能としても利用されている。

 そして現在。企業や個人のインターネット環境は、数年前と比べて大幅に改善され、プッシュが活躍にするのに充分といえる状況になった。またブロードバンド化で、PCをインターネットにつなぎっぱなしにするユーザーが増えているため、直接使っていない時間のPC画面にコンテンツを表示して、ユーザーの喚起を促がすといった使い方も考えられるだろう。一方、携帯電話をはじめとするモバイルアクセスの浸透で、Webコンテンツをいろいろな端末や環境に向けて配信することがポピュラーになった。こうした発想で、プッシュを使って携帯電話向けにコンテンツを配信するサービスも、実験段階のものを含めてすでにいくつか登場している。また以前はプッシュを使ったサービスを行なう事業者と、コンテンツを提供する事業者は別な場合が多かったが、最近はコンテンツ事業者が一形態としてプッシュを利用する形も増えている。

 というわけで、プッシュの凋落の原因となった事柄は、ほとんど解決されている2002年、プッシュを特徴としたサービスやソフトが、いくつか登場し始めている。今年後半に向けてこの動きが急激に拡大するか、それとも以前のプッシュを利用したものと同じ運命を辿るのか? 今後の動向が気になるところだ。

注目プッシュソフト/サービス一覧

 ここからは今すぐ使えるプッシュソフト/サービスをまとめてご紹介しよう。スクリーンセーバ-からデスクトップの片隅に常駐するものまでタイプはいろいろ、気になったものを試してみてほしい。なおほとんどのソフトがWindowsのみ対応だが、一部例外にはその旨を記載している。

エキサイトデスクトップエキサイトデスクトップ
http://www.excite.co.jp/desktop/
http://www.superindex.co.jp/products/fc_index.html (FrontCover System)
 ポータルサイト「エキサイト」が発表したプッシュ型のデスクトップソフト兼スクリーンセーバー。ニュースや天気予報、ブロードバンド番組表といったコンテンツが表示でき、また時計表示やカレンダー機能もあるので、常駐させて便利に使うことができる。ポイントはエキサイトの人気コンテンツ「エキサイトフレンズ」に新しく登録したユーザーのプロフィールが表示できる点で、クリックするとそのユーザーのページに飛んで、そこからミニメールを送れるのが便利。また検索キーワードをリアルタイムに表示する密かな人気コーナー「サーチストリーム」を表示できるのも、エキサイトならではといえる。MacOSにも対応している点も、プッシュソフトでは貴重な存在だ。なおこのソフトではスーパーインデックスの「FrontCover System」という技術を用いていて、この技術は他にもマガジンハウスの「Ku:nel Desktop」、カブ・ドットコム証券の「カブ・セーバー」などのプッシュ型ソフトに用いられている。

CNN NewswatchCNN Newswatch、USA Today News Tracker(いずれも英語)
http://newswatch.cnn.com/ (CNN)
http://newstracker.usatoday.com/ (USA Today)
http://www.infogate.com/ (Infogate)
 報道専門テレビ局の米CNNが提供するプッシュソフトで、スクリーンセーバーとニュースティッカーの機能を持つ。PC不使用時はスクリーンセーバーに画像付きのニュースを配信し、使用時はニュースティッカーをデスクトップの上部に表示して、気になるニュースをチェックできる。なお米国の全国紙「USA Today」でも、このソフトと同様の機能を持つ「USA Today News Tracker」を提供している。いずれも7日間の試用期間中は無料で利用できるが、それ以降は1ヶ月4.95ドル~の料金が必要となる。
 これらソフトはいずれも米Infogate社の技術を用いているが、この会社、前身はEntryPoint社という。このEntryPoint社の旧名はLaunchpad Technologiesといい、ここはPointCastを買収した企業でもある。つまり、この2つはPointCast直系のサービスという隠れた顔も持っているのだ。有料サービスなのでどこまで広がるかは未知数だが、注目する価値はある。

EyetideEyetide(英語)
http://www.eyetide.com/
 プッシュを利用したサービスのなかで、ビジュアル面ではピカイチなのがこれ。希望のチャンネル(ここでは「Collection」と呼ばれる)を選ぶと、毎日新しい画像が配信され、それをスクリーンセーバーとしてデスクトップに表示できる。Collectionは水着のスーパーモデルから自然の風景、スポーツ、建築物などさまざまで、一部有料のものもある。6月中はなんとワールドカップの画像を毎日更新で配信するサービスも行なっていた(「World Cup 2002」で見られる)。また現在は自転車レース「Tour de France」の模様を毎日配信するCollectionが目玉的存在だ。また画面ではそれぞれの画像のキャプションや関連ニュース、商品なども表示でき、ECサイトと連携した展開を行なっているところも特徴だ。また自分の写真を登録し、友人などとEyetide上で共有できるサービスも行なっている。

KlipFolioklipFolio(英語)
http://www.serence.com/
 これまで登場したのは画面全面を使う迫力のあるものだったが、こちらは画面の片隅に置くタイプのプッシュソフト。「Klip」と呼ばれるチャンネルがWebサイトの情報を表示し、クリックするとそのサイトにアクセスできる。現在Klipは250種類以上。他のサービスと一風違うのは、登録すると個人でもKlipの配信ができる点で、Weblogなどを作っている個人が提供するKlipが結構人気だったりするのが面白い。

GizmozGizmoz(英語)
http://www.gizmoznetworks.com/
 「Gizmoz」と呼ばれるチャンネルを「Gizmoz Collector」というクライアントに保存することで、自動的に最新のコンテンツをデスクトップで楽しめるようになる。コンテンツは動画や占い、ゲームなどインタラクティブ性の高いものが多く、気に入ったものはメールで友人に送ったり、また自分のWebページに張り付けることもできる。映画などのプロモーションにも使われている。

WorldFlashWorldFlash(英語)
http://www.worldflash.com/
 デスクトップにニュースティカーを表示できるソフト。表示できるニュースソースが米3大メディアから地方紙、欧州のメディア、アジア、アフリカなど世界中から選べるほか、IT、スポーツ、エンタテインメントなどのジャンルごとでも豊富に揃っているのがスゴイ。メールチェック機能やキーワードを設定したアラート告知も可能だ。

マイレスキューナウ レシーバニュースタグ
http://www.newstag.net/
 ユーザーのWebサイトにタグを貼り付け、そこにコンテンツを配信するサービス。現在は「レスキューナウ」による災害情報を配信する「マイレスキューナウ レシーバ」、今日誕生日の芸能人や記念日情報などを配信する「今日は何の日? レシーバ」など計5種を配付している。Web作成者と訪問者がともに楽しめるサービスだ。もちろんMacでも表示できる。

イーヘッドラインイーヘッドライン
http://www.eheadline.info/
 日本語版のニュースティッカーソフトで、現在「スポーツナビ」、「Web現代」、「読売オンライン」などのニュースタイトルを配信している。クリックするとニュースページに飛ぶ仕組みだ。

アクティブマスコットアクティブマスコット
http://mascot.desk.ne.jp/  1999年から提供している、いまや古株のプッシュソフト。可愛いデスクトップマスコットがニュースや占い、新着オンラインソフト情報などを教えてくれる。現在マスコットは“テライユキ”からブルテリアの“ペコ”まで6タイプ。Macにも対応している。

ペルソナウェアペルソナウェア
http://www.praesens.co.jp/pws/  “ペルソナ”と呼ばれる美少女キャラクターを使ったプッシュソフトで、サーバーからスクリプトや画像、情報などを取得し、ペルソナをクリックすると取得した情報を使ってアクションを起こしたり情報を教えてくれる。またスケジュールを知らせるアラート機能やバイオリズム表示など、機能の多彩さでは群を抜いた存在でもある。ペルソナウェア本体は無料だが、キャラクターによって有料のものがある。

(2002/7/15)

[Reported by aoki-m@impress.co.jp]

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